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【完結】『妹の結婚の邪魔になる』と家族に殺されかけた妖精の愛し子の令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。  作者: 夏灯みかん
1.令嬢は、森の奥で引きこもり魔術師と出会いました。

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12. 妖精たちとの付き合い方

「――その前に、少し掃除した方が良いな」


 アルヴィンは浴室を見回すと呟いた。――確かに、タイルの上には風で吹き飛ばせなかった埃(ほこり)が積もっている。


「私がやるわ」


 使わせてもらうのだから、それくらいはしないと。

 そう思って申し出ると、アルヴィンはにっと笑った。


「じゃあ、君の妖精たちにやってもらおう」


 私の周りをふわふわ飛んでいた妖精たちは顔を見合わせた。


 “ボクらお客様だよ、アルヴィン”

 “お客様はおもてなししないと”

 “ねえ、メリル”


 同意を求められて私は苦笑して首を振った。


「お願いよ。お掃除してくれたら嬉しいわ」


 ざわっと妖精たちが騒めいた。


 “メリルが嬉しいって!”

 “じゃあやる!”

 “やろう”


 いつも、話しかけられても嫌々返事をするばかりだったから、こういう風に何かを妖精たちに頼むのは初めてだった。


 ――この子たちが私を大事にしてくれているのは、本当なんだ。


 私はまた、何ともいえない気持ちになった。


 アルヴィンは古びた布と、木のバケツを持って来てタイルの上に置いた。


 指をくるっと回すと、今度は水の塊が空中にぽよんと浮かんで、バケツの中に落ちて水を満たした。次に布をその水で濡らして絞ると、妖精たちに話しかけた。


「おーい、これでぴかぴかに拭いてくれ」


 “はーい!”


 妖精たちは布をぶちぶちと小さな手で持てる大きさに千切り、部屋中へ飛び散った。

 キュッキュッとタイルをこする音が響く。


「自分たちの世界へ誘ってくることを除けば、慣れれば役に立つ奴らだよ」


 アルヴィンは私に語り掛ける。


 ――妖精たちのところ、あのお花畑の向こう――

 

 私はあの色とりどりの花が咲き乱れる風景を思い出し、両腕で自分の身体を抱いた。

 あれはとても綺麗だった。

 けれど、あまりに綺麗で現実離れしていて、思い出すとぞわりとする光景だった。


「あっちに行くと、どうなるかあなたは知っているの?」


「――小さい頃、君みたいに誘われて、足を踏み入れたことがある。夜だったけど、近づいたらここみたいに明るくて――、俺くらいの年の女の子が花畑で花輪を作って遊んでるのが見えた」

 

 アルヴィンは遠い昔を思い出すようにゆっくりと話し出した。


「妖精たちに囲まれて、妖精たちが着ているみたいな花でできた服を着ていた。その子は――できた花輪を被って踊り出したんだ」


 言葉に実感がこもってくる。


「笑い声を上げて、くるくる踊りながら俺の横を通り過ぎていった。すごく楽しそうに笑ってるんだけど――何を見て笑っているのかもわからないような、そんな笑い方だった。周りのものが何も見えていないようで、俺のことにも気づかず、花畑のずっと先へ消えていった」


 その光景を想像して、背中がぞくりと冷えた。

 その子は今ももしかしたら、同じようにあの花畑で踊っているのだろうか。


「それで、怖くなって元来た道を走って戻ったが――、自分の家へは戻れずに『迷いの森』に辿り着いて、師匠に拾われた」


 “できたよ!”

 “ピカピカ!”

 “見て、見て”


 得意げな妖精たちの声が響いた。それぞれが持った布切れは真っ黒になっている。

 視線を浴室のタイルに移すと、さっきまで曇っていたベージュのタイルがキラリと光った。


「綺麗になったわね」


 思わず感心して呟くと、妖精たちは得意げにくるくると周りを飛び回った。


 “綺麗でしょ”

 “メリル、嬉しい?”


「――嬉しいわ。ありがとう」


 周りでキャッキャッと歓声が上がった。


「よし、お湯を入れるか」


 アルヴィンは、ピカピカに磨かれた白い陶器のバスタブへ手を向けた。

 大きな水の塊が浴槽へ落ち、みるみる水が溜まっていく。

 次に彼はその水に手をかざした。

 ――そのまましばらくすると、ほかほかと湯気が上がってくる。


「熱さは、こんなもの?」


 聞かれて、私は手を入れた。ほどよい温かさだ。

 私はいったん外へ出て、二階のイブリンさんの部屋からドレスを持ってきた。

 アルヴィンからタオルも借り、再び浴室へ戻った。

 

 鍵をかけ、服を脱ぎ、湯船に浸かると、じわっと嫌なことが全部お湯に溶けて行くような気がした。窓からはさんさんと日光が差し込んでいる。


 屋敷であったことが夢なのか、今ここにいるのが夢なのかわからなくなるような気がした。


 “メリル、お花持ってきたわ”

 “花、浮かべよう”

 “いい匂いになるよ”


 いつの間にか窓の外に行っていたらしい妖精たちが、どこから持って来たのか、白やピンク、赤の薔薇の花びらをそれぞれ手に抱えて外から飛び込んできた。


 彼らはバスタブの上で花びらを降らせた。

 ぱらぱらと花びらが降り注いで、甘い香りが立ち込める。

 私は湯に浮かぶ花びらを掌ですくって香りを嗅ぐと、顎までお湯に沈んだ。


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