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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

婚約破棄&追放。一体どこの乙女ゲームかと思ったらRTAでサクッとこなしていたデスゲームの中でした。

作者: せりざわ。

資格勉強中の息抜きに「●ラッド・●ーン」の攻略動画を見ていて思いつきました。

類似する部分がありますがご容赦ください。ゲーム自体見たことのない方は面白いのでぜひ。

「うそよ……!」


 私は吠えた。

 辺りはしんと静まり返り、うっすらと差し込む月光によって不気味な森の姿が浮かび上がる。人の気配なんてまるでないのに錆のような血の匂いが鼻孔をくすぐる。


 私の名前は森本 葉菜子はなこ

 平凡な顔に平凡な体つきに至って平凡な人生を歩んできた三十二歳。周りは次々と結婚、たまに会っても口を開けば子ども・旦那・姑・ママ友のことばかりになってきたのに今でも独身。


 無責任上司と性悪同僚たちから受けたストレスのせいでメンタル疾患に陥り、ただいま休職中。精神科病院とコンビニとの往復以外は自宅に引きこもってオフラインゲームに没頭している。


 昨日も裏ボスを撃破してシークレットエンディングを拝んでから眠剤をもらいに病院へと出かけたはずが、気がついたら、仕立ての良いきらびやかなドレスに高そうな宝飾品をまとっていた。

 訳も分からずに馬車に乗せられてガタガタ連れていかれたのはテレビの中でしか見たことのないベルサイユ宮殿のようなパーティ会場(舞踏会?)。天井から吊るされたシャンデリアのあまりの眩しさにくらくらして夜風を浴びようとカーテンを開いた瞬間、周りが叫んだのだ。


 魔女だ。と。


 なんのことか分からずにポケッとしていると奥から冠をかぶった人が近づいてきた。白髪にあご髭、仕立てのよさそうなお召し物だったので王様かしらね。


『公爵令嬢、エレノア・シャルル・ロヴァン。不吉なる三日月を見ても平気だった貴殿は魔女に違いない。よって王子との婚約を破棄し、死の森へと追放する――』


 どうやらこの世界では「三日月」を見てはいけないらしいの。だったらそんな夜に舞踏会するなって話じゃない?


 まぁそんなわけで『死の森』とやらに追放された私……エレノアは、ずしりと重いドレスを引きずりながら途方に暮れて歩いているのです。


「これが妹の言っていた乙女ゲームの悪役令嬢転生もの? 私そういうの興味ないのよね。ゲームはRPGかパズルゲーム、最近は『月下の聖乙女』くらいで……あれ?」


 はたと気づいた。空に浮かぶ刃物のような下弦の月と延々と広がる森の景色に見覚えがあるのだ。


 もしかしたらここって……と訝しんでいるとガサッと音がした。視線を向ければズルズルと何かを引きずる音とおぼろげな光。やかてランタンを手に現れたのは黒いフードに身を包んだ青白い顔の女だった。動物とおぼしき骸骨を引きずっている。


『若い女!』


 私の顔を見てぱっと目を輝かせた。


『美味しそう。今夜はなんて幸運なのかしら。いやだわヨダレが……』


「……!」


 知ってる。知ってるこの女。


『あらどうしたのお嬢ちゃん迷子にでも』

「あらどうしたのお嬢ちゃん迷子にでも」


 そっくり同じセリフを放つと不機嫌そうに眉根を寄せた。


「まぁいいわどうせここで私の餌になるんだからね」

『まぁいいわどうせここで私の餌になるんだからね……だからなぜ真似するの』


「だって会話スキップできなくて100回以上聞いたセリフだから」


 この女・カルミラは主人公プレーヤーにとって最初の敵。この女に噛みつかれて遅効毒を注入されるところから『月下の聖乙女』はスタートする。


 ようやくわかった。

 ここは見ず知らずの乙女ゲームではなく、ホラーアクションゲーム『月下の聖乙女』。吸血鬼に襲われて故郷を亡くした少女が復讐のため冒険にでるストーリーだ。あまりにやりこみすぎてRTAリアルタイムアタックでサクッとクリアしたこともある馴染みのゲーム。


「……ということは!」


 この赤いドレス。胸の大きさをこれでもかと強調する薄い生地の合わせ、骨折れるわってくらい腰を縛り上げてくるコルセット、襞に襞をかさねたエプロンのフリルみたいな裾。


「これ『真紅のドレス』じゃないの!?」


 そうよ。序盤の選択肢で「赤いものがすき」と答えて、納屋の上にいる血濡れのフクロウを三羽だけ退治して、赤い靴と赤いイヤリングを装備して「悪霊の孤島」に行って一時間以内に悪霊を999体封印してすぐさま神殿に戻って……あぁもうとにかく存在は知られながらも攻略サイトでも長らく入手条件を見つけられなかったSSS級の防具よ。


 攻撃力はゼロ。俊敏性ゼロ。体力は通常の2倍消費。でも防御力999。ボス戦以外はただ歩いているだけで攻略できてしまう最強の防具。ただし耐久性が恐ろしく低く、5分経過するごとに服が裂けていき最後は操作キャラがあられもない姿になるという……。


「あ!」


 『真紅のドレス』の裾の一部がはらり、と千切れたのが見えた。


「まずい! もう5分も無駄にしちゃった!」

『え!?』

「どいて!」


 カルミラをどんと突き飛ばして走り出した。本当ならこの時点で「さいしょの地図」と「隠れ家のかぎ」をゲットするが無視して森の中を突き進む。


 まずい。まずいわ。


 森を抜けた先にある最初の村・コルコトの村人たちは吸血鬼に襲われて傀儡と化している。斧やライフル銃で主人公に襲い掛かってくるので華麗なステップでスルー(ドレス重!)。落とし穴だって回避。何人かが追いかけてくるのでギロチン広場へ誘導。倒した敵から拾える回復アイテムや強化用の鉱石をすかさずゲットしながら「生き残り」が集まっている領主の屋敷の天井裏まで一直線。ここまで3分。

 天井裏に身を潜めていた幼い姉妹が私を見て『なんということでしょう、聖なる乙女が……』あぁもう会話はスキップスキップ。


「領主さん助けに行ってくるから早く地下道の鍵を渡しなさい!」


 ずいっと手を出すとびっくりしながらも渡してくれた。鍵をもらって地下道へ――行く前に納屋の奥で震えている老人と会話しなくちゃ。あとですごい武器くれるのよ。


 で、地下道の奥の礼拝堂にいる領主さんが最初のボス。吸血鬼になりかけて理性を失いつつあるのよね。悪いけどここは時間短縮。ハメ殺しさせてもらう。

 礼拝堂の柵の一角に領主さんを引き付けてひたすら火炎瓶を投げつける。これだけ。時々相手の腕が伸びてきて攻撃が当たるけど最強の『真紅のドレス』があるお陰か痛くもかゆくもない。まぁゲームと違ってリアルに対面していると剥げかけた皮膚や抜け落ちた歯、腐った眼球なんかが気持ち悪いけど。



『ぎゃああああああっっっ!!!』



 盛大な断末魔とともに木っ端みじんになる領主さん。合掌。火炎瓶投げてただけだけど。

 さて、次の町に行く前に納屋に隠れていた老人と会話。護身用に持っていたけど無用の長物だったと言って「火炎放射器」をくれる。ラスボスはこれを改造した武器と爆薬を三個も持っていけば3分以内に片付く。本当は聖乙女らしい「聖杯」や「勝利の竪琴」「きよらかなる剣」といった武具を道中でゲットできるけど私はこれが一番好きなの。なんといってもエフェクトが派手。そうだ念のため「葡萄酒」も持っていこうかな。アルコールでどかんとしとめられるし。


 私は月下に照らされたショートカットルートを足早に進みながら考えた。


 ラスボスまでに撃破するボスは最低四体。

 沼地の死者、岬の精霊王、暴風雨の大蛇、噴火口のドラゴン。


 最短ルートと最適な攻略方法は頭の中にインプットされている。

 けれど実際に自分が主人公になって攻略するのは初めてだ。


 なんだかワクワクしてきた。


 『月下の聖乙女』の自己最短記録は52:33。世界記録は41:37。

 さて、どこまで記録を縮められるか挑戦よ!



 ――おわり。つづきません。

悪役令嬢が追放された先がデスゲームの世界だったら、という発想で書いてみました。

面白ければ★評価お願いいたします。

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[一言] ワクワク♪(〃∇〃)! 記録更新?!如何に! 応援♪エール!
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