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町でのあれこれ2


 翌朝、早人は陽が昇って少しして起き、朝食を食べて荷物を全て持って宿を出る。

 ほぼ文無しなため、預けることもできないのだ。優れた能力値のため負担にはなっておらず、戦いの邪魔にならないのは幸いだろう。

 昼食用の出来立てパンを買い、袋に入れて町の出入口にむかった。

 町の出入口では稼ぎに行く冒険者のため馬車が出ていた。それに乗る冒険者を見ながら歩き出す。

 目指すは東北東にある沼の迷界だ。一般人の足で二時間、早人は急ぎ足で向かったため一時間半を少し切る程度で到着する。

 いくつかの小島や浅瀬があり、イネ科の草やウキクサなどがあちこちに生えている。

 沼の周囲や浅いところで、すでに冒険者たちが戦っている様子が見える。

 沼に近づくとある地点から気温が下がる。体感で五度ほど下がっているので気のせいではない。これは主が過ごしやすいように気温が春や秋のもので固定されているのだ。

 

「空いてるところを見つけないとな」


 のんびりと歩き、魔物を探す。

 沼に来ている冒険者は五十人弱といったところだ。早人のように一人でいる者は少なく、防具を身につけていない者は皆無だった。

 故に悪目立ちしているのだが、早人は気にしていない。それを気にするより、稼ぎを気にしなければ宿なしなのだ。


「狙うは鶴だけど、蛇でもいい。どこかなっと」


 淵を歩きながらそんなことを呟き、百メートル以上先の浅瀬に一匹でいる黒鶴を見つけた。


「さてと、足場はある。近づくまでに逃げられなければ大丈夫」


 いくつかの小島よりも小さな足場を見て、走り出す。

 一つ目の足場まで距離は十メートル以上ある。早人はそこまでのジャンプを届いて当たり前、無茶だとは思わなかった。能力値的に常人の数倍なのだからむしろできて当然なのだろう。

 余裕をもって届き、次の足場までジャンプということを数度繰り返し、最後のジャンプで木刀を上段に構えて、落下とともに長い首を狙い振り下ろす。

 黒鶴は近づいてくる早人に気づいており、撃退の体勢をとっていた。


「とうっ」

「ぐげっ!?」


 振り下ろされた木刀は黒鶴の首をちぎり落とした。


「あれ?」


 首の骨を折ると考えていた早人は木刀で斬れたということに疑問の声を上げて、技術値200超えのすごさを思い知った。

 一連の戦闘と呼べない戦いを見ていた冒険者たちは、最初新人が無茶していると考え、悲鳴で集まる鶴の対処を考え始めていた。だが連続したジャンプで、新人にしては動きがよすぎると首を傾げ、一撃で首を落としたことに「は?」とそろった疑問の声を上げていた。


「一流一歩手前の技術値ってすげえ」


 感心した表情を浮かべ、黒鶴の頭部と胴を拾う。

 これで一泊分の稼ぎはできた。あとは余裕をもって獲物を探せると胸を撫で下ろす。


「しかし持ち歩くのは邪魔だな。一度町に帰ってお金もらって袋屋に行くか?」


 走って帰れば一時間もかからない。

 そうするかと決めて、沼から出る。

 来てすぐに狩りを終えた様子の早人に、冒険者たちは何とも言えない表情を向ける。

 早人が走り去り、冒険者たちは自分たちが弱すぎるのかと話し合い、動揺したまま狩りを再開したためいつも以上に苦戦することになった。

 町に戻った早人は処理場に向かう。

 処理場は体育館ほどの大きさの建物で、冒険者たちがまだいないためのんびりとした雰囲気だった。ここが活気づくのは昼過ぎからだ。。

 早人は入口で喋っている職員二人に近づく。


「ちょっといいですか、これの処理おねがいしまーす」

「黒鶴一羽……おー綺麗な状態ですね。それと見慣れない傷口ですね」


 切り傷ではないし、噛みちぎられたものとも違う。

 初めて見る傷に職員たちは首を傾げる。


「剥ぎ取りはそちらでお願いします」

「あ、了解です。少々お待ちください」


 一人が黒鶴を持って建物の中に入り、もう一人が書類を作るため近くの机に向かう。

 ぱぱっと書類を仕上げ、早人に渡す。


「査定結果は聞きますか?」

「聞きます。でも詳しくなくていいです」

「わかりました。体中に傷がなく綺麗だったのでプラス評価。死後それほど時間が経っていないのもプラス評価。よって通常買い取り価格より少し上になります。剥ぎ取り料金を引きまして一万テルスですね。この書類を斡旋所二階受付に持っていけば報酬をもらえますよ」

「これの提出は今日までですか?」

「いえ三日後まではなにも問題ありません。それ以降は手続きに手間が生まれるので、少し報酬からお金が引かれます。手間賃ですね」

「わかりました」


 またのご利用をお願いしますという声を背に早人は町に入る。

 斡旋所でお金をもらい、袋屋に向かう。処理場と違ってここは朝が忙しく、今は落ち着きを見せている。


「いらっしゃいませー」


 少し疲れた様子の女性店員が声をかけてくる。


「初めて袋屋を利用するんですが、説明お願いしていいですか」

「ええ」


 店員は早人を招いて、すぐ近くにあった椅子に座る。

 早人も座ると説明を始める。


「最初から説明しますね。袋屋というのはこちらで用意した袋に二つの魔法をかける場所です。袋は販売しますから返却は不要です。収容量増加と入れた物の軽量化、この二つ。便利な魔法なのでどこの町にも袋屋はありますし、大きな村にも大抵はあります。値段は効果が短く低いものならば値段は安く、効果が長く高いものなら値段は高いです。当然ですね。文字は読めますか? 読めるならあちらに値段が書いてありますよ」


 店員が指差した壁に、各種値段や袋の種類が書かれた紙が貼られている。

 貼り紙は早人の読解力でも読むことできた。

 一番安いもので、半日効果が続く収容量二倍が五百テルス。効果半日で重さ三分の一減も同じく五百テルス。

 これがセットになると九百テルスになっている。

 逆に高いものだと、効果十五日継続で、収容量五倍、重さ十分の一にまで減るというセットで一万テルスになる。

 袋は三種類。小さいもので大サイズのゴミ袋。中ぐらいでサンタが背負っているプレゼント袋より大きい。一番大きな袋は、人間が四人は楽に入る。値段はそれぞれ五百テルス、千五百テルス、五千テルスだ。特殊な素材を使っているため、そこらの布袋よりも高いのだ。大事に使えば長持ちするため、高い買い物というわけでもないだろう。


「一番高いセットで一万……効果を思うと安い?」

「まあ、無茶な金額設定にしているつもりはないわね」


 需要はいつでもどこでもあるため、経営に困ることはない。そのため少々高くとも客足が遠のくことはないが、恨みを買うことはわかっているためほどほどの値段になっている。

 値段は初代袋屋が所属国と交わした契約が元になっており、どこの袋屋もそれを守っている。決まり事を守っているかぎりは、税金軽減など国の庇護を受けることができるのだ。


「説明はこれくらい。聞きたいなら袋屋の歴史も話すけど?」

「いえ、そっちは特に興味ないので」

「でしょうね。それでどの袋に魔法を使うか決まった?」

「五百テルスの袋に、収容量二倍をお願いします」


 頷いた店員は、袋を取り出して魔法を使う。


「乱暴に手洗いしたら破けて魔法をかけられなくなりますから注意してくださいな」


 袋を手渡し、注意事項を言う。


「わかりました。金貨一枚から大丈夫です?」

「大丈夫ですよ。こちらおつりです。またのご利用お待ちしていまーす」


 袋屋を出た早人はまた沼に行くため町を出る。


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