町でのあれこれ1
二日後、北上を続けた早人は町に到着する。
コッズから、町についたらまずは能力値などの確認をするように言われていたことを思い出し、広場にあったベンチに座って目を閉じる。
「ええと念じるだっけか」
ステータスを見るという感じで心の中で言うと、暗くなっていた視界の中に数字などが浮かんできた。
◇
能力値 体力:1500 魔力:360
筋力:260 速さ:270 器用:290 頑丈:260 精神:270
技術値 両手剣:230(417) 体術:180(300) 数術:150 料理:80
異界知識:数値外 コッズの記憶:数値外
◇
「チートってこういうこというんだろうなぁ。そりゃ疲れがほとんどないはずだよ」
溜息とそんな感想が出る。
とんでも数字が並び、驚きを通り越して自分自身に呆れを向けた。
コッズから聞いた一流どころに並ぶ能力値と技術値だった。一般成人だと体力で七倍、魔力で三倍、その他ステータスどれも九倍ほど差がでている。
これはコッズが体を使っていたときに鍛えたことと、コッズから受け継がれた力の一部が合わさって起きたことだ。
これでも全盛期のコッズにまったく届いていないことから、コッズのすごさがわかるだろう。
「カッコ内の数値とか、数値外とかなんだろうな?」
コッズはここら辺の話をしていなかったのだ。
誰かに聞いて大丈夫な情報なのかわからず、ひとまず置いておくことにする。
早人は立ち上がり、お金を稼ぐため仕事を探しに向かう。
行こうと思っているのは斡旋所と呼ばれるところで、この町や周辺の村から依頼を集めて、能力にあった依頼を紹介する場所だ。
道行く人に場所を尋ね、二階建ての建物を見つけた。入口の上部には斡旋所と示す、大きな看板がかけられていた。広さはコンビニの三軒分といったところか。
入るとすぐに案内役の受付がいる。
「登録に来たんですが」
「登録ですね。でしたらあそこに見えるカウンターに行ってください。この建物の簡単な説明は必要ですか?」
「お願いします」
「はい。一階は事務作業の場所ですね。あなたのように登録をしにきたり、依頼をしにきた人への対応場所です。次に地下ですが、職員のみ立ち入りを許されています。二階が仕事を探す場所です。交流用のスペースもありますから、仲間探しに使えると思います。登録した人以外に立ち入りは禁止されています。あとは狩った獲物は、町の西出入口にある処理場に持っていったらはぎとりできますし、職員に頼めば有料ではぎとりしてくれます。簡単なものだとこんな感じですが、質問はありますか?」
「そうですねー……仕事に関した情報を知りたい場合は職員に聞けばいいんですか? それとも書庫とかで自分で探すんですか?」
「両方でしょうか。一階には資料室もありますから、自身で探すなり、職員に聞くなりできますよ。あと資料は持ち出し禁止ですし、わざと破いたりしたら罰金です」
ありがとうと礼を言って、受付に向かう。
空いていた受付に行って、声をかける。
「登録お願いします」
「種類はどうしますか? 一般登録、商売登録、冒険者登録とありますが」
一般登録は地球でいうところの町中でできる日雇いの紹介になる。商売登録はそのまま町中で商売するための登録。
早人は言うまでもなく冒険者登録だ。
「冒険者登録で」
「わかりました。では登録料として千テルスいただきます。青銀貨一枚たしかにいただきました」
受付はお金を引き出しにしまい、かわりに書類とネックレスを取り出す。
「こちらが登録書類になります。字はかけますか?」
「自信ないんで代筆お願いします」
コッズの知識のおかげである程度は書けるが、間違えない自信はないため頼む。
「承りました」
受付は名前を聞き、次に年齢、犯罪履歴を尋ねる。
「さて次は技術についてです。これは技術値100以上のものを教えていただけますか」
「両手剣、体術、数術。こんな感じです」
「数術がちょっと意外ですね。ちなみに数術の技術値はどれくらいです? 答えたくないなら答えずともいいですよ」
「150」
これは隠すまでもないと思い答える。
「人に教えることができるんですねぇ。一般登録でも問題なさそうですね」
「そうなんです?」
「はい。読み書き計算を教えてくれという依頼はよくでますからね。定期的に受けていれば、食べるに困ることはありません。料理や大工とかも100以上あれば補佐として雇用依頼がでています」
「へー」
「一般登録もしておきますか? 登録料が増えることはありませんし、書類が増えることもありませんよ」
「ついでだしお願いします」
頷いた受付は手元の書類に、さらさらっと一般登録用の情報を書き加える。
書き終えたものを見て、誤字脱字がないことを確認し、背後の机に置く。
そしてネックレスを早人に渡す。
革紐に涙滴型の白いペンダントトップがついている。
「ペンダントトップを舐めていただけますか?」
早人は指示に従い、舐める。
すると白かったペンダントトップは深い藍色へと色を変えた。
「そのペンダントが斡旋所に登録したという証拠になります。二階に上がるときや資料室に入るとき、よその斡旋所に入る際はそれを見せてください。あとはこちらを持ってみてください」
そう言って渡されたのは淡い黄色の金属製のカードだ。
早人が持つと、ペンダントトップと同じ色に変わる。受付に返すとまた淡い黄色に戻る。
「これは本人だと示すためのカードです。登録のペンダントとこのカードが一致すれば本人だとわかるので、身分証明などに使えますよ。トラブルに巻き込まれたとき、使われることがあります。これで登録作業は終わりです。登録のペンダントはなくしたら再配布に金貨一枚が必要になります」
「うっす」
新しい登録者に良き仕事の出会いを、という受付の声を受けて早人は早速二階に向かう。
階段前に立つ警備にペンダントを見せて、二階に上がる。
仕事を探すための相談用受付があり、依頼のはられたボードがいくつも並ぶ。
ボードは色で緑が一般用、赤が冒険者用、黄が商売用とわけられており、そこには常時依頼が出ているものと急ぎの仕事がはられている。
そこから少し離れたところに冒険者たちが集まっていて会話している。聞こえてくる内容は周辺の魔物事情だったり、ベリオーンからの商人がどうしたといった隣国の話だったりだ。
壁には大きな地図が二枚はられている。この町の全体図と町周辺の地図だ。
「たしか沼の迷界があるとかって言ってたな」
それを確認してみようと地図がはられた壁に向かう。
地図は冒険者用に書き込みがなされている。沼の迷界の位置もしっかり書かれていた。広さは地図で見るかぎりはそれなりの広さだ。このほかに魔物が多い林や平原についても情報がある。
その地図の横に、沼の迷界についての貼り紙がある。
そしてまた変なのがいると思いつつ早人は眺める。
迷界の主は輝白の筋肉鶴。突っ走りアヒルと同類だ。
見た目は汚れ一つない真っ白で、赤の目を持ち、体長は三メートルを越す。胸と腹の筋肉が鍛え上げられて体毛の上からもそれがはっきりとわかる。ほかに岩すら砕く嘴と足を持つ。眩しくはない点滅する白光を放ち、何度も目にすると目眩が起きる。普段は沼中央の小島にいるが、たまに餌を求めて沼のどこにでも現れる。
輝白の大鶴の眷属として、大食鶴や黒鶴がいる。これらは一人前の冒険者ならば、複数で対応すればなんなく倒すことができる。だがその悲鳴は仲間を呼ぶため注意が必要。
ほかに沼に集まってきた魔物として、棘魚、大口蛇、まだら蛙、紅甲蟹、大イモリといったものがいる。
これらの魔物は主たちの餌にもなっている。
こういった情報のほかに魔物一匹当たりの討伐報酬、討伐証明部位、素材になる部位といったものも書き込まれている。
狙い目は主の眷属だろう。一匹倒し持ち帰れば金貨一枚になる。熟練の冒険者の能力値ならば一対一でも大丈夫と書かれていたので、油断せず戦えば倒せるということだ。
それらを覚えて早人は地図から離れて、ボードを眺めることにする。
早人が見ているのは冒険者のボードで、多いのは沼や大森林に生えている薬草をとってきてくれといったものや魔物の特定部位をとってきてほしいといったものだ。ほかに村やほかの町に行くので護衛募集、一定期間の店の用心棒といったものがあった。
早人は沼に行ってみようと考えているので、沼の常時依頼を覚えておく。
今日はひとまずこのくらいにして斡旋所を出る。宿を探すついでに、町の散策をして、これまで行った村にはない店や品などを見て回る。
残金一泊分しかないため買い物はできなかったが、賑やかな場所を見るだけでもそれなりに楽しむことができた。
冒険者に関連した店や施設もあり、お金に余裕があれば一度行ってみるのもいいかもしれない。
その中で一番活用されているのは袋屋だろう。
そこは袋に魔法をかけて、収容量の増加と入れた物の軽量化をしてくれるのだ。これにより、狩った魔物が多くて持って帰れないという事態がなくなる。
ゲームにあるような大量に物が入る便利な道具袋を一時的に作ってくれるが、入れた物の時間までは止めないので、入れっぱなしでいると腐ったり傷んだりする。