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上陸、そして村へ町へ


「おおっ」


 思わず感嘆の声が漏れる。

 その風景は決して感動的な景色ではない。ただの浜辺と森が見えるだけだが、早人には素晴らしい風景にしか見えなかった。

 早人はそれなりの形に仕上げた強化の魔法をシルバーボートに使い、進路を東に寄せる。

 速度を上げたシルバーボートは唯々諾々と従い、夕方に森の終わりに到着する。

 浜辺に近づくと早人はシルバーボートの背中を蹴って、陸に着地する。

 早人が靴を通して感じられる陸地の感触を堪能している間に、シルバーボートは解放感に浸りつつさっさと海中に逃げていった。なにげに魔法を使われたことで覚えた闘人の衣を使っての移動だったためかなりの速度が出ていた。


「あ、もう行ったのか。そりゃそうだよな、無理矢理使ってたんだし」


 欲しくはないだろうが、礼の一つでも言っておきたかった。

 海に向かって礼を言い、早人は歩きだす。

 別れたシルバーボートは覚えた闘人の衣を使い、恨みを晴らすかのように海を行く人間を襲うようになる。船乗りや漁師にとって怖い存在になったのだった。


 夕日で赤く染まる陸地を早人は走る。

 今ならばフルマラソンの世界記録を更新できそうだった。

 なだらかに隆起した平地を移動すること三十分。三十軒に少し届かないくらいの家と畑をみつけた。

 

「そこまで大きな村じゃないから羽を売れるようなところはないか? できれば宿があればいいけど、無理なら食事ができるだけでもありがたい」


 無人島暮らしによって、日本での生活観が薄くなり野宿も苦にならなくなっていた。

 歩いて近づき、村に入る。

 すぐに村人が早人に話しかけてきた。自分たちとは違った服を珍しそうに見ている。


「あんたはどちらさんかね?」

「旅人という感じだ。村が見えたんで来てみたんだけど、ここには宿はある?」

「小さな村なもんで、そんなものはないなぁ。村長に言えば、一泊ならできるかもしれんよ」

「ありがとう。村長の家はどちらで?」


 あそこだと指差して教えてくれた村人に礼を言い、早人はそちらへ歩く。

 村長の家の扉をノックして出てきた中年男性に用件を話すと、お金を払うなら空き部屋を貸すということでコッズが残したお金から払う。幸いにして持っていた硬貨が使えないというこもなかった。

 部屋に案内してもらい、一時間ばかり久々のベッドを堪能していると夕食だと呼びに来た。

 リビングには村長夫婦、長男夫婦。その子供二人がいた。空いている椅子を勧められ座る。

 テーブルにはナンのようなもの、野菜スープ、豆とくず肉の煮物が置かれている。


「では食べようか」


 村長の言葉を発して、夕食が始める。


「ご馳走というわけではありませんが、口に合いますか?」


 スープを飲んだ早人に村長の妻が聞いてくる。

 早人は頷く。お世辞ではなく、ここ最近の料理に比べたら美味かった。


「ここのところは簡素な携帯用の食べ物ばかりで、これらは十分ご馳走ですよ」

「それはよかった」


 ほっとしたように村長の妻は笑みを浮かべた。

 しばらく話す人がいなかったため、早人はこんななにげない会話が楽しいものに思える。

 妻の料理を褒められて村長は嬉しそうに頷き、口を開く。


「旅人ということでしたが、どこから来たのですかな?」

「旅は始めたばかりなのですけどね。これまで南にある島で暮らしてたんですよ」

「島ですか。それは不便でしょう」


 南の浜辺から見える範囲で島はなく、移動に最低でも一日はかかる距離だと村長もわかる。


「ええ」

「旅の目的などはあるのですか」

「探しものがありまして、情報が欲しくて王都を目指すつもりです。どこにあるかわかります?」


 村長は申し訳なさそうに首を横に振った。


「あいにくここら辺りから離れたことはなく。とりあえずここから歩きで北に三日行ったところにある町を目指すといいかと。そこに住んでいる人たちなら知っているでしょう」


 その町には角塔があるため、技術値の確認のため村の者は一度は必ずそこまで行くのだ。

 才がある者は、なんの鍛練もせず、勉強せずとも低い数値の技術値を持っている。

 そういう者は望むならば村長や町長から支援を受けて、その才に基づいた勉強をすることができる。


「ありがとうございます。ひとまずそこを目指そうと思います。その町に着くまでに村はあるんでしょうか?」

「大丈夫ですよ。五つほどあります」


 それなら野宿はしないで住みそうだと早人は胸をなでおろした。

 食事を続けて、会話も進む。ここらにいる魔物や大森林の様子などを聞いて、今後の危険度を測る。

 そうしているうちに食事は終わり、早人は桶と布を借りて部屋に戻る。

 さっさと体をふいて、布などを返し、ベッドに横になる。

 海上ではケルピー以外の魔物も警戒し常に気を張っていたため、熟睡はできなかった。そのため安全に眠れる場所を得て、安堵を抱いてすぐに眠りについた。


 翌朝は、村長の妻がノックする音で起きる。

 熟睡して気分も爽快な早人は、朝食を食べてすぐに出発する。

 ただ歩くのも暇なので、移動に関連した魔法を作れないか考えつつ進む。一度森から遠出してきたオオトカゲの魔物と戦いになったが、島の林にいた魔物とそう変わらない強さで、蹴り飛ばして倒すことができた。

 村を出発して体感で三時間ほど歩いたところで、早人はまた村をみつけた。

 規模的には南の村と変わらず、そこで次の村までどれくらいで着くのか尋ねる。

 だいたい徒歩六時間ということ以外に、ここら辺りでは一番大きな村ということもわかる。宿があり、物の売り買いもできるということで、今日はそこまで行ったら移動は終わりと決める。

 昼食用に食べ物を売ってもらい、村を出て早足で進む。一般人の徒歩で六時間なので、これなら少しは早く着くだろうと昼食やトイレで止まったこと以外は。そのままの速度で進み続けた。

 結果、五時間弱で目的の村にただどりつく。


「人が多いな」


 村に入って少し歩いて出た感想だ。

 もちろん日本の市町村と比べると少ないのだが、無人島から海上移動した早人には多く感じられた。

 とりあえずはお金の確保だと、道行く人に魔物から得たものを売れる店について聞く。

 三軒ほど教えてもらえ、礼を言って一番近い店に入る。


「いらっしゃい」


 カウンターで書類を書いていた店主が声をかけてくる。

 

「どうも。魔物の素材を売りたいけど、ここで間違ってない?」

「買い取りやってるよ。売りたいものを見せてもらえるか」


 早人は袋からグリフォンの羽を一枚取り出し、店主に渡す。

 受け取ったそれをじっと見つめ、軽く曲げたり、指先で羽の感触を確かめる。


「これはおそらくだがグリフォンか? 随分前に一度見たきりなんだが」

「ええ、それが百枚ほど」


 袋に入りきらず、全部は持ってきていない。


「ほかの羽もこの状態で、それだけあるなら五万テルスって感じだな」


 お金の単位はテルスで、半銅貨、銅貨、銀貨、青銀貨、金貨、白金貨の六種類の硬貨がある。


「じゃあそれで。ほかの羽はカウンターに置けば?」

「あ、ああ」


 釣り上げ交渉されると思ったのだが、即座に取引が終わり、店主は呆気にとられた。

 早人が羽を全てカウンターに置き。店主は金貨五枚を渡す。

 ぱっと見、状態は最初に渡されたものと同じで、数も百枚くらいはあった。もし少なくとも十分すぎるほどに儲けは出る。

 お金を受け取った早人はさっさと店を出る。

 店主はその早人に声をかかけようと思ったのだが、かけそびれる。物の価値を知らない小僧と思い、魔物討伐を任せて、安く買いたたけるよう交渉しようと思ったのだ。

 また来たらそのときに交渉しようと考え、羽を売る相手を考え始めた。

 店を出た早人は、宿をとる。一泊朝食と夕食付きで五千テルス。話を聞くとこれが一般的な値段らしい。

 宿の確保ができて、部屋には行かず、買い物のため宿を出る。

 まずは代えの服など生活に必要なものをそろえていく。次に無手のままではどうかと思い武具を求めて店を覗く。


「金属製はたっかいな」


 一番安い青銅剣でも三万テルスと持ち金を超える。


「お金が貯まったら買うか。今は木刀を使おう」


 早人はさっさと購入を諦めて、八千テルスで売っていた木刀の中から扱いやすいものを選ぶ。

 カウンターにいた店員に木刀を見せ、金貨一枚を渡す。


「金貨一枚いただきます。二千テルスのお返しです。ところで背中の剣は使わないので?」

「これひびが入っててさ。修理しようにも手持ちじゃたりなさそうなんだ。だからひとまず木刀を買った」

「売ったりはしないので?」

「師匠と言える人の形見だから売ろうとは思わないなー」

「そうでしたか、よろしければ職人を紹介しましょうか? お金が貯まるまで職人預かりにしておくって手もありますよ」

「この村に長居する気はないし、別にいいかな。せっかくの提案だけど断るよ、すまんね」


 気にしないでくださいと店員は首を横に振る。


「あ、修理費いくらくらいかかるか見積もりは知りたいな。お金を払って見てもらうだけってのは可能か?」

「大丈夫だと思います」

「鑑定料はいくらぐらいになる?」

「千テルスくらいでしょうかね。二千はいかないでしょう」


 じゃあお願いしようかと頼む早人をつれて店員は店からすぐ近くの工房に入る。

 休憩中なのだろう椅子に座って水を飲んでいる四十才を超えた男に店員が近づく。


「親方。剣の修理にいくらかかるか見積もりを頼みたいんですが」

「おう? いいぜ」


 どれだと言う職人に、早人は背負っていた剣を鞘ごと渡す。


「ひびが入っているからそっと抜いてほしい」

「わかった」


 職人は紐の封を解いて、そっと剣を抜いた。

 刀身が見えた途端、職人の口からほうっと感嘆の声が漏れる。


「これはひどい」


 完全に抜かれた剣を見て、店員はあららと感想を漏らす。

 対して職人は無言で剣を眺め、丁寧に鞘へと戻した。


「良い剣だ。名のある職人が打ったのだろうな。これはお前さんが使ってこんなになったのか?」

「いや師匠が振るって」

「そうか、この剣をこんなにできるんだ一流の使い手だったのだろうな」

「親方、その剣ってそんなにすごいので?」


 ただの一店員である男には鋼っぽい剣にしか見えなかった。


「ああ。俺じゃ打てないな。これに使われた材料を扱うことも難しい。これを使って剣を造ることはできるが、とてつもなく劣化したものになるはずだ」

「親方の鍛冶の技術値って200を超えてましたよね? その親方でもそんなことになるんですか」


 良いものをみせてもらったと言って職人は剣を早人に返す。

 早人は剣を受け取り聞く。


「それでこれを修理するとしたらいくらになるんです?」

「高くなるぞ? 腕のいい職人を探して、希少な鉱石を使う。優に百万を超えるな」

「「たっか!?」」


 早人と店員の声が重なった。

 早人は店で見た鋼の剣を超える金額に驚き、店員は自身の一ヶ月分の給料をはるかに超えた額に驚いた。


「高いと言ったろう。一流の鍛冶職人はこれを扱えることを喜ぶだろうな。俺からしても羨ましい」

「王都に行くつもりなんですけど、そこで職人は見つかりますかね?」

「大丈夫だろう。王都にいなくとも、国や大陸のどこかにいるという情報は手に入るさ」

「それまでにお金を貯めておかないとなぁ。ところで鑑定料も高くなるってことはありませんよね?」

「安心しろ。良いものを見れたんだむしろ割引してやる」


 提示された金額を払い早人と店員は工房を出る。


「では俺は店に戻ります」

「ちょっと聞きたいんだけど、お金を稼ぐなら王都に行った方がいい? それとも稼ぎ場がどこかにある?」

「そうですねー、職人なら王都に行けば仕事があるでしょう。でもあなたは冒険者でしょうから迷界か禁域に行った方がいい」


 迷界も禁域も似たような場所だ。違いは支配する魔物がいるかいないか。どちらも入るのに冒険者登録が必要だ。

 迷界にはリーダー格の魔物がいて、そこにいる魔物の種類もリーダーと似たようなものになる。集まった魔物の特色に場が染まることも特徴といえるだろう。リーダーを倒せば、迷界はなくなる。

 対して禁域はリーダー格はおらず、様々な魔物が独自の生態系を持って生息している場所だ。特徴はたまに増えすぎた魔物が禁域からあふれ出ることだ。なので被害がでないように間引き依頼がでる。


「大森林が禁域ってのはわかるけど、ほかにあります?」

「ないですね。北の町に行けば沼の迷界があると聞きましたよ」

「そうですか、情報ありがとうございました」

「いえいえ」


 そこで店員と別れて、町で冒険者登録しておこうと考えつつ早人は宿に戻る。

 宿の従業員に裏庭で木刀を振り回していいかの許可をもらい、夕食までコッズが体に染み込ませた技術に従って木刀を振る。

 コッズの体の動かし方からそれると違和感を感じるため、鍛練でおかしな癖がつくことはないだろう。

 剣を振る様子からは素人っぽさは感じられず、剣を扱いだしてそれなりの年月を感じさせるものがあった。

 コッズの剣を振る体に作り上げられたことに拒否感はないため、早人は今後もコッズ流といえる剣を磨き、使っていくだろう。


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