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邪教の影14


 口々に大声をあげていく村人をロソックは悲しそうに見る。見知った人たちのこのような姿を見たくはなかった。

 やがて村長も現れ、村人たちの前に出る。


「ボイドーを放してもらいたい」

「こっちの用件が先だ。荷物の回収の邪魔をするな」

「ボイドーの解放が先です。荷物の回収がすんでも解放せず脅されてはたまりません」

「脅すなら人質がいなくてもできる。こっちは人質がいなくてもあんたらの排除に苦労はしないんだ」


 早人が男を担いだまま剣を抜いて、村人たちに向ける。同時に戦意も向けた。

 これは恐怖が増している村人たちに効果抜群で、村長も含めて怯えたようにあとずさり静かになった。


「こいつが人質をとっているのは、脅しというよりむやみやたらに暴れないという意思表示だ。武力に頼らず、脅しという形の方がまだ穏便なんだ。そっちに対して配慮してるんだから、おとなしくしていろ」


 ロソックも付け加え、早人は剣を納めて歩き出す。

 村長の家に向かう途中にロソックの実家があるので、先にそっちに向かい玄関前で止まる。


「兄貴と義姉さん。ケラスンは俺が連れて村を出るから、着替えとか持っていくからな」

「誘拐するのか!?」


 ついてきた村人の中から男がでてくる。この男がケラスンの親だ。


「このまま村に置いて行ってもろくなことにならないだろう? 俺たちがいなくなってケラスンと元のまま接することができるのか? 嫌だぞ置いていったせいでケラスンが死んだとかなったら」

「死なせることなど」

「本当にそう言い切れるのか? すでにあんたたちは人を殺しているんだ」


 殺してなどいないと村長は言う。


「勝手に死んだのだ」

「監禁して水も食べ物もやらなければ勝手に死ぬさ。そう追いやったのはあんたたちだ。直接手を下していないなら殺していないなどと事実から目を背けても意味はない。あんたたちは罪もない人を殺したんだ。そんな人たちが自分たちから外れたケラスンを殺さないとどうして信じられる」

「……」


 自覚はあるのだろうケラスンの親も村人たちも反論の声が上がらない。

 着替えなどを持ち出し、黙り込んだ人を引き連れる形で村長の家に向かい、倉庫の前に移動する。


「鍵前がついているな」

「夜に斬ったんだけど、新しいのつけたんだな」


 早人は入口の前に立ち、剣を抜くと上段から真っ直ぐ振りおろす。

 一度できたことなので、加減はわかっておりさほど集中しないで斬ることができた。

 真っ二つに斬れた鍵は地面に落ちて、村人たちはそれを驚きの視線で見ていた。鈍器で何度か殴りつけてようやく壊れそうな頑丈そうな鍵がただの一振りで造作もなく斬れてしまったことで、さきほどロソックが言っていた配慮という言葉を理解できた。この力量をもってすれば自分たちなど労せず斬り殺せるとわかったのだ。


「さっさと回収して村からでよう」

「それがいいな」


 全員分の荷物を持ってかわりに人質だった男を地面に転がす。


「残りは屋敷だ。俺たちが去ったら解放してやるといい」


 早人とロソックが村人に背を向けて村の外へと歩き出す。そこへ村人の一人が石を投げた。


「やるかもとは思っていたよ」


 早人は素早く剣を抜くと刃の腹で打ち返し、村人の一人が返ってきた石を頭部に受けた。血を流す村人を見て、ほかに石を握っていた村人は怯んだ様子で石を放す。

 石を持っていた村人たちをロソックは悲しそうな目で見て溜め息を吐く。

 二人が村から出るまで村人たちはその場に佇んでいた。

 屋敷に戻った二人はそれぞれに荷物を渡し、帰る準備を整える。

 早人から荷物を受け取ったジーフェとキアターは寝間着から着替えるため個室に移動する。キアターは荷物からヒールポーションを取り出し少し飲む。


「ほらジーフェも少し飲んでおきなさい。楽になるわよ」

「ありがと」


 硬い口調ながらはっきりと礼を返す。最初に自己紹介したときよりましで、キアターは小さく笑みを浮かべて着替える。

 早人たちが着替え武装も整える頃には、ロソックたちは準備を終えていつでもでられるようになっていた。

 殴られたところを痛そうにしていたロソックにキアターは残りのヒールポーションを渡す。ロソックは礼を言って飲み、楽になった体に触れていた。

 ファオーンの荷物は早人が持ち、拘束していた大人たちを置いたまま村に寄らないコースで山を降りる。

 山を出てロソックとケラスンは一度村の方向へ振り返る。


「とんだ里帰りになったなぁ」

「いつか帰れるかな」


 寂しそうに言うケラスンの頭をロソックは強めに撫でる。


「時間がどうにかしてくれることを願うしかないな。霧の影響が抜けた頃に一度帰ってみよう」

「うん」


 ケラスンはロソックの手を取って隣を歩く。

 一行は一日歩き、日暮れ過ぎにここらで一番大きな村に到着する。そこで宿をとり、三部屋にわかれる。

 ファオーンやロソックたちから離れて、武装を解いてリラックスできた早人はジーフェに気になっていたことを聞く。


「胸奥のうずきはどうなった? まだ感じてんの?」


 ジーフェは胸に手を置いて首を横に振った。


「感じない」

「結局なんだったのでしょうね。普段は感じることなく、あの村で感じた。条件は三つに絞れるかしら」


 邪教、魔力の帯びた霧、村人の異常。キアターは指折り数えて特徴的だった三つをあげる。


「ご両親が邪教の捜査員だったりしない? それ関係であなたにも技術が受け継がれているとか」

「聞いたことない」

「魔力に過敏に反応している感じでもなかったし、村の雰囲気なのかしらね」

「もう一度聞くけど、うずきは治まったんだよな?」


 早人の再確認に頷くジーフェ。なんでだろうなと早人とキアターは首を傾げる。

 原因がわかるのはもう少し先のことで、面倒事に巻き込まれたときのことだ。

 夜を明かして兵の詰所へと向かう。ジーフェは疲れをとりたいと留守番で、ロソックはケラスンの気晴らしに村を散歩したいと出かけていった。詰所に向かったのは早人とキアターとファオーンだ。

 詰所近くにいた兵に山の村であったことを話すと詰所の一部屋に案内される。そこで詳細を話すと邪教がそのようなところで動いていたことに兵たちは驚き、すぐに調査に向かえるよう指示を出す。


「どうして邪教がそのようなところにいたんでしょうか」


 兵が抱いた疑問を口に出す。兵から見て、あの村に特別な価値はないのだ。

 早人たちは首を横に振るしかない。


「わからない。霧で村人をおかしくさせてなにになるのか。ドタニスと名乗った奴は語ることはなかった」


 キアターは異形と化す邪教徒と戦ったのは初めてで、慣れない前衛に立っていたこともあり情報を聞き出す余裕などなかったのだ。


「そうですか。もう一度確認しますが、屋敷が邪教に利用されていた。村長の倉庫地下に監禁室がある。邪教徒ドタニスの死体は村と屋敷の間にある。村人は怖がりやすくなっている。死人が出ている。以上間違いないですか」


 早人たちは頷いた。


「ほかになにか情報は?」

「この小箱をドタニスが持ってましたね。あの村に関係しているのかは不明ですが」


 兵士は小箱を開けてみる。彼にはただの真珠にしか見えなかった。


「換金用の宝石では?」

「うちの魔法使いが言うには魔力が込められていると。換金用なら魔力なんて込めないでしょ?」

「そうですね。調べたいのでこちらに預けていただけたら助かるのですが」

「王城の魔法使いに預けようと思ってるんで、このまま持っておきます」

「そっちにコネがあるならその方がいいですね。ということはこの後王都に向かうと思っていいのですか?」


 早人が頷くとお願いがあると兵が言う。それに早人は内容によると返す。


「城に今の話を伝えて、邪教捜査に詳しい人を援軍に送ってほしいのです」

「ああ、それなら引き受けます。ここにはそういった人はいないの?」

「はい。日頃は魔物や人相手をしている者ばかりです。我々も調査はしますが、情報を見落とす可能性がありますからね」


 早人も自分なら同じように見落とすだろうと頷いた。

 兵は事情を書いた手紙を渡したいので宿を教えてほしいと言い、早人は泊まっているところを教える。夕方までには届けるということで話は終わる。


 後日国から専門の調査員が山の村に派遣されて調査が行われた。屋敷ではキアターの調べたこと以上のものはでてこなかった。だが村の中心辺りにある家屋に真珠が隠されていたことがわかった。それは真っ白ではなく、かすかに色が濁りかけていた。

 このことからただの真珠ではなく、なんらかの意図を持って隠されていたと調査員は判断し、持ち帰って調べてみることになる。その結果村人の感情にそまった魔力を収集していたのではと推測された。だがそれを集める目的までは不明なままだった。


 夕方に兵から手紙を受けとり、もう一泊した一行は宿の前でわかれることになる。ロソックとケラスンの目的地は早人たちと方向が違うのだ。


「じゃあ世話になった」

「元気で。ケラスンも」


 早人の挨拶にケラスンは頷きを返す。


「しかしドタニスの持っていたお金はこっちが受け取ってよかったのか? 本当なら俺から報酬を支払うべきだと思うんだが」

「気にしなくていいよ。ドタニスに迷惑をかけられたのはそっちも同じ。ケラスンの生活費とか雑費にあてるべきだろうさ」


 ドタニスが持っていたお金は人一人二ヶ月は宿暮らしできるくらいだ。今後の生活費としては足りないだろうが、それでも役には立つ。


「それに俺たちは依頼主とファオーンから謝礼がもらえる」

「命を助けられたんだ、それくらい払うへきだろう。言葉だけですますことなんざできん」

「というわけでドタニスのお金くらいなら受け取らなくても問題ない」

「そうか。ケラスンが必要とするときまでしまっておくことにする」


 ロソックはそう言ってケラスンを伴い、自身の住む町へと向かう馬車に向かっていった。

 二人の背を見ながら早人とキアターが口を開く。


「邪教徒を倒してめでたしめでたしで終われたらよかったんだけどな」

「後味の悪い終わりになったわね」

「めでたしめでたしで終わるおとぎ話も本当はこんな感じだったのかもなぁ」


 ファオーンはいくつか知っているおとぎ話を思い出しながら言う。


「俺たちも帰るか」


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