邪教の影12
疲れとダメージで歩きづらそうなキアターを見かねて早人が背負う。ジーフェも似たような感じなため片腕での抱っこになった。
ファオーンはロソックに任せて、キアターの指示に従い歩き出す。
キアターが示したのはあの屋敷だ。屋敷の四方の地面から霧は噴出していた。示されれば皆も見つけることができた。
「埋めてふさげばいいのかな?」
ケラスンの言葉を否定したのはロソックだ。
「おそらく屋敷の隠された地下にでも霧を生み出しているものがあると思う。それをどうにかしないと霧は滲みでてきそうだ」
「そうね。私もそう思うわ」
キアターの肯定で、皆屋敷に入る。
そろそろ解析の魔法の効果時間が切れるのだが、その前に地下から霧がわずかに漏れ出している場所をみつけることができた。
ぱっと見は居間で床には薄汚れた絨毯がある。椅子とテーブルを移動して、それをめくっても石の床が見えるだけで地下への扉らしきものはない。
「解析の魔法の効果が切れたからわからないけど、そこに魔法仕掛けかなにかで入口がある」
ファオーンを椅子に座らせたロソックが床を数ヶ所叩いてみる。キアターの示したところだけ返ってくる音に違いがある。
ついでに鍵穴など開けるためのしかけがないか探してみたが、そちらはみつからず立ち上がる。
「どうやって開けようか」
「一度戻ってあいつの懐とか探ってこようか? メモとか持っているかも」
早人の提案に異論はでず、小走りでドタニスが死んでいる場所に向かう。
ドタニスは消えることなくそこにいて、早人は落ちていたコートを手に取り、ズボンのポケットも探る。ズボンの方にはなにもなく、コートには財布とひらべったい小箱があった。小箱の中身は二つの真珠で、黒真珠と白真珠が綿に包まれて入っていた。換金か媒介に使うためかと思いつつ、内ポケットを探るが手帳などはなかった。
コートをドタニスのそばに置いて屋敷に戻る。
「あったのは財布と真珠。この真珠が鍵なのかな」
「床に近づけてみたら? 鍵ならなんらかの反応を見せると思う」
キアターの言葉に従い、早人は真珠の入った小箱を床に置くがなんの反応もなかった。
「鍵じゃないようね。だとすると合言葉なんだろうけど、手帳もないっていうし仕方ない。ハヤト床を斬っちゃって」
「それくらいしかないか」
背中の剣を抜いて、皆を下がらせ数度床を斬る。それで床は崩れ地下に斬られた部分が落ちていった。落ちていった床の衝撃で舞い上がったのか、霧があふれ出てくる。
「ハヤト、地下に魔法陣があると思うから、それも斬りつけてきてほしい」
「斬れば霧はとまる?」
「うん」
あいよと返事をした早人は濃い霧へと沈んでいき、魔法の明かり使い移動する。
「ハヤトが霧の影響を受けないのか?」
下りて行った早人を見て、ファオーンがふと気づいたように尋ねる。
「ハヤトは大丈夫。強すぎるくらいに強いから霧の影響なんか弾く。濃い霧の中で丸一日過ごしてもなんの影響もないわ」
頭上から聞こえてくる会話を聞きつつ、早人はしゃがんで床を確認する。魔法陣らしき紋様が見えた。これだなと剣で斬る。斬ってすぐに変化はないように見えるが、ほんの少しずつ霧が晴れている。
なにか変化があるのか、地下から上がった早人はキアターたちに聞く。
「なにか変ったように思えないんだけど。そっちはなにか変化感じた?」
「魔法陣はあった?」
「あったよ。んで指示通りに斬った」
「だとしたら霧が止まるだろうから、少し待ったらいいと思うわ」
キアターの言うように五分ばかり待つ。すると地下室の霧がはっきりと薄くなったのがわかった。まだ残っているためもう少し待って霧がほぼなくなってから地下に入る。
地下室全体が濡れていて、床には魔法陣、壁に地上へと繋がる穴がいくつか。それ以外に目立つ物はない。端に寄せられたテーブルの上に、絵の具らしきものと筆があるくらいだ。キアターによるとそれで魔法陣を描き、修繕をしたのだろうということだった。
キアターは魔法陣を調べるということで地下に残り、早人はそれに付き合う。となるとジーフェは早人のそばから離れずここに残る。ロソックたち三人が一階に上がり、ベッドのある部屋で眠る。
三十分ほどでキアターは調査を終え、ジーフェに寄りかかられている早人に上に上がろうと声をかける。
早人は寝ているジーフェを抱っこして移動し、キアターと一緒に余っている布を居間に広げた。
「寝る前に魔力ちょーだい」
「約束だったからな、ほら」
うきうきとしたキアターは早人の手を両手で包み込み、人差し指をくわえる。指先がペロペロとキアターの舌で舐められ、なんとも言えない感覚を早人は耐える。何度も舐められているが気恥ずかしさは慣れるものではなかった。
十分かけて少しずつ味わいながら魔力を吸ったキアターは、満足だと熱い息を吐いた。
「んじゃ寝るか」
「その前にあの真珠を魔法で見てみたい。ただの宝石じゃないような気がしてるの」
「ほいよ」
早人はテーブルに置いてある木箱をキアターに渡す。
受け取ったそれにキアターは解析の魔法を使う。
「どう?」
「白い方はなにも問題ない。ただの真珠。黒い方は多く魔力が込められている。悪い感じの魔力」
「魔力に良し悪しってあるのか」
「たとえばとても人を恨んでいる人が呪いの魔法を使うと効果が上がることがある。そんな感じに魔力に感情とかが帯びることがある」
「黒真珠の帯びた感情の種類はわかる?」
「そこまではわからない。怒りといった激しい感情じゃないとは思う」
「地下の魔法陣を使うときに媒介にしたとか」
キアターはわからないと首を振り、小箱をテーブルに戻して早人の隣に寝転ぶ。
その後は魔法の明かりを消して、なにか話すようなこともなく眠る。
夜が明けて東の空が明るくなり、起きて動き始めたロソックたちの気配で早人は起きる。
「腹減ったんで屋敷の周辺で木の実とかとってくる」
「手伝おうか?」
「いや昨日はなにもしなかったから、これくらいはやるよ」
そう言ってロソックはケラスンと屋敷を出る。
早人は寝ている二人を起こして、身支度を整えさせる。そうしているとファオーンも起きてきた。水と食事をとったことで多少は顔色が良くなっているが、まだ動くのはおっくうそうで、椅子に座る。
「改めて礼を言う。君たちが来なければ俺は死んでいただろう」
神妙な顔でファオーンは椅子に座ったまま早人たちに頭を下げた。
「だがどうしてここに?」
「アンナリア様が予定を過ぎても帰ってこないと依頼してきたんだ。迷界解放で周辺が騒がしくてちょうどよかったからそれを受けたんだ。こんなことになってるとは思わずに、怪我をしたか、どこかに寄り道していると思ってたんだけどね」
納得したようにファオーンは頷く。
「彼女のおかげか。帰ったら礼を言わないとな。俺もすぐに帰るつもりだったんだが、夜に襲撃されてな。そのまま捕まり地下へだ。水は魔法でなんとかしたんだが、食べ物はポケットに少しナッツがあるだけでな。すぐに食べる物がなくなり、空腹から魔法を使う気力もなくして、あとは弱っていくだけだった」
「以前同じように捕まった人がいると言ってしましたが、その人はその地下にいました?」




