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邪教の影5


 自分たちの土地でもないため独占するつもりもなく早人は頷いた。

 男はほっとしたようにリュックを置いて、夕食の準備を整えていく。

 夕食を終えて火を囲み、男も交えて見張りの相談を行っていく。二人組にわけることになり、ジーフェは早人と一緒を望んだ。だがもう少しキアターに慣れろと早人が男と組むことにしたため、望みは叶うことはなかった。

 女組が先に見張り、男組は眠る。交代の時間になり、起こされた早人は男も起こす。

 あぐらをかく早人の太ももを枕に女二人は眠り始めた。そんな二人に早人は少し困った表情を向けた。


「なにかあったら動けないんだけどな」

「仲がいいな」

「そう見えるだろうなー」


 寄生と食欲が目的だとは言わずに笑って流す。


「あんたたちはどこに行くんだ? 俺は里帰りの途中なんだ」


 なにかの探りを入れるというより、話題作りといった様子で男は聞く。

 それがわかったため早人も気楽に答える。


「俺たちは依頼だよ。山にある村に知人が行ったけど帰りが遅いから様子を見てきてくれってな」

「山の村ってなると俺と行先は同じだな」

「ああ、そこ出身なんだ? 偶然だな」

「ほんとだな。その知人は何しにいったんだろうか? 見るものなんぞないだろうに」

「昔の文化を調べている学者で、村の近くに古い屋敷があるって聞いて、調査に行ったんだよ」


 屋敷に覚えがあるのだろう男は手を小さく叩く。


「あの屋敷か。子供たちの肝試しに使われてるな。俺も入ったことある」

「子供が行けるってことは魔物とかも危ないやつはいない?」

「いないぞ。魔物自体はいるが、小物ばかりで幼児が一人でうろつけば襲われるが、十を過ぎた子供が複数でいれば近づいてこない」


 斡旋所の書庫で調べた情報と一致していて、現地の魔物にファオーンが襲われた線は消える。


「といっても俺も四年ぶりだから、その間に強い魔物が現れた可能性はある」

(結局は現地に行ってみないとなにか起きたのか、なにも起きていないのか、わからないな)


 話題は雑談に移っていき、互いにどこから来たのか、滞在していた町でなにがあったかといったことを話していく。

 その話題の中で、男の名前がロソックだとわかった。

 夜が明けて、ジーフェたちも起きて朝食をとり、出発する。

 ロソックによると一般人の足でも昼前には村に着くということだった。それに違わず、山に入って村人が使う道を通り、村入口が見えたのは昼に少し早いといった時刻だった。

 到着するまでの道で早人は強い魔物の気配は感じていなかった。

 村のそばには段々畑があり、村人が作業をしている様子が見える。

 近づいてくる四人に気づいた村人が作業する手を止め、警戒した様子で四人をじっと見る。その人にロソックが手を振り久しぶりと声をかけた。


「あ! ロソックか」


 安堵した様子で体から力を抜いて、おかえりと挨拶を返す。


「帰ってきたのか?」

「里帰りだよ。たまには顔を見せないと忘れられると思ってな」

「そうかもしれんな。家族が喜ぶだろうから早く顔を見せてやるといい。それで、そっちの三人は?」

「人探しだとさ。ファオーンって学者さんが来たんだろう?」

「……ああ、山の屋敷を調べに学者だって人が来たな」


 ここにファオーンが来たのは確実で、早人は今ここにいるのか聞いてみたかったが作業に戻るというので邪魔するのも悪く、ほかの村人に聞いてみることにしてその場を離れる。


「あの様子だと強い魔物が出たとかはなさそうだ」


 安心したようにロソックが言う。


「畑とかが荒れてる様子はなかったし、村は平和そう」


 キアターも周辺の様子を見て言う。


「これならさっさと人探しも終わりそうだ。こけて怪我して滞在してるとかどこかの村に寄り道してるとかだろうな」


 早人も仕事が困難なものにならずにすんでよかったと言っているそばで、ジーフェだけは周辺を見つつも静かだった。

 ジーフェは胸の奥に小さくざわめくものを感じていた。それがなんなのかわからない。だが平和なこの村になにかあるのだと胸のざわめきは訴えかけている。なぜこのようなものを感じるのかわからないし、自身がなにに反応しているのかもわからない。故に静かに周辺を見ることしかできなかった。

 村に入り、ロソックとわかれ教えてもらった村長の家に向かう。知らない者が村を歩き回るのは気分が良くないだろうと挨拶するつもりだ。ついでにファオーンの情報も聞けたら上々だろう。

 見知らぬ三人を村人は遠巻きに見ている。


「警戒されてるなー」

「小さな村ならよくあること。魔物だけじゃなく盗賊とかが襲い掛かってくることもあるだろうし」

「それなら人も警戒するか」


 納得した様子の早人とキアターは、ジーフェが違うと呟いたのを聞き逃さなかった。


「なにが違うんだ?」

「ここの人たち怖がってる」


 今も感じているざわめきとはまた違った感覚で、村人たちの恐怖を感じ取る。

「怖がっている?」と聞き返してくる二人にジーフェは頷きを返す。


「いくつもの視線受けて、村人の顔を見て気づいた。あれは私が村にいたときと同じ。なにに怖がっているのかはわからないけど、なにかに怖さを感じてる」


 キアターは周囲を見て、首を傾げる。


「一見するとこの村はおかしなところはないのだけれど。ジーフェはなにかあると思ってるの?」

「ある、かもしれない」


 自信はないため断言できない。それでも見たまま平和とは思えないのだ。


「あとついでだから言う。なにかこの村は落ち着かない。私がいた村での経験とはまた違う感覚がなにかあるって教えてくる」


 ジーフェが珍しくキアターをしっかりと見て言う様子に、早人とキアターは嘘を言っていないと受け取る。

 早人たちは改めて周囲を見る。だがおかしなものや異常な気配はなく、平穏な村なのだ。

 ジーフェが感じているなにか、それを頭の片隅に置いて村長の家を目指し歩き出す。

 村長の家の扉をノックすると、五十才ほどの男が出てきた。村人と同じように警戒心がある以外は、これといっておかしなところのない男だ。

 早人たちはしっかりと男を観察し、警戒の中に怯えがあるような気がした。


「どちらさまかな?」

「人を探しにこの村に来た者です。村長に一言挨拶をと。あなたが村長であっていますか?」

 

 早人が聞くと男は頷いた。


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[良い点] さ、どうなることやら。
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