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邪教の影2


 早人たちはパレードのあと、幽霊王の領地や道場で鍛錬して過ごしていた。

 パレードのときに多くに顔を見られたことで早人は勧誘や仲間に入れてくれと声をかけられることが多くなった。そのすべてを断っていたが、諦めきれずに声をかけてくる者たちがいてうんざりとした日々を送ることになった。

 そんなある日、ちょっとした調べ物で早人は斡旋所に向かう。キアターは限定販売のお菓子を買いに行って、ジーフェは人の目から逃れるように宿にいる。

 斡旋所に入り、顔なじみになりつつある職員と少し話して書庫に向かおうかと思ったとき、背後から話し声が聞こえてきた。


「やめろって」「止めんな! いい加減我慢できねえ!」「やめた方がいいと思うが」


 誰かを制止しているような会話で、早人は喧嘩でも起きたかと振り返ると自身の後ろに二十歳ほどの男が立って睨んでいた。そして早人を指差す。


「おいっお前! 調子に乗るのもいい加減にしろよ!」

「……俺?」


 一瞬なにを言われたのか理解できずに早人はきょとんとした表情を見せた。

 すぐに男の言ったことがわかるが、心当たりはなかった。調子に乗った記憶はないのだ。それらしい行動をした記憶もない。

 自分の知っている調子に乗るという行為と男の知る調子に乗るというものに違いがあるのかもと思っているところに、男は続ける。


「ああ、お前だ! 少し運が良かったくらいで、でかい顔しやがって」

「そんな覚えはないんだけど」


 心底不思議だという早人の態度が、男の心をさらに刺激する。


「むかつくな! あれだけの有名どころに誘われて当然ってか! ただ強い奴らと一緒に行動しただけの奴がよ!」

「んー調子に乗ってるってのは勧誘を断ったことでいいのか?」

「斡旋所の職員の態度もあるが、勧誘を断ってんのが一番むかつくっ」

「自分が入りたいところから俺が誘われたことを妬んでいるだけじゃないか?」

 

 男の言葉から推測した早人がそう言うと、男の知り合いらしき者たちがあちゃーと顔に手を当てた

 どうやら早人に絡む理由として大きく割合を占めていたらしく、指摘された男は顔を赤くする。


「一度お前に冒険者は強くなくちゃいけないってことを教え込んだ方がいいみたいだな! 表にでろや!」


 男の発した戦闘の気配を、ほかの冒険者たちは面白そうにしたり興味深そうにしている。彼らも早人の実力に興味あったのだ。絡んでいる男ほど早人の実力を疑ってはいないが、それでも迷界解放に同行できるほどの実力があったのかは疑っている部分もあった。


「私闘は禁止です!」


 男の言葉に、職員の一人がすぐに警告する。


「じゃあ模擬戦だ! それなら文句はねえだろ!」

「言い方を変えただけでしょう。今のあなたが手加減や寸止めなどできるとは思えませんが」

「いいじゃないか模擬戦。怪我してもすぐ治療できるように薬や治療院への手配を斡旋所で行えばいい」


 止めていた職員が模擬戦を推奨する職員に「先輩!」と咎めるように言う。

 この職員は一度自身の目で早人の実力を見てみたく模擬戦を推奨していた。入ってくる情報では強いとだけしかわからず、もっと詳細な情報がほしかったのだ。

 絡んでいた男は話がわかるじゃないかと喜びの表情となる。その一方で早人は乗り気ではない。楽しくもない面倒事を喜べるはずもない。

 そんな早人に先輩と呼ばれた職員が話しかける。


「やる気がでませんか」

「でないよ」

「では利点があるならどうでしょう?」


 利点などあるのかと早人は疑わしそうな表情になる。


「模擬戦で力を示せばああいった者が絡んでくることが減りますね。彼はあなたに力がないと思っているから絡んでくるのであって、相応の力があるなら納得もできたでしょう」

「納得できるようなできないような。そちらの職員さんはどう思います?」


 早人はすぐに警告を出した職員に聞く。


「私ですか? そうですね……あなたの今後次第でしょうか。今後も王都にいるなら模擬戦をやってみるのもありとは思います。ですがどこぞに移動するならその必要はないでしょう。彼らは駆け出しからずっと王都で活動していました。たまに聞こえてくる会話から今後も王都から動くつもりはないようです。ですのであなたがここを離れれば会うこともないでしょう」

「俺の予定次第か。なるほど……」


 職員の言葉を受けて早人は今後について考える。この先十年後とかになればどこかに移ってるはずだった。そんなに長くここに滞在するつもりもない。もともと地球帰還への情報を求めてあちこちに行くつもりはあるのだ。だが今すぐに王都から離れるというわけでもない。


「ああいった者はしつこいと思いますから、ここで模擬戦を断ってもまた絡んでくると思いますよ。なのですぐに出ていくのでなければ模擬戦をやった方がいいかもしれません」


 先輩職員がそう言う。後輩職員も「あるかもしれない」と肯定した。

 二人の考えを聞いて、早人は仕方ないと溜息を吐いた。


「やりましょうか。そちらの職員さんはちょっと助言お願いします」

「わかりました」

「では私は手続きしてきましょう」


 後輩職員に早人が頼み、先輩職員は絡んできた男に模擬戦決定を知らせて書類などを作りに机に向かう。


「どのような助言が必要でしょう?」

「どんな感じで模擬戦をやればいいのかなと。少しだけですがあの男を見た感じだと負けはないと思います。なのでさっさと倒した方が効果的なんでしょうかね?」


 あっさりと勝利宣言した早人に後輩職員は頷く。疑うことがないのは早人がスケルトンナイトなどを倒していると知っているからだ。絡んできた男の実力もこの職員はおおよそ把握していて、その差から早人の勝ちになるだろうと予測できた。


「周囲に実力を知らしめるのであれば一撃でのしてしまうのがよいかと思われます。ですが倒された男の方はなにが起きたか把握できず再戦を望むことになるかもしれませんね。もちろん周囲の人間が止める可能性もありますが」

「あの男に納得させるのはどういった方法があると思います?」


 後輩職員は少し考え込む。そして難しいですがと前置きして早人に助言した。

 そうして少しばかり時間が流れ、模擬戦に使える広場へと早人たちや見物人が移動する。ここはとある道場が保有する空き地の一つで、斡旋所が交渉し借りたのだ。

 早人と絡んできた男はそれぞれ木製の武器を手にして空き地の中心に立つ。絡んできた男の武器は使い慣れている槍の同じ長さの棒だ。早人の武器は背中の剣よりも短めな両手持ち木剣だ。それを片手で扱うつもりだった。

 

「その余裕の表情をすぐに泣き顔に変えてやるからなっ」


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