剣の新生6
いない理由に納得したジョーシュがそう答える。
小声で話しているうちに王の準備が整ったのか、銅鑼が町に大きく響いた。音が小さくなるのと同じく人々の歓声も小さくなっていった。
「皆の者、健やかに過ごせているだろうか」
王の声は魔法を使って遠くまで響くようになっている。早人のベッドに寝転んでいるジーフェの耳にも届いていた。少しの反応を見せたジーフェは興味をなくし、早人の枕を抱いて丸くなる。
「私は今日という日を迎えられたことが喜ばしい。この国から脅威が一つ減ったのだ。皆も喜んでほしい。そしてそれをなしたのが彼らだ! 我が国からの依頼を受けて、危険な地に飛び込み、我等が思った以上の成果を出してくれた。正直私はあの森が解放されるのにまだまだ年月が必要と思っていた。だから報告を受けたときは驚いたものだ。さらに疑いもした。それを詫びねばらならぬだろう。偉業をなした彼らに私は称賛を送ろう。皆も大いに褒め称えてやってほしい!」
王の言葉と同時に、見物に集まっていた人々は大きな歓声を上げた。
兵士に促され早人たちは歓声に応え、手を大きく振る。数分間手を振り続け、歓声が収まってきたら、早人たちは石壁から降りる。
王族が専用の馬車に乗り込み、城へと向かう。早人たちも同じように用意されていた馬車に乗り込んで、城に向かう。
馬車の外から歓声が聞こえてきた。それは酒と食べ物を国が振舞うと告げられたからだ。お祭り騒ぎだと、屋台を出している者たちも商品を割り引いて集まった者たちと一緒に騒ぐ。
馬車で城の庭に入り、馬車から下りた早人たちは男女二組にわかれ、使用人に案内される。
客室の一つに案内されて、早人たちは席を勧められる。
「今後の予定をお知らせします」
案内してきた使用人が早人たちに一礼し話し始める。
「ここでスーツに着替えていただき、少しばかりお待ちしていただくことになります。こちらの準備が整いましたら大広間へと移動してもらい、そこで王から褒章授与という流れになりまして、その後立食パーティーが行われます」
「俺たちの武具はここに置きっぱなしになるのか?」
質問の声が上がる。
「はい。戸締りをしっかりして、警備の者がきちんと番をしますので、盗難の心配はございません」
「ほんとうに大丈夫なのか?」
「王からも警備はしっかりするよう命じられていますので、信じていただければと」
質問をした者は一応は納得した様子を見せる。
功績を上げた者の武具が盗まれたとなれば国の威信にも関わることなので、警備は早人たちが思っている以上に厳重にされる。
ほかに質問はないか使用人が尋ね、礼儀作法に自信がないといった声が上がる。それらに使用人は一つずつ答えていった。
質問がなくなると、使用人は皆の体格をおおまかに測って、スーツの準備のため部屋を出ていく。
早人たちは武具を外しながら、雑談して使用人が戻ってくるのを待つ。
二十分ほど時間が流れ、四人の使用人が部屋に入ってきた。カートを押していて、その上に折りたたまれた服が重なっている。
見本として広げられたそれは軍服を元にした飾りけのある黒のスーツだ。
早人も自身に合うサイズのものをもらって着ていく。
使用人に話を聞くと、女性陣も軍服を元にしたスーツになっているらしい。
しばし待つと女性陣の準備も終わったと連絡があり、一行は使用人の先導で大広間に向かう。
大広間には王が既にいて、貴族たちも左右にわかれて整列している。楽団も整列していて、音量をおさえて演奏をしている。
王の下まで続く赤い絨毯を、ジョーシュを先頭にして進み、ジョーシュが顔を伏せ膝をついたのに合わせて早人たちも同じように膝をつく。
冒険者たちを見ていた王の視線が早人で止まる。その瞳に一瞬だけ好奇心の光が宿った。
「顔を上げよ」
「はっ」
「此度の成果、まことに素晴らしいものである。それを称え、白花勲章を与える。代表者ジョーシュ、前に出よ」
ジョーシュは立ち上がり、緊張した面持ちで王の前まで歩く。
王のそばにいた近衛騎士が持っていたトレイを王に差し出す。そのトレイには白い金属で作られた花の勲章が載っている。
この勲章を持っていると五十万テルスの年金がもらえるようになる。この勲章は上から四番目で、一番上は黄金陽勲章と呼ばれるものだ。
王は勲章を手に取り、ジョーシュの胸につけた。
「この花を誇りに今後も励むように」
「見に余る光栄です。この花を枯らさぬよう今後も精進していきます」
ジョーシュは震える声でそう言い、感動で目を潤ませて頭を下げた。ほかの授与者も感動で胸がいっぱいになっていた。
盛大な拍手の中、早人たちの勲章を近衛兵から受け取り、ジョーシュは下がる。
「授与式はここまでだ。皆の者、彼らに興味があるだろう。迷惑にならない程度に接するがよい。宴の開始だ」
王の宣言を合図として、楽団たちの音量が上がる。
立ち上がった早人はキアターと一緒にまっすぐ料理に向かった。
宮廷料理人が今日という日のため、質の良い材料をふんだんに使って腕を振るった料理がずらりと並ぶ。
それらを見て、食べることが好きなキアターの目が輝いた。
早人も料理の種類に感心し、どういったものかキアターの解説を聞きつつ自分の好きなものを取る。
まずは魔物の肉を豚の角煮のように調理したものを一口。とろりとした脂と調味料の濃い甘さが白米を欲しくさせた。一切れで茶碗一杯いけそうなほど美味さが凝縮されているのに、くどさを感じさせず何切れでもいけそうだった。肉も柔らかく少し噛むだけで噛みきれる。
「白米がないのが残念だ、ほんとに」
白米がないか周囲を見渡し、見つからず肩を落とす早人。
取った三切れをぺろりと食べて、また取るかと考える。だがほかの料理も同レベルだとすると角煮だけで満足するのはもったいないと止めた。
水を飲んで口の中を洗い流し、料理長特製のスペアリブのバーベキューに齧りつく。こってりとした肉料理が続いたということを感じさせないくらいの美味さが舌を喜ばせる。しっかりと下準備がなされているおかげで臭みがなく、中までしっかりと味が染み込んでいる。付け合せの野菜と交互に食べると手が止まらなくなって困る。
「これも美味いな。やっぱり城の料理人はすごいな」
キアターはなにを食べているのだろうとそちらを見ると、ロールキャベツが一番のお気に入りらしく、独り占めする勢いで食べている。
二種類の肉料理に満足して、あっさりとした味わいの野菜スープを飲み終わった早人に王が近づいてくる。
「城の料理は口に合ったかね?」
「とても美味しかったです」
心底満足だという表情の早人に、王も嬉しそうに笑む。
「それはよかった。少し話をいいかね」




