剣の新生5
「キアターは朝食?」
「そんなことを言ってたはず」
「はずて。もうちょっと興味もとうや」
「だってあなたがいれば、それだけでもういいもの」
「はいはい。キアターにも慣れていってねー。俺は庭で素振りしてくる」
「私も行く」
早人は剣と荷物をテーブルに置いて木刀を持って部屋を出る。
ジーフェは庭の壁際に置かれている木箱に座り、早人の鍛練風景を眺める。それだけでも楽しいのかニコニコとしている。
早人は上段から下段に両手で持った木刀を振り下ろす。木刀が風を斬り、ぴたりと止まる。これだけで技量の上昇がわかった。風を斬る音、体の使い方、意識の在り方、そのどれもが早人に高い技量を教えてくる。
薙ぎ払い、斬り上げ、突きと少しばかり確認するように木刀を振り、なるほどと頷いた。
次に森の迷界で戦った根っこの群をイメージして、それを斬っていく。
余裕があったので、根の量が増えたイメージをしてみるが、問題なく避けて斬り続けていくことができた。
今ならばジョーシュたちが囮とならずとも単独突破できるだろうと推測できる。
そういった様子を見ていたジーフェには、早人の動きは捉えきれていない。いつのまにか剣が振られていて、突いたと思ったら、後方に退いていて、すぐに下方に木刀を振るっている。そんな感じで動作の終わりを見ている。
世の中にこういった動きがあると知れたのはいい勉強だった。すぐに目で追えるようになることはないが、少しは速さに慣れるだろう。最高峰の技術を間近で見ることができるという世の中の強者からすれば贅沢な時間をジーフェは過ごしていた。
約一時間、早人は納得するまで動き続け、ジーフェも大人しくその様子を見ていた。
キアターが帰ってきたところで鍛練は終わり、三人で宿に入る。
時間は流れていき、パレード当日になる。事前告知で周辺の村などからも人が集まり、朝から賑わいがすごい。
防具を身につけながら早人はベッドに座っているジーフェに話しかける。
「パレード見にくんの?」
「行かない。人が多いから。ここに引きこもってる」
「なんとなくそんな気はしてた。いつ帰ってくるかわからないから、昼食や夕食は待ってなくていいから」
「うん」
「じゃあ行ってくる」
剣を背負って早人は部屋を出る。身支度を整え終わったキアターが廊下で待っていた。
「ジーフェはどうするって?」
「宿から出ないってさ」
あー、とキアターは納得した様子を見せる。いまだ自分に慣れた様子を見せないジーフェが、人の多そうな今日出歩くことはないと簡単に想像できた。
「どうしたら慣れてくれるのかな」
「さてねー」
答えなど持っていない早人はそう答えるしかない。
キアターとしてはジーフェと仲良くしていきたい。自分もジーフェも早人から離れる気はなく、長い付き合いになるとわかっている。それならば仲良く付き合えた方が楽しいだろう。自身のことを知っても偏見の目で見てこないジーフェと友達になりたい。
ジーフェは魔力や体力を食べると言われてもキアターに興味がないため流し、気持ち悪いとか思う以前なだけだ。殴ったり罵ってこないので、さすがに故郷の村人より評価は上だ。
「少しずつやっていくしかないのかな」
「それかとても頼りになるところを見せればもしかしてって感じだなー」
話しながら宿前に移動する。すぐに兵士がやってきて、二人をパレード用の馬車まで案内した。馬車は飾り付けがされていて、二階建てになっている。上部にはもともと日除けの屋根があったが、パレードには邪魔なため外されている。
馬車周辺にジョーシュたちが集まっていた。そわそわと落ち着きない様子でいる。
「おはようございます」
「おう、来たか。キアターも招かれたんだな。まあ当然か」
「今回のもっとも評価されるべき人ですからね」
「だな。そういやジーフェちゃんは元気にしているか?」
「元気ですよ。今日は人が多いから宿にいますけどね」
「相変わらずだな」
「少しずつでも変わってくれると、すごく嬉しいんですけどね」
世間話のようなものをしていると兵士が馬車の上部に上がるように声をかけてくる。
馬車は二台あり、大樹解放組とそうでない組にわけられた。指示に従って、梯子を使い上がる。
全員が馬車に上がると、小太鼓やトランペットなどを持った楽団が演奏しながらゆっくり歩き始める。その速度に合わせて馬車も動き始めた。
楽団が大通りに姿を見せると、待っていた人々から歓声が上がる。
「おおーうるさいほどに大きいな」
早人が耳を押さえる。
「それほどまでに迷界の解放が嬉しいんだろ。ほら、笑顔で手を振ってやろうぜ」
ジョーシュに促され早人は笑顔を作り手を振る。キアターも笑顔ではないものの同じように手を振る。
馬車は貴族街への入口でUターンし、来た道を戻る。そうして町の入口でまたUターンして、貴族街の入口で止まった。
そこで早人たちは馬車から下りて、平民地区と貴族地区を隔てている石壁の上に上がる。
そこには既に冠とマントと錫杖を身に付けた王がいて、その両側に王子と二人の姫もいる。
王は四十歳ほどか。男盛りの年齢で、王としての威厳も寛容さも持ち合わせているように見えた。王子は二十歳前半くらいか。王族としての雰囲気はあるが、王としての威厳は足りないような感じだ。体は鍛えているようで、しっかりとした体格だ。二人の姫は、二十歳くらいだろう。それぞれ父と同じ金髪を持った美人だ。
(あの王子)
見覚えがあると横顔をじっと見る。その早人の視線を感じたか、姫たちと話していた王子は顔を早人に向けて、笑みを返す。
正面から見た早人はムーンととてもよく似た顔だと思う。だがムーンは日焼けしていて、王子の肌は白い。細部も違う。雰囲気も王族らしく、昨日のムーンが放っていた雰囲気とは違った。そのため他人の空似だろうと結論づける。
「もう一人姫がいるはずなんだが、どうしたんだろうか」
姫たちを見ていたジョーシュが首を傾げた。
その疑問には近くにいた近衛兵が答える。
「第三王女様は体調を崩されてお休みになられている。この催しに参加できなかったことを申し訳なく思っておられた」
「病気なら仕方ないさ。ゆっくり休んで体を治してほしいな」




