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向かうは森の迷界10


 早人は左手の人差し指を差し出す。

 それをキアターは宝石を扱うように大事に両手で持って、口に運ぶ。

 早人は最初にぬめりとした感触と生暖かを感じた。次にざらりとした舌が指を舐める感触があり、すぐに吸われる感触もある。

 ピチャピチャと音を立てて舐められ、吸われる。

 キアターが魔力を吸っている間にも根は襲いかかってきていて、早人は片手でその対処に追われている。


「んっ、んんー! すごい濃い」


 キアターは指から流れ出る魔力の味に顔を赤らめ、目は潤み、色っぽい吐息を吐く。目的を忘れて酒に酔ったかのように味わうことだけに集中する。

 エロいことをやられているような感じがして早人は、根を斬ることに集中しようとするが、どうしても指の感触が気になり、木刀の勢いが少し弱まりいつもよりキレがない。早人の顔は照れなのかほんのりと赤かった。

 勢いよく減っていく魔力にそろそろいいのではと考えた早人が指を抜く。銀糸のように唾液がキアターの口と抜いた指を繋いでいるが、すぐに切れた。


「ぁ」


 切なさそうに声を漏らし指を追うキアターに、舐められていた人差し指で大樹の方向を指差す早人。

 それで目的を思い出したか、キアターはたっぷりとある魔力を使って解析を進める。抵抗などものともせずに見たいものを見ることができた。


「……見えたっ」

「なにがどうなってる?」

「大樹の中に種みたいなものがある。種からでた根が幹を突き破って大樹を縛り付けてる。大樹の意思はおそらくあの種に操られてると思う。だから種を砕けば大樹は元に戻る可能性がある」


 得た情報を早人はジョーシュたちに伝える。

 種の位置はどこなのかとすぐに返答が上がった。


「一番大きなコブのすぐ上に、幹から出てきている根がある。そこを突けば種に届く」


 ということらしいと早人が伝える。


「ハヤトっその種砕けるか!?」


 必死に根を斬り払うジョーシュのその問いに、早人は無理と返した。

 強人の衣を使えたならいけたかもしれないが、魔力を吸われたことで闘人の衣の発動にすら魔力が足りない。多すぎる根を相手取るには強化無しではきついものがある。

 シュバスたちを助けたときに奮発して強人の衣を使っていなければ、闘人の衣を使う余裕はあったかもしれない。

 

「ならば一時的にでも根っこを減らせれば、種を砕けるか!?」


 今度はシュバスが聞く。

 それに対し早人は根の硬さを幹以下と仮定し、幹は根の倍以上の硬さだったとき幹を貫けるか考えて、いけると考えた。


「断定はできませんけど、やれそうではあります」

「よし! 大樹がこうなった原因はわかったから、あとは失敗してもいい。やれるだけやってくれ!」

「りょーかい! でも根っこはどうやって減らすんです?」


 俺に考えがあるとシュバスが根と戦いながら説明していく。


「まずキアターを中心に円陣を組む。ハヤトはその場で待機だ。そしてキアターに炎の魔法を発射せずに頭上に掲げるように使ってもらう。燃やされると考えた根っこがこっちに集中するはずだ。あとは俺たちが耐えている間に種を砕いてくれ」

「根っこが集まらなかったら?」

「……森に火を放ってもらうか」

「さすがにそれは聞き逃せねえな」


 警告の意思を込めてジョーシュが言う。

 危険地域となっているがここはこの国の領地なのだ。そこを燃やされるというのは貴族と共に行動している身としては許可できない話だった。

 さすがにこの発言はまずかったと考えたシュバスが言い直す。


「撤回する。炎が効果をださなければ、私が先に大樹へと接近して囮になる。それでどうにか種を砕いてほしい」

「お前さんの実力だと大怪我じゃすまない可能性もあるぜ?」


 本当に囮として動くのかとジョーシュが確認し、シュバスはしっかり頷いた。


「炎が効果をだせば囮なんぞやらなくていいんだ。心配してくれるな」

「ああ、上手く行くことを願うぜ」


 ジョーシュたちはキアターを守るように円陣を組み、早人は離れた場所でいつでも動けるように待機する。


「キアター、いつでもいいぞ」

「わかった。焼き尽くせ、暴虐の炎!」


 キアターが手を掲げ、その三メートル上空に大きな火の塊が生まれた。

 その明るさと熱は、円陣を組んでいるジョーシュたちに注がれる。そしてそれを感知した根たちの注目が炎に集まる。

 タケノコかツクシかと思えるほど地面から多くの根っこが現れて、炎へと群がっていく。


「いけーっハヤト!」


 荒れた波のように襲いかかっている根の向こうからジョーシュの声が聞こえた。

 即座に早人が動く。今の自分が出せる限りの最高速度で動く。一歩進むたびに地面をえぐり進む。

 幹に人間が向かっているのを根も察し、動きがほんの少し止まる。根の一部が早人を阻止しようとうねるが、もう遅い。もともと早人と大樹の距離はそう遠いものではなかった。スポーツ選手など軽く凌駕する能力値を持つ者が本気で走れば、その距離は長いとはいえないものだった。

 ほんの数秒で大樹に接近し、根元を蹴って勢いの方向を変える。大きなコブの目の前まで飛び跳ねた早人は左手で柄を握り、右手の掌を柄尻に当て、残りの魔力を注いで戦技を使う。

 コブから視線のようなものを感じ、その視線へと狙いをつけた。


「剛点穿ち!」


 幹に木刀の切っ先が勢いよく当たった瞬間、右手で柄尻を押す。

 めりめりと音をたて、木刀は幹に食い込んでいき、同時に木刀からもかすかにきしむ音が聞こえた。

 早人は木刀の悲鳴のようなきしみに少しだけすまなさそうな表情を浮かべたが、押す力を弱めることはなかった。

 そして木刀の大半が幹に埋まったところで、大樹自身が大きく震えた。同時に根の動きも混乱するかのような不規則な動きにかわった。

 早人は幹を蹴って大樹から離れていて、着地したところから突き刺した所を注視していた。

 皆も大樹に注目する。

 大樹を縛っていた血管のようなものは紫から黒へと変色していく。やがて幹からはがれていく。ぐねぐねと動いていた根も動きを弱めて地中に戻っていく。

 三分もかからずに大樹は種の呪縛から解放され、表皮に締め付けられた痛々しい跡が残っているものの穏やかな雰囲気を放ちだした。


「終わったのか?」


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