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向かうは森の迷界6


 ほかにはなにか動物いるかなと周囲を見渡しながら歩いているうちに見回りは終わる。

 テントがいくつも立っている拠点に戻って、早人はジーフェの姿を探す。荷運びは終わったようで、荷物を解く手伝いをしていた。

 真面目に働いている姿を見て、安堵した表情で頷く姿は保護者そのものだ。

 少し時間が流れ、夕食の準備が始まり、料理の匂いが漂い出す。

 夕食が始まり、ジーフェは見知らぬ人との作業から解放されて、早人の隣でほっとしたように料理を食べる。そんなジーフェは食事後皿洗いに呼ばれて名残惜しそうに早人から離れていく。

 早人たち戦闘組は明日からの調査について話し合う。

 六人が森に入り、四人が休憩がてら拠点の守護ということになり、ここに慣れていない早人はまとめ役のジョーシュと一緒に行動することになる。

 話し合いを手短に終わらせて女性陣は水浴び用のテントに向かう。

 早人も男用の水浴びテントに向かい、さっぱりとした帰りに皿洗いなどを終えたジーフェと合流する。


「ジーフェも汗を流してくるといい。風呂はないけど、大きな桶にお湯が入っててそれで全身を流すことができるよ」

「行くけど、私はどこで寝ればいいの?」

「女性陣のテントじゃないか?」


 瞬時にジーフェの顔から血の気が引き、早人の腕をとる。


「知らない人と一緒になって寝れないっ。隣で寝る」

「俺は男性陣と一緒に寝るから、知らない人がいるのは変わらないぞ?」

「それでもあなたがいる分だけまし」

「まあきちんと手伝いしてたみたいだからいいか。荷物とってきてテントに入れておけ」


 うんっと元気よく頷いてジーフェは馬車に置きっぱなしにしていた荷物を取りに走る。

 戻ってきたジーフェと一緒に早人はテントに入り、ジョーシュたちにジーフェを一緒のテントで寝かせてやってほしいと頼み、受け入れられた。

 上機嫌に水浴びに向かったジーフェが完全にここから離れて、ジョーシュたちは早人に微笑ましそうな視線を向けた。


「結局甘やかしてるじゃねえか」

「寝る時までリラックスできないのはどうかと思っただけですよ」

「ははは、そうかそうか」


 笑ったジョーシュは早人の背をバシバシと叩く。

 何を言っても勘違いされると思い、早人は受け入れる。

 トランプに似たゲームで暇を潰しているとジーフェも帰ってきて、ジョーシュたちが誘う。


「どうやって遊べはいいかわからないからいい」

「俺もルールは知らなかったぞ。こんなのは遊んでいるうちに覚えていくもんだ」


 早人はジーフェを隣に座らせて、強引にゲームに混ぜる。

 勝って負けてを繰り返し、ジーフェがあくびをして眠そうな様子を見せたところでお開きとなる。

 ジーフェが端っこに行き、早人が自動的にその隣に決まる。

 早人が横になると、ジーフェは楽しそうな顔で早人の腕を枕にして寄り添う。


(これ朝になったら腕痺れてるやつだ)


 腕を外そうとした早人はジーフェの表情を見て、小さく溜息を吐きやめた。

 知らぬ誰かと過ごす時間が多くストレスが溜まり、それが癒されているような安堵感が大きく表れているのを見ると外そうという気が失せた。

 明かりが消えて、すぐにジーフェの寝息がすぐ近くで聞こえてくる。

 女の子が横に寝ているというのに照れも興奮もしない自分に、早人はジーフェはやはりペット枠なのだと再確認することになる。

 ジーフェもジーフェで男だらけの場所で男にくっついて寝ている時点で、一般的な女性からはズレている部分があるため、どっちもどっちなのだろう。

 早人もすぐに睡魔に身を委ね、朝が来る。

 動きにくさを感じた早人が目を開けて現状を確認する。


「くっつきすぎだろ」


 ジーフェが早人に抱きついていた。早人の足に自身の足を絡ませ、早人の胴を抱きしめていた。

 それをはがして起き上る。ついでにまだ寝ているジーフェも揺すって起こした。


「おはよー」

「水浴びのテントにでも行って身支度整えてこい」

「うん」


 ジーフェは頷き、顔をふく布などを持って出ていった。

 早人も桶を持ってテントを出る。桶に魔法で水を入れて、顔を洗う。

 ジョーシュたちもすぐに起き出してきた。

 朝食を終えて、ジーフェは早人に手伝いに追い出され、その早人は武具を身に付けて拠点を出ている。

 三十分ほど歩いて、武具を身につけたジョーシュたちと一緒に早人は森そばに立つ。


「すぐに迷界だ。すぐに根が襲いかかってくるから、油断するなよ」


 ジョーシュの注意に皆頷いて木々の間に入っていく。

 早人はすぐに振動を足下から感じる。これが聞いていた根っこかと思っていると、土を割って大小様々な根が現れた。糸のような根もあれば、大根ほどに太い根もあり、それがうねうねと動いている。


「刈り取るぞ!」


 ジョーシュの声で皆が動き、根も動き出す。

 根っこは鞭のように叩き付つけるか、足にからみつき動きを拘束するくらいの行動パターンしかない。

 叩きつけは鞭のように鋭いものはなく、ここにいるメンバーならば肌が赤くなる程度ですむだろう。厄介なのは拘束で、数本手足に絡まって動きが鈍ると、絡みつきがどんどん増えていき最後には動けなくなる。そこを魔物に襲われでもしたらよくて重傷だろう。

 拘束が厄介なのは何度かの調査でわかってるため、仲間にからまった根っこを斬ることを早人は重ねて注意を受けていた。

 早人は自身に向かってくる根を払いのけて、仲間の状況を見る。

 ジョーシュは魔法専門のタータを守りながら根を斬っており、パージアとラレントは慣れた様子を見せて対応している。

 加勢するならジョーシュかと気にしつつ根っこの相手を数分ほどすると、根っこはおとなしくなった。


「さっさと怪我の確認して進むぞ。大人しくなっている間に、移動しないとまた足止めをくらう」


 手早く怪我の有無を確認して、一行は先に進む。

 一行はあちこちに目をやる。警戒の意味もあるが、植物や動物や魔物の様子を探るためでもある。

 それらが迷界化の原因を突き止める一因になるかもしれないのだ。


「そういや迷界の主はどう動いているのかわかってるんです?」


 そこまでの情報はもらっていなかった早人が聞く。


「ここの迷界の主は中心にある大樹の精なのは公表されているから知っているな? 急に生き物を襲いだしたあと、一度だけ調査隊が無理して主のところまで行ったことがあるらしい。大樹は紫色の筋らしきものが幹に付着していたということだ。それが異変の原因なのだろうが、なんなのかはわからなかった。文献にそんな状態になった大樹の記録は残っていなかった」

「紫のそれが魔物なのか病気なのか偶然出てきた遺産なのか」


 早人がいくつか考えられることを上げる。それにジョーシュは首を振る。


「その判断を下すために、もう一度大樹の下まで行って、削り取ることができればな」

「根っこを突破するだけなら大丈夫そうだけど。ほかになにか問題あんの?」

「奥に進むほど、魔物と根っこの抵抗が大きくなる。魔物は大樹に操られているんだろうな」


 話していると早人は木々の向こうに魔物の影を捉える。

 前方を気にした早人にジョーシュは気づき、そちらを見て武器を構える。

 五体の花カマキリが接近していた。


「氷弾の雨っ」


 距離があるうちにタータが魔法を使う。三センチほどの氷がいくつも飛んでいく。いくつかは木に当たり、いくつかは花カマキリから外れて、結局当たったのは少しだ。一体の花カマキリの動きが鈍る。残る四体が威嚇声を出しながら駆け寄ってくる。

 早人は自身に襲いかかってきた花カマキリの鎌の腹を木刀で叩き割る。素早く木刀をひるがえして、もう一方の鎌も叩き割り無力化すると接近して首を払う。

 早人はすぐに周囲の確認をして、近くにいたパージアと戦っている花カマキリの首を払う。


「ありがとう」

「いえ、ほかに加勢は必要なさそうですね」

「ええ、私たちは根っこの警戒をしておきましょう」

「わかりました」


 早人たちが警戒をしている間に怪我なく戦闘が終わる。

 そのまま警戒を頼まれ、ジョーシュたちは手早く花カマキリの花を回収して袋屋の魔法がかけられた袋に入れていく。


「さあ行くか」


 回収と怪我の確認を終えて、一行は進む。

 早人たちが立ち去ったあと、根っこが現れて花カマキリの死体をいずこへかと持っていく。


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