向かうは森の迷界4
夕食を終えて早人は部屋に戻り、ジーフェも入ってきて、城での話を尋ねる。
「三日後から八日間留守番?」
馬車を使い往復で三日、滞在で五日の合計八日だ。
「そうなるね」
早人としてはこの八日はジーフェの自立を促すのにちょうどいいと考えている。
話を聞いたジーフェは顔色を悪くしている。でかけている八日で早人がいなくなるかもと考えてしまった。それに加え一人で宿で過ごすなど寂しくて嫌だった。
すがるような視線を早人に向ける。
「つ、ついて行くのは?」
「国からの依頼だし、部外者がついていくのは駄目なんじゃないか? それに聞いたところ危険そうだ。ジーフェの実力だとあっちの迷界には入れないよ」
「ぅぅっ」
美味しい物を食べて上機嫌だったテンションがいっきに下がる。どうかしてついていけないかと、あれこれとついて行く方法を考え始め静かになる。
「俺は銭湯に行くけど、ジーフェはどうする?」
「……行く」
悩み顔でありながらもジーフェは頷き、準備を整える。
悩んだままだったためか、ジーフェはいつものようには風呂を楽しむことはできなかった。
いい考えが浮かばず、時間が流れていく。道場での鍛練は気分転換にはなったが、いいアイデアが浮かぶきっかけにはならなかった。
そんなジーフェを心配した道場の者たちが話しかけようとしたものの、悩みながらもいつものごとく距離をとって話しかけるきっかけを与えなかった。
ここで誰かに相談という選択を取れれば、成長したと言えたのだろう。
そして三日目の朝が来る。
妙に大人しいジーフェと朝食を食べた早人は出発準備を整えて宿を出る。
早人を見送ったジーフェは急いで自室に戻っていった。そんなジーフェをパレアシアが仕方ないわねと微笑ましそうに見ていた。なにをやろうとしているのかパレアシアには想像ついていて止めなかった。早人の考えと違い、自立にはまだ早くもう少し安堵できる人のそばでの精神的療養が必要という考えだったのだ。
早人は仕事に向かう人の流れにそって歩き、町の北へ出る。話に聞いていたとおり馬車が数台並び、兵士が立っていた。
クラードの姿が見えないことを確認した早人は、兵士にコインを見せる。
「これが身分証明になると聞いたのだけれど」
「はい。名前を聞かせてもらえますか」
「早人・蔵守」
兵士は書類を確認し、その名前を見つけると頷いた。
「たしかに。コインをいただけますか」
「どうぞ。ついでにこれも」
料理の入っていたバスケットを渡す。
不思議そうな顔をしている兵士に理由を話すと納得した表情を見せた。
「食堂に返しておきます。出発までまだ時間がありますから、あちらにいる冒険者たちと交流していてはいかがでしょうか」
「そうします」
兵士に一礼し、五人の冒険者たちに近寄る。
「おはようございます」
「ん? おはよう。見かけない顔だが今回新たに参加することになったのか?」
四十才くらいの男が聞く。
「はい。早人と言います。森の迷界には初めて入るんで、役立てるかわからないですけどよろしくお願いします」
「おう。俺はジョーシュ。調査隊に関わる冒険者としては一番の古株だな」
ジョーシュのあとにラレント、パージア、ルググ、タータと自己紹介が続く。ラレントとルググが男で、パージアとタータが女だ。彼らの年齢は三十才前後だ。
「見た感じ強いな。まあ調査隊に選ばれたのなら実力的には問題ないんだろうが」
ジョーシュ以外の四人は早人の実力が見抜けないようで、少し不思議そうな顔をしたがジョーシュの言葉を信じることにしたらしく、真偽を確かめることはなかった。
「使っている武器や戦い方を教えてくれるか? 俺は手斧を両手に持って戦うんだ。必要となれば投げることもある」
「頑丈な木刀を使って戦っていますね」
「背中の剣を使わないのか?」
「これは修理が必要な状態でして。高価だって話を聞いたんで持ち歩いてます。ブラックボーンやスケルトンナイトもこの木刀で倒してます」
ブラックボーンなどを倒せると聞いて、実力を見抜けなかった四人は少し驚いた様子を見せる。
四人も倒せるには倒せるが、金属製の武器で仲間と協力してなのだ。
「ブラックボーンを殴って折れてないって相当に頑丈だな。森の迷界でも十分やれそうだ」
「そこの魔物の種類や強さはどんな感じなんですか?」
資料で確認はしたが、実際に見聞きした者からも話を聞けば新たな情報が入ってくるだろうと考えた。
「出てくる魔物は植物系だな。針草ネズミ、枝蛇、花カマキリ、コノハツバメ、森猿、トレントオーガ。一番強いのはトレントオーガだな。花カマキリも中々に強い。奇襲に注意が必要なのはコノハツバメだ。木々の間をすごい速さで飛び回って襲いかかってくる」
トレントオーガは枯れた大木に枝の腕と根の二本脚を持った魔物で、弱点は幹にある顔の眉間辺りに核がある。花カマキリは身長百四十センチ少々で花を背負っていて、弱点は特にない。コノハツバメは緑をメインにした迷彩の体色で、通常のツバメの三倍ほどの大きさだ。最高速度までいくと真っ直ぐにしか飛べなくなるため、そこを狙うと倒しやすい。頑丈な盾を構えて迎え撃つのもありだろう。
「金になるのはトレントオーガと花カマキリだ。トレントオーガは木材として優秀だし、花カマキリの背負う花は薬の高級素材として売れる」
「どんな薬なんです?」
「滋養強壮とか精力剤とかって聞いたことあんな」
「元気にする方向性ってことかー」
「お前さんは若いからまだまだそういったものは必要ないだろ」
ニヤニヤとしつつ下ネタを飛ばすジョーシュ。
指摘されて、こっちに来てから忙しくそういったことを考えてなかったことに気づく。
生きること、生活を成り立たせること、情報収拾、ついでにジーフェのこと、といった感じに優先することがありすぎた。
パレアシアといった美人を見ても、そういったことを考えなかった自分に愕然とする。
「……枯れてはないはず」
「どうしたよ」
「いやー最近忙しすぎて、そっちのことをまったく考えてなかったと」
「あんまりためこむなよ、体にわりーぞ」
「この依頼が終わったらてきとーに発散しとくよ」
出発までまだ時間があるので雑談しているうちに、軽く手合せして動きを確認しておこうということになり、早人とジョーシュが戦い始める。
そうやって少し時間が流れて、兵士たちが騒いでいるのに早人たちは気づく。
なにがあったのか聞くため馬車に近づいていく。
「こらーっ出てこい!」
「この馬車はほかの町に行くものじゃないんだぞ」
「今なら怒らないからでてきなさい!」
ジョーシュが兵士にどうしたのか尋ねる。
「女の子が荷を入れている馬車の中に隠れていたんですよ。出てこいって言ってるんですが、奥に引っ込んでしまって」
「ん?」
早人はなんとなく嫌な予感がして、兵に声をかける。
「年齢や髪の色とかはどんなでした?」
「なんでそんなことを? 十五才にはなってなかったな。髪はベージュっぽかったか。ポニーテールで長さは肩を越してたか」
「あー、多分俺の知り合いです。留守番するように言っておいたのに」
「君の? ちょっと声をかけてくれるか」
早人は馬車に近づいて、ジーフェの名前を呼ぶ。するとジーフェが荷物の影から顔を出す。
兵士たちに怒鳴られて涙目だった。




