廃墟の連続バトル3
ロクンは急いで倒したばかりのシャドーマンが落とした影石を拾って、動けない者たちの一人を担ぐ。
「逃げっぞ」
皆に声をかけて走り出す。
早人もジーフェの手をとって走り出す。
少し離れて振り返った早人は、王冠をかぶり、元は豪奢と思われるぼろいマントを身につけ、宝石がついた錫杖を持った不健康そうな老人を見る。
(あれがここの迷界の主か)
グレートガイスらしき老人は逃げていく早人たちに気づいたようで、じっとこちらを見ていた。
そして早人はぞくりと寒気を感じた。それはジーフェたちも同じようで一斉に足を止めて振り返る。
同時にグレートガイスが空中に浮きながら早人たちめがけてかなりの速度で移動する。
「逃げろ!」
早人はジーフェをロクンへと押しやって、自身はグレートガイスに向かう。
早人の持つ木刀とグレートガイスの錫杖がぶつかりあい、両者は止まる。
慌てた様子でロクンが早人に声をかける。
「お、おい! なにしてんだ!?」
「時間稼ぎだ! これの速度だとあんたら逃げ切れないだろ!」
グレートガイスと切り結びながら答える。
その攻撃の速度は常人だけではなく、ロクンたちにも捉えきれないものだ。
「時間稼ぎってお前一人でどうにかなるわけないだろ! いいから全員で逃げるぞ!」
「俺はいっきに距離を稼げる魔法をもってる。ある程度時間かせいだら、それを使って逃げられるんだ。俺を助けたいなら、ジーフェを連れて早くいってくれ! その方が助かる」
ロクンは顔を顰め、自身ではあの戦いに加われないと理解し、ジーフェの手を取る。
それをジーフェはやだやだと振りほどこうとする。
「一緒じゃなきゃやだ!」
「我儘言うな! お前さんを気にしながら戦えるわけないだろうっ。俺たち全員がこの場から離れた方が助けになるんだ。行くぞ」
「やだ! あんなのに敵うわけない! また一人になる! やっと安心できる人ができたのにっ」
今のジーフェに甘えたいといった下心はない。ただただ早人が死んで離れ離れになることを嫌がってる。
グレートガイスの正確な強さはジーフェにはわからない。でも発せられるプレッシャーから強すぎる存在ということはわかる。早人も強いが、敵うわけないと思ったのだ。
目に涙を浮かべその場に残ろうとするジーフェをロクンは動かそうとするが、火事場の馬鹿力でもでているのか動かすことができないでいる。
「なめんな!」
いまだ逃げないでいるジーフェの言葉が聞こえていた早人が戦いながら怒鳴る。
「この程度の奴にやられるか! 俺が受け継いだものはこの程度じゃない! ここで果てるほど弱い力じゃないんだ! 見てろ!」
強者の衣と力強く言い、発動させる。
そしてグレートガイスの攻撃をかいくぐり、胴に蹴りを叩きこんで近くの廃墟の壁に叩きつけた。
崩れた壁が起こした土煙に消えたグレートガイスから視線を外し、ジーフェを見る。
「ダメージを与えづらい以外に苦戦要素ないんだ。わかったらさっさと移動しろ。絶対死なないから」
「ほんと?」
早人がしっかりと頷いたことで安堵し、ロクンに手を引かれて先に逃げた者たちを追って走り出す。
「さてと約束したからには死ぬわけにはいかないよな」
土煙が収まり姿を見せたグレートガイスはさらにプレッシャーを増していた。灰色の靄のようなものをまとい、目に宿る光の強さが増している。
これは本気にさせたかなと内心溜息を吐く。
「まあ、約束を破るつもりはないし、そっちの本気も耐えきってやるさ。コッズの強さはお前程度に負けるものじゃない」
地を這い迫る灰色の波を魔力を込めた木刀で切り払う。さらに飛んできた灰色の球体を同じく切り払う。
「そんな攻撃じゃ俺は倒せないぞ」
「っっっ!」
グレートガイスの無音の叫びが周囲に叩きつけられ、脆い壁などが崩れ落ちる。
灰色の靄が錫杖に集まり、先程より増した速度で接近してくる。
再度切り結ぶ。
攻撃は重くなっているが受け止めきれないというわけもなく、力負けすることはない。ただし錫杖から灰色の靄が切り結ぶたびに体に触れる。触れた灰色の靄は体温を奪っていく。
「だらだら長いことチャンバラやってたら凍え死ぬな、こりゃ!」
回避に重点を置いて、攻撃していく。
グレートガイスの技量はそれほど高いものではない。聞いた話によると元々は王ということだ。戦士としての技量は生前から高いものではなかったのだろう。高いスペックでゴリ押ししてくるだけなため回避は難しくなく、攻撃を当てることもまた同じ。
だが当たった攻撃がほとんど意味をなしていない。聖水を使っても効果的と呼べるダメージになったか怪しい。
「コッズの力をもらった者としては倒せないことはちょっと情けないが、今は時間稼ぎ。まだまだ付き合ってもらう!」
初めて全力を出してぶつかっていく。
ここで横槍が入った。グレートガイスの速度に置いて行かれた取り巻きだ。スケルトンナイトたちが王を守れとばかりに突撃をしかけてくる。
全力の早人ならばスケルトンナイトも敵ではない。しかし相手をすることで生まれる隙をグレートガイスは突いてくる。
「ちょっとやばいかな」
いくつか灰色の球体が直撃し、体温が少しずつ奪われ動きが鈍くなっているのを自覚する。
「ここらで逃げさせてもらいたいけど」
周囲を囲むスケルトンナイトは問題ないが、強くこちらを見つめてくるグレートガイスから逃げ切れるか正直自信がない。
ジェットムーブで空へと吹っ飛ぶつもりだったが、本気状態の今ならば追いついてきそうな雰囲気だ。
どうするかとスケルトンナイトたちを蹴散らしつつ考える。
「向こうにダメージを与えてついでに吹っ飛んでもらってその隙に逃げる。そうしよう」
戦技の一つ上、奥義を使うことを決めた。今の自分では完全に再現は無理だろう。これまで使ったことがない技なのだ。発動できるという自信はあるものの、コッズの記憶のおかげで発動できるだけだろうという自覚もある。だが今一番の威力ものはそれだ。
魔力残量を考えてギリギリかなと推測を立てる。外したら相当な苦労が待っていることは確実で、集中しながらグレートガイスに近づける機会を待つ。
「使うためにもお前らは少し邪魔!」
グレートガイスを守る壁であるスケルトンナイトの足を砕いて一時的に行動不能にしていく。
弱点である黒ずんだ骨はみつけてあるが、さすがに一撃では倒せない。弱点が頑丈であるということとスケルトンナイトも防御や回避を行うためだ。一対一ならば余裕で倒せる相手も複数であることに加え、グレートガイスも一緒となると楽にはいかないのだ。
苦労はしつつもチャンスは訪れた。
スケルトンナイトの九体が地面に倒れ、三体が早人に向かい、一体が護衛に残る。
早人は木刀に魔力を注ぎながら三体の間を抜けて、グレートガイスの前に立つスケルトンナイトを踏み台とした。高く飛ぶのではなく、グレートガイスへとぶつかるように飛ぶ。
グレートガイスを睨み、両手で木刀を持ち肩口から振り下ろす。
「剛閃破衝っ」
木刀から攻性魔力を放出しながらの叩きつけが、グレートガイスが構えていた錫杖をへし折って、グレートガイスの胴体に当たる。
「オオオオォォっ!」
これまで出していなかった声を出しながらグレートガイスは遠くへ吹っ飛んでいく。
よしっと拳を握った早人は反対方向へと全速力で走り出す。そのついでに倒したスケルトンナイトの証明部位を一つひっつかみ、あとは後ろを見ずに廃墟を走り抜けた。
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