廃墟の連続バトル2
「うおっ!?」
狙われた男が悲鳴を上げて、早人は全速力で移動して巨大シャドーマンの腕に木刀を振る。
早人の振るった木刀は、巨大シャドーマンの腕を弾く。
シャドーマンに物理的な攻撃が効くことは既に戦って知っていた。これがシャドーマンと同種ならば弾けるはずで、早人の予想は当たった。
「お、お前?」
助けられた男がその動きに驚いている。今の動きだけで、自分以上の強さだと理解したのだ。
急な移動にうめいているジーフェにも目がいくが、救助かなにかなのだろうと判断し問うことはなかった。
「これってシャドーマンと同じって考えていいんです?」
「あ、ああ。後ろの奴らがシャドーマンにゴーストを誘導して強化しやがったんだ」
「なんでそんなことを」
再度振るわれた巨大シャドーマンの拳を早人は弾きつつ聞く。
「影石を集めてくれという依頼を受けたらしいが、シャドーマンは確実に影石を残すわけじゃない。なかなか集まらなかったらしく、期限が近づいていた。そこで強いシャドーマンからなら確実に影石を残すだろうって考えたんだとよ」
「ちなみに何体のゴーストがあれにつまってんの?」
「五十近くらしいぞ。通常のシャドーマンはゴースト五体の集まりと聞いたことがある」
「単純に考えて十倍近い強さってことか?」
「十倍はいかないだろうが、五倍くらいは考えた方がいいだろうな。そこまでいくと俺には倒せないが、そっちはどうだ?」
「叩いた感触だと簡単にはいかなさそうってのはわかる」
早人がこれまで戦った魔物の中では一番の強さだろう。
「できるならさっさと倒してしまいたいんだが」
周囲を気にする気配を見せながら男は言う。
「どうして?」
「この騒ぎを聞きつけて迷界の主が現れないともかぎらない。そうじゃなくとも魔物が集まってくる可能性がある」
「ああ、そりゃめんどくさいことになるね。かと言って、短時間で倒せるのかこれ」
試しに全力で攻撃してみようとジーフェを背後に放り投げ、迫る拳をかいくぐって、がらあきの胴に木刀を叩き付ける。
巨大シャドーマンは威力に負けて体をくの字に曲げたが、ダメージを負った様子なく、すぐに反撃してきた。
ゴーストの特性である物理的な干渉の軽減が効果を発揮しているようだった。
強人の衣を使ってみようかと考えたが、グレートガイスが現れたときのことを考えると余力は残しておきたく使わないことにした。
ジーフェは雑な扱いに文句を言おうとしたが、大きな魔物に目が奪われ言葉が発せられなかった。
「まともに相手したらかなり時間かかりそうだよ」
背後にジャンプして元の位置に戻り言う。
「らしいな」
男は周囲を気にしながら、どうにかできないか考える。
「そもそもまともに相手する必要あんの?」
男に早人は聞く。放置して逃げるというのもありではと言外に聞いた。
「こんなもの残して逃げたら、他の奴に迷惑だろ」
「あんた誤解されやすいだろ?」
この場で逃げても文句などでないだろう。しかし他人を思いやって自分にできることをやろうとしている男に、いい奴なのだろうという考えが確信にかわる。
「ああ!? 今そんなこと言ってる場合じゃない。どうやってあいつを倒すかだ」
男の仲間が聖水をかけたら攻撃が通じやすくならないかと提案してくる。
早人も男たちもシャドーマンには聖水を使ったことはない。使わずとも倒せたからだ。だから聖水が効果を出すのかわからない。
だが今のところ有効手段を思いついていないため、試しにやってみることにする。
「こっちは聖水を持ってるが、お前はどうだ?」
「こっちは残り二つ」
腰の試験管に触れて早人は答える。
男たちは仲間の分を合わせて三本だ。
「お前の持っている二本をこっちに。俺たちが聖水をかける。俺たちの攻撃だと弱体化させてもまともなダメージは与えられないだろうしな」
「あいよ。ジーフェはもっと下がってろ。巻き込まれるぞ」
「う、うん。その、怪我しないでね?」
「あれくらいなら当たることはないさ。ほらさっさと行った」
ジーフェに言いつつ試験管を抜いて男に渡す。
「まずは腕にかけてみる。そこを狙ってくれ」
男と男の仲間の一人が走り、互いに巨大シャドーマンの気を引きながら接近する。
片方が巨大シャドーマンに攻撃している間に、側面から片方が聖水の入った試験管を投げて腕に命中させる。
それを見た瞬間早人が動く。木刀に体から放出された魔力がまとわりつく。
「戦技・翔爪斬!」
ジャンプしてからの振り下ろしで聖水のかかった腕を斬り落とした。
「やれるっ」
男たちが喜びの声を上げる。
巨大シャドーマンは斬られた腕をもう片方の腕で押さえて、声なき雄叫びを上げる。
そして巨大シャドーマンの体が少し縮むかわりに、腕が生えた。さらに斬り落とされた腕が、人型になり通常のシャドーマンとして立ち上がる。
「あっちは俺たちでもやれるな! ジャクソンッビーラッお前たちはシャドーマンを頼むっ。俺はこのまま聖水をかける」
「無茶すんなよっロクン!」
通常シャドーマンを頼まれた二人は聖水をロクンに渡して、早人にどこに聖水をかけてほしいか聞く。
「腹にいける? 戦技使えば胴体真っ二つにできそう」
「よしっ」
「俺があいつの気を引くんで、隙を見て聖水かけてくださいな」
そう言うと早人は真正面から巨大シャドーマンへと走る。
腕を落とした早人を警戒しているのだろう。巨大シャドーマンは腕を振り回し、接近を阻む。
その攻撃をいなし、かいくぐって早人は攻撃を加えていく。木刀から伝わる感触から、先ほどよりも硬さが減ったような気がしていた。
さらに攻撃を加えて、ロクンに背を向ける形に誘導する。
ロクンは駆け寄り背中に試験管を一本、そのまま巨大シャドーマンの横に移動し、腹に試験管一本を投げつける。
「いいぞ!」
「りょーかいっと」
早人は少し下がって、木刀に魔力をまとわせる。
「戦技・迅一閃っ」
地面に落ちていた小石を踏み砕くほどの勢いで駆け抜けながら横薙ぎして、早人は巨大シャドーマンの胴を横に斬り裂いた。
倒れた巨大シャドーマンは二つにわかれて立ち上がる。
さらに縮んで弱体化した巨大シャドーマンは早人の敵ではなく、あっさりと一体が倒された。
影石を拾ってもう一体に視線を向けると、ロクンと通常シャドーマンを倒した仲間たちが相手取っており、優勢にことを運んでいたため周囲の警戒に意識を向ける。
「自己強化以外の戦技を初めて使ったけど、なかなかだったな」
コッズからすれば未熟の一言ですまされるのだろうと、今後の鍛練に戦技の習熟も付け加えることにする。
あの二つはコッズの使っていた技だ。元々は習った技で、自分に扱いやすいように細かな部分は変更している。早人も自身に合わせて変えていく必要があるだろう。まだまだ技そのものに慣れていないため、その時期は先になるだろうが。
「んんっ?」
警戒していた早人は廃城の方向から大きな気配を感じる。
先ほどの巨大シャドーマンを超えるものでおそらくグレートガイスだろうと考える。
それがかなりの速度で近づいている気がした。
「おそらく迷界の主が接近中!」
「まじか!?」
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