廃墟の連続バトル1
廃墟から帰還し、道場にジーフェを迎えに行って宿まで送ると、回収した史料を部屋から持ち出してファオーンの家に向かう。
ファオーンの家の戸をノックしても返事がなく、留守らしいと敷地内から道に出たところで帰ってきたファオーンに声をかけられた。
「来てたのか、すれ違いになるところだったな」
「こんにちは。頼まれていた物の回収終わりましたよ」
「おー! 玄関開けるから運んでくれ」
小走りで玄関に向かい鍵を開ける。
書斎ではない別の部屋に案内されてそこの隅に置く。持ってきた物は早人の目には重要な物とは思えず、この部屋には似たような粗大ゴミと思える品が多く置かれていた。
早速持ってきた品を調べたそうにしているファオーンに調査経過を尋ねる。
史料を気にしたそぶりを見せつつファオーンは早人へ視線を向けた。
「お前さんには悪い報告なんだろうが、進展はないな。条件にあった人物はいない。この調子だと見つかる可能性は低いな」
「そうですか。その調査のとき、アメリカ、オーストラリア、中国、ヨーロッパ、アフリカ、日本。こういった単語は出てきました?」
調べたことを思い出し、ファオーンは首を横に振る。
「なかったぞ」
「欲しい情報はないのかもしれませんね。一応調査続行は依頼しますけど、本腰入れて調べなくていいですよ」
「いいのか?」
「別に依頼したところで一応情報が手に入ってはいるんですよ。そっちもたしかなことはわかってないんですが、それを元に考えると本当に欲しい情報が手に入る可能性が低そうなんですよね」
自分と同じようにわけもわからず突然異世界に放り出された者たちばかりなのでは、とそんな考えがあるのだ。
同じくもし過去に地球からやってきた者が存在しても、どうしてこっちに来ることになったのかまでは知らない可能性があると思えている。
答えが見つからない、もしくは見つかるのにとても長い時間が必要という心構えを持っておかなければならない。そんなことも考え始めている。
「気を落とすなってのは無責任な言葉かもしれんな」
ファオーンの気遣いに、早人は弱く笑みを返す。
調べてくれたことの礼を言い、早人は家を出る。
「死んだ人もいる。それに対し俺は運よく生きることができている。そこからさらに帰郷を望むのは贅沢なんだろうか」
そんなことを呟いて気落ちした雰囲気で宿まで戻ってきた。
宿の入口に辺りにジーフェが立って周囲をきょろきょろと見ていた。戻ってきた早人に気づくと、嬉しそうに駆け寄ってくる。
「おかえりなさいっ」
犬みたいだなぁと改めて思い、頭を撫でそうになる。
気落ちした雰囲気がジーフェによって少し癒された。
「ただいま。洗濯は終わったのか」
「うん。今干してます。宿の中にいるとパレアシアが来るから、外で帰ってくるのを待ってた」
「そうかい」
部屋に戻る早人にジーフェはついていき、一緒に部屋に入る。
早人はなにかする気になれず、ベッドに寝転ぶ。ジーフェは椅子に座ってボーッとしている。そのうちうたた寝を始めた。
しばらく静かな時間が流れ、日が傾き始める。
(いつまでも落ち込んでても仕方ない。自由に過ごせってコッズにも言われてたし、小さいことでもいいから楽しめるものを探すかな)
起き上った早人は夕食前に風呂に入ろうとタオルなどを持つ。
ジーフェを見ると緩んだ表情でよだれをたらしていた。それを見て早人は気の抜けた笑みを浮かべて、ジーフェの頭をポンと軽く叩いて起こす。
「銭湯に行くぞ」
「うぇあ? あ、はい」
ジーフェにもタオルなどを準備させて、一緒に銭湯に向かう。
翌日、あまりのりきではなさそうなジーフェと一緒に早人は幽霊王の領地に向かう。
史料集めは終わったので、寄り道する必要はなく。戦闘にのみ集中できる。
ひとまずジーフェには迷界の外で待っててもらい、さくっとブラックボーンなどを倒し稼いでおく。急いで倒して回ったが技術を磨くことも意識したため倒した数は多くはなかった。
一時間を少し過ぎたくらいでジーフェの待つ木陰に戻った早人は、今度は一緒に迷界に入る。
「それじゃジーフェの戦闘をやってくぞー」
「また一人?」
「今日は近くにはいるから、そこまで怖くないだろう?」
それならば大丈夫だと安堵した表情で頷き、早人の隣を歩く。
見つけたスケルトンにジーフェを向かわせ、その戦闘をしっかりと見ていく。
スケルトンを怖がる様子なく、むしろのびのびと戦えている。自分の実力で倒せているのでスケルトンそのものには萎縮する必要はないのだ。
(これだとスケルトンを俺がいないところで倒せても問題は解決しない?)
問題なのは一人きりで魔物と相対すること。しっかり問題点が見えてきた気がした。
(トラウマ治療なんて素人がやれることがないんだし、どうしようもないのかねぇ)
しばらく同行して戦闘に慣れさせて、自身で殻を破ることに期待してみようなどと考える。
その早人の視線の先では、うまくタイミングがかちあったらしくスケルトンにクロスカウンターを受けて痛そうに崩れ落ちたジーフェがいた。
そんなふうに昼前まで過ごし、昼食のため一度迷界を出るため移動を始める。
早人が一緒なためスケルトン探しにジーフェだけでは行けないようなところまで入り込んでいた。
「ん?」
歩いている早人の耳に建物が崩れる音が聞こえてきた。
これまで戦いの音は聞こえたことはあるが、なにかが大きく崩れるような音は初めてだ。
「どうかした?」
「ちょっとな。確かめてみるからここでじっとしてるように」
早人は音のした方向を確かめるため、近くにある廃屋の屋根に上る。
音がしたのは現在地から南東、レッドボーンなどが出てくる中層ともいうべきエリアだ。
早人の視線の先に、家屋から頭一つ飛び出ている黒い人型の物体がいた。なにかを追っているようで、歩くのに邪魔らしい廃墟を壊しながら移動している。
「事前に聞いていた話だとあんな魔物はいなかったはずだけど」
なんだあれと思いつつ地面に下りて、ジーフェを担ぐとそちらへ走る。
いきなり担がれたジーフェは振動に苦しそうにしていた。
黒い物体に近づくと、破壊音と一緒に誰かの話す声が聞こえてきた。
「誰かいるのか!」
大きく声をかけると何人かの返事が聞こえてきた。
手を貸してくれと聞こえた気がして、早人はそちらに飛び込む。
そこには見知った顔がいた。初めてこの迷界にきたとき、馬車で一緒になった男たちだ。その男たちの背後に怪我をして歩くことも辛そうな男たちが互いを支え合っている。
彼らの前に、シャドーマンを大きくしたような魔物がいた。身長は八メートルを超えているだろう。
怪我人を守っている形になっている男たちも早人のことは覚えていたようで、驚いたように早人を見る。
それが隙になり、巨大シャドーマンが拳を振り下ろす。
いよいよ12月25日(水)は書籍版『異世界の剣豪から力と技を継承してみた』の発売日です!




