幽霊王の領地4
ゾンビとスケルトンは何体でも問題なしと考え、その上位種を標的にする。
物見櫓から近くの建物の屋根にジャンプして、ほかの屋根に飛び移ってプログレスゾンビやレッドボーンを探す。
少しして一体でいるプログレスゾンビを見つけた早人は上空から首めがけて木刀を振る。
首が飛んでいったプログレスゾンビは動きを止めず、ゾンビよりも機敏な動きで早人へと掴みかかってくる。
それを避けざまに腹を叩く。そこが弱点だったか、少し動きを止めて、再び早人を狙う。
近づいてきたブログレスゾンビに早人は、へその辺りに突きを放ちつ。それでプログレスゾンビは動かなくなった。
「さすがにこれの核を放置はもったいないな。でもやだなー」
顔を顰めつつ、魔物の皮膜で作られた手袋をつけてプログレスゾンビの腹に手を突っ込み、背骨を抜き取る。
核らしき骨を手袋ごと水洗いしてスケルトンの核を入れた小袋とは別の小袋に入れる。
腹に手を突っ込んだ感触をさっさと忘れようと、レッドボーン探しに集中する。
レッドボーンも一撃で倒すことができ、あとは見かけた魔物を倒しつつ廃城近くまで行って、事前調査を終わらせる。
廃城近くまでは問題なく戦えるということがわかる。ためしに一体だけでいたブラックボーンにも挑んでみたが苦戦することなく倒すことができた。
昼を少し過ぎた辺りで迷界を出る。
先に休憩していた者や休憩を終えて再び迷界に入る者、今日の狩りを終えて帰る者、そういった者たちを見ながら買っておいたパンを食べる。
昼を終えた早人はもう少し稼ぐことにして、ついでにジーフェの行動範囲も調べた。それらを時間にして午後三時前で終わらせ、帰るため馬車に乗る。
本日の稼ぎは五万テルスだ。一番高くなったのはブラックボーンの核で、シャドーマンから手に入れた影石という真っ黒な石のような物体もそこそこの値段になった。
町に戻ると、ジーフェを迎えに行って武具店に寄る。格闘用武器を購入するのだ。買ったものは青銅で補強された頑丈な手袋と頑丈な靴とレッグガードだ。スケルトン相手ならばこれで十分ということだった。
翌日、早人はジーフェを連れて迷界に向かう。
昨日探しておいた安全と思える場所へジーフェを連れていくとスケルトンを探す。とりあえず一度戦わせて駄目そうならしばらくは道場通いのみにするつもりなのだ。
そして二体いるスケルトンを見つけ、一体の核を強引に抜きる。抜き取ったものをジーフェに見せた。
「これと同じものがもう一体にもある。そこが弱点だ。わかったな? じゃあ戦え」
「危なくなったら助けてくれる?」
これまで戦った魔物の中で一番の強さということで不安が顔に現れている。
「殺されそうになったらな」
すぐに助けると答えたら甘えがでるだろうとこう答えた。さすがに死ねとまでは思っていないため危機には対処する。
「死ぬ前じゃなくて、もっと前に助けてほしいけど」
「慎重に戦えばそこまでいかないと思うぞ? 実際に戦ってみて動きは単調だったし。一度で倒すんじゃなくて、一度小突いて退くってことを繰り返せば時間はかかるけど倒せる。ここにくるまでに戦った鶏の魔物の方が機敏だ。あれの攻撃は不格好でも避けられたんだし、今回も慎重にいけばなんとかなる」
ほら行った行ったと背中を押されスケルトンへと歩を進めるジーフェ。
近づいたことでスケルトンも反応しジーフェへと掴みかかってくる。
それに反応して避けて、顔面へと拳を振りぬく。
「こんの!」
がつんと拳が当たりスケルトンはその衝撃によろける。
たいしたダメージは入っていないが、攻撃が無事に当たりよろけさせる程度の攻撃力はあると理解したジーフェはアドバイスに従い慎重に攻撃していく。次第に見つけた弱点への攻撃が増えて十度ほど弱点を殴りつけるとスケルトンを倒すことに成功した。
嬉しそうに両手をあげてから砕いた弱点を拾うジーフェを見て、大丈夫そうだと判断した早人はもっとも近い回収現場に向かうことにする。
「俺は依頼をこなしてくるけど、調子にのって複数と戦わないように。まだ一対一が精一杯だろうしな」
「もう行くの? もうちょっと様子見てもいいんじゃないげすかっ旦那!」
迷界に一人は怖く、不安や焦りから口調がおかしくなる。
「誰が旦那か。迷界の範囲外は近いから疲れたり危ないと思ったら向こうに走れば大丈夫」
「ううっ」
「俺にも用事があるから常にそばにはいられん。それはすでに言ったろ」
それはジーフェもわかっているが、やはり怖いのだ。
そんなジーフェの様子を、いつもの甘えじゃないと理解した早人は妥協案を出す。
「三ヶ所くらい回ってくる予定だったけど、一度回収したら戻ってくる。それくらいの時間なら我慢はできるだろう?」
渋々といった感じでジーフェは頷く。
早人は複数に戦いを挑まないようにといった注意をもう一度してその場を離れる。
残ったジーフェは不安そうな顔で周囲を見渡し、迷界の境界線近くをうろついてスケルトンを探す。早人が戻ってくるまでにスケルトンは何体か見つけたのだが、恐怖から近づけずに隠れながらすごすことになる。
スケルトンに勝てることはわかっていたのだが、あれは早人がすぐそばにいたから戦えたのだ。これまでの魔物との戦闘も同じで、一人で戦うのは沼の迷界で追い回された以来だ。ここで怖がらず戦えるようになるのは、もう少し実力をつけてスケルトンに苦戦しないようになったときだろう。
戻ってきた早人はこういったジーフェの様子を見て、なんとなく心情を把握する。コルトラ道場の主に相談してみるかと思いつつ、ジーフェを迷界の外で待たせてもう一ヶ所の指定場所を探る。
今日の探索を終えた早人は町に戻ると、情報を得るためジーフェと一緒に旅鳥の枝に向かう。
宿に入ってすぐに声をかけてきた従業員に情報を受け取りにきたと言って食堂に入る。
カウンターにいる男に近づくと、向こうも早人を覚えていたようで片手を上げる。
「ども」
「おう、一応情報は手に入ったぞ」
早人は一応ということに首を傾げた。
「その行商人もまた聞きなんだ。確実じゃないから、追加の金なしで情報収集は続行できるが、どうする?」
「お願いします。情報の方はどういったものなんでしょう」
「情報をくれた行商人の仲間が禁域の近くを移動していたとき、魔物に襲われた見慣れない服装の男を見つけたんだと。どうにか追い払ったものの、今にも死にそうだったらしい。治療しようにも傷が深すぎて手が出せなかった。だからせめて遺言くらいは聞こうと思ったが、そいつが言った国も大陸も聞いたことがなく死を伝えようがなかったということだ。今から三ヶ月ほど前のことらしい」
「その国名は?」
「たしかオーストラリア? そんなところだったとか」
早人は自分と同じ時期に来た人がいるということで、まだほかに誰かいるかもしれないと考える。
「そう、ですか。どうしてそこにいたのか死んだ男が言ってたりしたんでしょうか?」
「そういった話は聞かなかったな。家族に会いたいと遺言を残したそうだ」
地球から来た男の冥福を祈ったあと、男に情報の礼を言う。
「情報はその一つだけ?」
「ああ、今後の集まりがいいかはわからんよ」
「期待しすぎないようにしときます」
「ああ」
これで用事は終わりで帰ろうとした早人は夕食用のメニューが見えて足を止める。
黒板にはオムライスという文字が書かれていた。
「ここら辺には米があるんですね」
「おう。湖の禁域で亜人たちが作ってんだ。嬉しそうに見えるが、米が好きなのか?」
「故郷だと主食だった。今日食べていくかな。もう食べられるんです?」
「少し早いが大丈夫だ。美味く作らねえとな。すぐに持ってきてやるから待ってろ」
探し人が死んでいたこともあって、男は早人を元気づけるため気合いを入れる。
その気遣いに笑みを向けて礼を言い、隣にジーフェを座らせてカウンター席で待つ。
オムライスを食べて旅人の枝を出た早人たちは、聖水の補充をして泊まっている宿に戻った。
翌日、コルトラ道場にジーフェと一緒に向かう。ジーフェには一人で訓練させ、道場主とジーフェのことを話してみる。
「ほう、そんなことが」
「一人では魔物と戦えなくなっているんでしょうかね?」
「最初に手痛い失敗をすると戦いづらくなるとは聞いたことあるな。そういった場合はしっかりと実力をつけて再度戦い、完勝して自信をつけるとましになるのだとか」
「それは俺も考えましたね。それで治らない場合は冒険者やめた方がいいですか」
「さすがにやめるまではどうかと思うぞ。仲間がいれば大丈夫なら常に誰かをそばに置いておけばいい。この場合君だな」
「ずっとは一緒にいられないんですけどねぇ」
「まあ、もともとの強さが違いすぎるから。一緒に戦っても互いのためにはならんわな。となると同じ実力の仲間を作るってことになるが」
あの性格では難しいだろうと道場主は考える。
自分たちにもいっこうになれる気配がない。歩み寄ろうとしても向こうが逃げる。これでは仲間募集に動くことはないと簡単に予想がつく。
実力違いのほかに、早人に頼りすぎていて早人もそれを受け入れているという部分も二人の問題と考えるが、後者は心の問題と推測していてうかつに手が出せない分野だった。
「とりあえず実力をつけて完勝を目指してみるしかないだろう。それで現状が解決する可能性もある」
「そうしてみますか。今日は、ここで鍛錬させてればいいか。俺は依頼をこなすため廃墟に行ってきますね。あいつの指導よろしくお願いします」
「うむ、任された」
道場を離れて馬車に乗り、史料回収を始める。
回収を優先し、魔物との戦いは減らして、迷界内を駆けまわる。ジーフェがいなければお金稼ぎをする必要はなく、魔物は無視していただろう。
見つけた皿や衣服といった当時の暮らしを示す史料で壊れそうなものは布で包み、できるだけ現状を保つように指示されていた。
幽霊王の領地は王都並の広さを持つため一日で終わるはずもなく、二日三日と時間が流れて四日目で終わりが見えた。




