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幽霊王の領地3


「こんにちは、ハヤトさん」

「こんにちは、アンナリア様」

「幽霊王の領地には行かれるのですか?」

「そうしようと思います。斡旋所で調べてきて、どうにかなりそうだとわかったので」

「そうですか。気をつけてください。王の視察という事故があると聞いています」

「きちんと詳細を聞いているので十分に注意します」


 少しは安心したのかアンナリアは微笑みを浮かべて、護衛と一緒に帰っていた。

 玄関から声をかけると、書斎の扉が開き、ファオーンから手招きされる。


「いらっしゃい。早速だが結論は?」

「行きますんで、どこにあるとかどんなものを取ってくればいいのかリストをください」

「行ってくれるか! ささっと作るから待っててくれ」


 ファオーンは紙と幽霊王の領地の地図を広げる。


「迷界なんだけど、本格的な捜査は明後日からになるから。明日は魔物との戦いや迷界に慣れるために使う」

「いいぞー。俺もすぐに調査結果がでるわけじゃないからな。最低でも五日はもらいたい」


 さらさらと紙に必要な情報を書き込みながら答える。

 ふと思いついたように続ける。


「聖水を買える金はあるか? 五本までなら必要経費としてだすぞ?」

「すでに三本買ってありますし、明日はそれで問題なさそうだけど、明後日以降で必要になれば経費として要求しますよ」

「わかった。ああ、袋屋と馬車の金は先に渡しておいた方がいいだろう」

「わかりました。リストができるまで本を眺めてていいです?」

「いいぞ」


 本棚の本をぱらぱらとめくり、つっかかりながら読み解いていく。

 そうしているうちにファオーンはリストを書き上げた。

 呼ばれ渡されたリストを早人は眺める。読み間違いがないように、一つずつ確かめていく。地図も見せてもらって位置の確認もする。

 廃城近くの指定個所は四ヶ所。廃墟内は七ヶ所だ。もう二ヶ所、廃墟内の指定個所があるが、そこは地下室で崩落している可能性もあり、無理そうなら行かなくていいということだった。


「じゃあ頼んだ」

「そちらも調査お願いします」


 リストと必要資金をきちんとしまった早人はファオーンの家から出て、宿に帰る。

 玄関ホールを掃除していたパレアシアが戻ってきた早人に声をかけてくる。


「おかえりなさい」

「ただいまですよっと。ジーフェは帰ってきたますかね」

「ええ、抱き着こうとしたら走って逃げられたわ。クラレスも一緒に抱き着こうとしたから連携の甘さを突かれた感じ」

「とうとうクラレスもかまい始めましたか」

「私とジーフェが楽しそうに見えたって」

「楽しんでるのはあんただけでしょうに。まあ、人に慣れるいい訓練になるだろうから止めないけど」


 逃げたジーフェは閉じこもっていた。部屋からでているとパレアシアになんだかんだかまわれるということで、それを避けるため部屋に逃げ込んでいたということだった。


 翌日、戦闘準備を整えた早人は宿を出る。試験管は専用ポーチに収納されてベルトにつけられている。コッズの剣は部屋に置いてきた。ベッドそばにたてかけている。


 ジーフェは今日も道場行きだ。どういった場所か早人も確認していないため連れて行く気はなかった。今日の確認でジーフェ一人でも大丈夫そうなところを探すつもりだ。こういう気遣いがジーフェを早人から離れたくないと思わせることなのだろう。


 準備完了し、幽霊王の領地行きの馬車に乗り込む。今日のところは袋屋に行く必要はない。幽霊王の領地で得られるものはかさばらないのだ。

 馬車は十人乗りで、すでに七人が乗っていた。詰めて乗るように御者に言われていたので、先客の隣に座る。


「お前一人なのか?」


 暇潰しなのか隣に座っている二十五才ほどの目つきの悪い男が早人に話しかける。


「そうだよ」

「なんだよその武具。そんなんで戦えるほと甘い場所じゃねえぞ。仲間がいるならまだわかるが、一人じゃ無謀もいいとこだ」


 早人の武具は一見すると駆け出しの冒険者だ。幽霊王の領地に向かう出で立ちではない。

 しかも一人で向かおうとしているのから、男が疑問を抱くもの無理はなかった。


「大丈夫だと思うけね」

「いや木刀はさすがにないだろうよ」


 ほかの冒険者たちも同意なのだろう、いっせいに頷いた。何人かはバカにするような笑みを浮かべて早人を見ている。


「悪いことは言わねえから馬車から降りて素人でもできる安全な一般依頼受けて金貯めて、もっといい武器買え」

「これで十分」

「これから向かうところを甘くみてんじゃねえよ。お前みたいに甘い考えの奴が何人も死んでいってんだ。いいかこれは親切心で言ってるんだ。わかったら降りろ」

「依頼を受けてるから行かないと行けないし、いきなり迷界を歩き回ろうとも思ってない。今日は様子見なんだよ。聖水だって持ってるし、下調べはしてんだから周りからごちゃごちゃ言わないでほしい」


 ややうんざりとした表情で早人は言う。


「そう言うならとやかく言わねえが、いざとなって助けを求めても都合よく助けてもらえると思うなよ」


 そう言って男は視線を早人から外す。

 早人は今後も似たようなことがあると面倒なので、見せかけの剣でも買った方がいいのか考え始めた。

 馬車の席が埋まり、動き出す。

 一時間もせずに到着し、馬車は迷界の百五十メートルほど手前に緩やかに盛り上がった場所で止まる。

 馬車を降りた早人は遠目にもぼろぼろな廃墟を見る。

 そんな早人に馬車の中で話しかけてきた男が近づいてくる。


「お前はこれからどう動くつもりだ?」

「どうって、とりあえずは一体でいるゾンビやスケルトンを探すよ」

「そうか、それならいい。気をつけろよ」


 男は仲間の元の戻り、迷界へと歩き出す。


「駆けだしがうろついて邪魔するなってことかと思ってたけど、心配してただけ? だとしたら見た目で損する人だな」


 駆け出し装備な自分が言えたことではないが、あのチンピラといった風情の男ももう少し見た目を気にしたらと思う。

 確かめたわけではないため勘違いの可能性もあると思いつつ、早人も冒険者たちに混ざって迷界へと向かう。


 迷界に一歩足を踏み入れると、どこかひんやりとした空気が漂い、かすかな異臭もある。

 早人はそのまま進まず、外壁跡に沿って歩き、ゾンビやスケルトンを探していく。

 ファオーンが指定した場所は外壁周辺にはない。そこらへんは回収が容易なので、頼むほどでもないのだ。


 十五分ほど歩いて、うろうろとしているスケルトンを見つける。

 早人は木刀を右手に持ったまま無造作に近づき、殴りかかってきたスケルトンの拳を右に一歩避けて、スケルトンの首めがけて木刀を振る。

 白骨の中に一つだけあった黒ずんだ骨が砕ける。


 するとスケルトンは支えるものをなくしたように地面に倒れて骨をばらまいた。


「スケルトン問題なしと」


 早人は砕いた部分を拾い集めて空の小袋に入れる。

 その部分はスケルトンの弱点にして、魔法を使う際の触媒になるのだ。呪いをかけたり防いだりといったことに使われる。

 ほかにスケルトンを倒した証明にもなる。


「次からはスケルトンが複数いても大丈夫だな」

 

 次はゾンビを探して歩き出す。

 ゾンビにも核があり、頭を砕いたとしても動き続ける。核は眉間か心臓か腹のいずれかにある。スケルトンよりも弱点がわかりづらいが、スケルトンは核を潰さなければ骨を砕いても再生するのに対し、ゾンビは再生はしない。


 二体いたゾンビの動きを観察し、二体同時を相手取っても問題なしと考えて戦う。

 最初に眉間辺りを砕き、広がる異臭に早人は顔を顰めた。吐き気も込みあがる。


「ぐろい」


 次からは突きで倒すことにして、ゾンビを倒す。

 ゾンビの核は腐肉を抉ってそのまま提出してもいいが、簡単にでも洗った方がもらえるお金は増える。

 誰だって腐った肉のついたものより、綺麗なものを渡された方が嬉しいということだ。


 早人はそれらに触れる気すらなかったので、放置して外壁を登る。そのまま下りずに頑丈そうな家に向かってジャンプする。

 踏んだ屋根はギシギシと頼りない音を立てていたが、なんとか崩れずに足場となってくれた。

 高い所から見れば迷界の様子がわかるかと思ったが、高さが足りなかった。


 もっと高い場所を求めて物見櫓の屋根に移動する。

 迷界全体までは見えなかったが、かなりの範囲を見渡すことができた。


 まず最初に目に入ったのは幽霊王がいるであろう廃城だ。あちこち崩れて、どこからでも侵入できるだろう。今でも宝物庫には宝が眠っているのだろうか。

 次に目に入ったのは町で戦っている冒険者たちだ。特にゴーストと戦っている者たちの様子を見る。

 戦いの様子を参考にして、最後にファオーンが見せてくれた地図を簡略化させたものを取り出して、現在位置と照らし合わせる。


「確認終わりっと。あとは戦ってみようかね」


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[一言] 「ただいまですよっと。ジーフェは帰ってきたますかね」 「帰ってきたますかね」 → 「帰ってきてますかね」 でしょうか?
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