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幽霊王の領地2


 幽霊王の領地の中でも、廃城は強敵ぞろいとアンナリアは知っていた。だからそこまでの無茶はさせては駄目だろうと釘を刺す。

 ファオーンもそこに行けと言う気はなく、手を横に振って否定する。


「さすがにそんなことは言わん。城の近くに指定個所があるのも事実だが」

「難しいところですね。ハヤトさん、どうします?」


 少し考えていた早人が口を開く。


「仮に行ったとして、書物庫でも情報がでなかったら働き損なのですが」

「そのときは貸し一つとしておけばいい。あちこちに行ってるから、それなりに顔が利く。そのツテが役立つことがあるかもしれん」

「……」


 返答できず早人は黙る。

 幽霊王の領地について詳しい情報を知らないのだ。廃城のそばが危険らしいが、どれくらい危ないのかわからない。もしかしたら早人ならば問題ないかもしれないし、逆の可能性もある。

 お金を稼ぎに行くつもりではあったが、廃城と呼ばれる危険地帯にまでは行くかどうかはわからない。ここですぐには答えられないと判断し、保留を選ぶ。


「返事は幽霊王の領地について調べたあとでもいいですか? どんなところなのか触りしか知らないので」

「おう、いいぜ。返事はいつくらいになる?」

「調べるのにそんな時間はかからないと思うから、明日の夕方にここに来て返事ということにしたいですね」

「わかった。どこかに出かける用事もないし、待ってるぞ」

「では今日のところはこれで失礼します。お邪魔しました」


 アンナリアとファオーンに一礼し、家を出る。

 そろそろ昼なのでジーフェを迎えに行ってどこかで食事してから斡旋所に向かうことに決めた。

 道場に行くとジーフェは一人離れた場所で真面目に体を動かしていた。

 早人が近寄るとパッと笑みを浮かべる。

 道場の訓練生の中にはジーフェとお近づきになりたい者もいたが、話しかけようにも警戒して離れていかれる。そんなジーフェが唯一笑みを向ける早人を訓練生たちが羨ましそうに見ていた。


「あの店のクリームチーズパスタは当たりだったな。今度ほかのソースのやつも頼んでみよう」


 ジーフェと一緒に昼食をとり、おわかりもして満足した早人は斡旋所に入る。

 まずはカウンターで話を聞いてみようと足を向ける。旅鳥の枝について情報をくれた受付嬢がいたので、そこに向かう。


「こんにちは。あ、この前の冒険者さんですね。旅鳥の枝には行きました?」

「行ってきました。それにしても俺のこと覚えてたんですか? たくさんいる冒険者の中の一人なのに」

「雰囲気が独特というんですかね、印象に残る人ですから」

「そんなに独特でしょうか。本人としては普通にしているんですけど」


 早人は不思議そうに首を傾げる。

 周囲を威嚇するようなことはしていないし、常に気をはっているつもりもない。目立つようなことはしていないつもりだった。


「職業柄いろいろと人を見てますから、人との違いっていうんですかね? そういったものを見抜く力が磨かれてますよ」

「なるほどー」

「それで今日はどのような用件でしょうか」

「幽霊王の領地に行くかもしれないんで、魔物の強さとか注意点とかどれくらいの実力の冒険者ならどこで戦えるのかを知りたいですね」

「魔物種類と強さは資料庫で情報を得られますから、後半二つをお答えします。それで大丈夫ですか?」


 早人が頷くと、受付嬢は話しだす。


「注意点としては聖水を複数持っていくこと、幽霊王の視察に注意すること。この二つです」


 受付嬢は引き出しを漁って、空の試験管を取り出す。

 早人が理科の実験で使ったことのあるものとほぼ同じサイズだ。


「このサイズの瓶で三回分です。一体の幽霊系の魔物に襲われても、逃げれば大抵はすぐに追いかけるのを諦めます。ですが周囲を囲まれることもあるため、戦いを避けられないこともあるそうなのです。そんなとき一本だけでは足りないこともあるそうなので、三本ほど用意しておけば大丈夫だと聞いています」


「どこで買えるので?」


「この近くだと、ここを出て左に行けばハマナ道具店というところがあります。次に幽霊王の視察についてです。迷界の主であるグレートガイスは主に廃墟の玉座にいるんですが、たまに町中を移動することもあるんです。王の護衛なのか、強いアンデッドも同行するため自分の実力にあった場所で戦っていても、突然王の移動に遭遇して全滅する冒険者が珍しくありません。この移動には予兆があるため、それを見逃さなければ遭遇を避けることができます」


 町のアンデッドたちは王に敬意を払うように、姿を隠すか道の端へと移動するのだ。それは戦闘中も同じなため、アンデッドがよそ見をしたら王が近くにいる可能性が高い。


「王と戦えるのは一流どころくらいだと言われているので予兆を感じ取ったら逃げてください」

「その一流どころは討伐にこないの?」

「この大陸には一流と呼ばれる人は二人います。どちらも滅多に自国から出ない人なのです。他の大陸の一流どころはその大陸の討伐などを優先しているため、こっちには来ません」

「そっか。じゃあ町中や廃城の周囲だとどれくらいの実力があれば戦えるのかをお願い」

「まず廃墟に足を踏み入れるのは、戦闘系技術値が80以上あった方がいいでしょうね。廃城の周囲は贅沢を言うなら技術値200は欲しいですね」


 早人の今の大剣技術値は232。要求数値を十分超えているので問題ない。

 油断しなければ廃城の周囲でも十分戦えるということだろう。

 欲しい情報をもらえた早人は受付嬢に礼を言い、資料庫のどこらへんに魔物の資料があるかを聞いて移動する。


 見つけた資料は上下巻にわけられていた。

 幽霊王の領地は、廃墟の浅い部分、廃墟の奥、廃城の周囲、廃城の中と四つに区分けされていて、上巻に前二つ、下巻に後ろ二つが載っている。

 それらをざっと眺めて、内容を確かめるとジーフェに上巻を読ませる。こちらには廃墟の浅い部分と奥について記述があり、ジーフェの活動場所となるのはそこだ。十分に読ませた方がいいだろうと考え渡したのだ。

 ジーフェは渡された本を困ったように見て口を開く。


「あまり文字を読むのは得意じゃない」

「とりあえず目を通して。読書になれること。完璧に理解しろとはいわないからさっさと開く」


 気乗りしないようにジーフェは本を開いて読み始める。

 本人の言うように得意ではないというのは事実なようでページを捲る速度は遅く、読めない文字を見て首を傾げることもある。

 だが放り出すことはなく読み進めていく。

 その真面目な様子を本を読みながら見ていた早人は集中しても大丈夫そうだと手元の本に視線を落とす。

 

 出てくる魔物は主にゾンビやスケルトンやゴーストだ。

 動く死体であるゾンビ。その上位であるプログレスゾンビ。最上位のロットゾンビ。ロットゾンビはボロボロな見た目に反して堅く、動きも速い。


 同じく動く骨のスケルトン。上位種のレッドボーン。最上位のブラックボーン。レッドボーンは武器を使い、ブラックボーンは武器と盾を使いこなす。

 物理的な攻撃のききにくいゴースト。上位種のガイスト。迷界の主であるグレートガイス。ここのグレートガイスは王の使っていた武具を使っているため、同種よりも強さは上だ。


 ほかにゾンビの変異種であるグール。動物型のスケルトン。ゴーストの変異種であるエビルスピリット。ゴーストの圧縮体シャドーマン。武具をまとったスケルトンナイト。体力を吸い取ってくる幽霊サックがいる。

 注意しなければならない魔物は、三種の最上位種は当然として、毒持ちのグール、魔法を使ってくるエビルスピリット、王の護衛も務めるスケルトンナイト、集団でたかられるとあっという間に疲れ果てることになるサックだろう。


 早人もまたこちらの文字の解読にはまだ不慣れで、一日では全ての資料を見ることができないため、翌日の午前午後も資料室で過ごす。ジーフェは必要な情報を得ていたため道場に向かわせた。

 そして頃合いかと斡旋所を出る。


 約束の時間には少し早かったため、寄り道して時間を調整し、夕日が町を染め始めるとファオーンの家に向かう。

 ちょうど講義を終えたのか、アンナリアが家から出てきたところだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] >> 疲れ果てることになるサックだろう。 サック?よく分からない。 [一言] 自分が無知である事を理解していて人に聞き、自分で調べる。 比較検討して決断する。いい冒険者ですね!
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