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幽霊王の領地1


 翌日、朝の王都の様子を見るためもう一度散策し、迷界に向かう冒険者を見たり、朝市を覗いたりして少し時間を潰し、旅鳥の枝へと向かう。相変わらずジーフェは早人にくっついている。

 その宿は王都の西入口を出てすぐ近くにあり、今は朝の忙しさを乗り越えて落ち着いた様子だ。

 宿に入った早人たちは、近づいてきた従業員に話しかける。


「ここに来たら情報が買えるんじゃないかと斡旋所で聞いたんですが」

「ああ、情報をお求めのお客さんですね。あちらの食堂に行って、カウンターに立っている男にそのことを言ってください」

「ありがとう」


 二十人が入ったらいっぱいになる食堂に入る。

 遅めの朝食を食べている者が二人いて、カウンターには誰もいない。


「あれ?」


 早人は首を傾げてカウンターの前まで行く。呼び出しベルらしきものが、そこに置かれていたので鳴らしてみる。

 すると皿を奥の調理場から五十才手前の男が出てきた。


「呼んだかな?」

「はい。情報を買いたいんです」

「了解了解」


 男はまくっていた袖を下ろして、カウンターに移動する。


「どういった情報がほしいんだい」

「その前にこの子にジュースかなにか、頼めますかね」


 頷いた男は作り置きしていた桃のジュースをコップに入れる。

 早人はそれをジーフェに渡して、椅子に座らせる。


「人を探してまして、本人は出身地を言ってるんだけど誰もそこを知らない。あとは独自のアイデアをいくつも持っているような人。この条件に該当する人を探しています」

「ふむ……今のところそういった情報はないはずだ。三日ほどくれれば、ほかの奴らに聞いてみるが、どうだ?」

「とりあえず情報料はいくらになりそうですかね」

「求める情報の精度によるかな。条件に該当する特定個人まで求めるなら、四十万テルスくらいだな。ただいるかいないかってだけなら二万で十分だ」

「六万テルス払うと、どこまでの情報を得られます?」


 手持ちから考えて、情報に今だせる金額はこれプラス二万テルスくらいだ。それですっからかになるためしばらく稼ぎたいところだ。


「それだと何人いるか、どこでその情報を聞いたかくらいか?」

「ではそれで」


 金貨八枚をカウンターに置く。

 多めに置かれた金貨を見て、男は片眉をわずかに上げる。


「二枚多いが」

「俺が情報を欲したとばらされないための口止め料として三割くらいの上乗せが必要なんでしょう?」


 これはコッズの知識にあった情報だ。口止め料を払わない場合は、誰が情報を求めたのかばらされてしまう。

 ばらされて問題のないことなら払わずとも大丈夫だが、情報を得た誰かが詐欺目的で近づいてこられても面倒なので今回は払うことにしたのだ。


「知っていたのか。二千テルスの釣りだ」


 返された青銀貨二枚を受け取る。


「さっきは三日と言ったが、情報が集まらない可能性もある。その場合は続行か中断か、そちらで判断してもらうことになる。中断の場合は口止め料以外の金を半額返す」

「わかりました」


 頷いた早人に、男は簡単な書類を作り渡す。

 それを受け取った早人は、ジーフェに声をかけて宿を出る。

 次に貴族街の入口へと向かうと考え、ジーフェを見る。自身を見て少し考えこんでいる早人をジーフェは不思議そうに見返す。


「……うん。やめといた方がいいな。俺はこれから貴族街に向かう。俺自身は招待状をもらっているから入れるだろうが、ジーフェの分はない。入口で変なトラブルがあるのもめんどうだろう。道場に行くか? 終わったら迎えに行くから」

「入れない?」

「そこらへんはわからない。兵たちと一緒に俺が戻ってくるまで待機とかなるかもしれない」


 まったく知らない人といつ帰ってくるかわからない早人を待つところを想像し無言で首を横に振る。

 自身の実になる道場の方がましで、ジーフェは道場に行くと頷く。

 一人で行かせると宿に戻っていそうな気がした早人はジーフェを道場に送る。ジーフェ自身はまじめに行くつもりはあったのだが、それを口に出すと「だったら一人で」ということになるため黙って一緒に道場に向かう。

 不安そうなジーフェと別れ、大通りを通っていけば兵が立つ貴族街への入口が見えてくる。

 

「これを」


 持ってきていたアンナリアの招待状を兵に確認してもらう。

 中身はアンナリアが招いたと証言するもので、家紋の印が末尾に押されている。

 兵はその家紋を図鑑で確認し、通行許可を出す。


「クーゼフ男爵家は、この通りを真っ直ぐに行ったところにある小さな広場を左に曲がり、二個目の十字路を右に曲がったところにある。たしか門番はおらず、赤茶の屋根だ。もう一度言った方がいいか?」


 早人はお願いしますと頭を下げて説明を聞き、教えてもらったとおりに移動する。

 移動した先に赤茶の屋根が見えて、そこの入口で足を止めた。


「インターホン的なものは」


 どこだと探してみるが見つからない。よくよく探してみると、玄関の横に小さな鐘がある。

 あれを鳴らせということかと判断し、鉄の門扉を動かす。

 敷地内に入ったところで、庭掃除でもしようと思ったのか箒を持った四十才ほどの女の使用人が右奥の庭から出てきた。


「どちらさまでしょうか」

「アンナリア様から招待状を受け取り、会う約束をした者です。アンナリア様はご在宅でしょうか」

「たしか冒険者が訪ねてくると言ってましたね。名前を伺っても?」

「早人と言います」


 アンナリアから聞いていた名前を確認し、使用人は箒を壁にたてかけて早人を屋敷の中へ招く。

 客室に通されて、お茶とともに手紙を渡される。

 中を見ていいのか確認してから、封を切る。 

 内容は、早人が訪ねて来たとき留守だった場合、十中八九学者のところに行っているのでそこまでの行き方だった。

 なるほどと頷いた早人は、出されたお茶を味わって飲み、使用人に礼を言って屋敷を出る。

 学者の家は平民地区にあるため貴族街を出て、兵に手紙に書かれた住所を尋ねてそちらへと向かう。

 周囲の家とたいして変わらない家の前に、兵が立っていた。


「すみません、ちょっとよろしいですか」

「なんだ? 今ここは貴族のご息女がいらしている。用があるなら時間を置いて尋ねてきてもらいたい」

「アンナリア様にここに来るように手紙をもらったのですが」

「ふむ。少し待て」


 確認のため兵は屋内に入っていく。少し兵は出てきて、早人を手招きする。

 早人が入るかわりに、兵は再び外で警備につく。

 玄関に入ってすぐにアンナリアがいた。白の長袖シャツに淡いピンクのロングスカートといった姿だ。


「お久しぶりです」

「はい、本日はお招きいただきありがとうございます」

「私の屋敷ではないので、ごゆるりととは言えませんがそう硬くならず。こっちにファオーン様がいらっしゃいますよ」


 すぐ近くの扉を開いて書庫のような部屋に入る。

 そこには四十才ほどの男がいた。メガネをかけて、短めの髪はオールバックにしている。学者と聞いていた早人は細身の男を想像していたが、意外と鍛えられた体をしていた。


「お前があの変な条件で人探しをしているという奴か」

「初めまして、早人と言います」

「ん。まあ、座れ」


 ファオーンは椅子に座り、早人たちにソファーを勧める。

 ソファー近くの小さなテーブルには、いくつもの本が置かれている。本のいくつかは開かれており、文字を書きかけた紙もある。


「講義中にお邪魔しましたか。申し訳ありません」

「もともと約束していたことなので、私は問題ありませんよ」

「アンナリア嬢が気にしないのなら私も気にせんよ」


 ありがとうございますと早人は頭を下げる。


「それでお前さんが言っていた条件の人物だが、俺の記憶にはないな」

「そうですか」

「せめてそういった人物が言ったとされる故郷の名前がわかるといいのだがな」

「名前ですか、地球や日本という単語に聞き覚えは? 過去に俺の探している人がいるなら、そういったものを口に出していると思われます」


 早人が言った単語を、ファオーンとアンナリアは口の中で転がす。

 しかし二人とも首を横に振った。


「聞き覚えはないな」

「私もです」


 これは望み薄なのかと早人は肩を落とした。真剣に教会の巫女に会う方法を探してみるしかないのかと考える。


「まあまあ気を落とすには早い。ちょっとしたツテで城の書物庫に入ることができる。そこで調べてみよう。何かしら情報が出てくるかもしれない。そのかわりちょっと頼まれて欲しいことがある」

「どんなことを頼むおつもりですか?」


 あまり無茶は言ってほしくなさそうにアンナリアが聞く。


「アンナリア嬢も知ってのとおり、俺は家に閉じこもりっぱなしじゃなくて、各地に出かけ自分の足で史料を集めることがある。そんな俺も行けない場所はあるんだ。それが迷界や禁域だ。多少戦いの心得はあるもの、本格的な戦闘はできない。だから俺のかわりにハヤトお前が行って、指定された地域の家具などを集めてきてほしい。聞いた話じゃ大森林に滞在できる腕前だとか。ならば行けるんじゃないか?」

「ファオーン様、廃城に行けとは言いませんよね?」


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