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王都良いとこ一度はおいで1


 いくつかの村を経由して早人たちは王都にたどりつく。急ぐ旅でもないため馬車は使わず、徒歩での旅だった。

 道中魔物との遭遇はいくどかあり、ジーフェが倒せそうなものは相手させていたため能力値と技術値が上昇していた。だがまだまだ一人前の冒険者には程遠く、その成長を見て、コッズの鍛錬の効率性などがよく理解できた。


 たとりついた王都は丘に作られており、王城は丘の上にあり、城を囲むように貴族たちの屋敷が建ってる。そのさらに周りの平地に民の家や店がある。平民と貴族が住む地区の間には区切るように石壁が建っている。

 本やゲームの中でしか見たことのないような城が、遠目に見えたときは早人も感動した。

 王都に入り、さて宿を決めようというところで客引きらしき十六才ほどの少女に声をかけられた。


「そこ行く兄さんたち! 旅人かなにかだね? 今日の宿は決まっているの? 決まってないならうちはどう?」

「今から決めようと思ってたけど。宿賃が高いなら断るよ」

「標準的なお値段だよ。お客さんからの評判も悪くないからどう?」

「ふーん、まあいいか。案内お願い」

「かしこまり!」


 元気よく返事をした少女に案内され、それほど大きいとはいえない宿に到着した。


「いらっしゃいませー。ウェルカムティーなどいかがでしょう」


 そう言ってポット片手に出迎えたのは滞在していた町の武具店員だった。

 早人は驚き、ジーフェは嫌なものを見たと早人の背に隠れる。


「あんたなんでここに? 武具店の店員だったんじゃ」

「私は流れのアルバイター。あるときは武具店バイト、またあるときは宿屋バイト。旅から旅へのバイト生活を楽しむ者、それが私パレアシアなのですっ」

「なるほど、今日からよろしく。ジーフェの相手も適度にやってくれると助かる」

「おまかせください!」


 そう言ってさっそくするりと一端の冒険者顔負けの動きでジーフェの背後にまわり抱き着いた。

 再び胸に埋もれたジーフェは脱出しようとしてできずにいる。


 ジーフェはそのままにして宿の主人に三日の宿泊を告げて、部屋までパレアシアに案内してもらう。

 荷物を置くと、今日のところは斡旋所の確認と散策を行うことに決めて部屋を出た。

 ジーフェの部屋は隣で、早人がでたとわかるとばたばた足音をさせて部屋からでてきた。置いて行かれてパレアシアに絡まれてはたまってものではないと、早人の背を押して宿の玄関へと向かう。


「お客さんおでかけですか?」


 クラレスと名乗った客引きの少女に声をかけられ早人は足を止める。ジーフェの力では動かすことはできず、ジーフェも止まる。

 クラレスは艶のない金髪をポニーテールにしていて、深紅のエプロンドレスを着ている。自腹で作った特注の制服らしく、宿に案内されているとき自慢の一品と誇らしげに言っていた。


「うん。斡旋所に行くつもり。どこにあるか知ってる?」

「ここから近い斡旋所は大通りに出て、王城を目印に歩いていけばみつかりますよ」

「ここから近い? その言い方だと複数あるみたいだな」

「王都には二つの斡旋所があるんですよ。人が多いから仕事も多いんでしょうねー」


 さすが王都だと感心した表情を浮かべて早人は情報の礼を言い、宿を出る。

 その早人たちにいってらっしゃいとクラレスが声をかけた。

 人の多い道を歩き、教えてもらった通りに進んで斡旋所を見つけた。オルディアスたちのいた町の斡旋所よりも大きな斡旋所だ。


「これがもう一軒かー。すげえな」


 斡旋所に入り、入口近くに立っていた警備にここの造りを聞く。

 基本的にどこも斡旋所の造りは同じらしく、違うのは規模くらいらしかった。

 ペンダントを見せて二階に上がり、まずは地図を探す。


「地図はっと、あったあった」


 数人が眺めている中に、早人たちも混ざる。こういった地図を初めてみるジーフェは珍しそうに見ている。

 王都から大森林は遠く、この地図には載っていない。かわりに右端にだが湖が載っていて、そこが禁域指定されている。

 その湖はパーニッツ湖と言って、三国の国境にまたがった位置にある。大きさは王都よりも大きく、世界でも有数のものだ。そこでは、さまざまな水棲の魔物や水棲の亜人が暮らしている。


 迷界はというと一般人の足で王都から西に徒歩半日行ったところにある。

 今の王国の一つ前にあった国の王都で、権力闘争と魔物の大量発生が重なって滅びた場所だ。幽霊王の領地と呼ばれている。


 迷界の主は当時の王で、グレートガイスというアンデッド系の魔物の中では上位に位置する魔物になって君臨している。その首をとった者には国王が褒美を約束するというお触れが昔に出て今もそのお触れは有効だ。

 この迷界がなくなれば国内の交通網がスムーズになり、迷界から出てきたアンデッドによる被害も減る。迷界から得られる素材がなくなる以上に、国の発展が進むという利点が大きいのだ。


 迷界はもう一つあり、それは王都から一般人の足で北へ三日移動したところにある。数年前に発生した新しい迷界でもある。

 森の迷界で、主は森の中心にある大きな木の精だ。以前は穏やかな性質で、少しならば木の実などの採取や木の伐採も認めていた。しかし急に人間や動物を排除するようになり、迷界に認定された。

 森全体が敵で、常に襲いかかってくる攻撃に、熟練冒険者も対処のしようがなくここに挑む者はほとんどいない。今は調査依頼を受けた冒険者が少し調べては撤退するということを繰り返し、原因を探っているところだ。


「行くとしたら幽霊王の領地かな」


 二つの迷界を比べて、少しは楽な方を選ぶ。

 迷界に出てくる魔物はゾンビにスケルトンに幽霊。それらの下位種から上位種が勢揃いだ。

 ゾンビやスケルトンは木刀での攻撃でなにも問題ない。しかし幽霊系統の魔物は簡単にはいかないだろう。

 一番効果的な攻撃は、聖水と呼ばれる幽霊系の魔物に大きな効果を出す道具を使うことだ。幽霊に聖水を直接振りかけると攻撃がまともに効くようになる。

 ちなみにアンデッドという邪なる存在に大きな効果があるため聖なる水と名付けられただけで、実際はいくつかの材料を混ぜて作られた魔法の道具にすぎない。


「私もそこでお金稼ぐの?」

「行くけど、優先すべきは道場通い。そろそろ格闘術をきちんと習っておいた方がいい」

「……」


 ジーフェは無言で嫌そうな顔になる。忘れていたかったことを思い出し、思わず顔にでた。

 ジーフェのでこをぺちんと軽く叩く。


「そんな顔しても連れて行くからな。さて次はどんな仕事があるか見てみるか」

「うー」


 小さく膨れ唸るジーフェから目を放しボードに視線を向ける。可愛らしかったが早人には効果はなかった。

 一番多いのは一般用のボードだ。次に商人用で、冒険者用と続く。


 一般のものには、迷子の猫探しや道路の掃除といったものが並ぶ。内容としては南の町の斡旋所と変わらないが、人の多さから仕事の数も多い。

 商人用冒険者用もざっと見て、仕事内容を把握した早人は仕事を選ばずボードから離れる。お金はまだ余裕があるため、急いで仕事を探す必要もないのだ。

 斡旋所内を見渡した早人は、質問受付とプレートが出ている受付に向かう。

 受付嬢が椅子に座った早人たちに一礼する。


「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか」

「探しものがあるんだけど、情報屋の紹介はここでもしてます?」

「魔物や道具や素材といったことでしたら、斡旋所でも情報を出すことはできますよ」

「そういったものじゃなく、人なんだ。過去でも今でもいいけど、ちょっと大雑把な情報で探してほしい」

「人ですか、それはちょっと斡旋所では難しいですね。有名な冒険者や職人とのツテがほしいというわけではないのですね?」

「うん」

「そうですか……でしたら旅鳥の枝という宿に行ってみるといいかもしれません。行商人が昔から集まる場所です。あちこちに赴くのが行商人ですからね、自然と情報が集まり出し、それを有料で提供することもあるようです」


 おおまかな場所を説明してもらい、早人は次に道場に関しての話を聞く。

 少々お待ちをといって職員は籍から離れて棚にある資料を探る。


「……あったあった。こちらの書類にいくつか載っていますね。拳と蹴りと投げなど総合的な技術を教えるところ、蹴り主体のところ、規模の大きなところ小さなところ。といった感じの道場があります。希望はどのようなものでしょう?」

「こいつが才能があって習うんですが、初心者なので駆け出しにも丁寧に教えてくれるところがいいですね」

「ふむふむ……でしたらコルトラ道場というところがいいのではないのでしょうか。規模は小さめですが、丁寧に教えているようですよ」


 そこにしますと早人は答え、場所を教えてもらい、礼を言って斡旋所から出る。


 ぶらぶらと王都を歩き回って、店の位置を確認していく。一日で回りきれるような広さではなく、今日のところは目立つところを見ていった。

 道場通いに憂鬱そうにしていたジーフェもこれまでで一番大きな町に好奇心が刺激されるのか、早人の袖をしっかり握りつつ物珍しそうに視線をあちこちへと向けていた。


 そういって見ていった中に教会があった。この世界の宗教は一つで、竜教と呼ばれている。神の名前は伝わっておらず、神の使いとして白竜と星竜が存在しているので、わかりやすいように竜教と呼ばれているのだ。

 解釈の違いでいくつか流派があり、ここはその中の変な解釈はせず神の残した言葉そのままを受け取る流派のものだ。


 早人が日本にいた頃は、仏教を信仰していた。だが熱心な仏教徒ではなく、寺に行くようなことはなかった。だから教会を見ても、宗教の場所というよりは観光地といった見方になる。またコッズも熱心な教徒ではないため、入ってみようとは思わなかった。


 二人して珍しそうに眺めていると、大荷物を抱えた二十才ほどのシスターが教会へと歩いてきていた。

 前を見づらそうにしていて危ないかなと思ったところで、シスターは躓き荷物を道にばらまいてしまう。


「ああああっ」

「拾うの手伝いますね」


 このまま放置というのもどうかと思い、声をかけて荷物を拾っていく。ジーフェも無言で手伝っている。


「ありがとう」


 早人たちに礼を言い、シスターも拾い始める。

 すぐに荷物は集まり、ついでなので早人たちは教会に運ぶのを手伝う。


「横着して一度に運んじゃ駄目ねー」


 早人たちを先導するシスターがそう言い笑う。


「誰かと一緒に行けばよかったと思いますけど」

「ちょうど手が空いてなくてね。そこに置いてもらえるかしら」


 キッチンに入り、指差されたテーブルに荷物を置く早人たち。

 帰ろうと思っていると、お茶の一杯でも飲んでいってほしいと頼まれ椅子に座る。

 その二人の前にクッキーを載せた皿を置く。


「手伝ってくれてありがとう。これ手作りで悪いけどどうぞ」


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