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おしかけ少女5


 少しして防具を身に着けたジーフェが駆け寄ってきて、早人の背に隠れる。


「そんな走って逃げなくても」


 ジーフェは早人の背から顔だけ出して、猫のように威嚇する。

 

「なにか怒らせるようなことでもしたのか?」

「いえ、真面目に仕事しましたよ? 逃げないように抱き着いたままでしたが」

「そりゃ仕方ないわな。で、仕事したってことは買い物はすんだってことでいいんだな」


 ちらっとは見たが、あれで大丈夫なのだろうかと聞く。

 ジーフェは魔物の革を使った胸当てと人食い蜘蛛の糸を使ったスパッツをはいている。頭部には防具はないがオレンジ色の布で後ろ髪を縛っていた。


「予算内で買えるのはあれだけです。髪を縛るリボンはオマケですよー。あとついでに前髪も切りそろえておきました」

「またオマケか。この前のもジーフェが食べたし、あんたのオマケはジーフェ絡みだな」

「こんなかわいい女の子と知り合いになれたんだからたしかにラッキーアイテムでしたでしょ?」

「どちらかっていうとアンラッキーアイテムだったよ」


 防具の分のお金を渡し、また会いましょうという店員に見送られて二人は店を出る。

 ジーフェは早人から離れないとばかりに服を片手で握りしめ、空いているもう片方の手で短くなった前髪を触っている。

 早人はそんなジーフェを改めて見る。魅力が増していると認めつつも、一緒にいられることが嬉しいというより、めんどくさいという思いの方がやはり上だった。


 そして約束の日がきて、早人たちは斡旋所に向かう。

 でかける早人についてこようとしたジーフェに、知らない人たちと会うから留守番の方がいいだろうと言ったのだが離れることを嫌がりついてきている。

 まだラウタデは来ておらず、一階のベンチでほかの冒険者たちをのんびり見ていると、オルディアスがやってきた。


「よう」

「どもー」

「元気そうだな。防具はどうだった?」

「革の胸当てを買ったよ。今は宿に置いてある」


 そうかと頷きオルディアスもベンチ座る。


「んで、その嬢ちゃんは?」

「この数日で出会った。少し助けたら懐かれて? 無理矢理同行することになったんだ」

「見たところ駆け出しのようだが、一緒に行動はいろいろと予定が合わなさそうだな」

「駆け出しで仲間募集してるやつら知ってる?、知ってたらそっちに放り込むのもいいかなって思う」


 早人がそう言うとジーフェは絶対に離れないとあらんかぎりの力で腕を抱きしめた。

 薄い胸が腕に当たっているが、早人としてはもっと膨らみがあるほう方が好みなのであまり嬉しくもなかった。


「一人前までって約束! それに借金も!」

「はいはい。言ってみただけだ」


 こう言いつつ内心わりと本気だったりする。


「ははは。紹介しても離れそうにないな」


 笑うオルディアスに早人は溜息を吐いてからそっちはなにかあったかと聞く。

 奮発して買った高い肉を使った娘さんの甘辛炒めが美味しかったといった雑談を聞いているうちに三十分ほど経ち、ラウタデが斡旋所に入ってくる。

 オルディアスが右手を上げてここだと声を出す。


「待たせたか?」

「少しだけな。話はここでするか?」

「いや二階の個別スペースを借りてやろう」


 オルディアスが立ち上がり、早人たちも遅れて立つ。

 ラウタデでもジーフェのことを尋ねたが、早人のつれだという簡単な説明に納得しそれ以上は聞かなかった。

 四人は二階に上がって、パーテーションで仕切られたスペースに置かれている椅子に座る。


「改めて礼を言う。あいつを捕まえるのに協力してもらい助かった」

「あの獣人は今どうなっているんだ?」

「いくつかの弱体化魔法をかけられて、強制労働をやらされている。真面目に働けば怪我することはないし、飢えることもない。ただし評価はされないし、贅沢なんてこともできない、結婚もできない。さらに真面目にやらないと罰が与えられる。死ぬまで満たされるようなことはなく飼い殺しだ」


 努力しても報われず、しかし真面目にやらなければ余計な怪我を負うことになる。

 人の幸せを奪われたそんな一生になんの意味があるのか。

 死ぬことの次に厳しい罰かもしれないと聞いていた早人とオルディアスは思う。ジーフェは餓えることも怪我することもないという前半部分で自分の村暮らしよりいい状況と思っていた。


「罰が軽減されることはあるのか?」


 恩赦という言葉を思い出した早人は聞く。


「ないな。ただし自殺をする自由はある。それが唯一の罰から逃れられる方法か」

「俺だったらそんな罰を受けたくないな」

「それだけあいつのやったことは罪深いことなんだ。もうあいつのことはいいだろう? お前たちへの報酬だ」


 捕まった獣人の話を終わらせて、ラウタデは肩に下げていた細長い袋をテーブルに置く。


「これが折れた武器のかわりだ」


 早人は袋から中身を取り出す。それをジーフェが興味深そうにのぞき込む。

 中身は大振りの木刀だ。見た目は黒に近い茶色で、長さは使っていたものより少し長い。重量も前のものよりだいぶ重いが、早人の能力値ならば問題なく扱える。


「それは銀樫を使った木刀だ。獣人の力自慢が模擬戦に使っても滅多なことでは折れないという代物だ。鉄にだって劣らない硬さだぞ」

「ほう、いいものもらったな。銀樫は金ブナと並んで、頑丈な家具や建物を建てるのに使われる木だ。頑丈さは保証されているぞ」

「ありがとうございます」


 価値はわからないが、褒められているようなのでいいものなのだろうと思い早人は頭を下げた。

 買おうと思えば確実に十万テルスに近いところまでいく武器なので、壊れた木刀のかわりとしては破格のものだろう。


「オルディアスにはこっちだ」


 五つほどの素材が並び、最低でも一つ一万で斡旋所に売れるものだ。


「俺はただついていっただけだ。それなのにこんなにもらっていいのか?」

「おそらくだが、あの泉までハヤトを連れて行ったのはオルディアスなのだろう? だったら出会いの手引きをしてくれたということだ。十分に受け取る資格はある」

「そうか。ありがたくもらっとくよ。これで用事は終わりだな? どこかの酒場で一杯やらないか」

「俺はいいぞ」


 早人たちはどうだとオルディアスが顔を向ける。


「酒は飲んだことがないんだけど」

「そうなのか。だったら軽く飲んでみて、駄目そうならつまみを楽しむといい。美味いつまみを出す店を知っているからな」

「美味しいものが食べられるなら行かないと」


 そうこなくちゃと言いオルディアスは立ち上がる。

 ラウタデはお礼以外に持ってきているものを売りたいと言い、オルディアスももらった素材を売るため受付に向かう。

 早人はジーフェに知らない人たちとの食事はつまらなかろうと帰るか尋ねるが、ついていくということだった。

 用事をすませた二人は階段近くで待っている早人たちと合流し、酒場に向かう。

 飲み慣れた二人が、悪酔いしないように早人のペースをコントロールしたおかげでほろ酔い一歩手前というところで酒盛りを終える。ジーフェに関しては本人が酒に興味を持っている様子もなかったため勧めることはなかった。

 楽しむことができた早人は二人に別れを告げてジーフェと一緒に宿に戻る。

 そして翌日、早人たちは王都に向けて町を出た。それぞれ買った胸当てを身に着け、腰にはもらった木刀を。早人の背にはコッズの剣とリュックがあり、ジーフェの背にも小さめのリュックがある。そうした姿はいっぱしの旅人に見えた。

 必要分お金を貯めてさっさと出るだけのつもりだったが、思ったより色々なことがあった滞在だった。ここより大きな王都ではどのようなことがあるのか、できれば帰還の方法がわかればいいなと思いつつ早人は歩を進め、ジーフェは遅れないようについていく。



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