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おしかけ少女3


 ジーフェは木の下に座り込んで、足早に迷界を進んでいく早人を見送る。

 パンを食べ終えて三十分が過ぎ、一時間と時間が流れていく。

 もしかしたらやっぱり見捨てられたのかもしれないと、不安を抱いてそわそわしていたとき早人の姿が見えて心底ほっとした。

 すぐに立ち上がり駆け寄っていく姿は、飼い主にかまってもらいたい犬を思わせる。


「おかえりなさい! 荷物持ちますか? それとも肩叩きますか? なにしましょう?」

「そんだけ元気なら戦えるな。蛙と戦ってみよう。能力値を上げないことにはどうにもならないだろうしね」

「え? 私負ける自信ありますよ? そんな状態で戦ってもなんにもならないと思う」

「魔法で強化できるからなんとかなる。まずは一体だけでいる小さめな蛙を探すよ」

「でも」


 自信なさげなジーフェの手を取って歩き出す。

 手を引かれるままジーフェは歩く。

 二人で水辺にそって移動し、五分ほどで三体でいる蛙を見つけた。一匹は小さいため親子なのだろうか。

 早人はさっさと大きい二体を倒し、小さい蛙を踏みつけた。そして持っている木刀をジーフェに渡す。ジーフェはその重量が予想以上で切っ先を地面に落とす。


「これ重いです」

「これすら重いのか。強化したら振り回せるだろうから少し待ってて。ポテンシャルアップ」


 これでどうと早人が聞き、ジーフェは両手で木刀を振り回す。

 振り方は拙いが、よろけるようなことはなく重さを感じさせない。


「大丈夫そうだ。じゃあ蛙を倒してみよう。弱点は特にないかな。まあ、最初は相手に当てることだけを考えて」

「ほんとにやるんですか?」

「世話しなくていいなら、こっちも楽なんだけど?」


 早人のその返しに、ジーフェは覚悟を決めて蛙に向く。これからの戦いが豊かな未来に続いていると信じて。

 早人は蛙から足を放し、逃げにくい位置に立つ。


「とおりゃあああああっ」


 腰はひけつつも掛け声は勇ましく、木刀を掲げて蛙へと振り下ろす。

 蛙はぴょんと跳ねて避けた。


「外れた!?」


 もう一度と慌てつつ木刀を振り上げたにジーフェに蛙が体当たりをしかけてくる。

 どんっと衝撃を受けてジーフェは一歩下がる。


「あた!? このじっとしてて!」

「慌てず一歩下がって深呼吸。よーく見たら体当たりは避けられるし、狙ったら当たるから。それにそれほど痛くはなかったろ」

「あ、そういえば」


 強く押されたが、村人に殴られたときほど痛くはなかった。早人の助言に従い、深呼吸しておちつく。

 その間に蛙がもう一度体当たりをしかけてきたが、なんとか避けることができた。蛙が着地して自身へと向き直るのを隙とみて、ジーフェは木刀を蛙の背に振り下ろす。

 グゲェと痛そうな悲鳴を上げた蛙に確かなダメージが入ったとわかる。


「よくできました。あとはそれを繰り返す。そうすりゃ倒せる」


 ジーフェは頷き、蛙に集中して木刀を振っていく。

 次第に蛙の動きは鈍っていき、七度目の攻撃をしたときに小さく鳴いて動かなくなった。十分近くかかった戦闘の終了だ。

 ちょんちょんと突いてそれでも動かない蛙を見てジーフェは倒せたのだと実感を得て、木刀を掲げる。


「た、倒せたぞー!」

「お疲れさん」

「見てましたか! 私もやればできるんですっ」

「見てた見てた。よくやったね。次もその調子でいこう」


 調子にのっているようなので褒めて勢いづかせようと考えた早人。


「どんとこいですっ」


 褒められて嬉しそうになり、次の獲物を求めて木刀を振り回す。

 早人は蛙の証明部位である舌を切り取って、ポテンシャルアップの効果が切れる前に次の蛙を探す。

 何度か戦えば、ジーフェも慣れてきたようでスムーズな動きを見せ始める。


「ふふふ、自分の資質が恐ろしい。蛙なんて雑魚だ。いけるっ。今ならたくさんの蛙でも、いや蟹でも倒せるっ」


 やめておけと早人が言う前に、ジーフェは二体の紅甲蟹を見つけて突っ込んでいった。


「あーあ」


 覚悟ーっと駆けて行ったジーフェは一体目の背を叩いて、カンッといい音をさせて弾かれた。

 そこにもう一体の蟹が当然攻撃してきて、それの対処のため攻撃を止める。

 防戦一方でいるうちに、蟹に足をはさまれてジーフェが転ぶ。そこを蟹たちは攻め時とみて、転んだジーフェを鋏で叩いていく。


「ギャーッ! 助けて! 痛い痛い! 師匠っ先生っご主人さま! どうにかにしてーっ」

「なんかギャグシーンっぽいな」


 ピンチには違いないのだが、頑丈さも魔法で上がっているおかげで助けを求める余裕があり、アニメや漫画に出てくるワンシーンのようだった。

 呆れたまま早人は蟹たちに近づき、蹴り飛ばす。


「ありがとうございますぅ」

「調子に乗りすぎるからそんな目にあう。ほら立って」


 再び土埃まみにれになったジーフェは差し出された手を縋りつくように掴んで立ち上がる。


「今日はここまでにしとこうか。帰ったら能力値や技術値のチェックして、買い物して。いろいろやることがあるな。ああ、その前になにか食べないと腹減った」


 歩き出した早人を追ってジーフェも歩く。

 迷界から出て、馬車の出発時間までまだ少しあったため、ジーフェの身なりを軽く整える。

 濡らした布を渡して、顔や腕を自分でふかせて、早人はジーフェの髪をふいていく。髪をふくたびに、わずかに艶がでてくる。

 手櫛で髪を整えて、体の汚れを払ってみると、少々やせぎすではあるもののわりと整った容姿なのがわかる。


「残った金を使って綺麗にしたら誰か助けてくれたと思うんだが」

「爺ちゃんが汚れたままでいろって。なんか顔を見て声をかけてくる奴らからは逃げろって」


 爺さんから見ても整った顔立ちで、そこから生じる危険性を予測していたからこその助言だったのだろう。

 正直に守っているからそこらのトラブルとは無縁でいられたのだろうが、今後は清潔でいてもらわないと宿泊などを断られかねない。

 

「町に帰ったら銭湯にも行ってしっかり体を洗わないと」

「お風呂に入っていいの?」

「いいよ」

「初めて入る!」


 楽しみなのだろう声音に喜色が現れている。


「これまで一度も入ったことなかったのか。体をふいたり、川で水浴びしてすませてた?」

「うん」


 村で入らせてもらえなかったというわけではなく、村には銭湯がなかったのだ。皆、ジーフェのようにふいたり水浴びですませていた。


「お湯につかる前に体と髪をきちんと洗うようにな」


 髪をふく手を動かしつつ改めてジーフェについて話を聞く。年は予想通りの十三才。安宿に泊まって日々を過ごしているということだった。

 そうしているうちに馬車の出発時間が迫り、馬車に乗り込む。

 ジーフェは村から町に出るときも、迷界に来るときもずっと歩きだったため、馬車移動は初めてだ。

 楽しみといった雰囲気をまとっていたが、知らない人と一緒ということで早人の腕を抱き、ずっとうつむき寄り添っていた。

 その様子からは本当に人が苦手なのだとわかる。


(これが治らないと誰かと組むのも無理だなぁ)


 時間が解決することなのだろうかと考えているうちに町に到着する。


「能力値と技術値の確認をしよう。やり方は知ってる?」

「お爺ちゃんから聞いてます」


 目を閉じたジーフェから詳細を聞いていく。

 能力値は人並みを少し上回った程度だ。今回の戦闘で上がった分なのだろう。

 体力は210。魔力は105。筋力速さ器用頑丈精神は33か34だった。

 技術値で一番高いのは家事で78。戦闘系だと両手剣で16という感じだった。さらに使っていない格闘術が10ある。


「これはどうなんでしょう?」

「お世辞にも一人前の冒険者とはいえない。でも最初はこんなもんだろうさ。俺の最初より高いはずだ。ところでこれまで格闘術を習ったり使ったことはあるの?」


 ないとジーフェは首を横に振る。


「だったら格闘術に才があるってことだ。今後はそれを伸ばしていくのがいいと思う。でも今日使った大剣のままがよければそのままでもいいし、ほかに気になる武器があるならそっちでもいい。ジーフェのしたいようにすればいい」

「これといってなにか考えないから格闘術でもいいけど。どんなふうにやればいいのかわからない」

「お金を払えば教えてくれるところがあるだろうから、そこに行けばいい」

「あなたは格闘術を教えられないの?」


 そう言うジーフェの表情には、知らない人から習うということで不安が現れている。

 コッズから受け継いだ技術値の中に格闘術もあるにはあるが100に届かない程度で、実際に使ってもいないため人に教えられるものではないのだ。


「無理」

「じゃあやだ」

「そっか。格闘術を習うなら武具をこっちでそろえようかと思ったけど」

「……むぅ……そういう言い方はずるい……一回挑戦してみます」


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