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深淵の森と頼みごと3


 真剣な表情のラウタデに、オルディアスは戦った獣人の特徴や襲われたことを話す。早人がおそらく猫の獣人だったと付け加えると探し人と一致したらしい。


「こっちで間違いなかったか。どれくらい前に戦って、どっちへ逃げたんだろうか」

「あいつが逃げて三十分もたってないな。逃げたのはあっちだ」

「ありがとう……申し訳ないが一つ頼みを聞いてもらえないだろうか」


 少し悩んだ様子を見せたラウタデは、言いにくそうに早人を見る。


「俺? オルディアスさんじゃなくて?」

「ああ。今の話だとあいつを軽くあしらったんだろう? お前にとってはそうでなかったかもしれないが、あいつは実力者でな。俺たち四人でも相手は厳しいんだ。できれば捕獲を手伝ってもらいたい」

「んー」


 早人はすぐには答えない。今は採取の依頼を請け負っている最中なのだ。依頼中にさらに別の依頼を受けていいのか、どうすればいいのかわからない。人助け自体に、あまり気分がのらないのもある。

 そんな迷いをオルディアスは察して口を開く。


「その頼みって一日二日で終わりそうか? 俺たちは期限のある依頼を受けている最中なんだ。それを放置するとハヤトの冒険者としての信頼が落ちる」

「ここで戦ったのが三十分くらい前なんだろう? だったら探すのに手間取っても一日で終わるはずだ。その一日をすぎたら、自分たちでどうにかする」


 一日ならば自由にしても大丈夫で、オルディアスは早人に決断を任せる。

 オルディアスが問題なしと判断したのならば、早人はまあいいかと受けることにする。オルディアスの様々な知識を得た報酬代わりと思うことにしたのだ。

 頷いた早人に、ラウタデたちはありがとうと言い、早速追いかけることを提案する。

 移動を始める一行の先頭に立つのは、匂いを追うことが得意な獣人だ。

 これまでも件の獣人の匂いを追って泉までやってきた。

 早人が傷をつけ、血を流させたことで追跡のための情報が増え、楽になっている。

 その獣人の案内に従い、走りながら早人とオルディアスは事情を聞く。

 重大なことをやらかしたのだろうと早人とオルディアスはラウタデの言葉を待つ。


「あいつはとても重い罪を犯した。それは許されないことで、殺すことはないが、贖罪のためその一生を使わなければならない」


 一生強制労働ということのなのだろう。

 それほどまでの償いが生まれる犯罪とは、殺しなのだろうか、宝物を盗んだのだろうか、そんな予測を二人はしている。


「その罪とは……族長専用の歩行コースを汚したことだ」


 たったそれだけなのかと二人の表情に出ていた。

 その反応に他種族ならば仕方ないと理解の様子を見せるラウタデ。


「獣人にとっては大事なことなのだよ。習慣の違いだから理解できないのも無理はないが」

「ってことはただ道を歩いたり壊したりしたわけじゃない?」


 オルディアスの言葉に獣人たちは頷く。


「決まったコースを歩くのはそこが族長のひいては一族の縄張りと示すため。さらに縄張りを示すと同時に縄張り内の安全と繁栄を願う祭事だ」


 早人の脳裏に犬の散歩デラックスという言葉が浮かんだが、それを口にしないだけの分別はあった。

 散歩して祈願するだけで、本当に安全と繁栄が約束されるわけではない。だから盛大な散歩という認識に間違いはないが、やっている者たちは真剣なためちゃかされるとそれはもう怒る。

 そもそも早人が住んでいた日本でも、理解されにくい特殊な風習というものはあったのだからある程度の理解を示してもおかしくはないはずだ。


「理解できずとも俺たちにとって大事なことを汚されたと思ってくれればいい」

「わかった」


 こうして話している間にも先導する獣人はたどっている匂いを見失わないように必死に鼻をきかせている。

 追っている獣人は必死に逃げたのか、再度遭遇できたのは四時間ほど移動したときのことだ。

 大木の枝に座り、潜んでいるのを先導していた獣人が見つけたのだ。


「おおおっ!」


 見つかったことを察した獣人は強者の衣を発動させて、己ができる最高の技を繰り出す。

 座っていた枝を蹴り、勢いよく早人へと落下しつつ、捻りを加えた突きを放つ。逃げるには早人が邪魔だと判断したのだ。

 自身にもある程度の落下ダメージを覚悟しての攻撃は、避けるには少々時間が足らず、早人も強者の衣を発動させ木刀を構える。

 全身全霊の一撃を、数時間前と同じように払うため木刀を振る早人。

 木刀を通して伝わってくる一撃の重さに、生半可な力では払いのけられないとさらに力を込める。

 その衝撃に耐えきれなかったのは木刀だ。安物の木刀が強烈な力のぶつかり合いに耐えきれるわけがなかった。

 それでもなんとか槍の軌道をそらせたのは、いい仕事をしたといえるだろう。

 バランスを崩して地面に衝突した獣人は、槍を手放して地面にぶつかる。

 急ぎ立ち上がった獣人は槍の刃で切ったのだろう、腕に傷を負っていた。

 槍もなく、怪我もしている獣人は脅威でなくなっており、ラウタデたちに取り押さえられた。少し暴れていたものの、どうにもならないと諦め静かになる。

 持っていたロープでしっかりと手足を縛り、猿轡も噛ませて、腕の治療をする。


「ありがとう。君のおかげでこいつを捕まえることができた。お礼をしたいが、お金はなくてな。そこで壊れた武器のかわりとなるものを渡そうと思うがどうだろう?」

「それでいいですよ」

「ではこいつを里に届けたあと、町に向かう。六日後の夕方に斡旋所で会うというのでいいだろうか?」

「ええ」


 頷いた早人からオルディアスに視線を移す。


「オルディアスにはなにか魔物の骨や爪などでいいか?」

「ああ、それでいい」


 再度礼を言いラウタデは仲間を伴って里へと走っていく。


「俺たちも戻ろう」


 木々の向こうに消えていった獣人たちから視線を外し、オルディアスが歩き始める。

 帰り道でも魔物に襲われたが、蹴りや落ちている石を投げることで十分対応できた。

 入った場所とは離れたところから森を出た二人はそこで一泊し、翌日の日暮れ間近に町にたどり着いた。


「このまま領主に薬草を届けんの?」


 早人の問いにオルディアスは首を横に振る。


「斡旋所で鑑定してもらって、鑑定書を作る」

「それはどうして」

「たまーに持っていった依頼の品をすりかえて頼んだ物と違うって言って報酬を渡さない奴がいるんだ」

「領主もその可能性があるってこと?」


 再度首を横に振る。


「ここの領主はそういったことをしたって話は聞かない。だが高額依頼はこういうことをやっておいた方がトラブルが起きたとき身を守ることになる」


 斡旋所でもらえる鑑定書は魔法も使われていて、鑑定書と物品の間に繋がりを作る。

 物品から三メートルも離れると鑑定書が崩れ散ってしまうため、すりかえができないのだ。

 そういった説明を聞いて早人は感心した表情で頷いている。

 二人は魔法の明かりに照らされる町を歩いて、斡旋所に向かう。

 オルディアスが遠出していたことを知っていた者たちからおかえりなさいと声をかけられつつ斡旋所に入る。

 二階の受付に、採取してきたものを渡したあとにパスラーネを植えてある鉢植えを渡し、鑑定を頼む。明日の昼には終わって渡せるということで、二人はそこで解散する。

 早人は以前泊まっていた宿に向かい、空いていた部屋をとる。夕食を食べたあと、銭湯で汚れを落としゆっくりとベッドで眠る。

 翌朝いつもより遅く起きて、そのまま昼前までだらだらと過ごす。

 少し早い昼食を食べて斡旋所に向かえば、ちょうどオルディアスも斡旋所に来て、挨拶して一緒に中に入る。

 受付で、パスラーネと鑑定書と採取したものの売却金を受け取る。


「売ったものは半分でいいな?」

「もちろんです」


 オルディアスの提案に頷く。早人の本音としては知識の伝授もあったので半分ももらっていいのかと思っている。

 オルディアスからすればボディーガードとして十分な働きをしたので、正当な報酬なのだ。

 斡旋所から出た二人は、領主の館に向かう。

 オルディアスの顔を覚えていた門番が、使用人を呼んでくれて客室に通される。

 鉢植えをテーブルに置いて待つこと十五分。手早く仕事を一段落させたアンナリアと付き添いの使用人が客室に入ってくる。


「お待たせしました」


 そう声をかけてくるアンナリアにオルディアスは立ち上がり一礼し、早人もそれに倣う。

 ソファーに座ったアンナリアが視線をパスラーネに向ける。


「これが依頼したもので?」

「はい。こちらが鑑定書になります」


 受け取った鑑定書にアンアリアは目を通す。

 内容に問題がないことを確認し、鑑定書をテーブルに置く。


「ありがとうございました。無事依頼は達成です。こちらが報酬です、どうぞ」


 それぞれ十四万テルスずつ載ったトレーを二人の前に置く。

 二人はそれを受け取り、一緒に置かれていた小袋に入れてポケットにしまう。


「依頼を受けていただいたお礼としてお金以外に、食事も用意させています。よろしければ今晩は一泊されていかれませんか? 森の様子についてもお聞きしたいので是非に」


 早人はオルディアスを見て、どうするのか無言で問う。

 オルディアスはアンナリアの表情に意味ありげな意思を読み取って頷いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] まあ獣にとって縄張りってのは大切なものらしいですからな。 問答無用で襲い掛かってくるような奴だったし、強さに溺れて傲慢になったのかしらん?
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