町でのあれこれ5
「移動用の魔法を作りまして、それが発動はしたんですが狙った効果がでず」
「ほうほう。具体的にはどのようなもんじゃ?」
「背中から風を放出して、それに押される形で進むってのが理想だったんです。でも風の勢いが強すぎるのか、体が地面に押し付けられるような感じに」
「わしの知らん形の移動魔法じゃな。移動魔法は筋力にものをいわせるか、船が帆に風を受けて進むように風を使うか、自身のそばで爆発を起こしてその衝撃で進むかの三つじゃ」
「三番目って」
「魔法を使ったときに失敗したことを参考にしたらしい。常人は思いついても実行しようとは思わないだろうがの」
爆発式移動は爆発に翻弄されて移動するため、頑丈な体が必要で、さらに吹っ飛ぶ際に回転することもあるため酔いに強くないといけない。
そんな思いまでして移動しなくないと考えるのが普通で、今では本に書き残されているだけで使い手はいない。
「危ないから俺も……いやトロッコとレールを使えば便利なのか?」
そもそもレールはあるのかと内心首を傾げた。
「ほう? 利用方法を思いついたか」
「わりと誰でも思いつきそうだから、それが広まっていないということは失敗したのかな」
「誰でも思いつきそうとは言うが、そういった魔法があると知られておらんから思いつきようがないと思うがのう。どういった感じで利用するんじゃ?」
興味深々といった目でローランドは話すように促す。
「自分の体で爆発を受けるから危ないんであって、頑丈なトロッコとかなら衝撃に耐えられてすごい勢いで進みそうだなと」
「できるかもしれんのう。横転しそうでもあるが」
「あー、勢いよすぎるとするかも。ふむん、俺の魔法が使えるのか? いやでも同じく横転する可能性も」
ジェットムーブを使ってみて横転するかもしれない理由を考えて、道の整備ができていなければまともに使えたものではないのではと思いつく。
レールのような安定した道か船のように重い乗り物を動かす場合に適しているという結論が早人の中で出た。
それをローランドにも話す。
「なるほどのう。推測ができたら、あとは裏付けるための実験が必要じゃな。機会があればやってみるといい。風やオールがなくとも進める船は船乗りなら欲しがる。使い物になれば、魔法塾が買い取るからな」
「ええ、やってみます。それで話がだいぶずれましたが、魔法の修正を」
「それが目的じゃったな。どれ一度見てみよう。外に行こうか」
小さな公園ほどある庭に、二人は出る。
三人の講師がいて、それぞれ受け持ちの生徒に魔法を教えていた。
「使ってみてくれるかの?」
「はい。ジェットムーブ」
背中から風が吹き出し、早人を押す。数歩進んだところで、斜め上に押される感覚があり、勝手にジャンプした形になる。
「うわっとと」
これ以上は暴走しそうだと考えた早人は魔法を止める。
ローランドの元に戻り、こんな感じだと言う。
「そんな感じの魔法か。見た感じ風を吹かせる方向を変えれば大丈夫そうじゃな。こう口で言うのは簡単だが、細かなコントロールが必要になると思う」
長年魔法に携わってきただけあって、問題点を容易く見抜く。
そして徒歩移動用としては不向きだろうとも付け加える。
「不向きですか?」
「うむ。歩いたり走ったりすれば体の位置は容易に変わる。ましてや体の向きを変えたらな。それらに対応した細かなコントロールなどやってられん」
「乗り物を押すための魔法って考えた方がいい感じですかね?」
「わしならそうするな」
「そうですかー」
指導者がそう言うならそうなんだろうなと早人は納得した様子を見せる。
この魔法の発想元が、戦闘機なのでなおさらだ。
諦めた早人自身は思い至ってないが、解決策は既に知識として持っている。アニメなどに出てきたロボットが空を飛ぶとき、数ヶ所のスラスターを使っているのを見たことがあるのだ。それを参考にすればいいのだ。
一度納得し諦めたため、その発想が出てくることはなかった。
「話はこれで終わりじゃな。修正というわけにはいかなかったから、ほかになにか魔法を考えたりしてたらそれも見てみるが?」
「ほかにはポテンシャルアップっていう、強人の衣を参考にした能力値上昇の魔法を。上昇率としては闘人の衣くらいですが」
「一つの能力値だけはなく、複数の能力値上昇という感じかの?」
「はい。ただ消費が激しいですけどねー」
「それは他人にもかけられるのか」
早人が頷くと、試しに使ってみてくれと頼まれ、ローランドにかける。
ローランドは軽く動いてみて効果のほどを確かめる。
「すでにある複数の能力値上昇魔法より、少し効果が上のようじゃな。魔力はどれくらい使うんじゃ?」
「百を超すくらいだと」
「その消費でこの効果ならば順当じゃないかの。既存のものだと七十ほどの消費じゃて」
「問題あるかと思ってたら、順当なのか」
魔法に関しての話はここで終わる。
結局たいした仕事はしていないということで、基本的な魔法習得にかかる講義料と同じ五千テルスになった。
魔法塾から出た早人は、旅の基礎知識を教えてくれるような施設がないか、斡旋所で尋ねる。施設はないが、信頼できる冒険者を紹介してくれるということになり、冒険者用の依頼ボードを見ていた四十才ほどの男をこちらに呼ぶ。
「なんの用だ?」
「あなたにちょっとした依頼です。旅などの基礎知識をこちらの方が求めてまして、あなたならいい加減なことは言わないだろうと紹介させてもらいました」
「おお、なんか照れるな」
「早人って言うんだ、よろしく」
早人が差し出した手を男はしっかりと握り返す。
「俺はオルディアスだ。強くはないが、知識はそこそこため込んでいるぜ」
「オルディアスさんは飛び抜けた強さはありませんが、長く冒険者をしてため込んだ知識と経験で、依頼を確実にこなしていく方です。斡旋所も依頼の失敗を避けたいときはオルディアスさんに頼むことがあります」
「たまに新人の指導をして兄貴と呼び慕われてそうだ」
早人の感想に、職員は小さく笑いつつ頷く。
「ええ、そう呼んでいる人が何人かいますね」
「ちょっと手を貸しただけだがな。じゃあ早速始めよう。あそこの椅子に座って話す、でいいな?」
二人は椅子に移動し、講義を始める。
オルディアスは旅に必要な道具、移動中の注意点、野宿の仕方と夜の見張り、簡単な天候予測、新しい町や村に行ったらまず最初にすることなどなど話していく。
コッズの記憶にも旅に関した知識はあるため、それに照らし合わせる形で早人は聞いていった。
「まあ、こんなところか。忘れたり疑問が湧いたらまた来るといい」
「ありがとうございました。これがお礼の五千テルス」
「ん、たしかに」
オルディアスは五枚の青銀貨を受け取り、ポケットにしまう。
そしてオルディアスは疑問に思ったことを聞く。
「お前さん、強いだろう?」
これまで多くの実力者を見てきた経験からなんとなくそう思った。
「技量値能力値ともに高くはあるよ」
「なんで木刀を使ってんだ、なにかの修行か? それだけの強さがあって旅の知識なんて聞くのは不思議なんだが」
「木刀を使ってるのにたいして意味はない。鉄や銅の武器を買うお金がなかったから。今は青銅の剣を買える程度には持ってるけど、鶴を倒すなら木刀で大丈夫みたいだからこのままでいいやと」
「木刀で鶴を倒せるのか、予想以上だったな」
強い者を見てきたと言っても、彼らの使っていた武器は実力にあったもので、早人のように安物を使ってはいなかった。
彼らの中の何人が同じことをできるのか、オルディアスは考える。
「あと旅の知識は必要。ある程度は知ってたけど、ずっと島暮らしで修行をしていた。旅は最近始めたんだ。旅の経験はほとんどなくて、そこら辺の知識は必要だった」
「へー、なるほどな」
納得し頷くオルディアス。
小さい頃から修行して今の実力を得たのだろうと勝手に納得している。
「旅の目的なんかはあるのか?」
「探しものを。まずは情報収集のため王都に行こうと思ってる。こっちは冒険者を始めたばかりだけど、そっちはまだまだ現役でいくの?」
「もう少し頑張れる気はするが、四十五才になる前にはやめてるだろうなぁ。斡旋所から指導員として声がかかってるんで、引退後も安心だ」
現状、似たようなことをしているため指導員という仕事に不満はない。
「たしかにそれは安心だ。話は終わったし俺はもう行こう。旅の道具をそろえるよ。今日はありがとう」
「おう。探しものが見つかるといいな」
話が終わるとオルディアスは職員に呼ばれ受付に向かう。
早人は斡旋所を出て、店を回る。




