町でのあれこれ3
道に人はほとんどおらず、よその村や町に向かう馬車が二台見えるだけだ。
「これなら移動用の魔法を試しても大丈夫そうだ」
使う魔法はジェットエンジンを参考したものだ。肩甲骨あたりから周囲から集め収束した風を勢いよく噴出させ移動速度を上げる。
「名前はジェットムーブでいいか」
早速使ってみると体が前のめりに押される。それにぐっと耐えて魔法を解く。
なんか思っていたのと違うなと早人は首を傾げた。
耐えなければ前に進むのではなく、地面に押し付けられ、そのまま地面にこすりつけられながら不規則な動きをしていただろう。人体でやるねずみ花火のようになっていたはずだ。
狙った効果を出せていないため失敗だが、拷問などには使える魔法だ。
「この方向性は間違いなのか?」
別の移動方法を考えながら進み、沼に到着する。
そのまま沼には入らず、離れたところで昼食を食べることにして、買っておいたパンを取り出し座って食べ始める。
ほかの冒険者たちは早人と同じように休憩していたり、離れたところで戦っていたりする。
魔物たちの様子はというと、三百メートル以上先にワニサイズのヤモリを突いている鶴の集団が見えた。その中にほかの鶴よりも大きな鶴がいた。あれが主なのかと、パンをかじりつつ眺める。
やがて鶴たちは大ヤモリを食べ終わり、ほかの獲物を求めて沼の奥へと飛んでいく。
主だけはその場に残り、誰に教わったのか自己開発したのか、鍛え上げられた上半身の特に腕の筋肉を誇示するように両翼を上に向けて曲げるダブルバイセップスといったボディービルポーズを決めていく。やがて満足したようで眷属を追って飛び立った。
「ポージングは置いとくとして、大自然の厳しさを見たとでもいえばいいのか。大ヤモリを餌にすれば鶴をおびき寄せることができるかもしれないなぁ」
一度くらい試してみようかと思いつつ、パンを口に放り込み、魔法で水を出してコップに注ぐ。
昼食を終えて、木刀片手に鶴を探して歩き出す。
そこに早人よりも年下、十四才ほどの男女が近づいてきて、女が話しかけてくる。少年の方は革のジャケットに青銅の剣を持つ。少女は袖をまくった厚手のコートに、振り回しやすいように削られた木の棒を握り、魔女が使うような三角帽子をかぶっている。
「ちょっといいですか?」
「なにかな」
「狩りのコツなどあれば教えてもらいたいんです。私たち冒険者になって一ヶ月もたってなくて上手く魔物を狩れなくて」
早人は困った表情を浮かべる。
「コツと言われても俺はいっきに接近して武器を振り回しているだけだから、教えられることなんてないぞ?」
「だったら俺たちの戦いを見て、どこか直せそうなところがあれば教えてもらえないか?」
「的確なアドバイスなんぞ、でてこない可能性もあるけど」
少年にそう返すと、それでもいいのでと頼まれる。
早人は少し考える。協力してもいいかなと思った。それがどうしてかわからない。戦いに関してコッズの技術や知識に頼りきりな状態で、誰かを指導などおこがましい。そういった思いがあるから断るはずなのだ。
考えてこれかなという理由を見つけた。
コッズに助けられている状態をありがたく感じている。だから恩返しというわけではないが、自分も誰かを助けたい。
こんなところかなと推測し、すっきりした表情で二人をしっかりと見る。
アドバイスが役立たなくてもいいと返されたから引き受けたのであって、納得できるまで付き合ってくれと言われていたら即座に断っていただろう。そこまで付き合う余裕はない。助けてほしいのはむしろ早人なのだ。
「俺もお金が必要だから狩りやらないといけないんだ。それが終わってからでいいなら」
「「ありがとうございます」」
頭を下げてくる二人に、また後でと言って早人は急ぎ獲物を探す。
小走りでその場を離れて、一匹か二匹でいる鶴を探す。一時間ほどで二匹の大食鶴の首をはねて、そこで今日の狩りを終える。
「二人はどこかいなっと」
二人と話した場所に戻りながら、視線をあちこちに向けて探す。
二人は浅瀬に生えている、草を採取していた。
声をかけると、二人は草を急いで採取して早人のいる岸に走ってくる。
「狩りは終わった?」
聞いてきた少年に頷き、袋の中身を見せる。
駆け出しどころか、一人前の冒険者にとっても大成果といえる獲物に感嘆と羨ましそうな声が上がる。
「んじゃ始めたいと思うけど、二人の名前は?」
「俺はジーファル」
「私はノララです」
「俺は早人。二人は家族じゃないよな?」
見た目に似たところがなく、幼馴染あたりかと思いつつ聞く。
「家が近所で小さい頃から遊んでいた仲です」
「俺が冒険者になるって言ったら一緒に登録してくれたんだ」
「長い付き合いなのか、だったら連携とか大丈夫そうだな」
冒険者のような危険な職についてきたということは、ノララはジーファルに好意を持っていて心配になってついてきたと早人は推測する。
それは当たっていた。
「とりあえずは二人がどんな感じで戦っているのか見ないことには駄目だな。獲物を探しながら、二人の戦闘スタイルを教えてもらおうか」
歩き出す早人に二人はついていき、それぞれの戦い方を話し出す。
「俺は見てのとおり剣を使う。剣の才があったらしくて。盾はお金がないから使ってない。魔物の攻撃はできるだけ避けるようにしてる」
「私は叔父から教えてもらった二つの魔法を使います。棒は近寄られたら振り回して牽制するだけで、使いこなすことはできません。魔法はアーススパイクとエアボールです」
「魔法の効果は?」
「アーススパイクは固めた土の杭を地面から生やして攻撃します。エアボールは風の塊をぶつけて相手を押します」
ほうほうと頷いた早人は、戦い方を聞く。
「まず魔物を探します。たとえば大イモリを見つけたとして、私がアーススパイクで先制して、ダメージを与えるついでに大イモリの体勢を崩します」
「次に俺が接近して叩く。ノララが魔法の準備を整えたら合図してもらって下がって、また突撃」
「聞いてるかぎりだと問題なさそうだけどね」
きちんと役割分担できているし、互いの行動の邪魔もしていない。
「なにが問題なんだろう?」
「倒しきれずに逃げられるときが」
「あとは戦いの音に引き寄せられて魔物が近寄ってきたとき、対処できずに逃げるしか」
「解決点は火力不足と仲間不足、この二つじゃないかな」
戦いを見ずに問題解決したので帰っていいかなと思う早人。
それをなんとなく察したか二人は、早人にしっかりと戦い方を見てほしいと言ってくる。
一度引き受けると言ったので帰らず、浅瀬に見つけたまだら蛙へと二人を誘導する。
「アーススパイク」
ノララがトンッと棒を地面に突いて、魔法が発動する。
水飛沫を上げて勢いよく尖った地面が盛り上がる。
土の杭は蛙の腹を少し傷つけたが、動きに支障はないようで、迫るジーファルに口を開けて舌を伸ばす。
まだら蛙と何度か戦ったことのあるジーファルは、口が開いた時点で横に移動しており、舌は地面を叩く。
舌が引き戻される前に、ジーファルは蛙の口の中へと剣を突き出し、そのまま貫いた。
「魔法行くよ!」
ノララの声を聞いたジーファルは剣から手を放して下がる。
痛みにゲギョゲギョと鳴く蛙に、ノララはもう一度アーススパイクを使って腹を強打する。
蛙は力なく一声鳴いて、動きを止めた。
ジーファルは剣を回収し、倒した蛙を袋に入れる。
「いつも蛙は倒せる?」
早人は近くにいるノララに聞く。
「はい。蛙はあまり強くないので、何度か戦ううちに安定した狩りができるようになりました。難しいのは鶴は当然として、大イモリ、蛇です」
「いつも狙っているのは蟹と魚と蛙ってことか」
回収を終えたジーファルが近づいてくる。
「今の戦いでなにかわかりました?」
「まあそれぞれ一つくらいは」
アドバイスを聞けると二人の表情は明るくなる。
「そんなに期待されてもね。まずジーファルは闘人の衣を使わないの?」
「剣を扱い始めて一ヶ月くらいの俺が戦技なんて使えないっすよ」
「いや闘人の衣は習得難易度は低いからいけると思うけどね」
コッズの知識では、ある程度体ができている者ならば誰でも使うことができるとなっていた。
ジーファルは子供というわけではないし、魔物との戦闘経験もある。十分に基準をクリアしているだろう。
「ジーファルの課題は闘人の衣習得だろう。今後冒険者続けていくならさっさと習得しておいた方がいい。ノララは簡単、手札を増やすこと。アーススパイクより威力の高い攻撃魔法習得は必須だろうね。見た感じアーススパイクが与えるダメージはそれほど大きくないし。俺は使ったことないけど、魔法塾ってのがあるんだろう?」




