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帝国変換  作者: ありあけ
第二次世界大戦編
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第5話 謀略

第二次遣欧艦隊(日本出発時)


第2航空護衛戦隊・・・空母『龍鳳』、『天鳳』、『紅鳳』、『蒼鳳』。


第3戦隊・・・戦艦『天城』、『赤城』。


(新)第一巡洋戦隊・・・巡洋艦『最上』、『三隈』。


駆逐艦・・・24隻(内、16隻が松型、4隻が秋月型)


備考


この時点で秋月型は全部で5隻が竣工している。ちなみに第一巡洋戦隊は欧州で『利根』と『筑摩』が沈んだ事で壊滅した為、新しく再編された。また今回は第一次の時とは違い、陸上兵力は派遣されていない。

西暦1938年 11月30日 大日本帝国 帝都


 ジャッジメント作戦の成功を受け、日本では転移メンバー達が会議を開いていた。



「ジャッジメント作戦が成功し、これで枢軸軍の戦艦は0。アフリカ戦線は此方からの攻勢が出来そうだな」



 春川が連合軍の攻勢を予想する。


 実際、アフリカ方面の連合軍は春川と同じような事を考えていて、攻勢の準備を今も進めていた。



「しかし、ドイツは史実より苦境に陥っていますね」



 岡辺が史実のドイツと比べるようにそう言った。


 ドイツはこの歴史ではイギリス攻略に躓き、ノルウェー攻略にも躓き、更にアフリカ方面の戦いも躓きそうといった感じだ。


 開戦から1年3ヶ月、この期間でドイツが苦境に陥るのは史実を知る人間ならば考え難い事だ。



「とは言え、ドイツは致命的な打撃を受けたわけではない。下手に手を突っ込むと大火傷だ」



 夕季は慢心を戒めるように言った。


 確かにドイツは攻勢が手詰まりになってはいるが、史実のスターリングラード攻防戦のような大打撃を受けたわけではない。


 むしろ、陸上兵力は殆ど減っていないと言っても良い。



「だが、これでドイツの目が次に何処に行くかは予想が着くな」



 有村の言葉に転移メンバーは頷く。


 西も駄目、北も駄目、そして、南も駄目となると、向ける場所は1つしか無かった。


 それは東、ソ連である。


 ちなみにドイツとソ連が同盟を組む可能性は絶対無いとここに居る転移メンバー全員が考えていた。


 何故か?


 それは元々ドイツは国是としてはソ連が主敵になっていたからだ。


 ヒトラー自身が書いた『我が闘争』には東方の生存圏、特にウクライナの事について触れられていて、その確保が重要とあるので、これの意味するところは言わずとも分かるだろう。


 ちなみに『我が闘争』は史実の日本では都合の良いように翻訳されて国民に読まれていたが、この世界では転移メンバーの働きによって原版のまま翻訳されて国民に読まれていた為、日本国民の反独感情はすこぶる高まっている。


 そして、二つ目にドイツにとっては攻めるのに都合の良い状況が出来上がっている事が挙げられる。


 ソ連の主力は現在、ロシアと日本義勇軍の連合軍とぶつかり合っていて、ヨーロッパは比較的手薄となっている。


 これほどドイツにとって都合の良い状況は他に無いだろう。


 更にドイツは知らない事であったが、ソ連の軍備は史実よりも遅れていた。


 これは先にも言った通り、ラパッロ条約が影響している。


 対して、ドイツは今現在で既に史実バルバロッサ作戦時並の軍備を持っている。


 もしかしたら、ソ連は史実よりもあっさりと崩壊してしまうかもしれない。



「まあ、それで日本がどう反応するかが問題なんだよなぁ」



 春川がそう言って、頬をポリポリと書いた。


 ドイツがソ連に攻め行った場合、日本がどう反応するかは確かに問題だった。


 まさかドイツと共にソ連を本格的に攻めようなどという訳にはいかないし、そんなつもりも更々無い。


 だが、ドイツに本格的に攻められてソ連が苦境に陥った場合、ソ連がどう行動してくるか?


 これはおそらく第二次世界大戦の1つのターニングポイントになるだろう。


 ちなみにソ連がなんら外交的手段を取らず、自力で何とかするという行動は絶対に有り得ない。


 何故なら、史実で独ソ戦にソ連が勝ったのは、アメリカの武器貸与(レンドリース)によるところが大きいからだ。


 史実ではそれでも年に100万人という餓死者を出している為、武器貸与(レンドリース)が無い上に外交的にも孤立無援の状態で自力で何とかしようしたらどうなるかは、もう分かりきっている事だった。


 故に、その時、ソ連がなんらかの外交的手段を取ることは明白だった。



「まあ、その場合、ソ連にとって一番良いのはアメリカに援助を依頼する事だが・・・無理だろうな」



 春川の言った事は正しかった。


 ドイツと戦争を行っている日英とは違い、アメリカは未だ第二次世界大戦に参戦していない。


 なので、アメリカには多少の余裕がある為、武器売買ならいざ知らず、政治体制的にも絶対に合わないアメリカがソ連を無償援助するなどという事は絶対に有り得ないと言っても良かった。



「ソ連とドイツが殴りあってくれれば、必然的に此方の陸軍の損害は少なくなるんですがねぇ」



 青木の言った事は当たり前の論理だった。


 ドイツとソ連が争うという事は、双方多数の陸軍兵力と空軍兵力がその戦いに投入されるという事であり、相対的に日英軍への陸軍の損害は減るという事になる。


 ドイツだけでなく、ソ連にも半ば喧嘩を売っている状態の日本にとってはこの上なく好都合だった。 



「さて、どうなるか。暫し、様子を見てみようか」



 こうして日本は傍観を決め込む事になった。


 


 













◇西暦1938年 12月20日 イギリス ロンドン 首相執務室



「ふむ、これは久し振りの良い知らせだな」



 チャーチルは顔を綻ばせた。


 ジャッジメント作戦の成功により、イタリア海軍の動きは鈍くなり、地中海方面は連合軍優位に動き始めた。


 既にドイツ軍はリビア国境に撤退しつつあり、ドイツ軍によるスエズ運河占領は頓挫したと言える。


 更にドイツがソ連と開戦しようと、ポーランド方面に兵力を集めていると聞き、ファシスト嫌いではあるが、同じくらい大嫌いでもあるソ連が叩かれると聞いて、精々殴りあって消耗して欲しいものだと、チャーチルは節に願っていた。


 だが、同時にもどかしさを感じていた。



「問題は攻勢だな。どうしても兵力が足りない」



 現在、各連邦諸国から兵力をかき集めていたが、やはりダンケルクの損害は大きく、簡単には補充できなかった。


 しかし、来年の春頃にはどうにかリビアに再侵攻するだけの兵力が集まりそうだった為、それほど深刻な問題ではなかった。



「しかし、日本はなかなかやるな」



 日本の参戦以来、ヨーロッパ方面では戦況が改善されていた。


 先のジャッジメント作戦の成功も、日本の功績によるところが大きく、チャーチルは日英同盟を結んでいて正解だったと改めて思うのだった。


 しかし、対称的に心象が悪くなっていたのはアメリカだった。 



「まったく、あの植民地人どもめ。我が国がこんなに苦労しているのに、金儲けなんぞしおって!!」



 チャーチルはイギリスがこんなに苦労しているのに、参戦もせず、金儲けや植民地開発に没頭するアメリカにイラついていた。


 更に戦後になれば、おそらく衰退したヨーロッパに変わり、アメリカが世界の覇者に名乗り出て来ると予想されるので、その事もチャーチルにとっては面白く無いことだった。


 とは言え、今のところ、そのような愚痴を吐くぐらいでしか鬱憤を晴らす方法はない。


 なんせ、アメリカは英国をも越える大国になっているのだから。



「ふん。まあいい。取り敢えず、大英帝国の滅亡が遠ざかっただけでも良しとするか」



 チャーチルはそう言って再び執務に没頭する事となった。















◇西暦1939年 1月25日 ドイツ ベルリン


 昨年の12月に第二次遣欧艦隊が出撃し、英国に向かっている途中だったその頃、ドイツ第3帝国の首都ベルリンでは、ヒトラーがある2つの資料を見ながらニヤリと笑っていた。



「ふむ。陸軍と空軍の主力は順調にポーランドに配備出来ているな。これでスラブ民族の抹消は確実だな」



 だが、そう言いつつもヒトラーの顔は優れなかった。



「鉄鉱石が足りないか。これは少し不味いな」



 前にも言ったが、ドイツはスウェーデンから鉄鉱石を買っていた。


 だが、冬季にはスウェーデンの港は皆、凍ってしまう為、ノルウェーのナルヴィクから仕入れるしかなかった。


 しかし、連合軍がノルウェーを占拠してしまっている為、鉄の製造に使う鉄鉱石の量が足りなくなってきたのだ。


 よって、短期決戦を行う必要があった。


 そして、ソ連の侵攻の際にもう1つのプランも立てられていた。



「コラ半島を通してのノルウェー攻略。そして、それに伴ってフィンランドも攻略する。さすれば、スウェーデンからの鉄鉱石輸入は容易となるだろう」



 ヒトラーはコラ半島を通してのノルウェー攻略と共にフィンランド攻略も同時に考えていた。


 此処を攻略すればスウェーデンから直接鉄鉱石を輸入する事が出来るからである。


 そして、ヒトラーはフィンランド攻略は容易だと考えていた。


 何故なら、連合軍が居るノルウェーは兎も角、フィンランドにはこれといった産業や軍事力は無いからである。


 これはヒトラーだけでなく、この時代の普通の人間なら容易にフィンランドを攻略できると考えるだろう。


 だが、ヒトラー、いや、この時代の人間はまだ知らなかった。


 フィンランド攻略がそう簡単にはいかないことを。


 そして、ドイツは後に史実の冬戦争でソ連が味わった苦痛をその身で味わう事になるのである。
















◇西暦1939年 3月19日 南シナ海 第一次遣欧艦隊 旗艦『加賀』


 第二次遣欧艦隊と入れ替わりに第一次遣欧艦隊は日本に向けて帰路に着いていた。


 その数は当たり前だが、日本出発時の第一次遣欧艦隊に比べて数は少なかった。


 特に第一航空戦隊に至ってはパイロットの消耗は必死の回収作業によって抑えたとは言え、それでもそれなりに消耗は激しかった。


 そして、機体そのものはアフリカ方面の支援作戦によって殆ど失ってしまっていた。


 よって、補給の為に日本に戻る必要があったのだ。



「しかし、欧州はかなりの激戦地だったな」



 山本はそう呟く。


 実際、第一次遣欧艦隊は艦船だけで言えば半数を失っていたのだ。


 史実の偉人である山本がそう言うのも無理はなかった。



「しかし、陸上兵力まで帰還させるとは、北のそれほど激しいのか?」



 実は第一次遣欧艦隊と共に欧州に派遣されていた日本陸軍1個旅団は本国からの命令で第一次遣欧艦隊と共に帰還しようとしていた。


 これは本国、厳密に言えば転移メンバー達が1個旅団では欧州に置いていてもあまり意味が無い為、その1個旅団をロシア向けの義勇軍として投入するつもりだったからだ。


 だが、結果的に遥々欧州まで行っておきながら、何もしなかった形となってしまった為、当の旅団の将兵達は不満たらたらであった。


 しかし、新たに北の戦場に派遣されると聞いて、気合いを入れ直す者も居た。


 なにしろ、陸軍の仮想敵国はソ連なのだ。


 ちなみに海軍の仮想敵国はアメリカである。


 史実ではこの仮想敵国の違いが様々な問題を引き起こしていたが、この世界では陸海軍は防衛省という1つの組織に纏まっている為、互いの考えを多少は理解していたので、それほど問題になってはいない。



「まあ、なんにしても、北では我々の出番は無いだろう。また欧州に行く準備でも整えておくかな」



 山本はそう考えていた。


 それは偶然だが、夕季と同じ考えだった。


 実際、海軍の戦いは欧州方面が主力になっているし、北ではどのように戦況が変わるにしても海軍の出番はあまり無いことは確かだった。


 そして、それを考えているのは何も夕季と山本だけでは無いだろう。


 海軍上層部、或いは陸空軍の上層部もそのように考えていた。


 だが、彼は知らない。


 後にとある経緯から北では無いものの、別方向からの強大な敵に日本は立ち向かう事になるという事を。
















◇西暦1939年 3月21日 アメリカ合衆国 某所


 アメリカ合衆国。


 その名は未だ第二次世界大戦に参加していない世界最大の超大国である。


 そして、その国力は転移メンバーの働きを持ってしても未だに日本は追い付けていない程のものであり、日本からしてみれば、この国との戦争は絶対に避けたいものである。


 さて、そんなアメリカ合衆国の某所に2人の男達が会話を行っていた。



「本当に支援は行ってくれるのだろうな?」



「ああ、それは間違いないさ。我々は本国とは違い、君達の行動を応援している立場だからな」



 確かめるように尋ねる男に対して、尋ねられたもう1人の男はそう切り返す。


 すると、尋ねた方の男は顔を綻ばせた。



「そうか。それは良かった。なにしろ、嘆かわしい事に、この国では我々の思想は理解されていないからな。無礼な事を言ってすまん」



「いや、良いさ。それよりも例の計画。絶対に成功させてくれよ?」



「ああ、分かっている」



 どうやら片方の男が所属する組織は何らかの計画を練っているらしい。


 それが何の計画かは決して話さない。


 何処で聞き耳を立てられているか分からず、且つこの計画はこの国の政府に聞かれれば失敗の可能性が高くなってしまうからだ。



「では、また会おう」



「了解」



 そう言って男達は別れた。


 そして、彼らの言った“計画”は後に世界中に波紋を呼び起こす事になるが、今の段階ではそれを誰も知らない。

第一次遣欧艦隊残存艦


第一航空戦隊・・・空母『蒼龍』、『飛龍』。


第一航空護衛戦隊・・・空母『瑞鳳』。


第2戦隊・・・戦艦『加賀』。


駆逐艦・・・11隻(内、7隻が松型)。


輸送船10隻。


備考


これらの艦隊は艦載機などの補充の為、全て本土に戻されている。

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