第37話 それぞれの危機
30式戦闘機『雷電』
50式戦闘機の1つ前である第4世代の戦闘機。史実のF16をベースに造られていて、F2とはまた違った意味で『名前だけ同じの別物』となっている。最大速力はマッハ2、4。航続距離は3100キロ。対空ミサイル最大8基搭載。対地ミサイルも搭載可能。対艦ミサイルも2発までなら搭載可能。
転移歴1年(西暦2001年) 12月27日 レンティス共和国 北東沖 エリストア帝国第4艦隊 旗艦『アリストア』
エリストア帝国第4艦隊旗艦『アリストア』の艦橋に司令官、ボーア=イーデッツは佇んでいた。
「・・・」
ボーアは瞑想をしつつ、今後の顛末について考えていた。
(まさか、我々が出ることになるとはな)
実はこの第4艦隊は、後詰めの艦隊であり、本来は最前線に出ることは元の世界では滅多に無かった。
それが今回の戦争で、前線に出ていた艦隊の艦艇が次々と撃沈されたり、戦闘不能になったりした為、前線まで駆り出される事になったのだ。
(陸上部隊の損耗率もまだ敵の陸軍ともろくに戦っていないうちから4割近くやられている。本来は今のうちに講和の準備をしておくべきなのだが・・・)
そう、レンティス共和国海軍にやられていたのは、なにも海軍だけではない。
陸軍も揚陸艦ごと潜水艦やミサイル搭載艦に襲撃されて撃沈された事で、4割近い戦力を失っていたのだ。
それでも現在進撃できているのは、レンティス共和国が震災による混乱に立ち直っていないからにすぎなかった。
更に上陸したエリストア帝国陸軍も、ここまでレンティス共和国陸軍と全く戦っていない訳ではない。
幾つか戦闘をこなしていて、その度に甚大な被害を出しながら制圧していた。
そして、最近では制空権すら全く確保できていないと聞いていた。
はっきり言って、何時逆転されても可笑しくない状況であったのだが、本国では引き際を見定めていないらしく、軍には『増援を送るから更に進撃せよ』と命令されていた。
「まったく、ニホンとやらもこれと同じ装備だったら大変だぞ・・・」
ボーアはそう思ったが、彼は知らない。
既に日本軍の放った刺客が海中に潜んでいる事を。
◇西暦2001年 12月31日 大日本帝国 帝都 有栖川宅
「こちらの刺客は順調な戦果を挙げているな・・・」
日本の東京にある有栖川宅で、夕季はとある報告書を読んでいた。
ちなみに夕季の言う“刺客”とは、レンティス共和国沖に派遣していた日本海軍の潜水艦隊の事である。
本来なら、監視に留めていた筈なのだが、それは現在のところ、撃沈に変更されていた。
(まだレンティス共和国から軍事支援の要請は来ていない以上、大っぴらな参戦は出来ないからな。だからせめて潜水艦で敵艦隊だけでも仕留めようと考えたのだが・・・どうやら成功したみたいだな)
実を言うと、これは夕季が考え、他の転移メンバーに提案した案であった。
レンティス共和国のこれからの戦局次第だが、日本に対して参戦を求めてくる可能性もあるし、または参戦要求が無くとも現在の経済的事情から日本自ら参戦する可能性もある。
と言うか、後者の可能性が高い。
だが、相手は戦艦も多く居る為、通常の航空機や艦船での攻撃では、凄く手間が掛かるし、対艦ミサイルも多く使ってしまう。
よって、潜水艦からの魚雷攻撃が有効と見られていたので、本格参戦する前に敵の戦艦を出来るだけ削ってしまおうと考えたのだ。
ちなみに、潜水艦の攻撃優先順位は戦艦→空母→その他の護衛艦艇の順番であった。
輸送船などの船が入っていないのは、まだ本格参戦していないので、通商破壊戦をするのは政治的に不味いと考えたからだ。
もっとも、戦闘艦艇をこんなに簡単に沈められるようでは、そんな配慮もあまり意味が無かったかもしれなかったが。
「レンティス共和国陸軍でも反撃は開始されている。問題はむしろこっちだな」
そう言って夕季が新たに見始めたのは、例の伝染病についてだった。
勿論、対策は既に始まっている。
氷島は無事に隔離。
更にレベル4クラスの細菌研究所の稼働も開始している為、早ければ半年後には結果が出るだろう。
だが、それでも氷島が本土の近くにあるという現実は変わらず、海上封鎖によって本土南の漁業や船舶の運航に支障が出ていたので、経済的打撃は馬鹿にならなかった。
いや、問題はそれだけではない。
国民の不満が溜まっているのだ。
それはそうだろう。
転移直後の外国株の“消失”や、失業者の増加に、ここ2年の間の経済の衰退、更にそれによる自殺者の発生。
そして、それが落ち着いたと思ったら、今度は貿易相手国の戦争と災害による貿易制限に、内需の希望だった氷島での伝染病発生。
不満が溜まらない方が可笑しい。
それを一気に解決するには、前述したように戦争による特需しかないのだが、それは一時的にもので、時間が経てば終わりだ。
更に特需と言っても、他国への輸出は技術の漏洩的な意味合いからも不味いと考えられていた為、必然的に日本自ら戦争を仕掛けての特需になるので、死人も少なからず出る。
これらの問題点から、戦争という手段はそう易々と取るわけにはいかなかったのだ。
もっとも、一時しのぎとしては適当かもしれなかったが。
「失業者については軍隊への受け入れと、警察の採用人数増大などで一定の抑えは効いているが・・・」
この失業者の増加に、国も何も手を打たなかった訳ではない。
軍事費の増大に繋がる事を承知での軍隊への大幅募集に、警察官の採用人数の増加など、ありとあらゆる手を打っていた。
だが、これらは焼け石に水だった。
失業者が多すぎたのだ。
そして、企業などにも協力を要請して、出来る限り雇って貰えるように頼んでいたが、こちらも芳しくなかった。
何故なら、どの企業も建て直しに必死だったからだ。
それは大企業を始め、夕季の有栖川財団でさえ例外ではない。
実際、有栖川財団傘下の中小企業は数十社がここ2年で潰れていた。
更に言えば、資産家も少なくない数が路頭に迷うという事態に陥っていた。
やはり、外国株の消失は大きかったのだ。
「これは不味いな・・・」
夕季は頭を絞って打開策を考えるが、何も思い付かない。
どう考えても、最終的には戦争という手段に結び付いてしまうのだから。
しかもこれは短期的な一時凌ぎで、根本的な解決にはならない。
「う~ん」
夕季は頭を悩ませていた。
そして、そんな夕季を部屋の隅からアウロラが不安そうに見つめていた。
(どうしたのかしら?)
アウロラは疑問に思っていた。
アウロラは女神ではあるものの、人間の経済についてはよく知らない。
故に、今、日本がどれだけ危機に晒されているか分からない。
そもそも彼女が転生者達をこの国に転移させたのも、日本を外敵から守る、つまり、軍事力を先進させようと考えていたからだ。
それどころか、伊座となったら自分が直接手を出して、日本に仇なす国を潰そうとすら考えた事があったのだ。
結局、転移メンバーのみでなんとかなった上に、彼女自身もあまりやりたくは無かったので、その考えは無意味となったのだが。
そして、軍事関係のメンバーのみならず、産業関係や経済関係のメンバーを送ったのも、これらが軍事力を支える柱だと分かっていたからだ。
だが、彼女自身はそれらの知識、それも専門的な事は全然分からなかった。
ただ、そういうものだというのが大雑把に分かっていただけである。
故に、夕季の悩みも理解できる筈も無かったのだ。
日本を外敵から守れば、日本は安全だと思っていたのだから。
もっとも、それはそれで、あながち間違った考え方でもない。
日本で内戦でも起こらない限りは、だが。
そして、何故彼女が日本、それもその軍事力に固執するのか、転移メンバーを含めて日本人の誰もが知らない。
知っているのはアウロラだけである。
もっとも、彼女は他の誰にも言うつもりは無かったのだが。
少なくとも、今はまだ。
◇転移歴2年(西暦2002年) 1月7日 エリストア帝国 帝都エルヴィス
「「「・・・・・・」」」
エリストア帝国帝都エルヴィスでは、閣僚会議が開かれていたが、その場の空気は重かった。
そんな中、エリストア帝国皇帝、サンドラは口を開いた。
「・・・エル長官」
「はっ」
「あの大陸で何が起こっているのか説明しろ」
「・・・分かりました」
そう言ってエルは立ち上がり、ラトヴィア大陸での戦況を説明する。
「1月2日。我が国の陸軍5万人とレンティス共和国の陸軍1万8000人が衝突し、戦いの結果・・・敗走しました」
そのエルの報告によって、場の空気は更に重くなったが、エルは構わずに続けた。
「その後も小競り合いは続いていますが、これについても我が軍は徐々に敗北しており、このままでは1ヶ月以内にはラトヴィア大陸から追い落とされるかと」
その報告にどよめきの声が上がった。
当然だろう。
陸軍のトップが自分達が負けるという発言をしているのだから。
そして、サンドラはエルに対して尋ねるように言った。
「何故、負けたのだ?」
「・・・情報不足も大きな要因ですが・・・一番の要因はやはり制空権の喪失だったかと」
制空権。
これは地球世界では第一次世界大戦から現代まで、戦況を左右する要だ。
これを喪失してしまうと、近代軍というのは、かなり行動が制限されてしまう事になる。
もっとも、地の利があれば多少はなんとかなるかもしれないが、戦略的な視点では結局変わらない。
「それに、制海権も最近は怪しくなってきています」
エルはドリアの方をチラリと見ながらそう言った。
だが、流石にこれにはドリアの方も反論する。
「我が海軍はきちんと仕事は行っている!!」
嘘ではない。
エリストア帝国海軍は“一応”現在でもレンティス共和国周辺の制海権を確保している。
もっとも、とんでもない被害を出してはいたが。
だが、その反論にエルは納得しなかった。
「では、何故揚陸艦や輸送艦が沈められているのだ?あれのせいで我々は敵と戦う前から大損害を被っているのだが?」
エルは皮肉げにそう言ったが、目は笑っていなかった。
当然だろう。
陸軍の彼からすれば、陸上部隊を運ぶ輸送船の護衛は海軍の仕事だ。
にも関わらず、その陸上部隊を載せた輸送船舶は片っ端から撃沈されている。
これで仕事が出来ていると言えるか?
彼の目はそう訴えていた。
「それに、海軍自慢の戦艦も既に何隻もやられていると聞いたが?」
この言葉にドリアは顔に青筋を浮かべたが、何も言うことが出来なかった。
海軍はこれまでの戦いで、マトリア級戦艦(モンタナ擬き)1隻が大破し、ドック入り。
3隻が中小の被害を負っていた。
そして、イリトリア級やアカミア級などの旧式戦艦に至っては双方合わせて10隻が撃沈され、もう10隻が大中小破している。
しかも、これは戦艦だけの被害である。
空母に至っては敵が集中的に狙った為か、殆どが撃沈され、数隻がなんとか生き残っている程度であった。
ちなみにこれらの被害の中には日本海軍の仕業であるものも有ったりする。
「このように様々な要因により、我が軍は敗北しています」
エルはサンドラに向かってそう言った。
「・・・分かった。座りたまえ」
サンドラがエルに向かってそう言い、エルは黙ってそれに従って席へと座った。
そして、サンドラは口を開く。
「今の陸軍大臣の言葉を踏まえて、我としてもここで今後の見解を言っておきたい」
その言葉に閣僚達は一斉に耳を傾けた。
「結論としてはラトヴィア大陸侵攻は継続する。ただし、3月になっても結果が出なかった場合、講和も検討する」
閣僚達はどよめいた。
しかし、反対意見は無かった。
実を言うと、この度の敗戦はどう判断を着けて良いべきか、大半の閣僚が迷っていた。
確かに5万人の敗走は大損害ではあったのだが、エリストア帝国陸軍全体を見れば、侵攻が頓挫する程の被害ではない。
また海軍も空母はほぼ全て失ったものの、肝心の戦艦は元が合計50隻というアホみたいな数の為か、同じく大損害ではあるが、致命的とまでは行っていなかった。
更にエリストア帝国にとっては不幸な事に、これまでの戦いで航空攻撃によって撃沈された戦艦が居なかった(潜水艦が撃沈した艦が殆ど。一応、ミサイルで撃沈した艦もあるが、ミサイルは航空攻撃には数えられていない)為、航空機、特に制空権の重要性をよく理解していなかった。
いや、全く理解していないという訳ではないのだが、地球の第二次世界大戦頃の国々から見たら、楽観的なものになるのは否めなかった。
もっとも、文明レベルが違いすぎるので、気づいたとしてもあまり大した違いは無かっただろうが。
話を戻すと、早い話、被害が中途半端であった為に、全ての閣僚がこのまま侵攻するべきか、それとも止めるべきか迷っていたのだ。
普通なら迷わず講和だと考えるだろうが、人間というのは勝った後で被害があったり、負けたりすると、それを取り戻そうと意固地になる習性があるのだ。
これはギャンブルでも同じことが言える。
と言うより、こういう人間の習性が無ければ、ギャンブル関係の商業は軒並み潰れているだろう。
だからこそ、サンドラの発言は願ったり叶ったりだった。
それが責任の押し付け、他力本願だと知りつつも。
かくして、エリストア帝国の今後の方針は決定された。
だが、後にそれが甘い結論であったという事を嫌という程思い知らされる事になる。
32式戦車
第3世代戦車。ほぼ史実の90式戦車を意識して造られているが、史実の90式と違い、対ソ戦(有りたいに言えば冬季戦)をそれほどまでに意識していない為、どちらかと言えば10式と同じく全天候型仕様となっている。その為、軽量化が図られている為、48トンと史実の90式よりニトンも軽い。もっとも、90式より冬季戦能力は少し劣ってしまったが。




