第36話 混乱
50式戦闘機 『神雷』
皇紀2650年の二大兵器と呼ばれる内の1つ。第5世代戦闘機で史実のF22に該当する戦闘機。速力はF22と同じマッハ2、5。ステルス性能こそF22には若干劣るが、武装に関しては上回っている。
転移歴1年 12月10日 レンティス共和国 ビーダス港
レンティス共和国の港の1つ、ビーダス港ではエリストア帝国との開戦に向けて艦艇の整備が進められていた。
「しかし、いよいよ戦争か。久しぶりだな」
停泊しているレンティス共和国巡洋艦『ハリ』の甲板で、何人かの水兵が作業をしながら話していた。
「そうだな。元の世界では殆ど戦争など無かったからな」
彼らの元の世界、すなわちレンティス共和国を含めたラトヴィア大陸各国が元居た世界では、基本的に大規模な戦争は無かった。
これは彼らの世界では地球世界のように日本やロシア、アメリカなどの圧倒的な存在が居なく、全ての国で核(具体的には少し違うが、便宜上核としておく)配備が成されていたので、互いに牽制しあってしまい、紛争を含む戦争はここ半世紀、殆ど起きていなかったのだ。
つまり、彼らの世界は『理想的なMAD』を体現したような世界だったのである。
そんな地球以上に綱渡りな世界にいれば、各国の軍隊の緊張は凄まじいものとなるだろう・・・普通はそう考えるだろうが、生憎そうでもなかった。
人間は大抵の事には慣れるもの。
この多国による冷戦環境に慣れきってからは、緊張がほぐれてしまっていた。
それはある意味必然と言えた。
なんせ、転移メンバーが生まれた日本国でさえ、冷戦の最前線の位置に居て、かつ核兵器を持たないという環境の中で平和ボケし始めていたのだから、最前線とは言え、核兵器を持ち、尚且つ曲がりなりにも平和だった国の緊張感など推して図るべしであった。
もっとも、それは今は関係ない。
これから彼らを襲うのは、“天変地異”なのだから。
「ん?」
最初に気づいたのは、港で作業をしていた水兵だった。
それを見た同僚が心配するように声を掛ける。
「どうした?」
「いや、なんか揺れてないか?」
「そう言えば、うわっ!!」
この日、レンティス共和国を地震という名の災害が襲った。
◇転移歴1年 12月19日 大日本帝国 帝都
「まさか、震度5程の地震であっさりとレンティス共和国各地が壊滅してしまうとは・・・」
夕季は半ば呆れながらそう言っていた。
それもその筈。
レンティス共和国で発生した震度5の地震とは、日本人からしてみれば確かに大きな地震ではあったが、例えそこが震源地の近くであろうと、建物が倒壊する程のものでは無かったからだ。
もっとも、耐震建設がろくに成されていない建物であれば、倒壊しただろうが、そんなものを日本で建てれば耐震建設基準法に引っ掛かり、違法となる。
しかし、残念な事に、レンティス共和国のほぼ全ての建物は、その“耐震建設がろくに成されていない建物”だった。
何故、たった震度5程の地震でここまでなったか?
それはレンティス共和国を含むラトヴィア大陸が今まで地震のない場所だった、というのが大きい。
地震は大半はプレートのズレによって引き起こされる災害で、特に日本は4枚のプレートが重なっている為、年がら年中、地震が起きている。
よって、耐震建設技術も古くから発展していたが、レンティス共和国やラトヴィア共和国の在った世界ではプレートが“1枚”で構成されていた為か、地震が全く無かったのだ。
そんな世界で耐震建設技術など、存在する筈もなかった。
その結果、地震により、甚大な被害を出してしまったのだ。
「確か日本周辺ではプレートは転移前と変わらないんだろう?」
「ええ、既に調査で判明しています」
この世界に来て2年近くが経って、段々余裕が出てきた日本では調査の一環として周辺プレートの調査が行われた。
まあ、これは当たり前だろう。
プレートが変化していたりしたら、緊急地震速報機器などの再配備を行わなければならないのだから。
だが、結局、調査の結果、プレートの変化はなく、また緊急地震速報機器も、配備されたままの状況である事が分かっていた。
そして、念のためにレンティス共和国の人間にも話を聞き、向こうに居る大使が地震の事を尋ねたのだが、こういう答えが返ってきたと言う。
『地震?なんですか?それは?』
それを聞いた日本大使は絶句したらしかったが、兎に角、元は地震のない国であるという事は判明していた。
「となると、ラトヴィア大陸の方も変わらないと思うのだがな」
「確かに。交流して1年が経ちますが、向こうで地震があったという話は聞きません。にも関わらず、何故今更これほど大きな地震が・・・」
転移メンバーが少し首を傾げる。
当然だろう。
今まで地震の無かった国が日本ではそれなりの規模になる地震に襲われるなど、地球世界でも滅多にない事だ。
ましてや、レンティス共和国は転移前まで地震そのものが無かったと思われる国。
転移メンバーが首を傾げたのも無理は無かった。
「あれ?」
突然、青木がそんな声を挙げた。
他の転移メンバーは、その声を聞いて青木の方に顔を向けた。
「どうしたんだ?青木?」
有村が声を掛ける。
「いえ、その・・・確かエリストア帝国という国家は数ヶ月程前に転移してきて、レンティス共和国の北東1000キロほどに有るんですよね?」
「ああ、そうだけど、それがどうかしたか?」
「もしかしたら、エリストア帝国が転移してきた事で、プレートが変化してしまったのでは?」
「「「「あっ!」」」」
青木以外の転移メンバーが一斉に声を上げた。
新たな国家の転移によるプレートの変化。
それは完全なる盲点であったからだ。
日本は氷島が転移してきた後もプレートに殆ど変化は無かった。
だからこそ、転移メンバーは“転移によるプレートの変化”などは思いもしない事であったのだ。
「確かに。レンティス共和国が地震のない国であるからって、エリストア帝国がそうではないという保証など、何処にも有りませんでしたね」
「それに・・・もしこれが真実だとすれば、大変な事だぞ!!」
春川の言う通り、これは日本にとっても重要な事だった。
もし日本の近くで何かしらの国なり大陸なりが転移してきた場合、日本周辺のプレートが一気に変わってしまう可能性がある。
それが日本にとって良い結果になるのか、悪い結果になるのか分からないが、日本のプレートを見るに後者の方が可能性が高いので、用心しておくに越したことはない。
「ところで、今までこの話題を避けていたが・・・レンティス共和国とエリストア帝国との戦争はどうなっているんだ?」
有村がその点を指摘した。
だが、その話題をした瞬間、全員が気まずい表情となる。
出来れば避けたかった話題であるからだ。
だが、そのままでいる訳にもいかないので、青木が説明した。
「・・・現在のところ、局地的な海戦ではレンティス共和国が勝利し続けていますが、やはり戦略的なところでは負けていますね」
「もっとも、時間が経てば不利になっていくのはエリストアの方だろうがな」
現在のところ、海戦においては殆どのケースでレンティス共和国が勝利していたが、地震の影響で各所のインフラが破壊されていた為か、数度目の海戦で補給が続かなくなり、撤退に追い込まれていた。
その結果、エリストア帝国は海軍に多大な犠牲を払ったものの、なんとか上陸する事が出来た。
そして、この時点で展開する筈のレンティス共和国陸軍は、各所でインフラが破壊されせいか、思うように動けていないらしい。
更に地震のショックで暴動も起こっているらしく、それも部隊展開を遅らせる原因の1つとなっていた。
だが、文明レベルで半世紀の開きがある以上、いずれはレンティス共和国が勝つと思われていた。
「しかし、なんでこんな時に暴動が?」
青木は首を傾げた。
確かに日本でも大きな地震が起きた時、震災地の周辺で暴動やパニックなどが起きたりするが、それは地震の最中や直後の話であり、今回のレンティス共和国での暴動は震災から何日も経っていた。
日本ならば、当の昔にだいたいの混乱は収まっている頃である。
まあ、日本では震度5の地震は大震災という内には入らないし、震災のすぐ後に戦争が開始されて、敵国の軍隊が上陸しているという現状では仕方のない事かもしれなかったが。
「場合によってはレンティス共和国に援軍を送る事を考えなければならないな」
春川はそんな事を言いながら、腕を組んで何かを考えていた。
そして、意外にも岡辺が賛同を示した。
「そうですね。現在、日本経済は衰退状態ですから。加えて、氷島の件もあります。もし戦争でレンティス共和国やラトヴィア大陸各国が荒れれば、我が国の経済は更なる打撃を受けてしまいます」
そう、ここで忘れてはならないのが、日本経済の衰退具合である。
日本は史実より強大な経済力を保つ事により発展してきた。
しかし、逆に言えばそれを支える為に、史実より強大な市場が必要という事でもある。
今までは史実と違って日本の軍事力の強大さによる圧力により、史実より巨大な市場を確保できたのだが、日本が転移してしまった今、それは一気に消滅してしまった。
入れ替わる形でラトヴィア大陸各国と国交を結んで貿易を行う事により、多少回復してはいたが、やはり以前とは比べるまでもなく、経済は衰退していた。
それにあまりやり過ぎると、貿易の相手国の国民が貿易赤字により、不買運動を起こしてしまう可能性もあるので、慎重にやらなければならなかった。
そして、もう1つ。
氷島開発により、ある程度内需も潤っていたのだが、それも例の伝染病によって半ばオジャンとなってしまった。
結果、日本経済は徐々にだが、衰退していたのである。
そして、こんな中で戦争でラトヴィア大陸が滅茶苦茶になれば、当然の事ながら購買意欲が無くなってしまい、日本経済は致命的な打撃を受ける可能性があった。
まあ、そんな万が一の時に陥った場合も、解決する為の策は練ってあったが、なるべくならやりたくは無かった。
「そうだな。・・・念のために今のうちに手を打っておくか」
夕季はそう言いながら、あることを考えていた。
◇転移歴1年 12月21日 レンティス共和国 首都ラストア
「軍は何をやっているのだ!!」
閣僚会議の場で、閣僚の1人が叫ぶ。
「申し訳ありません。ですが、地揺れによるインフラの破壊を前にしては、陸軍の展開など不可能です」
エルトンは言い訳するかのように言ったが、確かに前の世界では地震そのものが存在しなかった以上、それに冷静に対処しろというのは無理な話だった。
戦闘車両も然りだ。
幾ら頑丈に造られていると言っても、限度はある。
「加えて、住民の暴動も各地で起こっています。これが軍の行動を阻害する一因となっています」
既に暴動は各地で起こっていた。
それも軍の行動を阻害する要因の1つだった。
「あれだけの地揺れだったからな。無理もない」
閣僚の1人がそう言った。
もっとも、これを転移メンバーが聞けば首を傾げるだろう。
なんで、幾ら(レンティス共和国基準での)大地震が在ったとは言え、地震からこう何日も経って暴動が起き続けるのか?、と。
だが、転移メンバーは、いや、日本人は理解できないかもしれないが、地震を殆ど経験していない外国ではこれが普通の反応である。
冗談のような話だが、転移メンバーが生まれた世界のイギリスでは震度1の地震でパニックが起きた、などという逸話がある。
流石にすぐに治まったみたいだが。
では、地震そのものが存在しない世界から来た国で、震度5の地震を経験したらどうなるか?
レンティス共和国は正にそれを実践していた。
経験した事のない地揺れ。
地震に対するノウハウが無い為、対応の仕方が分からないレンティス共和国政府。
耐震建設技術など全く無い為、あっさりと倒壊する建物。
更にそれに続く形での戦争。
地震を経験した事のない国で、これだけの事が起きて冷静になれる者などどれくらい居るだろうか?
おそらく、殆どの国民は冷静になどなれないだろう。
と言うより、これだけの事が起きたとなると、日本でも危ない段階だった。
「しかし、このままでは冗談抜きで戦争に負けてしまうぞ!!」
閣僚の1人が怒鳴るが、それも当然だった。
戦争というのは、負ければ全てを失うのはどの世界でも同じである。
よって、それをなんとか防がなければならない。
もっとも、文明の劣る国家に負けている時点で、レンティス共和国の権威は既に失墜していたが、全て奪われるよりはマシだろう。
「・・・国防大臣」
それまで黙って聞いていたアルトアが、静かにエルトンに尋ねた。
「はっ、なんでしょうか?」
「我が国は勝てるかね?」
閣僚達がざわめく。
そりゃそうだろう。
一国の指導者が聞くべき事ではないからだ。
だが、アルトアは敢えてそう尋ねた。
「勝ちます!いえ、勝って見せます!!」
「よし!」
エルトンがそう答えると、アルトアは立ち上がって、閣僚達に言った。
「聞いての通りだ。諸君。ここはアルトア国防大臣の言葉を信じようではないか。そして、我々が今やるべき事はこの会議を有意義なものに変える事だ!!」
「「「おお!!」」」
閣僚達から歓声が上がった。
アルトアの訓示によって、会議は円滑に進むこととなった。
そして、この1週間後、レンティス共和国陸軍とエリストア帝国陸軍は本格的に衝突する事となる。
50式戦車
皇紀2650年の二大兵器と呼ばれる内の1つ。第4世代戦車で、史実の10式戦車に該当する(と言うより、そのもの)。基本的には10式戦車と性能は同じだが、この世界の日本は実戦経験が多い為か、戦車の実戦ノウハウが蓄積されていた為、信頼性に関しては史実の10式を上回っている。




