第34話 転移前
西暦1995年時点の日本の領土、勢力、国力、人口。
人口1億2000万人(史実では1億2500万人)。
経済レベル・・・GDP780兆円。
技術レベル・・・史実2010年代前半。
領土・・・日本列島、千島列島、樺太、台湾、パラオ、トラック諸島、マリアナ諸島、マーシャル諸島、ウェーク、ミッドウェー、アリューシャン列島、ギルバート諸島、ナウル、ハワイ、ソロモン諸島。
勢力・・・保護国、フィリピン、インドネシア、ベトナム、ビルマ、カンボジア、ラオス、大韓帝国 スリランカ、ニューギニア。
友好国?、ロシア、中華共和国、アメリカ。
西暦1991年 8月28日 アメリカ合衆国 ワシントンD・C
アメリカ大統領、ブッシュは驚愕していた。
つい昨日起きた“同時多発テロ”の被害報告を受けたのだが、そのテロの方法が問題だった。
「まさか飛行機をハイジャックして体当たりしてくるとは・・・」
クレイジーな相手だ。
ブッシュは素直にそう思った。
ちなみに史実ならば、『カミカゼのようだ』とも言っていたかもしれないが、この世界では神風特攻そのものが無かったので、そんな事は思う筈も無かった。
「さて、報復を考えねばならんな」
既にCIAによって下手人は判明している。
それはイスラム過激派だった。
イスラム過激派は史実と同じように、中東でアメリカに反抗していて、度々現地で邦人が襲われる事態に発展していた。
それでも現地に駐在する米軍が目をある程度光らせていた為に、大規模な襲撃は無かったが、日本の存在もある為に、あまり大兵力は駐屯できず、防げない襲撃も多かった。
「問題はどの程度やるかだが・・・あまりやり過ぎると逆に問題だな」
史実と違い、ヨーロッパ方面が混乱しており、未だに紛争が絶えていない為、アメリカの市場として中東は重要視されていた。
よって、あまり叩きすぎて中東の国家が崩壊してしまった場合、中東に市場としての価値は無くなってしまう。
そうなると、回り回ってアメリカの経済に打撃を与えてしまう為、結果的に泣きっ面に蜂となってしまうのだ。
「まあ、その辺は日本の意見も聞いて考えるか」
既に日本も無関係ではない。
中東での活動は殆どアメリカと運命共同体に近いのだから。
ブッシュはそう思いながら今後の対応について考えていた。
だが、意外な事に彼の思惑は外される事になる。
◇西暦1992年 2月2日 大日本帝国 帝都
「流石アメリカと言うべきでしょうかね」
岡辺は会合の場でそう発言した。
アメリカからの共同出兵要請を日本は断っていた。
何故なら、メリットが無いからだ。
更にここで下手にアメリカを支援してイスラム勢力を怒らせれば、日本がテロに晒される可能性が存在してくる。
それを考えれば、アメリカの提案に乗るのはマイナスでしか無いのだ。
そして、その結果、アメリカは殆ど単独でアフガニスタン侵攻を行う事になった。
ちなみに同時多発テロをやったのは、史実より10年も起こったのが早い為か、史実とは違う人物であった。
しかし、歴史の修正力という奴か、アフガニスタン政府が庇ったという事実は変わらず、アフガニスタンはアメリカ軍によって侵攻されていた。
だが、それは容赦が無かった。
サーモバリック爆弾やクラスター爆弾などの大量破壊兵器の初っぱなからの大量投下。
更に地上戦に目を移すと、MLRSのクラスター攻撃を容赦なく事前砲撃として浴びせ、更に劣化ウラン弾などの弾を使用した戦車を街中に砲撃させながら突撃していく。
はっきり言って、やり過ぎとしか言い様のないアメリカの戦い方に、転移メンバーは若干ひいていた。
「しかし、幾らなんでもやりすぎだ。アメリカは何故ここまでやるんだ?」
「当初の予定では、アメリカもここまでやるつもりは無かったようなのですが、国民感情を抑えられなかったようです」
その通りだった。
アメリカ軍の当初の計画では通常爆弾による空爆が成される筈だったのだが、国民感情の変動により土壇場でサーモバリック爆弾などの大量破壊兵器になったという経緯があった。
「しかし、アメリカは気づいているのか?こんな事したら・・・」
「泥沼に嵌まりますね」
おそらく国民感情の変動だけでなく、短期決戦にする為にも大量破壊兵器の使用に踏み切ったのだろうか、不必要な大量殺戮はかえって現地での反米活動を盛り上げる危険性がある。
史実がその良い例だろう。
つまり、アメリカは自分で自分の首を絞めている事になる。
「ところで、俺達の管轄地域には飛び火しないか?今、難民が大勢で来られると、今まで苦労して安定させてきた治安が崩壊するぞ」
有村が懸念を示す。
日本は比較的安定させたまま中東の治安維持に関わってきたが、何も問題が無かった訳ではない。
現地の人間と、揉め事をする例も少なくなかったのだ。
まあ、宗教的な揉め事は少なかったのは幸いではあったのだが、それでも血を全く流していない訳ではないのだ。
「もう遅いみたいですね。既にアフガニスタンから難民が押し寄せ始めているみたいですよ。現在は国境沿いで射殺しているようですけどね」
青木は状況を説明する。
既に米軍の侵攻からなんとか逃れたアフガニスタン国民の一部が難民として日本管轄のイランまで押し寄せてきていた。
現在は国境沿いで見つけ次第、射殺してはいたものの、それでもこちらにやって来る人間は後を絶たない。
いや、既にイラン内部に侵入している人間も居る。
「陸の監視は我々は慣れていないからな」
夕季は日本の弱点の1つを言った。
そう、日本は陸の国境の警備には慣れていない。
何故なら、日本は島国であり、海の監視に力を入れているからだ。
全く出来ない訳ではないのだが、ロシアなどと陸の国境警備能力を比べた場合、10人中9人以上は優れているのはロシアだと答えるだろう。
また日本兵も人間である為、難民への発砲に躊躇う者も居る。
そうした事を考えれば、陸の完全な封鎖など、少なくとも日本には不可能である事が分かる。
「つまり、我々は以前以上に治安維持に力を入れる必要があるという事か?」
「いえ、それだけではないでしょう。警備システムや現地の状況についてもう一度見直す必要があります」
「それと、米軍の行動を出来るだけ諌めなくてはな。・・・まあ、問題は言うことを聞いてくれるか、分からない点だが」
曲がりなりにも出兵要請を断った以上、アメリカが日本の言葉を聞き入れるかは微妙なところだった。
更に言えば、そんな余裕があるかどうかも微妙だった。
これからの中東情勢では、アメリカが泥沼に嵌まるのはほぼ確定している為、同時多発テロとは違うにしろ、イスラム勢力によるゲリラ活動は活発化するだろう。
勿論、日本はゲリラ活動の鎮圧には参加しない。
そんな事をして、日本までテロの標的となったら最悪であるからだ。
もっとも、必要であればやるしかないが、必要以上に首を突っ込む必要はないというのが、転移メンバー全員の意見だった。
しかし、それは逆に言えばそれは中東でのアメリカの管轄地域に対する日本の発言力を失うという事でもある。
今起こっているアフガニスタンの難民問題を考えると、それは大変厳しい問題である。
「米軍の管轄地域はもう無視するしかないだろう。こちらで独自に治安を維持させるしかない」
夕季の言葉に他の転移メンバーも頷いた。
アメリカ側の行動に口出しできない以上、もはやそれしかない。
そう考えた末の転移メンバー達の結論だった。
「じゃあ、これで決定ですね」
かくして、日本も独自に動き出した。
◇西暦1995年 10月3日 大日本帝国 帝都
今日の仕事を終え、帰ろうとしていた青木であったが、偶然夕季と出会い、声を掛けた。
「夕季さん!」
「青木か。どうした?」
声を掛けてきた青木に夕季は対応する。
「いえ、今日、飲みに行きませんか?」
「・・・悪いが、今日も無理なんだ」
夕季は青木の誘いを断ったが、青木は夕季が断った理由をよく分かっていた。
「彼女ですか?」
「まあな。あまり遅いと駄々を捏ねるからな。しかも、これで繋がれている以上、しょうがない」
そう言いながら夕季は右腕に嵌められているリングに目を向けた。
「分かりました。では、また今度」
「ああ、すまんな」
そう言って青木と夕季は別れた。
◇同日 有栖川宅
「ただいま」
「おかえりー」
本来なら返ってくる筈もない言葉に反応するように、1つの若い女性の声が反ってきた。
そして、夕季がリビングに足を進めると、そこには金髪の長髪をしてアイスブルーの瞳をした少女がテレビを見ながら寝そべっていた。
その端正な顔立ちはこの世のものとは思えない程、綺麗ではあったのだが、残念ながらテレビを見ながら寝そべっているという事実の中ではその美しさは半減してしまう。
夕季はそれを見て呆れながら少女に声を掛けた。
「またそれ見てるのか?アウロラ」
アウロラ。
それがこの少女の名前である。
2ヶ月前の8月15日。
夕季が懸念していた親戚達は現れず、代わりにこの少女が現れた。
彼女の説明によると、元々自分達転移メンバーをこの世界に呼んだのは自分であり、また自分はローマ神話に出てくる曙の女神、アウローラだと答えたのだ。
アウローラ。
その名は日本でもよく知られているローマ神話の女神の1つだ。
暁の女神とも言われていて、日本神話で例えるところの天照のような存在であり、言わば西洋版天照だとも言える。
ちなみに日本語では長母音記号を省略して、アウロラとも言われており、夕季もこちらの名前を彼女に対して使っていた。
しかし、何故西洋の神様である彼女が東洋である日本の事について関わってきているのか分からず、夕季が質問を行ったのだが、彼女は答えをはぐらかすだけであった。
そして、転移メンバーも既に彼女の存在を認知していて、ある事も合間って世話を夕季に押し付けていた。
初めはあまり良い顔をしなかった夕季だったが、今では前世の事もあり、彼女が居てくれる事の温かさに溺れていた。
「だって面白いんだもん」
彼女の見ているのはアニメだった。
この世界では海外からの文化の浸透と、転移メンバーの布教?により、アニメも史実とほぼ変わらぬ程に進化していた。
ただ某宇宙戦艦のアニメや独立国の潜水艦、逆行するイージス艦のような史実に大きく関わる創作物については、殆ど別物の創作物となってしまったが。
「あまり見すぎるなよ」
夕季はそう言いながら、部屋にあったソファーへと座った。
そして、腕に嵌められているリングを見た。
(これのせいであいつに逆らえないんだよなぁ)
その腕に嵌められているリングとは『契約リング』と言われ、対象者2人、つまりこの場合は夕季とアウロラが契約を結ぶ事で嵌められるリングだ。
実際に彼女の右手にもそれは嵌められている。
そして、このリングの効果は夕季はアウロラの命令を余程の強い意思を持たない限り、逆らえないというものである。
言わば、夕季は彼女の半ば奴隷と化していたのだ。
これはアウロラが転移してきたすぐ後に彼女によってほぼ強制的に契約させられた上に、双方の同意がないと外せないという契約になっており、更には魔法とやらで造られているらしく、外し方が全く分からなかった。
だが、夕季にもなんらメリットがないという訳ではない。
この契約リングを通す事でアウロラの持つ魔力をそのまま使用できる。
これにより、本来この世界の人間は体内に魔力がない為に魔法が使えないにも関わらず、夕季は彼女の魔力を応用する事で魔法を使う事が出来る。
これは大きなメリットと言えた。
これで夕季自身が再び前線、しかも陸上で戦う道が開けるかもしれないのだから。
その為に、最近、夕季は魔法の扱い方の練習やその扱いに慣れる為の体力作りなどを行っていた。
更に彼女は滅多な事で夕季に命令してくる事は無かった。
精々が『早く帰ってきて欲しい』とか『ご飯を作って欲しい』という、どちらかと言えば命令というよりお願いに近かった。
(しかし、どう見ても神っていう風には見えないんだよなぁ)
夕季は寝そべるアウロラを見ながらそんな事を考えていた。
それは当然だった。
行儀悪く寝そべりながらテレビを見ている少女が女神だと誰が思うだろうか?
もっとも、無神論者だった夕季としては、神は人間が造り出したものという認識が強かったので、想像の中で勝手に美化されていただけかもしれなかったが。
だが、今はそれよりも気になる事があった。
それは2ヶ月前に突如現れた彼女が、自分に対してこのリングを嵌めた時であった。
(なんか今思うと、酷く焦った様子だったな)
当初は彼女の存在に驚いて、あまり気にする余裕は無かったが、今思うと彼女は酷く慌てた様子で自分にこのリングを嵌めていた。
何故あの時焦っていたのかは、今考えてもよく分からなかったが、なんとなく嫌な予感がした。
(何かが起きるような気がするのは気のせいか?)
夕季はそんな事を考えつつも、夕飯を造る為に台所へと向かった。
しかし、結果だけを言えば、後に夕季の勘は見事に的中する事となる。
そして、それから5年後の西暦2000年1月1日。
日本は異世界へと転移していった。
西暦1995年8月15日時点での大日本帝国海軍在籍艦。
空母・・・雲龍型(雲龍、剣龍)、紅龍型(紅龍、洋龍)、鳳龍型(鳳龍)、蒼龍型(蒼龍、飛龍)、瑞龍型(瑞龍、翔龍)。
戦艦・・・大和型2隻(大和、武蔵)、加賀型1隻(加賀)、長門型1隻(長門)、金剛型3隻(金剛、比叡、榛名)、扶桑型1隻(山城)。
巡洋艦・・・鈴谷型(鈴谷、熊野)、伊吹型(伊吹、鞍馬)、愛宕型(愛宕、高雄)、鳥海型(鳥海、摩耶)、足柄型(足柄、妙高)、羽黒型(羽黒、那智)。
駆逐艦・・・秋雲型10隻(残りは建造中)、雪風型16隻、電型12隻、白雪型12隻、秋月型12隻、朝海型16隻、睦月型12隻。
潜水艦・・・イ10型2隻、伊600型3隻、ア20型10隻、ア0型12隻、伊0型12隻
備考
潜水艦は1978年より転移メンバーによって、以降の建造艦の内、ア号潜水艦が通常の原潜、イ号潜水艦が戦略原潜と定められた。