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帝国変換  作者: ありあけ
戦後編
36/42

第32話 核攻撃

西暦1975年時点の日本の領土、勢力、国力、人口。


人口1億400万人(史実では1億1100万人)。


経済レベル・・・史実のバブル崩壊直前の日本のGDP(国内総生産)とほぼ同じ。


技術レベル・・・1990年代前半。


領土・・・日本列島、千島列島、樺太、台湾、パラオ、トラック諸島、マリアナ諸島、マーシャル諸島、ウェーク、ミッドウェー、アリューシャン列島、ギルバート諸島、ナウル、ハワイ、ソロモン諸島。


勢力・・・保護国、フィリピン、インドネシア、ベトナム、ビルマ、カンボジア、ラオス、大韓帝国 スリランカ、ニューギニア。


友好国?、ロシア、中華共和国、アメリカ。

西暦1975年 8月20日 大日本帝国 帝都


 これより5日前の8月15日。


 今度は岡辺の家族と親類、友人が転移してきた。


 だが、今はそれを喜んでいる場合では無かった。



「それは本当ですか?」



「ああ、『青葉』は確かに沈没したらしい」



 それは1日前に起きたヨーロッパ方面に派遣された日本海軍の巡洋艦『青葉』の沈没の報告であった。



「やはり対艦ミサイルにやられているな」



「ええ、我々の知る限りで、初めてのイージス艦の喪失ですね」



 第二次、第三次世界大戦で活躍した巡洋艦『青葉』の名を受け継いだこの2代目青葉は、1960年代前期に建造された艦である為、旧式とは言え、イージスシステムが載せられていた。


 だが、イージスシステムとて完全ではない。


 如何に最新のシステムが載せられていたとしても、やられる時はやられるのだ。


 今回の青葉沈没は正にその事実を肯定していた。


 しかし、転移メンバーにとってはかなりショックだった。


 何故なら、日本人の転生者であるが故に、イージス艦=万能艦というイメージが強かったからだ。


 無論、完璧ではないという事は理解してはいたが、心の何処かでそういう印象を持っていたのだ。



「なかなか厳しいですね、ヨーロッパ戦線は」



 ヨーロッパへの派兵は付き合い程度に留めていた日本であったが、当然の事ながら無傷という訳では無かった。


 既に陸上では1個師団が前線から後退しなければならない程の損害、海の方でも青葉以外に派遣された駆逐艦が1隻大破していた。



「とは言え、撤退する訳にはいきません。先月も核を航空機に積んでパリを空爆仕掛けた事が有ったんですから」



 青木の言う通り、現在ヨーロッパは核戦争一歩手前という酷い状態となっており、予断を許さない状況下にあった。


 そして、先月のパリ核攻撃未遂事件が有ってから、付き合い程度だった筈の日本も政治上の問題で、大規模な遠征部隊をヨーロッパに送る必要性が出てきていたのである。


 もっとも、急な話だったので、今は編成の途中であったのだが。



「先に派遣した1個艦隊に加えて更に1個艦隊の派遣。そして、陸上部隊に至っては3個師団の派遣か」



「こんなんで足りるのか?」



 有村は懐疑的だった。



「今派遣できるのはこれだけだ。残りは本土防衛に残さなければならん」



 如何に史実自衛隊よりも人数が多いとは言え、3個師団の派遣というのは日本にとってもかなりの負担だ。


 そして、ヨーロッパという日本から遠く離れた地である事を考えると、これ以上の派遣ははっきり言って不可能である。



「それに今回の主役はアメリカとロシアだからな。脇役の我々はこれで十分さ」



 距離的な問題もあるが、今回のヨーロッパへの派兵の主役はアメリカとロシアである以上、政治上の理由で双方の顔を立てなければならない。


 そう考えると、春川の意見も的外れではない。


 しかし、問題もない訳ではない。



「だが、今回送る部隊の中に本格的な地対空兵器を運用する部隊は少ない。もし敵が核弾頭を撃ち込んでくれば全滅は必至だぞ」



 有村の言った通り、今回ヨーロッパに派遣する部隊には陸上型イージス(パトリオット)のような大規模な地対空兵器を持つものは少なかった。


 その為、敵が本気で核弾頭を撃ち込んできた場合、全滅すらする危険があった。


 本来、そんな危険は杞憂だと思いたいところなのだが、この戦争では先にあったパリ核攻撃未遂事件のように、核すら戦場に出かねない情勢である為、その点も考慮しなければならなかった。



「しかし、これ以上は時間的にも国防的にも割く事は出来ない。・・・まあ、兵器だけ量産して送って後は現地で転用するという手もあるけどな」



 夕季は皮肉げに言った。


 そんな事はかなり難しいと分かっていたからだ。


 例えるならば、今まで歩兵をやっていた人間に戦車を運転しろと言っているようなものだ。


 不可能ではないだろうが、最低でも月単位(悪ければ年単位)の時間が掛かる事は明らかだった。



「やれやれ、前途多難だな」



 春川はそう思いながら溜め息を着いた。


 だが、転移メンバーは知らない。


 自分達の見込みが甘すぎた事を。


 そして、そう遠くないうちにとんでもない事態が起きるという事を。















◇西暦1975年 9月17日 アメリカ合衆国 ワシントンD・C



「・・・」



 アメリカ大統領、ニクソンはたった今首席補佐官が持ってきた報告書を読みながら押し黙っていた。


 ただし、その報告書を持つ手は震えていた。


 当然だろう。


 それほどの事態が起きていたのだから。



「こ、これは本当なのか!?」



「そ、そのようです」



 首席補佐官も動揺している様子だった。


 大統領と首席補佐官が同時に動揺するような事態。


 それは2日前の9月15日。


 シチリア攻略作戦を行っていた各国のヨーロッパ派遣艦隊に対するヨーロッパ某国のミサイル攻撃(核弾頭含む)が行われた。


 大半は阻止できたのだが、一発だけ近距離まで近づけてしまい、更に運の悪い事に核弾頭だった為に上空で炸裂してしまい、CIWS擬きの近接防御も役に立たなかった。


 これにより、アメリカを含めた各国海軍は打撃を受けたのだが、その中でも一番悲惨だったのは日本艦隊だった。


 爆発の中心点に居た上に、これまでの戦いで艦隊そのものの戦力が磨り減っていたが故に、今回の作戦では残った派遣艦を一纏めにしていた為、艦隊が文字通り全滅してしまっていた。


 特に空母『神龍』が被弾した事はかなり痛かった。



「シチリア島近海の海の汚染は確実か」



「はい」



 ニクソンの言葉に首席補佐官は頷いた。


 原子力空母が核によって破壊された。


 この事実は少し考えれば、誰でも今ニクソンが言った事態を想像するだろう。



「シチリア攻略作戦は一時中断だな。一刻も早く核への対策を取らなければ」



「ですな。我が軍の被害も大きいですから」



 被害を主に受けたのは日本だったが、米軍も決して無傷だった訳ではない。


 3隻の駆逐艦が沈没ないし廃艦化していた。


 これほど甚大な被害を被った以上、一度態勢を建て直すしか選択肢はない。



「取り敢えず、CIAにヨーロッパの核の所在を洗い出すように伝えろ。予算も大幅に出すとな」



「分かりました」



 そう言って首席補佐官は執務室から出ていった。

















◇西暦1975年 9月21日 大日本帝国 帝都


 アメリカが混乱している一方、当たり前であるが大被害を受けた日本はそれ以上に混乱していた。



「これで増援部隊の合流前にヨーロッパ派遣艦隊は全滅、か」



 春川が呟いた。


 先にやられたヨーロッパ派遣艦隊への増援部隊は、現在インドのムンベイに居た。


 だが、合流する前にヨーロッパ派遣艦隊はやられてしまったので、艦隊を一時ムンベイに停泊させ、ヨーロッパへの派遣を見送っていた。



「これで睦月型駆逐艦の喪失は5隻。1隻が大破して本土に回航中。巡洋艦は青葉2隻が共々沈没、あるいは廃艦同然。空母に至っては・・・言うまでも有りませんね」



 青木が報告書を読みながら言った。


 ヨーロッパ派遣艦隊は睦月型駆逐艦6隻、巡洋艦青葉型2隻(青葉、加古)、空母神龍で構成されていた。


 だが、核攻撃を受ける前の被害で青葉が沈没し、睦月型駆逐艦は1隻が沈没(今年9月2日)、1隻が大破していた。


 そして、核攻撃を受けた事によって、残る睦月型4隻、巡洋艦加古、空母神龍は全て喪失してしまった。


 いや、具体的には神龍と加古は浮いてはいた。


 だが、加古は上部構造物が丸ごと吹き飛んでいたし、神龍の方は世界初の原子力空母として知られていて、艦体は基準排水量6万3000トンという巨体であった為、流石にちょっとやそっとの核で沈没する事は無かったが、だからと言って修理して使えるかと問われれば、答えはNOである。


 よって、神龍の方も喪失と考えた方が得策だった。



「神の龍が神の火によって殺される。まったく、皮肉な事だな」


 

 有村が自嘲気味に言った。


 彼もまさか原子力空母が核によって破壊される事態が起きるとは、思ってもいなかったからだ。


 まあ、そんな事は他の転移メンバーとて同じであったが。


 そして、転移メンバー達の議題は艦隊の生存者へと移った。



「そう言えば、生存者は?」


 

「数百名がなんとか生き残ったらしいが・・・」



 春川はその先の言葉を濁した。


 ここまで聞けば言わずとも分かると思うが、艦隊の生存者達は放射能に犯されている。


 よって、本人達には残念な事ではあったのだが、本土に帰す訳にはいかない。


 彼らの家族にも物理的な影響を与えるだろうし、精神面でも近所の人間などから中傷を受ける可能性すらある。


 なので、書類上は全員死亡という扱いになる。


 生存者は流石に処分する訳にはいかないので、無人島の何処かに隔離される。


 気の毒だが、これが最善策である。



「何処かの世界みたく、放射能を除去する装置でもあれば、話は違うんですがね」



「残念ながら今の技術では無理だ。せめて家族ぐらいには会わせてやりたいが・・・」



「会わせた挙げ句に、その家族が本土に病原体を持ち帰るのでは本末転倒になってしまうな」



 夕季の言う通り、家族に面会させるというのも困難だ。


 何故なら、放射能被害によって生存者の体内に侵入した病原体を家族に移した結果、本土に持ち込まれては堪らないからだ。



「まあ、電話くらいはさせても構わないでしょう。それだけでも家族や生存者達は楽になります」



 それが今の日本が生存者やその家族に譲歩できる最低限のラインだった。


 だが、懸念もある。


 

「何かしらの機密が漏れたりは?」



 岡辺がそれを指摘するが、夕季が否定する。



「しないだろう。海底電話だ。ケーブルに直接細工しない限り盗聴は出来ない」


 

 生存者とその家族の会話は海底電話から行わせる予定だった。


 あれなら、殆ど盗聴される恐れもない。


 何故なら、海底電話は有線通信なので、ケーブルに直接細工しない限り、盗聴はほぼ不可能と言っても良いからだ。



「なるほどな。では、生存者達への対処はそれで行くとして、今回の核攻撃を行った国、あるいは組織は何処なんだ?」



 春川はそれを疑問に思っていた。


 実はアメリカと同じく、日本でも核攻撃を行った国、あるいは組織は判明していなかった。


 と言うより、ヨーロッパでの諜報活動事態、上手くいっていなかった。


 日本はヨーロッパでの諜報活動は白人系工作員を主に動かしていたが、白人系工作員の数にも限りがあり、更にはその白人系工作員も第一線の者はアメリカで活動しており、ヨーロッパで活動しているのは、二線級の者達だった。


 その為、目まぐるしく情勢が変化するヨーロッパの動きに諜報活動が追い付かない状態だった。


 もっとも、比較的ヨーロッパに諜報員を送り込みやすいアメリカでも掴めない情報を、日本が掴もうとする事自体に無理があったのだが。



「アメリカで活動している諜報員を送りますか?」



 青木がそう提案するが、夕季が却下する。



「いや、駄目だ。如何に核攻撃を受けたと言っても、アメリカは日本にとってはヨーロッパより危険度が高い。ヨーロッパに一線級の諜報員を送った挙げ句にアメリカの諜報網が薄まるというのは避けたい」



「では、どうします?ロシア系移民の工作員はまだ使い物にならないんでしょう?」



 近年、ロシアからの移民がそれなりに多かった事から、このロシア系移民団から白人系工作員を養成する計画が日本内部で進められていた。


 しかし、移民一世となると、今一つ信用できないので、移民二世か、最悪三世まで待つつもりだった。


 よって、現段階では計画止まりで終わっていた。



「まあ、そうだな。そちらの方は使い物にならん。やはり、ここは第二次、第三次の時と同じくコンピューターで情報を採取しよう」



 この時代、日本のコンピューター技術は史実基準での1990年代へと突入していた。


 そして、他国は日本に追い付こうとして、史実より先進しているものの、それでもまだ史実基準で1980年代に行くかどうかだ。


 やはり史実知識という反則的なものを有する転移メンバーとは訳が違うのだ。


 よって、コンピューターから情報を採取する事は容易だった。


 しかし、第二次、第三次世界大戦の時でも分かるように、コンピューターでの情報採取は限度がある。


 もっとも、電子化が進んだ現在では、コンピューターで採取できる情報の幅は広がってはいたのだが。



「それしか無いか」



 有村はそう呟いた。


 実際、日本がヨーロッパへの諜報を行う事に無理ができる以上、他に選択肢はない事も確かだったのだ。



「じゃあ、これで決定だな」



 かくして、日本の方針は決定された。


 こうして、後にヨーロッパ戦争とも呼ばれる足掛け3年にも及ぶ戦争は本格的に始まったのである。

西暦1975年8月15日時点での大日本帝国海軍在籍艦。


空母・・・蒼龍型(蒼龍、飛龍)、瑞龍型(瑞龍、翔龍)、鳳翔型(鳳翔)、神鳳型(神鳳、海鳳)、神龍型(神龍、白龍)、大鳳型2隻(大鳳、白鳳)


戦艦・・・大和型2隻(大和、武蔵)、加賀型1隻(加賀)、長門型1隻(長門)、金剛型3隻(金剛、比叡、榛名)、扶桑型1隻(山城)。


巡洋艦・・・足柄型(足柄、妙高)、羽黒型(羽黒、那智)、青葉型(青葉、加古)、衣笠型(衣笠、古鷹)、富士型(富士、浅間)、穂高型(穂高、新高)。


駆逐艦・・・秋月型10隻(残りは建造中)、朝海型16隻、睦月型12隻、白露型8隻、朝潮型10隻、夕雲型20隻、陽炎型15隻。


潜水艦・・・伊600型1隻、伊500型潜水艦5隻、伊0型10隻、伊100型潜水艦23隻、伊300型潜水艦10隻(改含む)。

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