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帝国変換  作者: ありあけ
戦後編
32/42

第28話 中国戦争

・西暦1955年での大日本帝国の領土と勢力


領土・・・日本列島、千島列島、樺太、台湾、パラオ、トラック諸島、マリアナ諸島、マーシャル諸島、ウェーク、ミッドウェー、アリューシャン列島、ギルバート諸島、ナウル、ハワイ、ソロモン諸島。


勢力・・・保護国、フィリピン、インドネシア、ベトナム、ビルマ、カンボジア、ラオス、大韓帝国 スリランカ、ニューギニア。


友好国?、ロシア。

西暦1955年 8月17日 大日本帝国 帝都


 第二次太平洋戦争から8年。


 その間、世界は冷戦に突入していたが、現在は不気味な程静かだった。


 史実では分裂していた為に起こった朝鮮戦争も無く、インドネシアなどの独立戦争も無かった。


 日本も第二次太平洋戦争後、戦時体制から平時体制へと戻り、経済発展を続けていた。


 そして、この日も会合は行われていた。



「しかし、春川。良かったな。家族と久々に会えて」



 そう、2日前の8月15日。


 転移メンバーの1人である春川と親しくしていたと思われる家族や親戚、友達などがこの日本に転移してきたのだ。


 初めての複数転移に、転移メンバーは驚いていたが、春川の友達という事で、迎え入れていた。


 しかし、この会合には出席させていなかった。


 当然だろう。


 この会合は日本の命運を左右する組織であり、その存在の秘密は守られなければならない。


 しかし、今回転移してきた人間はどう見ても10人以上は居る。


 これだけの人数を一気に会合に入れたら、何らかの拍子に機密が漏れるかもしれない。


 だからこそ、入れる訳にはいかなかったのだ。



「ああ、そうだな」



「?どうしたんだ?浮かない顔して」



「いや、実は親戚の1人になんか違和感が有ってな」



「違和感?」



 春川の説明はこういう事だった。


 親戚の1人に日本で言うところの狂信的な“左翼”“平和主義者”が居たらしいのだが、何故か会った時には性格が少しばかり変わっていたと言う。


 具体的に言えば、依然として平和は唱えていたものの、そこまで狂信的ではなく、国の武力も必要以上に否定しないようになっていたと言う。



「お前が転移してから時間が経っていただけじゃないのか?」



「いや、向こうの話では俺が転移した日付から3、4日経った時系列で転移してきたらしい。それに俺が転移前にその親戚に会ったのは俺が転移する3日前だぞ?僅か1週間で人があんなに変わるのか?」



 春川は依然として懐疑気味だった。



「う~ん、俺達はその親戚の“前”を知らないからなぁ」



 夕季はそう言った。


 夕季は転移前から、春川の友達ではあったのだが、家族ぐるみの付き合いかと言えば、そうではなかった。


 故に、その親戚の事など知るはずもない。



「・・・念の為、監視を付けておくか?」



 有村がその親戚に監視を付ける事を提案する。


 万が一、反体制活動を起こされたら面倒だからだ。



「そうですね。春川さん。それで良いですか?」



「構わないよ」



 青木の問いに春川はきっぱりと言った。



「よし、この話は終わりだ。次は本土の防空体制について話し合おう」



 夕季の言葉に全員は頷いた。



「青木、イージスシステムについての進捗状況は?」



「順調です。流石に核兵器を減らしてまでやっただけあり、少なくともイージスシステムの最初期であるベースライン1の性能にはなっていると思います」



 青木の言っている事は本当だった。


 この世界もかつての世界と同じように、核兵器を用いての冷戦となっていたものの、日本はその核兵器の保有数を他の列強より減らしてまで防空システムの構築に邁進していた。


 その結果、イージスシステムはイージスシステム最初期であるベースライン1の性能まで達する事が出来たのである。


 これはこの年から20年先行した事になるので、かなり凄い事であった。


 もっとも、そのお蔭で他国が核兵器を100発以上保有しているこの段階で、日本は30発程しか保有できていなかったが。



「更に宇宙開発も史実より進んでいるので、人工衛星が打ち上げられるのも、早くなりそうですね」



 実際、日本の宇宙開発は史実より進んでいた。


 5年前の1950年には、初の有人宇宙飛行が行われたし、3年後には月への宇宙飛行も行われる予定だ。


 勿論、無人の衛星の打ち上げも行われている為、あと10年もすれば宇宙からの監視網も出来上がるだろう。



「問題は沿岸監視網ですね。核テロなんてやられたら、堪りません」



 そう、沿岸監視網という問題もある。


 一応、海上警備隊や灯台は史実より強化されているが、日本の海岸線は広く、それだけではとてもではないがカバーしきれていない。


 そして、こればかりはどうしようもない。


 そもそも転移メンバーの居た平成日本でさえ怪しかったのだから、人口と技術に劣るこの日本で完璧な監視網を造成できる筈も無かったのだ。


 更に史実と違い、本土以外の領土の事も考えなければならない為、必然的にやれる事が限られてしまう。



「やはり人口だな。移民を少し大幅に行うか?」



 春川はそう言った。


 これは史実のように移民を制限していては人口面で、いずれ限界が来てしまうので、移民制度を少し緩和しようという案だった。



「そうだな。しかし、本土に移民するのはやはり問題が多いな。現状は台湾や樺太などへの移民の許可ならどうだ?」



 夕季は春川の改良案を提示する。



「それしかないな。じゃあ、樺太はロシア、台湾は東南アジア系を中心に移民を募集しよう」



 かくして、移民の話は纏まった。


 















◇西暦1961年 6月15日 中国 北京


 中華民国の首都、北京。


 今そこではある話し合いが行われていた。



「では、我が国が満州に攻め行った場合、ロシアが介入してくる可能性があるという事か?」



 中華民国の指導者、蒋介石は部下に向かってそう尋ねた。


 実は先日起こった“満州独立宣言”の対応として、中華民国は独立した満州国に侵攻しようと考えていたのだ。


 しかし、何故満州がいきなり独立したのか?


 それを説明するには時系列を2年程遡らねばならない。


 西暦1959年。


 日付の多少の違いはあったものの、史実と同じく満州で大慶油田は発見された。


 中華民国政府はこの報告に多いに喜び、早速開発を進めようとしたものの、誤算が生じた。


 満州の省が政府の介入を拒否したのだ。


 何故そうなったかと言えば、その1つに中華民国の政治体制が挙げられる。


 中華民国は史実の中華人民共和国とは違い、独裁のようにはなっておらず、中央集権体制もあまり整っていない。


 その為、地方の力は史実以上に強く、満州の管轄省もその例外では無かった。


 そして、満州の官僚達はある野望を抱いていた。


 それは満州の独立である。


 元々、満州の地はそれなりに独立気風が激しい地域であり、更には中華民国政府の腐敗も合間って、官僚達の中には独立を夢見る者も居た。


 しかし、今独立しても、すぐに中華民国から討伐軍を差し向けられるだけなので、その夢は諦めざるを得なかった。


 大慶油田が見つかるまでは。



「はい。満州国はどうやらロシアに独立支援を代償に、大慶油田の利権をある程度他国に譲り渡す事にしたみたいです。他に大韓帝国や日本にも話を持ち掛けていますが、日本は油田ではなく、戦後の市場開放を条件に承諾したようです。大韓帝国はロシアと同じです」



 ちなみに日本が油田の利権を要求しなかったのは、満州の油田が重質油であると知っていたので、使うのにコストが掛かる為、それならば自国の油田や東南アジアから石油を輸入する方が楽だと考えていた為である。


 まあ、満州の治安上の問題というのも有ったが。



(まさか他国に油田の利権を持ち掛けて、それを担保に独立を果たそうとするとは・・・)



 蒋介石はその事実に驚きながらも、厄介な事になったと内心で舌打ちしていた。


 他国の介入があるという事は、装備が旧式の中華民国では勝てる可能性は低いからである。


 更に満州の支援国の中に日本が居るというのも、イラつきを助長させる。



(また、あの国か!)



 中華民国は史実の中華人民共和国がやったように、チベットやウイグルを併合しようとしたのだが、何処から手を回したのか、日本から送られた各種の支援によって頓挫していた。


 日清戦争以来、何かとこちらの活動を邪魔してくる日本に、蒋介石はイラついていた。


 もっとも、日本からしてみれば中国は隣国であり、尚且つ平成の世では、日本の安全保障を脅かしていた存在なので、大陸で争いあってくれるのは、むしろありがたいのだ。


 しかし、蒋介石にとってみれば不快な存在でしかなかった。



(なにか、奴等に一泡吹かせなれないか?)


 

 蒋介石は暫し考え、ある事を思い付いた。



(そうだ!奴等の戦艦の1隻を何らかの形で撃沈すれば良いのだ!!)



 蒋介石はとんでもない事を考えていた。


 日本の戦艦を中華民国の手によって撃沈し、目障りな日本に一泡吹かせ、中華の偉大さを世界中に知らしめようという事だった。


 無論、そんな事をすれば日本が激怒するのは間違いないが、“過去の戦訓”から、日本はあまり大兵力を中国に派遣せず、報復してくるとしても限定的な兵力に留まるだろうと見ていた。


 史実を考えれたら、楽観的な意見だが、この世界では日中戦争が無かった為に、日本が大陸に大兵力を派遣してくるという事は無かったので、そう考えたとしてもなんら不思議では無かった。


 そして、目の前の部下にある事を伝える。



「おい。海軍幹部をここに召集してくれ」



 彼は部下にそう命じた。


 














◇西暦1961年 7月1日 大日本帝国 帝都


 一方、日本では中国がそんな計画を立てているとは露知らず、転移メンバーは今回の満州の事についての話し合いをしていた。



「やはり武器援助が妥当ですかね」



 岡辺が資料を見ながらそう言った。


 議題の内容は、満州に兵員を派遣するかどうかであったが、やはり兵員は派遣しない方向に向かいつつあった。



「まあ、兵員を出すと中華民国を必要以上に刺激するし、面倒な事になりかねないからな」


  

 夕季も同意した。


 日本は既に中華民国によるチベットやウイグルへの侵攻を頓挫させている。


 幾ら中国でも、これらが日本のやった事だという事ぐらいは気づいているだろう。


 そう考えると、下手に中国を刺激して此方に何かしらのちょっかいを出されると面倒な事になるのは間違いなかった。



「まあ、史実の事も有りますからね。気づいた時には泥沼、なんていう事にもなりかねませんから」



 否定できない内容に、他の転移メンバーは苦笑した。


 実際に史実ではそうなったからだ。



「しかし、ロシアが介入するのは意外でも無いが・・・随分な力の入れようだな」



 有村はそう言った。


 実際、入ってきた情報ではロシアは今回の満州支援にかなり力を入れているようで、30万人もの兵士を派遣している。



「これほどの兵力を派遣するとはな。向こうの財政はそれほど余裕が有るのか?」



 現在のロシアは、事実上海軍を殆ど切り捨てた軍備を行ってはいたが、それでも30万人という数はそこそこの財政的負担を要する。


 ほんの20年前まであれだけ財政に苦しんでいたロシアに、そんな余裕が有るとは思えなかった。



「いえ、そんな筈は・・・この前調べた情報ではロシア経済は回復の傾向には有るものの、そこまで急成長はしていないという情報でしたよ?」



 青木が言う。


 青木は独自の情報源から、ロシアの経済状況などの調査を行わせていたが、そこで返ってきた情報は今、青木が言った通りの状況だった。


 まあ、回復の傾向には有ると言っても、年に数パーセント行くかどうかという経済成長率ではあったのだが。



「では、どうしてこれだけの兵力を派遣したんだ?」



 それが疑問だった。


 幾ら石油が利権を頂くと言えど、これだけの兵力は支援にしてははっきり言って過剰だ。


 そう、支援ならば。



「もしかして、ドサクサに紛れて満州を占領しようとしているのでは?」



 岡辺の言葉に転移メンバーは凍りついた。


 その可能性を失念していたからである。



「た、確かにその可能性は有ったな」



「ええ。よくよく考えてみればロシアは穀倉地帯の大半を取られたままですしね」



 ロシアは独ソ戦の際に穀倉地帯の大半を取られていた為、餓死者が続出していた。


 東南アジアからも食料の輸入は行っていたものの、毎年ドイツ占領地域から脱出してくる人間を保護する負担やドイツに備えるのに一定の軍備の増強が必要だったので、核兵器や通常兵器の増強・整備予算などで、そんなに(ロシア基準での)大量の食料を買い込めなかったのだ。


 それは経済が比較的安定した今になっても変わらず、毎年餓死者を出しながらの経済成長になっていた。


 故に、満州を占領して穀倉地帯を確保しようと考えるのは、ある意味では不自然な行動では無かった。



「それなら、樺太でのロシアからの移民もその兆候だったのかもな」



 実は6年前に樺太へのロシアからの移民を許可して以来、ロシアからの移民希望者数は膨大な数に昇っていた。


 転移メンバーはこれを不自然に思い、一応、調査を行ったが、ロシアで餓死者が続出しているとの情報からある程度納得し、また本土への移民を許可していない事と、万が一、樺太で武装蜂起した場合も、ロシアの海軍力では介入が不可能である事から、一定の制限を掛けて移民を許可していたのだが、思えばそれがロシアの食料危機の苦しさの証拠だったのかもしれないと夕季は思い至った。



「だとすると、鼻っから奪うつもりで来るか、それとも史実の日本がやったような強引な傀儡政権を現地に築くかのどちらかだな」


 

 夕季は軍事的見地からそう推測した。  



「おそらく、そうだろうな。さて、このロシアの行動をどうするか・・・」



 転移メンバーはその時の日本の行動について頭を悩ませる。


 しかし、転移メンバーは誰も知らなかった。


 数ヶ月後、否応なしに日本が大陸での戦いに巻き込まれる事を。

西暦1955年時点の日本の国力と人口


人口8700万人(史実では8900万人)。


経済レベル・・・史実1965年の日本のGDP(国内総生産)とほぼ同じ。


技術レベル・・・1970年代前半。

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