表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国変換  作者: ありあけ
第三次世界大戦編
31/42

第27話 日米講和、成る

伊吹型巡洋艦


基準排水量1万5000トン


機関・・・ガスタービン。


最大速力・・・35ノット。


武装・・・20センチ連装砲3基6門。40ミリ連装機銃10基20門。20ミリ連装機銃20基20門。VLS128基。


備考


日本海軍の最新鋭巡洋艦。

西暦1947年 5月28日 大日本帝国 帝都



「アイゼンハワーが死亡した?」



 会合の席で夕季はそう言った。


 それに対して、青木は答える。



「ええ、第二次南北戦争の前線視察中に毒ガスらしき兵器によって死亡したようです」



 それを聞いた転移メンバーは一様にして黙った。


 別にアイゼンハワーが消えたところで、これといって何かしらの変化が有るとは思えないが、毒ガスというのが少し気になったからだ。



「その毒ガスの詳細は?」



「流石にそれは・・・諜報員も向こうの争乱に掻き回されている状態ですし、コンピューターでの情報収集も限界が有ります」



 アメリカ本土で起きた争乱に、日本がアメリカに張った諜報網は掻き回されている状態であり、殆どまともに機能していなかった。


 いや、機能はしていたのだが、それで回されてくる情報は以前にも増して減っていたのだ。

 

 更にコンピューターでの情報収集も、現地での詳細な情報までは分からず、はっきり言ってアメリカ本土の情報は入ってくるものが限定的だった。



「アラスカ攻略に支障は?」



 有村が聞く。


 現在、日本軍のアラスカ攻略は先日アンカレッジを占領したところまで進んでいた。


 

「無いでしょう。そもそも今回の毒ガス攻撃を行ったのは南部の人間の可能性が高く、わざわざ遠くのアラスカまで毒ガスを使ってくるとは思えません」



 青木はそう言った。


 まあ、それが間違いかどうかは向こうの思考次第ではあったのだが、客観的には正しい考え方だ。



「やれやれ、まさか元とは言え、自国の領土で使ってしまうとは・・・連中はいったい何を考えているんだ?」



「・・・おそらく、追い詰められた事で正常な考え方が出来なくなっていたのでは無いかと。史実の日本でもそれで特攻隊が生まれていますし」



 人間というのは追い詰められると、正常な思考が出来なくなる。


 いや、本来は正常な思考ではないのを正常な思考だと思い込んでしまう習性を持っているのだ。


 特攻隊の創設には様々な理由があるが、そう言った背景も創設の一因だったのだろう。


 そして、今回の毒ガス攻撃も、追い詰められた者の足掻き。


 少なくとも転移メンバーにはそう映った。



「しかし、アイゼンハワーが死んだとなると、その後釜には誰が座るんだ?」



 有村はそれを気にしていた。


 これは当たり前だろう。


 万が一、対日強硬派がアイゼンハワーの後釜に座れば、戦争は必然的に長引いてしまうのだから。



「分かりませんが、おそらくマーシャル、フォレスタル、ノックス。・・・その辺りでは無いでしょうか?」


 

 岡辺はそう予測した。


 ちなみに史実であれば、この名前の欄にマッカーサーの名前も有っただろうが、この世界ではフィリピン攻略の際に彼は捕虜になっていて、第一次太平洋戦争の終結後に本国に戻っていたが、古今東西、敵の捕虜になった者は冷遇されるのが常なので、彼が国防の最高責任者に就任する事は有り得ないと転移メンバーは読んでいた。



「史実では誰が反日だったんだ?」



「さあ、分かりません」



 そう、転移メンバーも史実で誰が反日かなど分からないのだ。


 彼ら転移メンバーがそれらの人物の名前を知ったのは、あくまで教科書や小説の中の世界であり、実際はどうだったか分からない。


 まあ、分かったとしてもこの世界では歴史が大幅に違ってしまっているので、参考にならない事は確かであったが。



「・・・まあ、アラスカ攻略に支障が出ないようならば問題ないだろう」



 夕季はそう言った。


 転移メンバーは、この時はあまりこの情報を重要視していなかった。


 この情勢では、誰が国防の責任者になっても結果は同じになると考えていたからである。


 しかし、その予想が覆されるのも、そう遠くなかったのである。















◇西暦1947年 6月11日 アメリカ合衆国 ワシントンD・C



「なに!?陸軍がカリフォルニアに侵攻した!?」



 ウィルキーは補佐官からの報告を聞いて驚いていた。


 今朝方、アメリカ合衆国陸軍が突如としてカリフォルニア人民共和国との国境を越え、侵攻したと言うのだ。


 勿論、ウィルキーはこんな命令は出していない。


 彼としても、カリフォルニア人民共和国はいずれ始末しなければならないと感じてはいたが、それは今ではない。


 最低でも、対日戦と第二次南北戦争を終結させた後になる筈だった。


 その目論みが崩された事にウィルキーは内心で怒りの感情を抱きながらも、冷静さを装い、補佐官へと尋ねる。



「何故そんな事になったのだ?」



「はぁ。それが・・・マッカーサー国防大臣の命令だと」



「なんだと!?」



 ウィルキーは再度、驚く。


 これより10日前の6月4日。


 転移メンバーの予想を裏切る形で、ダグラス・マッカーサーはアイゼンハワーの後釜へと座った。


 よくよく考えてみれば当然であった。


 マッカーサーは史実でも絶大なカリスマ性を備えていた。


 でなければ、史実でマッカーサー自身が推した太平洋戦争の終結に遠のきそうなフィリピン攻略など、採用される筈も無かっただろう。


 そして、そのカリスマ性は多少史実より衰えていたものの、今回の歴史でもさして変わらなかった。


 だからこそ、マッカーサーはアイゼンハワーの後釜へと座る事が出来たのだ。


 しかし、同時にマッカーサーは史実でも分かる通り、プライドの高い男だった。


 なので、ウィルキーの事を暗に馬鹿にする時もあり、ウィルキーもマッカーサーに対して不愉快な感情を抱いていた。


 しかし、まさかこうもあからさまに文民統制シビリアンコントロールを無視されるとは思ってもいなかったので、流石のウィルキーも呆然としてしまっていた。



「すぐにマッカーサーを呼び出せ!!」



「は、はい!!」



 補佐官はそう言うと、部屋を退出していった。


 そして、一人になったウィルキーは、これからどうするべきかを考える。



「今から連れ戻したとて、到底間に合わない。ならば、このまま進んでいくのも手か?」



 もう侵攻してしまっている以上、余程の事を起こさない限り、連れ戻せない。


 力づくで連れ戻そうにも、そんな事は不可能。


 第一、それでは本末転倒だ。


 ならば、命令で連れ戻すか?


 それも不可能。


 先程、補佐官にマッカーサーを召還させるように伝えたが、それをマッカーサーが無視して、更に此方からの命令を握り潰してしまえば無意味になる。



「八方塞がりだな」



 ウィルキーはそう思いながら、先程出ていった補佐官の到着を待った。


 















◇西暦1947年 6月27日 大日本帝国 横須賀 第7艦隊 旗艦『瑞鶴』 司令官室


 第7艦隊はハワイ作戦後、横須賀に帰港して以来、次の作戦への参加を待っている段階であった。


 しかし、ただ待っていた訳ではない。


 パイロットや乗組員達は、十分過ぎる程訓練を重ねていたし、夕季も必死に指揮官としての腕を磨いていた。


 そして、今日も夕季はアメリカ本土の情勢を分析していた。



「ふむ。カリフォルニア人民共和国は随分呆気なく崩壊したな」



 夕季はそう思った。


 アメリカ合衆国がカリフォルニア人民共和国に攻め行った事は、既に日本にも把握されていた。


 しかし、何故いきなりアメリカ合衆国が、そんな行動を起こしたまでは分からなかった。


 流石の日本でも、そこまでの情報は収集できなかったからである。


 ちなみにアメリカ合衆国軍とカリフォルニア人民共和国軍との戦況を見ると、一方的にアメリカ合衆国軍が勝利していた。


 侵攻した2日後の6月13日には、サンフランシスコを陥落させ、更にその1週間後の6月20日には、南下してカリフォルニア人民共和国の首都、ロサンゼルスを包囲していた。


 何故これほど脆いかと言えば、やはりアメリカ内部には共産主義に信望している者が少なかった事が挙げられるだろう。


 信望もしていない主義に最後まで付き合う義理はない。


 カリフォルニア人民共和国の内情はそんなものだった。



「しかし、まさか残っていた原爆を使って自爆するとはなぁ」



 カリフォルニア人民共和国の首都、ロサンゼルスは6月21日に、残っていた最後の原爆を使って自爆した。


 大勢の市民を巻き添えにして。


 流石にこの情報にはアメリカどころか、世界中が目を疑っていた。


 そして、こう思った。


 やはり共産主義は危険だ、と。


 この日から、世界中で共産主義への弾圧は更に進む事となるのを、夕季はまだ知らない。


 そして、6月23日、サンディエゴが陥落し、カリフォルニア人民共和国は事実上、僅か10日で滅びたのである。



「更に南北戦争も終結しつつある」


 

 毒ガス攻撃へのアメリカ合衆国の動揺を期に、アメリカ連合国は最後の攻勢に出たが、最終的に返り討ちに遭い、この戦いの結果、アメリカ連合国は遂に折れ、6月25日に降伏した。


 結果的にだが、アメリカは6月中に内戦を治めてしまった事になる。


 残る外敵は日本とメキシコ。


 夕季は日米が講和する可能性は高いと見ていた。


 何故ならば、もはや日本と戦う程の気力はアメリカには残っていないからである。


 なにより、日本は本国が丸々無事であるが、アメリカはそうではない。


 復興の事も考えねばならないし、それを無視して戦争など不可能だ。



「このまま講和になると良いなぁ」



 夕季は切にそう願っていたが、それが楽観的思想であるという事もよく理解していた。


 しかし、夕季のこの願いは案外近いうちに叶う事となる。


















◇西暦1947年 7月5日 アメリカ合衆国 ワシントンD・C



「日本と講和、ですか?」



「そうだ」



 補佐官の言葉に、ウィルキーは答える。


 だが、その顔はかなり疲れている様子だった。



「理解はしますが、日本が生半可な条件で頷きますかね?」



 補佐官の言う事には一理あった。


 前述した通り、アメリカはつい最近まで内戦をやっていたのに対して、日本は本国が丸々無事の状態だ。


 普通なら生半可な条件では頷かない。



「分かっている。だが、我が国はもう限界だ。相手がよっぽどの理不尽な要求でもしない限り、条件を飲むつもりだよ」



 ウィルキーはそう言ったが、実際アメリカは限界だった。


 内戦によって国土は荒れ果て、更には生産力の低下やアメリカ国民の購買意欲の低下により、軍事関連以外の経済は停滞気味だった。


 一刻も早く、経済活動を再開させなければならない。 



「では、メキシコはどうなさいますか?」



「ああ、そちらは戦争続行だ。流石にメキシコに負けたという事実を残すのは不味い」



 殆ど火事場泥棒とは言え、このままアメリカの戦争を全て終結させた挙げ句、メキシコが勝ったという事実を残すのは流石に不味かった。


 メキシコはこう言ってはなんだが、はっきり言って弱小国であり、それに負けたとなればアメリカの威信は地に落ちる。


 そうなれば、回り回ってドルが更に暴落し、復興は更に遅れるだろう。


 そういう訳で、アメリカはメキシコに負ける訳にはいかなかった。



「国民向けの宣伝としては『アメリカの正義は火事場泥棒を許さない』というのはどうでしょうか?」



「それは名案だな。採用を検討してみよう」



 かくして、アメリカは講和に向けて動き出した。

















◇西暦1947年 7月15日 大日本帝国 帝都


 日米戦争は日本時間の7月7日。


 日本で言えば七夕に終結を迎えた。


 講和条件は大まかに言えば、以下の通りである。


・日本はアラスカ、アメリカはセイロン島から半年以内にそれぞれ撤退する。


・賠償金は互いに要求しない。


・日米は通商条約を改めて結び直し、通商を再開させる。


 ざっと言えば、こんなものだった。


 一見すると、アメリカが有利に見えるかもしれないが、ハワイやギルバート、ナウルなどは日本領として残るし、北太平洋はほぼ日本の海となっている。 


 これは逆に言えば、アメリカが北太平洋で活動する分には日本の顔色を伺わなければならないという事である。


 問題はアメリカ側から再度日本に向かって戦争を仕掛けてきた場合であるが、本土の復興にはあと10~20年掛かると目されていたし、またメキシコを殴り倒す事によって、アメリカ国民の怒りも多少は和らぐと目されていた。



「アメリカとの戦争も案外終結は呆気なかったですね」



「そうだな。しかし、軍備の整備に経済の建て直し。頭の痛い事ばかりだな」



 春川はそう言った。


 経済的なダメージはアメリカより小さかったものの、日本も決して無傷という訳ではなかったのだ。


 更に経済の建て直しの他に、万が一に備えて軍備の整備も行わなければならない。


 これは簡単な事では無かった。



「まあ、今はこの束の間の平和を満喫しますか」



 夕季はそう言った。


 確かに束の間の平和だ。


 もっとも、地球の歴史上、平和が束の間でない時期など無かったが。


 かくして、転移メンバーの“戦後”は始まろうとしていたのである。

はい、これで第三次世界大戦編は終了しました。次話はこの話から8年後の時系列で始まります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ