第26話 アメリカ情勢
七式艦上戦闘機
最大速力1100キロ。
航続距離2000キロ。
武装・・・20ミリ機銃2丁。対空ミサイル3基。
備考
日本海軍の最新鋭戦闘機。本機に搭載されている対空ミサイルの3基構造は空軍も採用予定であった為に、本機の開発には空軍の技術者も関わっている。
西暦1947年 4月4日 カリフォルニア ロサンゼルス
トロツキーは笑いが止まらなかった。
(メキシコ軍が北上したお蔭で、アメリカは両方とも大混乱だ。これでカリフォルニアに手を出す国は無くなった)
トロツキーがそう思うのも無理はなかった。
なんせ、現在のカリフォルニアを囲む国の情勢は
・アメリカ合衆国→南北戦争、日米戦、メキシコとの戦争準備。
・アメリカ連合国→南北戦争、メキシコとの戦争。
・メキシコ→アメリカ連合国への侵攻。
・日本→アメリカ合衆国との戦争中。
となっているからだ。
その内、日本はアメリカと戦争中とは言え、アメリカ太平洋艦隊が全滅した事からほぼ独走状態となっていたが、流石にアメリカ本土に上陸するとは思えなかった。
(アラスカは人口が少ないからこそ日本に攻められたのだ。このカリフォルニアならば大丈夫だ)
トロツキーは本気でそう考えていた。
と言うより、日本という国の力を見誤っていた。
日本には太平洋を遙々越えて、アメリカ本土に上陸するだけの国力は無い。
トロツキーはそう判断していたのだ。
だが、トロツキーの日本に対しての考察には誤りがあった。
別に日本軍はアメリカ本土に上陸できない訳では無かったのだ。
史実とは違い、この世界では転移メンバーの介入によって日本の経済レベルが向上し、その副作用として船舶保有量はかなり上昇していた。
更に例の変異によって日本本土で資源が採掘できるようになっていた為、南方に船を回す必要がなくなっていたので、その気になればアメリカ本土に上陸できるだけの船舶は用意できるのだ。
もっとも、上陸させる兵力をどうするのか?という問題は残るが、それでもその気になればアメリカ本土に上陸できるという事は確かであり、そういう意味でトロツキーの見通しは甘かった。
「さて、対外的な問題は当面問題は無さそうだし、今のうちに国内体制の引き締めを強化しよう」
トロツキーはそう言いつつ、職務に没頭した。
◇西暦1947年 4月17日 大日本帝国 帝都
「あと2日、か」
先日ハワイから帰ってきた夕季が呟く。
そう、2日後の4月19日。
第二次アラスカ攻略作戦は発動される。
投入するのは陸軍5個師団と海軍の第3艦隊(元第4艦隊)。
かなり無理をしたものの、これだけの兵力を確保でき、転移メンバーは安堵していた。
何故なら、兵力が揃わず、最悪の場合、アラスカ攻略が中止される事も考慮されていたからだ。
「アラスカ攻略が成功した場合、次はインド洋のセイロン島奪回ですか?」
青木が夕季に聞いた。
セイロン島に駐在する米軍は東南アジア連合にとって、自分達を脅かす存在であるので、宗主国の日本としては早めにセイロン島を奪回する必要がある事は、早くから囁かれていた。
しかし、日本と直に接する太平洋方面が優先とされ、セイロン島奪回は一時棚上げになっていた。
だが、米太平洋艦隊の壊滅によって太平洋方面の安全がほぼ確立されていた為、セイロン島奪回を唱える人間は日増しに多くなってきていた。
「まあ、そうなるだろうな。一応、西海岸を攻略すべしという意見も有るが・・・」
セイロン島奪回を人間が多い一方で、西海岸攻略を唱える人間も存在した。
狙いは主にカリフォルニアだ。
カリフォルニア人民共和国は一応、独立していると言われてはいるが、日本は承認していないので、日本の認識ではカリフォルニア人民共和国はアメリカ合衆国の領土のままである。
よって、攻める分には政治的にあまり問題は無い。
だが、兵力の確保が不可能だった。
現状のアラスカ攻略作戦でさえ、かなり無理をして作戦が組まれていたのだ。
そして、西海岸攻略となれば、最低でも10個師団は必要になる。
とてもではないが、今の日本にそれだけの戦力を出せる余裕など無かった。
「西海岸攻略は諦めよう。セイロン島奪回が優先だ。あそこならば、東南アジア連合の戦力も展開可能だ」
セイロン島はインド洋にある為、比較的東南アジアに近いので、東南アジア連合の援軍も期待できる。
現状の兵力が厳しい今、ある程度は保護国からの戦力供出に頼るしか無かった。
「じゃあ、次の攻勢地点はセイロン島にするとして、そこに駐在するアメリカ艦隊はどれ程なんですか?」
「少なくとも、此方の情報分析では去年とあまり変わっていないようです」
岡辺の質問に青木が答える。
つまり、セイロン島の米軍はアメリカ級1隻とエセックス4隻(その内、エセックス級空母2隻は11月にコロンボに入港した)アイオワ級戦艦2隻が中核という事である。
そう、アメリカ海軍はセイロン島に存在する兵力の他に昨年末に東海岸で竣工したアメリカ級1隻とエセックス級2隻、3月に東海岸で竣工したエセックス級2隻が戦力に加わっていたが、これらの戦力は全て第二次南北戦争とメキシコ戦に回されていた。
流石に本国の争乱を無視して、海外に戦力の派遣はできなかったのである。
いや、むしろ、現状のセイロン島の戦力でさえアメリカ内では撤退させろという声も大きいのだから、未だにこれだけ置かれているだけでも大したものであった。
「ここを占領すれば、アメリカは間違いなく政治的に致命傷を受けるだろうな」
春川の言う通りであった。
なんせ、セイロン島を奪回したという事は、あれだけの損害を出しながら状況が振り出しに戻った、という事になり、まず政治的な致命傷は間違いない。
と言っても、現在のアメリカ国民にそんな事を考えられる余裕があるかどうかは怪しいものではあったが。
「じゃあ、次の攻勢地点はセイロン島ですね。・・・しかし、今気付きましたが、ロシアとドイツはやけに大人しいですね」
岡辺が思い出したかのように言う。
「そうだな。まあ、ドイツは占領した地域の治安維持が有るし、ロシアも旧ソ連地域をいきなり手に入れる事になったから、それの管理で手一杯なんだろう」
そう、第二次世界大戦の結果、ドイツは膨大な領土を手に入れる事となったが、逆に言えば膨大な領土を手に入れた事による弊害も起きていた。
まず、占領地の治安維持の為に動員をなかなか解除する事が出来ない点。
この頃になると、流石のナチスドイツも占領地の民族浄化に手間が掛かりすぎる事が分かったのか、民族浄化は大分治まり、現地人の登用を始めていた。
しかし、やはり民族浄化時の現地人への苛烈な対応は、殆どの現地人の記憶に残っていた為、ゲリラと化す人間も多数居た。
その対応の為に、ドイツはなかなか動員を解除する事が出来ないで居たのだ。
次にドイツが手にした領土があまりにも広大すぎた事。
ドイツは当初こそ大半の領地の直接統治を行っていたものの、次第に間接統治に切り替えていた。
何故かと言うと、ドイツの人材だけでは、これだけの領土と人口の管理が出来ないからである。
しかし、上記に書いた通り、ゲリラ化する人間も多数居たので、現地人を登用してもなかなか管理が進まなかった。
そして、管理が進まない→現地人の不満が溜まる→ゲリラ化という負の連鎖を繰り返していた為、とてもではないが第三次世界大戦に参戦する余裕など無かった。
ロシアはドイツとは少し事情が違うが、似たようなものだった。
なんせ、ほんの数年前までロシア帝国そのものを否定したソ連が存在していた地域なのだ。
ロシア帝国に反感を持つものも居て、ドイツよりは少ないが、ゲリラが発生していた。
更に穀倉地帯の大部分をドイツに取られてしまっていた為、食料そのものも少なく、今必死に食料自給率を上げている最中であった。
幸い、日本がロシアと東南アジア連合との交渉を仲介し、東南アジアからロシアに食料が輸出され、それによって一息着けてはいたが、もし東南アジア連合がアメリカによって攻められれば、食料を確保する為に満州へと南下するだろう。
そうなったら不味い。
もしその状態で関係が悪化するような事があり、第二次日露戦争なんて事になればそれは悪夢となる。
そうならない為にも、東南アジア連合はなんとかして守らなければならなかった。
「どの国もギリギリの状況だな」
有村は現在の世界情勢を確認して、どの国も苦しいという状況に冷や汗を掻いていた。
◇西暦1947年 5月1日 アメリカ合衆国 ワシントンD・C
日本軍のアラスカ再侵攻。
この報告を聞いて、ウィルキー頭を悩ませていた。
「南部の連中はあと少しでなんとかなる。メキシコもだ。だが、現状でアラスカに再侵攻した日本軍を撃退するのは無理だな」
ウィルキーの言っている事は正しかった。
既にトロツキーの蜂起、第二次南北戦争、メキシコ参戦によってアメリカの国土は荒れ果て、流石のアメリカも限界に近づきつつあった。
更にカリフォルニア人民共和国という目の上のたん瘤が存在するので、早めに同国を何らかの形で崩壊させねばならず、そういう意味でも対日戦は早く納めたかった。
問題は日本側からの要求だが、こればかりは相手の出方を待つしかない。
なんせ、現在劣勢なのは合衆国の方なのだから。
「なんとか6月頃には講和可能か。まったく、長かったな」
自分が始めた戦争ではあったが、正直こうなるとは思わなかった。
そして、アメリカは多くのものを失った。
(私は歴代最低の大統領、という汚名を着る事になるだろうな)
そこまで思ったところで、ウィルキーは苦笑いをした。
あまりにも有り得る事態であったからだ。
(だが、最後くらいは大統領としての職をまっとうしないとな)
そう思うウィルキーであったが、それが叶わぬ願いであるという事は、この時点では知るよしも無かった。
◇西暦1947年 5月14日 アメリカ合衆国 南部
南部の各州はもはや風前の灯となっていた。
既に陥落した州も存在し、北部に降伏するべきだと言う声も日増しに大きくなっていた。
「このままでは不味いぞ!!」
だが、この独立戦争を起こした男達は諦めなかった。
いや、諦められなかった。
なんせ、このままでは家族共々、惨めな目に遭い、首謀者に至っては国家反逆罪で間違いなく処刑されるであろうからだ。
「しかし、何も手がない。せめて、トロツキーの奴のように原子爆弾でも有れば話は別なのだがな」
その言葉を聞いた男達は項垂れた。
そう、実を言うと、独立した南部州はどの州も原子爆弾を持っていなかったのだ。
これは対日戦の影響で、原子爆弾関連が西海岸や中西部に主に置かれていた事が原因だった。
対日戦を考えれば、南部諸州は縁が薄いからだ。
よって、この独立戦争を起こす前に、原子爆弾を確保すべきだという声も聞こえたが、それは結局黙殺された。
流石に原子爆弾関連を集めるとなれば、南部の動きが目立ってしまうからだ。
だが、今となっては後悔していた。
「・・・いや、原子爆弾は無いが、ある兵器なら有るぞ?」
そこで1人の男が思い出した。
「どんな兵器だ?」
「確か“サリン”とか言う毒ガス兵器だ。殺傷能力が普通の毒ガスより高いらしい」
言うまでもなく、サリンとは日本の地下鉄サリン事件(他に池田大作サリン襲撃未遂事件、滝本太郎弁護士サリン襲撃事件、松本サリン事件などがある)の際にばら蒔かれた毒ガス(神経ガスとも言う)である。
サリンの歴史は古く、1902年にはドイツ帝国によって開発されていた。
そして、史実の第二次世界大戦時には、あのヒトラーでさえ使用を躊躇ったと言われている。
「ダメ元で使ってみるか?」
しかし、ここに集まっている男達は偶然だったが、理系に精通している者が居なかった為、その恐ろしさを想像できる者が居なかった。
だからこそ、こんな言葉が出てきたのだ。
いや、と言うより、史実の第二次世界大戦時にヒトラーが使用を躊躇ったのは、第一次世界大戦の際に毒ガスによって酷い目に遭わされ、喉と目に一定の障害を負ってしまったというトラウマからだった。
ここに居る男達は、第一次世界大戦には参加していない。
なので、トラウマというものも当然なく、サリン使用にも躊躇いが無かったのである。
「では、どういうタイミングで使う?今更、毒ガス1つが有ったところで、戦局を覆せるとは思えないが・・・」
その通りである。
毒ガスは戦略的効果としてはかなりの戦功を挙げるだろうが、戦術的効果としては兵士に毒ガスマスクが配布されれば、容易に防がれてしまう。
よって、一発逆転の方法として使う必要があった。
「それなら心配するな。俺に良い考えがある」
「良い考え?」
「ああ、今はまだ言えないが、俺の考え通りならば、一発逆転も可能だ」
男が自信満々にそう言ったので、その場に居た他の男達はその男に使い方を任せる事にした。
元々、ダメ元なのだ。
ならば、自信の有りそうな男に任せた方が良い。
そんな気持ちで。
しかし、後に『任せなければ良かった』と後悔する事になる事を現時点で男達は知らない。
四式爆撃機
最大速力568キロ。
爆弾搭載量5トン。
航続距離5000キロ。
武装・・・20ミリ1丁。12、7ミリ機銃5丁。
備考
本来は原爆を運搬する為に開発された日本空軍の最新鋭爆撃機。