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帝国変換  作者: ありあけ
第三次世界大戦編
28/42

第24話 カリフォルニア人民共和国

四式戦車


最大速力34キロ。


武装・・・105ミリ戦車砲1門。12、7ミリ機銃一丁。


装甲・・・前面105ミリ。側面80ミリ。背面85ミリ。


備考


日本軍の最新鋭戦車。だが、もうすぐ正式採用される七式戦車によって最新鋭戦車の名は下ろされる見込み。

西暦1946年 12月20日 大日本帝国 帝都


 この日も転移メンバーによる会合が開かれていたが、とんでもない情報が日本に入ってきた為か、転移メンバーは何時もより緊張ぎみだった。



「それは本当なのか?」



「どうやら、間違いないようです」



 有村が情報の確認を行うと、青木がそれに答える。


 だが、それでも彼ら転移メンバーにとって、この事態は信じがたかった。



「ラスベガスが被爆、か」



 ラスベガスの被爆。


 これの意味するところは、ラスベガスが核の炎に晒されたという事である。


 時は遡り、2日前の12月18日。


 蜂起軍とアメリカ軍との戦い(と言っても、殆どアメリカ軍有利の状態だが)になり、膠着状態となっていた頃、蜂起軍は起死回生の策として原爆を使う事を考えた。


 そして、その標的として選ばれたのがラスベガスだった。


 平成日本人ならば、一度は聞いた事のある賭け事で有名な街。


 資本主義者にとっては快楽と夢の都であったが、共産主義者にとっては悪魔の都であった。


 故に、標的として選ばれたのだ。


 爆撃自体は簡単だった。 


 蜂起軍が確保した爆撃機を使って、原爆を運び、ラスベガスに落とせば良かった。


 ラスベガスは砂漠のど真ん中に位置する都市であり、おまけに付近には特にこれといった軍事施設が無い為、迎撃も不可能だった。


 更に運の良い事に、爆撃機が空を飛んでいた丁度その時に、アメリカ軍のレーダーが故障するという事態が発生していた。


 その為、作戦も上手く行き、ラスベガスは文字通り吹っ飛ばされる事になり、壊滅状態へと陥ったのだ。



「これはアメリカにとっては地味に痛い損害だろうな」



 ラスベガスはその特性上、富裕層の人間が集まるケースが多く、事実、原爆を落とされた時もその階層の人間は多数居た。


 しかし、それらの人間は核の炎によって滅却されたので、アメリカにとっては致命的とは言えないにしろ、ダメージは大きい。



「想像以上にアメリカの混乱は酷いな」



 夕季がそう言う。


 まあ、だからと言って日本がアメリカに対する攻勢を弱める理由にはならない。


 何故なら、そもそも今回起こった日米戦は今回の混乱のドサクサに紛れて日本が宣戦布告してきたという訳ではなく、それ以前からの戦いであるので、国際的にも火事場泥棒などと呼ばれる心配もないからだ。


 むしろ、この状況は日本にとって好ましい。



「ハワイ侵攻作戦の状況はどうですか?」



「あと2ヶ月で発動可能だ」



 岡辺の質問に夕季が答えた。


 ハワイ侵攻作戦とは、アメリカの混乱に拍車をかける為に、日本がハワイを侵攻、これを占領し、西海岸への圧力を更に強めようという計画である。


 これによって、講和を持ち掛ける、という算段だった。


 本来なら、その目論見が成功するかどうかはかなり怪しいが、このアメリカの状況下なら希望があった。


 もっとも、危機感を煽りすぎて、その影響でかえって混乱が治まってしまえば、その行動もマイナスとなってしまうが、転移メンバーはこの問題には目を瞑っていた。


 仮にそれで混乱が治まったとしても、その頃にはハワイは日本の手に落ちているだろうし、そうなればアメリカは中部太平洋の重要拠点を完全に失ってしまう。


 そうなれば、持久戦という手もあながち夢物語ではなくなってくる。


 その事から、転移メンバーはリスク面に目を瞑っていたのだ。


 だが、このハワイ侵攻作戦には大きな問題が1つあった。


 

「2月、随分遅いな。それではアメリカの混乱が治まっているかもしれないぞ?」



 有村が言った。


 そう、大きな問題、それは時間だった。


 アメリカの混乱は様々だ。


 共産主義者の蜂起、ラスベガスへの原爆投下、南部の独立。


 今起きている混乱だけでも、普通の国どころか、並の列強ならば崩壊していても可笑しくはない。


 しかし、相手であるアメリカは、その普通の国や並の列強にはカテゴライズされていない。


 この混乱も時間を掛ければなんとか持ち直すだろう。


 問題はアメリカが混乱を治めるのにどれだけの時間を掛けるかだ。


 有村の言った通り、日本軍がハワイに侵攻する前にアメリカの混乱が治まってしまえば、ハワイ侵攻作戦は殆ど意味をなさなくなる。


 いや、全く意味がないという訳ではないが、メリットデメリットを考えると、デメリットの方が大きい。


 それを考えれば、早く攻めるのが一番なのだが、日本軍側にそれが出来ない事情があった。



「無茶言わないでくれよ。ソロモン・ニューギニア作戦の詰めも有るんだぞ?」



 そう、日本軍はこの4日後にアメリカのソロモン諸島最後の拠点であるガダルカナルへの侵攻を計画していて、更に来年の1月にはポートモレスピー攻略も予定されていた。


 これにも兵力を割かなければならない関係上、日本としてはハワイ侵攻だけにかまける訳にもいかず、必然的にハワイ侵攻は遅くなるのだ。


 いや、そもそもハワイ侵攻は当初はもっと遅れる予定(本来は来年の4月~5月予定)だったのだが、今回のアメリカ混乱を受けて急遽予定を早めたのだ。


 これ以上の無理強いをさせる訳にはいかなかった。



「なら、仕方ないか」



 有村も無理強いをしたのは分かっているのか、あっさりと引き下がった。


 こうして、日本は行動を起こそうとしていた。
















◇西暦1947年 1月2日 アメリカ合衆国 ハワイ 


 年が明け、1947年となったが、アメリカには日本のように新年を祝う文化はあまり無い。


 精々が、『ハッピー・ニューイヤー!』と表現する程度である。


 もっとも、仮にそのような文化が有ったとしても、祝う余裕は無かっただろう。


 特にこのアメリカ太平洋艦隊司令部は。



「アメリカ本土の混乱は終息の気配は今のところ無し、か」



 ニミッツは呟いた。


 ニミッツの言った通り、アメリカでの混乱は治まる気配を見せなかった。


 考えてみれば当然の事で、如何にアメリカと言えど、あれだけの混乱を受ければ、逆に1、2ヶ月で治まるという方が不自然な話だった。


 しかし、前線に立つ者にとっては、はっきり言ってそんな事は関係なかった。


 現在、太平洋戦線ではガダルカナル島が陥落寸前。


 そして、ポートモレスピーへの圧力も、段々と強くなってきていた。


 本来なら、この段階で増援の部隊や物資を送らなければならないのだが、本土の混乱と日本軍潜水艦の通商破壊で前線に送る物資どころか、このハワイで使う物資も不足している有り様ではそんな事が出来る訳が無かった。


 それでも乾いた雑巾を振り絞るかのように、前線へ物資を送っていたが、それも限界だった。



「次の補給を待たねばなるまいが、はてさて何時来る事やら」



 ニミッツは溜め息を着きながらそう言っていた。
















◇西暦1947年 1月21日 アメリカ合衆国 ワシントンD・C


 さて、太平洋戦線ではガダルカナル島が事実上陥落し、1月18日に日本軍を含む東南アジア連合がポートモレスピーに上陸し、攻略し始めていた頃、アメリカ本土では何が起こっていたか?


 一言で言えば、絶賛混乱中だった。



「それで、南部の者共の討伐は何時終わらせるのだ?」



 ウィルキーはアイゼンハワーを呼び出してそれを尋ねていた。


 つい1ヶ月程前に起きた原爆投下によってアメリカ政府、軍部(特に陸軍)は完全に委縮してしまい、アメリカはトロツキー率いる共産主義勢力と交渉を持たざるを得なくなった。


 そして、交渉の結果、トロツキーが蜂起した地であるカリフォルニアを正式にカリフォルニア人民共和国として独立させる事に決まった。


 しかし、これには海軍が反発した。


 当たり前である。


 カリフォルニアを失うという事はサンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴ等の重要な海軍拠点を全て失うという事である。


 これでは対日戦など殆ど出来ない。


 更にその造船所で建造した艦や修理されていた艦も失うという事であり、海軍にとっては到底受け入れられる話では無かった。


 しかし、陸軍は完全に委縮してしまった為か、政府に強硬にトロツキーの要求を飲んで、それで終わらせようとしていた為、結局、それで交渉は纏まってしまった。


 それがつい4日前の話である。



「・・・君も分かっていると思うが、今アメリカは危機的状況下にある」



 ウィルキーはそう言ったが、これは本当である。


 カリフォルニアを実質的に共産主義者に明け渡し、南部の独立、更には海軍と陸軍の溝の拡大。


 これは如何にアメリカと言えどヤバかった。



「はい、ですので、直ちに部隊を編成し──」



「また、それか!!」



 ウィルキーはアイゼンハワーの言葉を遮るかのようにそう叫んだ。



「何時も何時も同じ事ばかり言っているが、何か成果を挙げているのかね?私の記憶では数える程しか無かったと思うが?」



「・・・」



 ウィルキーの皮肉にアイゼンハワーは言い返さない。


 何故なら、悔しいが事実でもあったからだ。


 確かに開戦初期は日本軍を押しきって、幾つかの拠点を陥落させた。


 が、その損害はかなりのものであったし、最近では逆に侵攻される場所も出てきていた為、軍の面目は丸潰れになっていたのだ。


 そのせいか、世論の目も厳しかった。


 特に陸軍は、カリフォルニアを譲り渡した売国奴として海軍や他の部署から総スッカンを食らっている状態だった。


 もっとも、今は情報が統制されている為、知らないが、国民にそれが知られれば、それでは済まないだろう。



「良いかね?必要なのは結果だ。その過程ではない」



「・・・」



「分かったかね?では、結果を出したまえ。それが出来なければ、君は解任だ」



 ウィルキーはアイゼンハワーにそう言って、下がるように命じた。


 そして、アイゼンハワーが去った部屋でウィルキーは考える。



(もはや、太平洋での日本軍への攻勢は不可能だ。となれば、インド洋方向から侵攻するしかない)



 この期に及んでも、ウィルキーはまだ日本との戦争を続けるつもりでいた。


 理由としては、ここまでアメリカがボロボロになっている以上、日本が講和の際にどんな条件を突き付けてくるか分からないからだ。


 この状況下で、厳しい講和条件を受け入れれば、どんな事になるかは想像もつかない。



「その為にも、南部の連中を黙らせる必要が有るのだが・・・」



 アメリカ合衆国は現在、第二次太平洋戦争と第二次南北戦争という戦いを同時に行っている。


 しかし、幾らアメリカと言えど、この2つの戦争を同時に戦うのは厳しく、早めに一個一個かたをつける必要があった。


 それが出来るかどうかは微妙だが。



「厄介な問題だな」



 ウィルキーは憂鬱げにそう言った。

















◇西暦1947年 1月29日 アメリカ人民共和国 ロサンゼルス


 新たにアメリカ人民共和国の首都となったこのロサンゼルスで、トロツキーは部下からの報告を受けていた。


 

「ふむ。我が国からの人口の流出が増えている、か」



「はい」



 それは人口流出問題だった。


 やはり、共産主義国家というのは、アメリカ合衆国の国民から見れば受け入れがたい者も多く、カリフォルニアから他の州へ脱出する者が増えていた。



「しかし、此方に入ってくる人間も多いではないか?」



「しかし、彼らの大半は難民です。我々には厄介者でしか有りません」



 一方で、カリフォルニアに入ってくる人間も居た。


 アメリカ内に居た共産主義者、そして、第二次南北戦争に巻き込まれ、カリフォルニアに脱出してきた難民達だ。

 


「君、人種差別はいかんよ。革命の理念においては人種差別は真っ先に除外されねばならない」



「・・・失礼しました」



 トロツキーはそう言いつつも、対応策を考える。



(アメリカ南部が滅ぼされるのは不味い。私をこの地に入れてくれた恩もあるが、彼らがやられては我が国はいずれあの合衆国を名乗る帝国主義者に滅ぼされてしまう)



 トロツキーはそう思った。


 これは事実だった。


 実際、アメリカ合衆国内部にはこの国の存在を歯軋りしながら見つめている者も多い(と言うより、それが殆ど)。


 なので、南部討伐が成功すれば、用済みとばかりにカリフォルニア人民共和国に攻めてくる可能性があった。


 よって、速やかに味方の国を探し、その承認を受ける必要が有るのだが、その国が居ないのだ。


 日本はアメリカ合衆国と戦争中で、承認されてもあまり意味はなく、加えて反共国家である事から、承認する可能性は低い。


 ロシアとドイツに至っては論外だ。


 そもそもロシアもドイツもソ連を宿敵としていた国なので、カリフォルニア人民共和国を承認する事は国家の在り方に関わってしまうのだ。


 もっとも、ロシア程の領土を持っていたら話は別だっただろうが、カリフォルニアの領土は当然の事ながらそれより圧倒的に小さい。



「さて、どうするべきか」



 トロツキーは悩んでいた。

転移メンバーについて


転移メンバーは年月が過ぎても、その容姿は変わらず、年を取っている様子もない。更に不老不死?の体を持っていて、傷が付いてもすぐ治る。だが、逆に言えばどんなに嫌な事が起きても、“生”から脱却出来ないという難点を持っている。

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