第23話 アメリカ内乱
陽炎型駆逐艦
基準排水量4400トン。
機関・・・ガスタービン。
最大速力35ノット。
武装・・・10センチ連装高角砲2基4門。40ミリ連装機銃8基16門。20ミリ単装機銃10基10門。24連装対潜迫撃砲2基48門。VLS×96基。
備考
一見、吹雪型よりも劣っているように見えるが、対空・対艦ミサイルなどの搭載をVLSに行っている他、レーダー射撃システムなども最新の物が積まれている為、戦闘能力は格段に上がっている。
西暦1946年 10月27日 アメリカ合衆国 ワシントンD・C
アメリカ軍の中部太平洋侵攻作戦が頓挫して1ヶ月が経過した。
その間、両軍は戦力再編の為、これといった動きをせず、太平洋戦線は膠着状態となっていた。
しかし、ここに来てアメリカは新たな作戦を実行する事を考えていた。
「インド洋侵攻作戦・・・これが成功すれば、日本に政治的な打撃を与える事が可能だ」
ワシントンD・Cのホワイトハウスにて、ウィルキーはそう呟いた。
そう、中部太平洋侵攻作戦は頓挫したものの、アメリカはインド洋にアメリカ級空母1隻、エセックス級空母2隻(うち1隻は4月に修理が終わり、5月にコロンボ港に入港した)、アイオワ級戦艦2隻を中核にした有力な艦隊を張り付けさせており、インド洋侵攻作戦もやろうと思えば可能だった。
更に先月完成したばかりのエセックス級空母3隻を向かわせる事も出来る。
そして、東南アジアへの侵攻が成功すれば、東南アジア諸国の日本に対しての不信感を煽る事も出来る為、政治的なダメージが与えられる。
しかし、問題が1つある。
それは陸上兵力だ。
中部太平洋侵攻に投入した陸上兵力2万の内、その60パーセント以上を失ってしまい、現在兵力の再編の最中だった。
他にも南太平洋への増援、アラスカへの兵力の張り付け、ハワイの兵力増強、本土の治安維持と、色々と陸上兵力の使うべき部分が多いのだ。
つまり、はっきり言えば陸上兵力派遣の余裕が無かった。
空母部隊だけの空襲で終わらせるという選択肢もあったが、それだとあまりダメージにはならない。
「やはり選抜徴兵をフルに活用するしかないか・・・」
アメリカ軍は志願制と選抜徴兵制度の2つから兵力を供出しており、この時代の各国に比べれば若者が戦争に行かされる例が少ない。
もっとも、これは日本も転移メンバーによってほぼ同じ制度を取っていたが、アメリカは人口1億4000万人、日本は人口8000万人なので、選抜徴兵制度を導入した場合、必然的にアメリカの方が使える人材が多いのだ。
話を戻すと、ウィルキーは長期戦を見越して、選抜徴兵制の本格導入を図ろうとしていた。
驚くべき事に、アメリカは未だ選抜徴兵の本格化を行っていなかったのだ。
これは今回の第二次太平洋戦争が半ばウィルキーのごり押しで始まってしまい、更に西海岸住民を中心とした反戦活動によってなかなか選抜徴兵の本格化に持ち込む事が出来なかったからだ。
しかし、例の西海岸の“連邦軍による治安維持”以来、反戦運動は低調しており、選抜徴兵制を本格化する事が可能だった。
「各州の抗議が気になるが・・・まあ、大丈夫だろう」
ウィルキーが西海岸で行った暴挙(他州視点)により、各州は最初は抗議していたが、無駄だと思ったのか、抗議を既に止めている州もあったのだが、いまだにしつこく抗議をしている州もあった。
ウィルキーはこれを目障りに思っていたのだが、これ以上西海岸と同じ事をやってしまうと、アメリカは内戦に発展してしまう可能性が有ると考えていた為、行動を自重していた。
だが、状況次第では多少の内戦は覚悟しても行動を行う必要もあるかもしれない。
ウィルキーはそう考えていた。
「オーストラリア方面も問題だな。まったく、これは裏切り行為だぞ!」
ウィルキーは毒づいていた。
OSSからの報告で、日本とオーストラリアの講和が進もうとしているという事は知っていた。
しかし、アメリカは行動を起こさなかった。
いや、起こせなかった。
アメリカ太平洋艦隊は事実上壊滅していたからである。
今現在使える空母は0。
戦艦も今現在使えるのが、アイオワ級1隻とギルバート方面から命からがら逃げ帰った旧式戦艦が2隻では、何か行動を起こせと言うのも無理な話だった。
もっとも、日本という存在が居なければ、この兵力でもオプションは起こせていただろうが。
「なんとしても、阻止しなければならないが・・・どうする?」
軍事的オプションは不可能、経済的オプションも今が日本との戦争中である為、難しい。
はっきり言って手詰まりだった。
「仕方ない。オーストラリアの事は後だ。今のうちにインド洋侵攻作戦を進めよう」
ウィルキーはそう考えた。
かくして、アメリカ軍のインド洋侵攻作戦は立案される事になったのだが、彼は知らない。
この半月後にとんでもない事が起こり、それどころでは無くなる事を。
◇西暦1946年 11月16日 大日本帝国 帝都
マーシャル・ギルバート方面の後処理が終わり、第3艦隊と第5艦隊は再編の為に一時本土に帰還していた。
そして、本土で夕季は一時的な休暇を取っていたが、この日の前日とんでもない情報が入り、急遽会合に参加する事となっていた。
「アメリカで革命だと?」
有村が驚いたように言う。
そう、つい先日、アメリカ西海岸で、ある男を旗頭にした蜂起が起こっていたのだ。
男の名はレフ・トロツキー。
史実では1940年の8月21日にスターリンの刺客によって暗殺された人物だが、この世界では独ソ戦がかなり早く始まってしまった為か、暗殺話はうやむやになり、生き永らえていた。
そして、トロツキーはどうやってアメリカ、それも戒厳令が敷かれている西海岸に入ったか知らなかったが、その西海岸で蜂起の為の扇動を行い、実行したのだ。
「しかし、何故こんな事が起きた、いや、起こす事が出来たんだ?」
夕季はそれが疑問だった。
前述した通り、アメリカ西海岸は戒厳令が敷かれており、とてもではないが、蜂起など不可能に等しい。
にも関わらず、実際に蜂起は起こっている。
いったい何がアメリカで起こっているのか、検討がつかなかった。
「さあ、それは調査を待たないと・・・まあ、すぐに鎮圧されると思いますけどね」
幾ら各地に兵力を張り付けているとは言え、今回の蜂起はアメリカ本土で起こった事だ。
当然の事ながら鎮圧の為に本土に残っている正規軍だって出てくるだろうし、何よりアメリカは資本主義の親玉だ。
それほどトロツキーの蜂起に乗る人間が多いとは思えない。
よって、常識的に考えればすぐ鎮圧されるだろう。
「しかし、何故こんなタイミングで蜂起なんて起こしたんだ?」
有村が疑問を口にした。
そう、アメリカは現在戦争中であり、しかもそれほど追い詰められてはいない。
にも関わらず、こんな中途半端なタイミングで蜂起を起こした。
これは普通なら可笑しい。
「大方、OSSの捜査か何かが入って、破れかぶれにでもなったんじゃないか?」
「なら良いんだが・・・」
そう言ったものの、夕季は嫌な予感がした。
確かに春川の言った事は一理あるだろう。
しかし、それ以外、すなわち、これらの行動と結果が全て計算済みであった場合、話は大幅に変わってくる。
もしかしたら、アメリカで更に何か起こるのかもしれないし、それが日本の脅威になるのかもしれない。
夕季はそう思っていた。
とは言っても、確認する手段は殆どない。
コンピューターによる情報解析では取れない情報も有るし、西海岸でつい最近まで戒厳令が敷かれていた以上、諜報員の活動も限定的だ。
すなわち、アメリカで起きた出来事については静観するしかないというのが、本当のところだった。
「・・・ところで、オーストラリアとの講和だが、本当にあれで良かったのか?」
夕季は話題を切り換えて、オーストラリアと結んだ講和条約について他のメンバーに尋ねる。
オーストラリアとの講和条約は大雑把に言うと、次のように纏められている。
・オーストラリア全軍はニューギニア、ソロモン諸島から撤退する事。
・オーストラリアはニューギニアの独立と東南アジア連合への加盟を認める事。
・オーストラリアはソロモン諸島を日本軍に割譲する事。
以上である。
ちなみに、ニューギニアとソロモンに展開している米軍についてはオーストラリアは一切関知しないとされた。
つまり、『後はご勝手に』という事だ。
「・・・仕方ありません。翔鶴が撃沈された以上、一方面でも戦線を減らす必要が有りましたから」
青木が言う。
そう、翔鶴は日本軍自慢の主力空母の1隻。
これが撃沈されたとなれば、一方面でも戦線を減らさなければ対米戦は窮屈になってしまう。
それを考えれば、この講和は間違いではない。
その点は夕季も分かっていたので、これと言って文句は無い。
無いのだが、問題は今回の翔鶴撃沈に自分以外の転移メンバーが少々臆病になりすぎているのではないか?という疑問であった。
確かに翔鶴は日本海軍の主力空母の1つだが、それでも翔鶴はあくまで日本海軍の一空母にすぎない。
故に、必要以上に臆病になりすぎると、肝心な時に戦略を見誤る。
夕季はそれを危惧していた。
(まあ、今言っても仕方がないか)
そう思いながら、夕季は他の転移メンバーと共に次の戦略について話し合った。
◇西暦1946年 11月28日 アメリカ合衆国 ハワイ
ニミッツ率いる太平洋艦隊は、手持ちの戦力がほぼ壊滅してしまった為、現在は殆ど仕事が無かった。
だが、それでも防衛作戦ならば、とその作戦について練っていたのだが、ふと思い出した事があり、補佐官に尋ねた。
「そう言えば、西海岸で起きた暴動だが、あれはどうなったのだ?」
ニミッツが言った暴動とは、無論、トロツキーが起こした蜂起の事である。
太平洋艦隊司令部では、直接敵対する日本軍に対しての情報収集に大半の人間が割かれている為、西海岸で起きた暴動については今一つ情報が入っていなかったのだ。
まあ、インターネットも無い時代なのだから、仕方ないと言えば仕方なかったが。
「はい、予想外にも手こずっているようですが、鎮圧も時間の問題でしょう。・・・しかし」
「しかし?」
「あっ、いえ、やけに鎮圧するのが遅いなぁと感じたもので・・・」
「ふむ」
ニミッツは考える。
暴動から既に13日。
アメリカ軍はこの鎮圧に最初から正規軍を投入していた為、鎮圧はあと一歩言っていい状況だった。
にも関わらず、アメリカ軍の掃討作戦は今一歩足踏みをしている状態だった。
(何かあったのか?)
内心でそう思うニミッツであったが、今考えるべき事ではないとその思考を打ち消し、補佐官に聞いた。
「噂のインド洋侵攻作戦はどうなっている?やはり、延期か?」
「はい、そのようです」
アメリカ上層部で打ち立てられていたインド洋作戦だが、今回の暴動によって一時延期となっていた。
しかし、そうなると、必然的に太平洋方面での日本軍の圧力が強まるので、太平洋艦隊司令部はいっそう苦労しなければならなくなる。
その事を考えて、ニミッツは憂鬱げに溜め息をついた。
(まあ、文句を言っても仕方がない。兎に角、なるべく早く戦力の太平洋方面へと回して貰えるように意見具申するしかないか)
ニミッツはそう考えて自分のやるべき仕事をする。
だが、そう遠くないうちに本土で更にとんでもない事が起こるなど、この時は想像すらしていなかった。
◇西暦1946年 12月7日 アメリカ合衆国 南部 某所
アメリカ南部。
かつては独立国家として存在していた事もあったが、南北戦争に敗退して以来、北部に併合され、今のアメリカ合衆国の形となった。
が、南部の人間はアメリカ合衆国の一部となる事は了承してこれまで生きてきたものの、南部というのは元々アメリカの中でも独特な気風を持っている為か、度々政府への反感を持つ事もあった。
そして、それは今でも変わっていない。
「おい!これはどういう事だ!!」
アメリカ南部の某所で南部州に属する州の高官達が集まり、とある話し合いをしていた。
しかし、彼らはどことなく焦っていた。
「何故原爆が奴等の手に入ったのだ!?」
そう、実を言うと、当の昔に壊滅できた筈のトロツキーの蜂起をアメリカ軍が完全に掃討出来ないのは、このせいだった。
時は10日以上遡り、11月26日。
トロツキー率いる蜂起軍はその頃には大分追い詰められていて、最後の攻勢としてサンディエゴのとある軍事基地を襲撃し、そこに保管されていた原爆を入手したのだ。
お蔭で、アメリカ軍はトロツキーの蜂起軍を掃討するのを躊躇うようになってしまい、蜂起軍は息を吹き返しつつあった。
「これは我々のシナリオには無かった事だな」
「まったく、トロツキーの奴も厄介な事を。これでは独立宣言など出来んではないか」
そう、トロツキーをアメリカ合衆国内に招き入れたのは、何を隠そうこの男達だった。
男達の計画はこうだ。
まず、メキシコに居たトロツキーをアメリカ合衆国内に招き入れて、西海岸で蜂起を行わせる。
そして、アメリカ政府の目が完全に西海岸へ向いたと同時に独立宣言を行い、南部を独立させる。
名目上は、“アメリカ政府への不信感から身を守る為に独立した”という感じにである。
南部が一斉に独立すれば、必然的に対日戦を続ける為に南部へ譲歩せざるを得ないし、仮に南部討伐を優先して日本と講和を行ったとしても、その場合、日本有利で終わる事はほぼ確実である為、少なくとも現与党である共和党は支持率を失い、最悪政権が崩壊してしまうかもしれない。
何故なら、それでは日本と戦争をした意味がまるまる無くなってしまうのだから。
仮に政府が南部へ責任を全て押し付けようとしたとしても、此方も対抗して『我々が独立する考えに至ったのは、アメリカ政府による西海岸弾圧とその原因である対日戦争からである!!』と言われてしまえば、強烈なカウンターパンチとなってしまう。
結果、その場合でも政権が崩壊してしまい、アメリカ政府は結果的に何も出来ないまま混乱し、南部の独立は既成事実と化す。
そういう計画だったのだが、トロツキーが原爆を手に入れた事で、その計画は狂ってしまった。
今独立しても、他州どころか、諸外国からも白い目で見られるかもしれない。
「・・・いや、かえって今がチャンスかもしれない」
「どういう事だ?」
男の言葉に、もう1人の男が聞いた。
「考えてもみろ。確かに計画では『アメリカ政府が混乱する』とあったが、もし政府が何らかの切っ掛けで態勢を立て直した場合、我々はほぼ確実に終わるぞ?」
「「「・・・」」」
「それに、アメリカも2つの区域と内戦は避けたい筈だ。となると、我々の独立を認めるしかない」
男の言う事には一理あった。
確かにアメリカ政府はトロツキーのやった蜂起は絶対に認められない。
それこそ、南部の独立よりも。
何故なら、トロツキーのやった事を認めてしまえば、それこそ資本主義の親玉としてのアメリカの国際的立場が大きく揺らいでしまう。
そして、その結果、国際的問題から国内的問題へと発展し、“赤いアメリカ”などというものが冗談抜きで出現しかねない。
それを防ぐ為に、アメリカはトロツキーを最優先で潰す為に南部の独立を一旦認める可能性が高い。
政府がここまでの筋書きを咄嗟に読めれば、だが。
「・・・なるほど、確かに当初の計画よりも成功率は高そうだな」
「ああ、これならいけるかも」
他の男達もその気になってきた。
元々、南部の独立は男達にとってもリスクは高い話だった。
何故なら、失敗してしまえば、彼らは国家反逆罪で摘発されてしまう可能性が高いからだ。
そういう訳なので、確率の高い提案があるなら、それに乗ろうとするのも当然と言えば当然の話だった。
しかし、何故リスクの高い独立という道を選んだのか?
それは政府への不信感もあるが、やはり先の西海岸弾圧が大きかった。
西海岸で政府による弾圧があったという事は、元々反抗的な南部がその対象外へと逃れられる筈がない。
少なくとも、男達はそう判断していたのだ。
それならば、いっそのこと隙有らば独立しようと考えていたのだ。
「よし。これで行こう」
そして、この1週間後の12月14日。
アメリカ南部各州は“アメリカ連合国”として、独立を宣言し、対日戦からの離脱を一方的に宣言する事となる。
三式艦対空誘導噴進弾
最大速力1600キロ。
射程50キロ。
炸薬量100キロ




