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帝国変換  作者: ありあけ
第二次世界大戦編
16/42

第12話 戦略と戦術 

零式艦上戦闘機『烈風』


最大速力650キロ。


航続距離2300キロ。


武装・・・20ミリ機銃4門。


備考


零式シリーズの一種。日本海軍の最新鋭機。 

西暦1940年 6月8日 アメリカ ワシントンD・C


 ルーズベルトは久しぶりの良い知らせに内心で歓喜していた。



「ふむ。空母3隻を沈めたか」



 それは先日起きたミッドウェー海戦についての報告書であった。


 そこには日本軍のミッドウェー攻略部隊に対して、ヨークタウン、ホーネットを中核とした機動部隊が交戦し、日本軍空母を3隻沈めたという報告があったのだ。


 此方もヨークタウンが大破、ホーネットが中破したが、沈没艦はいない。


 ミッドウェー海戦は“戦術的には”アメリカの勝利に終わったと言えるだろう。



「だが、戦略的には敗北だな」



 しかし、結果的にミッドウェーは日本軍が攻略作戦を続行した事により陥落寸前である為、戦略的にはアメリカの敗北であった。


 また、この戦いでアメリカ海軍の稼動空母が0となってしまった為、太平洋は一時的にせよ日本の海となる事が決定されてしまったのである。


 更に重大な問題がもう1つあった。



「ハワイ再建は難しい、か」



 そう、ハワイ再建についての問題である。


 日本軍の第1航空艦隊によってメチャクチャに破壊されたハワイは再建が検討されていたが、今のところ悉く頓挫していた。


 何故なら、ハワイは位置が位置である以上、再建するにはアメリカ本土から物資を持ってこなければならない。

 

 だが、その本土から物資を運ぶ輸送船団が悉く日本軍潜水艦によって撃沈されてしまうのだ。


 辛うじてハワイまで到着した輸送船も居たが、それで運ばれてきた物資ではとてもではないが再建には足りなかった。


 更にミッドウェーが陥落した為、今後はハワイへの日本軍の空爆が常時化する可能性が高い。


 どうするべきか?


 それをルーズベルトは考えていたが、1つしか思い浮かばなかった。


 それは潜水艦や駆逐艦による物資輸送であった。


 普通の輸送船で行けば、まず間違いなく沈められてしまう為、隠密性の高い潜水艦と高速の駆逐艦によってハワイに物資を輸送するという転移メンバーが聞いたら、『何処の鼠輸送?』と突っ込む事間違いなしの案だった。


 だが、この作戦はこの場合では意外に成功率が高い。


 まず西海岸からハワイまでの航路には潜水艦しか邪魔者が居ない為、逆に言えばそれを潜り抜ければ作戦成功は間近だ。


 ミッドウェーにも日本空軍の航空隊が進出していたが、ミッドウェーからハワイまではそれなりに距離がある為、史実のガダルカナル島でやられたような輸送物資を狙っての空襲というのは実質不可能だ。


 そういう意味では魅力的な案なのだが、当然の事ながらデメリットも存在する。


 まず駆逐艦や潜水艦ではどんなに物資を積んでも、それで運べる物資の量はたかが知れていたのだ。


 その為、何度も往復しなければならず、そして、そこまであからさまにやられると日本軍も流石に気付くので、何らかの対策は打ってくるだろう。



「だが、やらなければハワイが日本軍に利用されてしまう」



 しかし、ハワイ攻略を防ぐ手が無い今、やらなければハワイが取られてしまう事は必然だった。


 それを防ぐ為にルーズベルトは決断する。


 かくして、アメリカ版鼠輸送はこのようにして考案が誕生したのである。














◇西暦1940年 6月22日 大日本帝国 帝都


 ミッドウェー海戦の損害を聞いて、転移メンバーもまた、頭を抱える事になった。



「ミッドウェーは陥落しましたが、損害が大きかったですね」



「ああ、まさか、空母“2隻”が沈められるとはな」



 そう、アメリカ側は空母3隻撃沈と思っているが、実際は2隻(東鳳、西鳳)沈没、1隻(北鳳)小破であった。


 この時代ではこのような戦果誤認も多かった。


 実際、史実でも伊6がサラトガを撃沈したと報告したが、実は大破であったし、珊瑚海海戦でもヨークタウンを撃沈したという報告があったが、実は小破であったし、はたまた史実のミッドウェー海戦でも空母2隻を撃沈したなどの報告があったが、実は1隻であった、といった誤認戦果が多くあった。


 そして、それは日本軍だけの話ではない。


 米軍も似たようなものだった。


 例えば、史実のフィリピン戦線でアメリカが戦艦ヒラヌマを撃沈し、ハルナを大破させたという報道を行ったが、平沼などという戦艦はそもそも存在していないし、榛名はこの時南遣艦隊の一員としてベトナム沖に居た。


 このように虚偽の報告についてはアメリカも決して人の事は言えなかった訳だった。


 まあ、それでも今回のミッドウェー海戦も大損害には変わり無かったが。


 だが、作戦を続行した事により、ミッドウェーは既に陥落している。


 作戦目標を達成できた以上、日本の戦略的勝利は間違いない。



「しかし、何故あんなところにヨークタウンとホーネットが居たんだ?」



 ヨークタウンとホーネットの機動部隊は史実のミッドウェー海戦のように、此方の機動部隊の北東からやって来た。


 だが、史実のように暗号が解かれるという事は殆ど考えられない。


 此方が使っているのは、戦後に開発されたトランジスタだ。


 通常の暗号解読では、とてもではないが殆ど解読する事は不可能と言っても良い。



「交戦した部隊からの報告によると、敵機動部隊の方角から“双発機”が飛んできたらしい」



「!?それって・・・」



「ああ、間違いないな」



 敵機動部隊から飛んできた双発機。


 これが何を意味して、アメリカが何をやろうしていたのかが転移メンバーには分かった。


 東京空襲。


 史実では1942年の4月18日にB25を空母から発進させるという奇策によって、東京空襲は成功している。


 それと同じことをやろうとしていたのだろう。


 史実では4ヶ月でやられていたものが、この世界では3ヶ月足らずでやられようとしていたのは、それほどアメリカにはいや、ルーズベルトには余裕が無いからだろう。


 なんせ、既に植民地の殆どを失い、アメリカの正式領土の一部まで占領されてしまっているのだから。


 いや、それだけではない。


 海軍の方に至っては、大平洋艦隊に所属する戦艦が全滅、空母も2隻が失われている。


 これでは焦らない方が不思議だろう。


 今回は偶々日本本土に向かっている途中でミッドウェー攻略を知り、そちらに急行したのだろう。



「・・・まあ、向こうの思惑は兎も角、フィリピンは遂に陥落。アリューシャン列島東部攻略部隊は既に準備完了。敵空母はミッドウェー海戦によって全て稼動不能だ。これを防ぐ術はない」



 日本側にとって、朗報は3つあった。


 1つはフィリピンが陥落した事。


 バターン半島やコレヒドール島に立て籠っていたアメリカ軍がこの世界では史実よりも早い期間で陥落した為、フィリピン全体の陥落も早かったのである。


 史実では5ヶ月持ったフィリピンだったが、この世界では3ヶ月しか持たなかったのである。


 ちなみにその過程で取られた捕虜の中には“ダグラス・マッカーサー”の名前もあったという。


 2つ目はアリューシャン列島東部攻略の準備が完了した事。


 なんせ、アリューシャン列島東部には特に確保すべき目標であるウナラスカ島・ダッチハーバーが有るのだ。


 それなりの兵力を揃えなければならない。


 なので、準備に時間が掛かっていたのだが、先日漸く終わった。


 そして、最後に今回のミッドウェー海戦によって米軍の稼動空母が無くなった為、少なくとも表向きには米軍の障害は殆ど無いと言っても良いだろう。



「そうですね。でも、第1航空艦隊はどう動かします?」



 第1航空艦隊は依然、横須賀に待機中だった。

 

 勿論、訓練や機体の補充は行っているが、暇を持て余しているのは間違いない。



「取り敢えず、もう暫く待機だな。なんせ、投入する前線そのものが殆ど消滅したからな」



 夕季の言った通り、第1航空艦隊の登場すべき前線が殆ど無かった。ニューギニア方面はイギリスが中立を保っていたお蔭で行く必要が無くなったし、中部大平洋のアメリカ拠点は壊滅している。


 残るは北方だったが、そちらは第2航空艦隊が当たる予定だ。 

 

 懸念されるのは敵機動部隊の動向だったが、現在は稼動する空母そのものが居ない。



「それに第3戦隊の改装もある」



 第1航空艦隊を出さない理由はもう1つあった。


 それは第3戦隊(金剛、比叡、榛名)の改装である。


 これには数ヵ月が掛かると見られており、工事が終わるのは早くても9月になるだろう。


 つまり、逆に言えばその間は第3戦隊は動かせないという事になる。


 今は第3戦隊の代わりに第2戦隊(天城、赤城)を第1航空艦隊に配備しているが、それとて“万が一”の為の措置であって、第1航空艦隊は当面動かす予定はない。



「隼鷹と飛鷹の事もあるし。丁度、良かったかな」



 隼鷹型航空母艦は一番艦である隼鷹が先日竣工しており、二番艦飛鷹も8月には竣工する予定だ。


 だが、当然の事ながら、竣工したばかりである隼鷹とまだ完成していない飛鷹は乗員の完熟訓練が終わっていない。


 それを考えれば、今回の第3戦隊の改装は丁度良いと言える。



「・・・そう言えば、大陸方面は大変みたいだな」



 有村が大陸方面の事を話題にする。


 最新の情報によると、大陸方面では最初は在中米軍が有利だったが、徐々に不利になっているとの事だった。


 まあ、当たり前だ。


 補給が来ないのだから。


 

「大陸方面の米軍の脅威は無くなったと考えても良いな」



「しかし、連中、おそらく我々が不利になれば、途端に牙を剥きますよ?」



「分かっているさ。だが、負ければどうせ同じだ。勝てば良い話だ」



 夕季が開き直ったように言った。


 まあ、実際、夕季の言った通りではあったが。



「・・・話を戻すが、ダッチハーバーが手に入れば、計画は第3段階に移れる。本命のアラスカ侵攻も現実味を帯びてくるな」



 春川がそう言うと、メンバー全員が頷いた。


 アラスカ侵攻の鍵となるのが、ウナラスカ島に存在する港、ダッチハーバーだ。


 この港はかなり大きく、多数の艦艇を駐留させる事が出来る為、アラスカ侵攻の拠点としては絶対に必要だった。


 だが、それは米軍にとっても同じな為、もしかしたら史実のミッドウェー海戦の時のヨークタウンのように無茶な修理を施して、戦線に投入してくるかもしれないと転移メンバー達は考えていた。


 もっとも、それは転移メンバーの過大評価であり、実際はミッドウェー海戦で損傷した敵機動部隊は日本潜水艦の落武者狩りを避ける為に北に大回りをしながら本土への帰路に着いていた為、未だ本土のドッグにすら入れていなかった。 

 

 唯一可能性が有るのが、ミッドウェー海戦以前に損傷して本土のドッグで修理中のエンタープライズだが、此方も修理が不十分な上に、1隻だけでは投入してもたかが知れている為、出してこない可能性の方が高い。


 だが、転移メンバー達の辞書に油断という文字はない(出来ないとも言う)。



「そうだな。そして、アラスカ侵攻が成功したところで講和、というのが理想だが、最悪の場合・・・」



 有村が良い淀む。


 そう、実を言うとアラスカが陥落したところでアメリカが講和に応じてくれる保証など何処にもないのだ。


 そこはアメリカの世論次第だが、場合によっては『アラスカを取り返せ!!』と逆に奮起するかもしれない。


 そして、100歩譲って講和したとしても、史実のような日米の経済摩擦が起これば、それを理由にしてまた戦争が起こるかもしれなかった。


 一応、アラスカ攻略後の計画は練られてある。


 それは米本土空襲や原爆を完成させてアメリカの一都市に落とすというものであったが、実はもう1つ計画があった。


 だが、それは荒唐無稽という代物であり、とてもではないが実現は不可能だった。


 その為、計画の隅に追いやられていたのだが、場合によってはそれをしなければならない事に頭を抱えていた。



「米本土上陸。・・・こんな事を本気でやらなくちゃいけないんですか?」



 岡辺がそう言うのも無理はなかった。


 米本土上陸など、現代の日本人なら誰がどう聞いても荒唐無稽に映るであろう計画内容だったからだ。


 更にアメリカは銃社会だ。


 この当時、人口7万人のアラスカでさえ占領後の統治に苦労しそうであるのに、それより圧倒的に多いアメリカ本土など、占領したとしても統治がほぼ不可能であるのは目に見えている。


 十中八九、市民がゲリラとして蔓延る事になるだろう。


 ある意味、大陸方面よりも余程危険な地域だ。



「だが、なにもしないままだと、あの生産力で日本は最終的に負ける。パナマ運河攻撃もどれほど効果が有るか・・・」



 転移メンバー達は史実でも計画されていたパナマ運河攻撃も視野に入れていたが、それでも西海岸で造船された艦は此方に出てくるし、東海岸で造船された船もホーン岬を通れば時間は掛かるが、此方に出てくる。


 それを考えると、早めに決着を着ける為にも米本土上陸はやらなければならない。



「しかし、5万人や10万人など、簡単に溶けてしまいますよ?」



 岡辺が懸念を言った。



「それでもやらなければならない以上は仕方あるまい。何とか、アラスカ攻略、或いはその後の米本土空襲で終わってくれれば良いが・・・」



 それは有村だけの願いではなく、転移メンバー全員の願いであった。

100式戦闘機『神風』


最大速力900キロ。


航続距離1500キロ。


武装・・・30ミリ機銃2門、20ミリ機銃2門。


備考


日本空軍至上初のジェット戦闘機。

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