第9話 決断
97式戦車
武装・・・75ミリ砲一門。12、7ミリ機銃一丁。
最大速力38キロ
防御・・・前面75ミリ、側面50ミリ、背面50ミリ。
備考
史実のシャーマン戦車を参考にして造られている。理由は性能がそれなりに良く、量産性が高いからである。
西暦1940年 2月27日 イギリス ロンドン
イギリスの指導者、チャーチルは決断を強いられていた。
このまま日本との同盟を破棄し、アメリカと共に日本に対して宣戦布告をするか、中立を宣言するか、それとも日本と共に米国に立ち向かうか。
日本との戦いは論外だ。
そんな事をすれば、まず間違いなくアジアの英国利権は彼らによって踏みにじられるだろう。
そして、国民感情からも、流石にそれは許されない。
しかし、アメリカと対立するとなると、これはこれで国家の存亡に関わる。
となれば、中立を宣言するのが一番だろう。
日本には詫び代わりに戦略物資の輸出を継続して行う。
中立法違反ではあるが、アメリカが既にやっている事であるし、何ら問題は無かった。
「だが、日本が抜けるのは痛いな」
日本の第二次遣欧艦隊は既にUボートの掃討などでイギリスに多大な貢献をしている。
そして、それらの艦隊は日米戦争が始まれば、日本に帰る事になるだろう。
その穴埋めはイギリス海軍が行わなければならない。
対独戦で多大な被害を被ったイギリス海軍には荷が重い話ではあるが、日本を事実上見捨てる以上、なんとしても成し遂げなければならなかった。
「我々があれは日本の謀略ではないと証明できれば良いのだが・・・」
既に情報は集まっている。
少なくとも、日本の仕業ではないと証明できる証拠もある。
だが、どうしても無理な事情があった。
先の朝鮮事変である。
朝鮮事変は何も日米関係だけを悪化させていただけではない。
英米関係をも悪化させていた。
その為、もし日本を擁護してもアメリカは聞かない可能性が高かった。
むしろ、それをでっち上げだと言って、日本共々イギリスに最後通諜、または宣戦布告をしてくる可能性すらあった。
それほど、今回の事態にアメリカの世論は怒り狂っていたのだ。
そうなると、触らぬ神に祟りなし。
このまま静観するのが一番だ。
非情なようだが、日本の転移メンバー達が祖国を第一優先とするのと同様に、チャーチルもまた祖国を第一優先としなければならなかった。
◇西暦1940年 3月12日 大日本帝国 帝都
アメリカから最後通諜が届いた。
それを受け、転移メンバー達は会合を開いていた。
だが、転移メンバー達は最後通諜の内容に絶句していた。
「これは・・・」
「呑むのは無理ですね」
あまりに通諜の内容が酷すぎた。
大雑把に言うだけで『台湾・琉球』の中華民国への返還、南洋諸島のアメリカへの割譲、軍備の破棄など、どう考えても喧嘩を売ってるとしか思えない内容が記されていた。
「既に世論も開戦を叫んでいる状態です。まあ、当たり前ですが・・・」
日本の世論は開戦を叫んでいた。
あまりの横暴な要求に世論も激怒していたのだ。
「開戦となると軍の準備は?」
「不十分だが、出来ている。開戦と同時に各地に侵攻する予定だ。それと真珠湾攻撃もな」
真珠湾攻撃も既に計画されていた。
とは言っても、史実のような開戦と同時に奇襲するという案ではない。
敵の艦隊が出撃して、空になった真珠湾を襲うという案だ。
何故こんな案が立てられたかと言うと、どうせ湾内で艦艇を撃沈しても、後に引き揚げられて復活してしまうと考えたからだ。
まあ、ハワイは占領する予定なので、あまり関係はないかもしれないが、保険は一応打っておいた方が良い。
問題は敵艦隊を真珠湾から胆振出す方法だったが、これは問題ない。
なにせ、あっちこっちで同時に侵攻する予定なのだ。
アメリカ艦隊は政治の関係からも嫌でも出てこざるを得ない。
また、出ないなら出ないでそれでも良し。
その場合は史実のように真珠湾共々撃滅するまでだ。
史実より困難にはなるだろうが。
「そう言えば、イギリスは中立を表明してきましたね」
青木が予想通りと言った感じでそう言った。
実際にイギリスは転移メンバーの予想通り、中立を表明してきた。
日本の軍部と民衆の一部では裏切り行為だと罵っていたが、これはイギリスとしては当たり前の決断である。
ただでさえドイツと戦争をしているのに、アメリカとも戦争をする体力など残っていないのだ。
むしろ、日米戦争の際でも日本に戦略物資の輸出をしてくれると言ってきてくれるだけで行幸と思わなければならないだろう。
「そうだな。ところで核はあとどれくらい掛かる?」
「あと4年は掛かると判断してください。なんせ、一から造っているんですから」
幾ら転移メンバーと言えども、元が日本人である為か、誰も核兵器を開発どころか、管理した事も無い為、核兵器の開発については慎重にならざるを得なかった。
無論、原子力技術については理解している為、その部分はショートカット出来る。
が、なにぶん、核兵器開発というのは金が掛かる。
史実ではアメリカが3年という年月を掛けて完成させているが、この完成までに掛かった金が史実戦艦大和が何十隻も造ってお釣りが出る程の金額なのだから、どれだけ核兵器の開発というのが金が掛かるものなのかが分かるものである。
よって、今の日本の経済力ではこの開発速度が限界だった。
「4年、か。分かった。それまでに少なくとも負けないようにすれば良いんだな?」
「そうですね。ですが、それは最低限です。それまでに戦力を残していなければ、戦後に苦しい状況下に置かれます」
確かに原爆という決定的な戦略兵器が出来れば、アメリカも講和の席に着かざるを得ないだろう。
だが、通常の戦力も残しておかなければ、戦後に苦しい状況下に置かれる。
何故なら、核というのはそう簡単に量産できる代物では無いし、あくまで戦略兵器であった滅多な事では使わないからだ。
いや、と言うより、宇宙人が攻めてきたとか、国家存亡の危機とか、そういう状況ではないと使わないだろう。
前者については非現実的ではあるが。
「そう言えば、大連とフィリピンにも戦艦や空母を含む艦隊が配備されているな。まあ、殆どは真珠湾に集結しているが」
「ああ、おそらく包囲しているつもりなんだろ」
「だが、都合が良いな。フィリピンには空母も居るんだろ?」
「まあな。確か『ラングレー』だったか?そして、残りの2隻は真珠湾だな」
アメリカは最後通諜を行う前に、日本への海上封鎖を素早く行う為なのか、満州やフィリピンにも戦艦や空母などの艦艇を置いていた。
流石に満州のような地域には空母は置かれていないようだったが、比較的近場であるフィリピンには太平洋に3隻配置されている3隻の空母の内の1隻が配置されていた。
日本にとってはこの上なく好都合である。
「それと、暗号解読だが、トランジスタが有るとは言え、そう何度も先を読むような行動をすれば何かしらの対策を取られるかもしれないぞ?」
「分かっている。だからこそ、米太平洋艦隊撃滅は早期に行わなければならん」
敵も馬鹿ではない。
常に自分達の行動の先を相手に行かれていれば、まず間違いなく何かしらの行動を取ってくるだろう。
それは暗号の変更かもしれないし、もしくはヒューミントかもしれない。
前者についてはトランジスタでなんとかなるが、後者となると少し厄介だ。
流石に手渡しの情報はトランジスタでは察知する事は出来ない。
「しかし、イギリスが中立を宣言すれば、大西洋艦隊も太平洋に出てくるだろう。それは大丈夫なのか?」
「まあ、問題はないとは言えないが、全部を引き抜いてくる事は流石に無いだろ。大西洋方面が空になる」
幾ら大西洋方面に仮想敵国が居なくなったとは言え、流石に全部を太平洋に回す馬鹿は居ない。
夕季はそう判断していた。
「さて、準備は完了しましたね。では、対米開戦、皆さんは異議有りませんか?」
「「「「異議無し」」」」
かくして、対米開戦は決定された。
◇同日 ドイツ ベルリン
総統執務室でヒトラーはニヤニヤと笑っていた。
「さて、これで黄色い猿どもは終わりだな」
ヒトラーは日米開戦が起きれば日本が負けると判断していた。
それは当然だ。
国力差は圧倒的なのだから。
小説のように何処からか謎の国力が沸いてくる、という訳にはいかないのだ。
「しかし、こんな手に引っ掛かるとは。ヤンキーの諜報力も落ちたものだな」
一連のアメリカ内での謀略はヒトラーの仕業だった。
まあ、流石に朝鮮事変は違かったが、追い風になったのは確かである。
しかし、ヒトラーもまさかこの計画がこの段階で上手く行くとは思わず、あと2手か3手が必要だと考えていたが、それが必要なくなった事に内心で拍子抜けしていた。
「まあ良い。これで日本は消えたな。まったく、お蔭で大損害を被った」
ヒトラーは日本が欧州方面の戦争には参加出来なくなったと判断していた。
それはそうだろう、国家存亡の危機なのだ。
しかも英国は中立を宣言している為、日米戦争には介入できない。
つまり、対米戦争は日本一国でやらなければならない。
そんな状況下でイギリスに戦力を回している余裕は無く、日本の第二次遣欧艦隊は撤退しているだろう(事実、ヒトラーの予想は正しく、第二次遣欧艦隊はアジアに向けて撤退していた)。
「そして、情報部によればソ連は崩壊寸前。東部戦線は防備を固めるだけで済む」
ヒトラーの言っている通り、ソ連は崩壊寸前だった。
ドイツが行っている民族浄化、穀倉地帯を取られた事による餓死者の続出、そして、ドイツが確保している地域に攻め行ってはやられるを繰り返している為、戦死者も膨大な数に上っている。
その死亡者数は数えきれず、少なくとも1000万人は下らないと言われている。
しかもこれはここ僅か1年で起こっている事である。
もし転移メンバーがそんなソ連の状況を聞いたら、顔をしかめながら『よくこれで持ってるな』と称賛する事間違いなしであった。
だが、そんなソ連の状況を聞いてもヒトラーは何の感慨も抱かない。
彼にとってゲルマン民族とそれに同調する人間こそ重要なのだ。
それ以外の人間が何人死のうと、知った事では無かった。
この点はある意味で転移メンバーと似ている。
彼らにとっても、日本と日本人以外は、はっきり言ってどうでも良い存在だ。
いや、国の存続上、無くてはならぬ存在や友好国の人間ならばどうでも良くはないが、それにしても日本人と比べれば天秤に掛けるまでもない。
だが、転移メンバーとヒトラーには決定的な違いがある。
転移メンバーは最低限の矜持というものを持っていて、他国民に対してでも、よっぽどの場合を除けば危害を加えるのを嫌がる。
しかし、ヒトラーにはその最低限の矜持がない。
だからこそ、民族浄化などという行為を躊躇いも無く実行できるのだ。
それだけの違いでしかない、とも言えるが。
「そして、この作戦の発動を持って、ドイツ第3帝国のヨーロッパ征服は終わる」
そう言ってヒトラーが取った作戦計画書にはこう書かれてあった。
『アシカ作戦』、と。
◇西暦1940年 3月15日 アメリカ合衆国 ワシントンDC
それぞれの国が覚悟を決めている頃、アメリカ合衆国の首都ワシントンではフランクリン・ルーズベルト大統領とコーデル・ハル国務長官が対日政策について話していた。
「大統領、本当に宜しかったのですか?」
「今更、何を言っている。対日戦は既に決定事項となった」
「ですが、あれはドイツの工作と分かったでは無いですか」
実はOSS(後のCIA)はあれは先の西海岸で起こった暴動はドイツの工作によるものという情報を既に掴んでいた。
だが、ルーズベルトはその情報をあえて握り潰していた。
「仕方が無いだろう。我が国がドイツと戦えば、大打撃を受ける事になる。それなら、日本に全てを押し付けて戦争を吹っ掛けさせるのが得策だ。それに、日本は目障りだったからな」
実はルーズベルトはドイツに戦争を吹っ掛ければ、自国も大打撃を受けると考えており、それなら比較的弱く、罪を押し付けられそうな国に国民の不満をぶつける方が良いと考えていたのだ。
まあ、満州開発の際に位置的に邪魔になる日本を潰そうと考えていたから、という事もあるが。
日本からすればこの上なく迷惑な話ではあるが、ルーズベルトもルーズベルトなりに国を思っての行動であった。
そういう意味では転移メンバーやヒトラーとも変わらないだろう。
「しかし、公約を破るのは政治家としては痛いですよ」
「それも心配ない。あれだけ挑発をしたのだ。向こうから殴ってくるだろう。我々はそれに反撃するという形で戦争を行えば良い」
「・・・」
「それに情報部の報告では日本の軍備は大した事はない。1年以内には終わるだろ」
史実でもそうだったが、この世界でもアメリカ情報部は日本を侮っており、大した軍備はないと報告していた。
これはここ数百年、白人の有色人種への勝率が有色人種の白人への勝率を上回っているが故の侮りでもあった。
だが、ルーズベルトは後に後悔することになる。
日本と戦争を行った事を。
そして、4日後の3月19日。
日本はアメリカに向けて宣戦を布告し、太平洋戦争が始まった。
そして、この戦いは後に日本では“史上最大の聖戦”、アメリカでは“史上最大の屈辱戦”と呼ばれるようになる。
98式戦闘機
速力625キロ。
武装・・・20ミリ機銃4門。
航続距離2000キロ。
備考
日本空軍に採用されている新鋭戦闘機。史実の疾風を基に造られている。航続距離が落ちた代わりとして、防弾性能が高くなっている。