挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。

Re:lost of memory

作者:三日
 くそっ。しくじった。閉じ込めておくまでは上手くいった。監禁するまでに問題は一切無かった。が、完全に失敗だ。この俺がこんなミスを犯すとは……。じゃねぇと、俺の欲望は満たされないのに。俺の愛は満たされないのに。後はトドメを刺すだけだ……。それだけは済まさなくては…………。
 だが、彼はそれが叶わないと察し、眠りについた。

 目の前には白い空間が広がっている。いつからそこにいたのかは分からない。ただ身体はそこでふわふわと浮遊している。いや、もしかしたら身体などそこにはなく、意識だけが、精神だけが、中身だけがここにあるのかもしれない。それを根拠に感覚は無く、動こうとしても指一本動かない。だとしたら、抜け殻となった身体はどこにあるのだろう。ただ、前はこんな白い所ではなく、もっと黒い所にいた気がする。もしかしたら黄色かもしれない。分からない。
 だが、もっと根本というか前提というか、大きな疑問を見つけた。

―――僕は……誰だ?

 その時、僕は何かに拘束された。上手く体を動かせないのは元より不可能だが、何か大きな手に全身を掴まれたような、そんな圧迫感に襲われた。そのまま強引に引っ張り上げられる。上へ上へと。俺はどこに連れて行かれるのだろうか。一体何が始まるというのか。
 そして僕は目を覚ました。

 目が覚めると、見慣れない天井が視界を覆った。薄暗く、橙に光る頼りない蛍光灯一つがチカチカと時々消えながらあたりを照らす。
 あたりを見回すと、ここは七畳程度の個室、窓は一つもない。
 右にはがっしりと頑丈そうな扉が、そして反対側には大量の段ボールが積まれている。
 ここは何かの物置か倉庫だろうか。
 ……駄目だ。どれも見慣れない物ばかり。知らない天井、知らない積まれた段ボール、知らない場所。
 じゃあ、僕の見慣れている物は何だ?
 ……分からない。というか、そもそも

―――僕は……誰だ?

 そう思いつつ、何故だかヒリヒリする右手を見てみる。
 細長い何かを握ったような赤い跡がある。俺は何を握っていた?分からない。
 そしてなんとなく起き上がってみると
「うわっ」
 足元に人が転がっていた。反射的に後ろに飛び退けた。
 心臓が止まるかと思った。いや、本当に。声も完全に裏返ってしまったし。
 時と場所に悪意がありすぎる。
 にしても、よく見て観察してみるとどうやら意識は無いようだ。仰向けの状態で倒れている。
 僕と同じように気絶していただけか、それとも……まさか、死んでいるとか?いや、無いだろう。うん、多分。
 もし死体だったらと思うと、触れる勇気はないので一歩引いて声をかけてみる。
「生きてますかー?」
 ……まるで反応はない。少し声を大きくしてみる。
「生きてますかー!」
 我ながら間抜けな問いかけである。しかしながら、やっぱり反応はない。
 ちょっと本気で声を出してみる。
 「生きてますかー!!」
 この狭い空間の中、僕の肉声が響く。にしても、反応は未だになし。
 やっぱり死んでいるのだろうか。いや、そんなまさか。
 本当は生きているだろうという微かな希望を抱き、倒れている女性の生死を確かめる為、息をしているかどうか、口元に手を当ててみる。
 そして気が付いた。いつの間にか女性の眼が開いていたことに。
「うわっ」
 目があった。無表情なのが怖い。
 すると、女性は仰向けの状態から予備動作一切無しで手を使わずに立ち上がった。
「うわっ」
 本日三度目の奇声である。
 もうこればっかしだな、僕。
 死んでいるかもしれないという恐怖は過ぎ去ったものの、正体不明不可思議な登場人物ねの恐怖に胸が絞められる。一難去ってまた一難だ。
 しかし、女性の表情には変化が現れた。無ではなく、人間らしく、今正に僕も抱いている感情、不安。
 そして、それで埋め尽くされている表情をどうにか動かしその女性は口を開いた。
「私は一体誰ですか?」
 あなたもか………。

 お互いの状況や知る限りの事すべて話した。
 しかし、何も新しい情報は無く、彼女の知っている事は僕となんら変わらなかった。
 それもそうだ。なんせ記憶をなくしているんだ。自己紹介しようにも紹介する名前すらない。
 それと、彼女には初めこそ恐怖を抱いていたが、話してみるとそれがまた話しやすい話しやすい。
 打ち解けるのも早かった。まるで、もっと前から知り合っていたのではないかと思える程に。
「あ〜あ、結局何もわからないままね。君は何か思い出せないの?」
 会って最初の時と違い。随分と落ち着いている。心に余裕ができたという感じだ。
「いや、無茶言わないで下さいよ。あなただって何も思い出してないじゃないですか」
「無理だよ。なんかもやもや〜っとして思い出せない」
 確かに、思い出そうとしても思い出せない。頭の中に深い霧ができたような感じだ。
 先の見えない霧に手を入れて、そこにある何かを掴もうとしても空振りに終わるその様はなんとも気分を害してくれる。気持ち悪い。
 「というか、初め不安でいっぱいみたいな様子だったのに。よくこれまで切り換えられますね」
「いや〜、無駄に悩んでもしょうがないと思ってさ。だったらその分行動しようって。それに、君もここにいてくれたお陰かな」
 僕が?何かおかしな期待をしてしまう。
「だって二人なら支えあえるでしょ?一人じゃ心細いけど。誰でも隣にいてくれるだけで落ち着けるものよ?」
「そ、そうですか」
 ……誰でも、ね。
 それよりともかく、もっと聞きたかったことを聞いた。なんで初め奇々怪々な様子をしていたのかと。
「あぁ、あれね。無表情でいたのは脳の状況処理が忙しくて表情が追い付かなかったのよ。ほら、どこだかわからない場所で自分が誰だか分からないわ、知らない人に覗き込まれてるわでさ。恥ずかしい顔見られちゃったかもね」
「あっすいません、変態っぽかったですよね。怖かったですよね」
 僕も同じくそれどころではなかったのだが、これは完全に僕の都合で、僕が悪い。
「いえ、平気ですって。後、立ち上がり方ですか?それは……なんでしょう。なんとなく?」
 なんとなく?なんとなく、あんな不気味な立ち上がり方をするのか?尋常じゃない。
「なんか身体が覚えている……って言うんですかね?自然と」
「あなたは一体何者なんですか」
 なんだよ。身体が覚える程普段から変な動きをする人って。
「さぁ、なんでしょう?もしかしたら、私はダンサーかパフォーマーだったのかもしれませんね。ほら、私ちょっと筋肉ありません?」
 腕を捲くり上げ、力を入れてそんな事を言う。
 確かに、その腕はただ華奢なだけでなく、しっかりとした筋肉がついて引き締まっていた。
 彼女は身体を軽く動かし始める。
 ……にしても可愛いな。
 先から心拍数が微妙に安定しない。
 自分の事に関してまだ何も知らないし、思い出せないが、一つだけわかったことが。
 僕はこの人が好きだ。
 まぁ、いきなり奇々怪々な動きをするのは勘弁して欲しいところだが。
「よくそんなことできますね」
 軽々とハンドウェーブをしてみせる彼女に言った。
「ん〜、感覚だよ。なんとなく。考えながらじゃやりづらいし」
 僕はそれを聞くとハンドウェーブに少し挑戦してみる。感覚だけを頼りに。
「あはははっ。全然出来てない」
 彼女は不格好な僕の腕を指差して笑う。
「ヘタクソ。もっと柔らかく、しなやかにさ」
 それが出来ないからこうなっているというのだが。
 まぁ、それよりだ。そろそろ閑話休題といこう。この状況の緊張を和らげる為に話題をそらしたが、もういいだろう。
 いつまでも無駄話をしていられない。僕達はここから脱出しなくてはならないのだから。
「まず、この場所を隅々まで探索しましょう」
 もしかしたら、ここから脱出するのに使える道具やら何かがあるかもしれない。
「分かった。まず何をしたらいいかな?」
「んじゃあ、まずはあのドアを調べてくれませんか。ないだろうけど、鍵が閉まってるかどうか一応」
 彼女は軽く敬礼してみせた。
「了解です」
 そして、僕の相手はこれか。正面を積み重なる段ボールに向けた。
「おっと」
 一歩踏み出そうとしたら、足元にバナナが落ちているのを見つけた。
 危ないな、危うく踏むところだった。
 まぁ、こんなものを踏んでもすっ転ぶ間抜けはそうそういないし、今じゃ昭和生まれもそんな事をしない。
 だがまぁ、一応端に避けておこう。
 バナナの皮を拾い、投げた。
 バナナの皮の着地点に目をやると、僕が今投げたのとは別に、いくつかのバナナの皮が落ちていた。
 なんでこんなにバナナの皮が?
 ………まさか、積まれた段ボールに近寄り、一番手前のそれに手を出す。他のものとは違い、その段ボールだけ一度開けられた跡があった。
 中を開けてみると、
「バナナだ」
 しかも大量の。
 これなら少しの間は食料に困らずに済む。すると、ここはどこだろう。どこかスーパーや八百屋か、はたまたバナナ畑の倉庫か。
 あれ?バナナって畑から成るんだっけ?ま、どうでもいい。
「え!これ、全部バナナ!」
 彼女はいつの間にか俺の背後から段ボールの中身を覗いていた。
 ビックリした。が、今度は奇声を上げずに済んだ。
「頼むので、僕をそんなに驚かそうとしないでくれません?心臓にすっごく悪いです。で、やっぱ駄目です?」
「うん、駄目。鍵閉まってるし、ちょっとやそっとじゃ壊れなさそう。あ、バナナ一本貰いっ」
 やっぱ開いてるわけがないよな。あぁ、畜生。片手をポケットに突っ込み、右手で荒っぽくわしわしと髪を掻き、苛つき表した態度を取る。
 ん、なんだこれ?右手に金属の感触は。取り出すと、それは
「鍵?」
 まぁ、概ね家のものだろう。これは帰るときに大切なものだ。無くさないように、大切に持っておこう。それより、
「それは大切な食料なので、あまり無計画に食べないで下さいね」
「平気だよ、まだいっぱいあるし」
 彼女は積まれた段ボールを指した。
 いや、まだそれが全部バナナとは決まったわけではないだろう。
「じゃあ全部の段ボールの中身を全部確認しましょう」
「了解っ」
 彼女が段ボールに近づこうとした時、
「待て!動かないでっ」
 彼女は時間が停止したかのようにぴたりと動きが止まった。僕の声に驚いて。
「足元気をつけて」
 そこにはナイフが落ちていた。刃が出ている状態のままのアーミーナイフが。
「危ない危ない、踏むところだった。サンキュ……」
 胸をなでおろしながらナイフを拾った。
「なんでこんな所にナイフが?」
「いやいや、私達が知る訳ないでしょ」
 それもそうだな。……にしても何だろう。

        *****

くそっ。しくじった。閉じ込めておくまでは上手くいった。監禁するまでに問題は一切無かった。が、完全に失敗だ。この俺がこんなミスを犯すとは……。じゃねぇと、俺の欲望は満たされないのに。俺の愛は満たされないのに。後はトドメを刺すだけだ……。それだけは済まさなくては…………。
 だが、彼はそれが叶わないと察し、眠りについた。

         *****

 俺は彼女が好きだった。
 いつでも健気で一生懸命で輝かしかった。
 プロのダンサーをしていたが、俺の務めるスーパーのアルバイトで小遣い稼ぎをしている。
 そして、告白したんだ。
「から、次の大会で優勝できたらいいよ」って返事された。
 そして、彼女は優勝した。
 だけど、
「やっぱり、ごめんね。無理」
 おい、何でだよ。話が違うだろ。
「だって本当に優勝すると思ってなかったし」
 そりゃ、どういう意味だよ。
「だからさ、これからも友達でいようね。じゃ、ばいばい」
 そう言って彼女は俺に背を向けた。
 友達でいようね?友達?ふざけるな。それなので我慢できる訳がない。

 どうしたら手に入る?俺の物になる?
 そして、しばらく考えた後、答えを出した。
 あぁ、そうか、殺せばいいのか。なんだ簡単じゃないか。そしたら誰の邪魔しなくなる。彼女本人さえも。
 そういえば、今夜店長に倉庫の商品を朝までに移動するのを彼女と頼まれていたな。人目もないし、そこで殺ればいいか。
 状況的には疑われるかもしれないが。なぁに、心配はいらない。証拠さえ残らなければいいのだ。死体は大きめのバックにいれて持ち帰ればいい。
 そして俺達の初めての夜を過ごすんだ。
 さぁ、待っててね。もうすぐ僕のモノになれるから。

        *****

 目が覚めると、見慣れない天井が視界を覆った。薄暗く、橙に光る頼りない蛍光灯一つがチカチカと時々消えながらあたりを照らす。
 あたりを見回すと、ここは七畳程度の個室、窓は一つもない。
 右にはがっしりと頑丈そうな扉が、そして反対側には大量の段ボールが積まれている。
 ここは何かの物置か倉庫だろうか。
 ……駄目だ。どれも見慣れない物ばかり。知らない天井、知らない積まれた段ボール、知らない場所。
 じゃあ、僕の見慣れている物は何だ?
 ……分からない。というか、そもそも

―――僕は……誰だ?

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ