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悠遠の旅空に~半神のバックパッカー~  作者: ビール汁
フォルティス大陸――中部諸国
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72話 少年と笛

 唐突すぎて事情が飲み込めない穣司は、弁解という行動が頭から抜け落ちていた。考えれば考えるほど、思考の糸が絡み合い、縺れていく。人攫いの疑惑を向けられても、口を衝いて出る言葉もない。


 幼児と表現しても差し支えないモルルは、スモックが似合いそうな外見で、成人女性だとは到底思えない。しかしながら元の世界での常識が通用しないことを考えれば、幼い姿をしたまま成人を迎える種族がいても不思議ではない。今まで出会った人達の多くが、元の世界にはいなかった人種だ。それらを考慮すれば、モルルの発言を信じるべきなのだろう。が、見た目が子供だからこそ、単なる背伸び発言のようも思えて、穣司は当惑していた。


(本当に成人しているのかな。でもなぁ……大人ぶりたい子供ってことも考えられるし。いや、仮に大人だとして、何で子供の振る舞いをするんだろう……。まさか――)


 夫らしき幼い少年の言葉を思い出し、稲妻の如き閃きが全身を貫く。


(誘拐と美人局の合わせ技みたいな強請(ゆすり)かっ! ……なるほど、どおりでタイミングよく声を掛けられたわけだ)


 剣を携えた男を見ると、侮蔑を滲ませる冷たい視線とぶつかった。瞬時に抜刀するような気配まで感じられるのは、この男が用心棒役だからなのだろう。あるいは偽警察官役か。

 中学生程度の容姿をした少年の役割は不明だ。それでも冷淡な瞳からは、獲物を定めようとする獣じみた狂暴さが窺える。


(小児性愛者(ペドフィリア)の烙印を押され、尚且(なおか)つ誘拐犯に仕立てあげられたくなければ、金を払えってことかな。……まさかこんな手口があったなんて。あぁ……これは完敗だ。いい勉強になったよ)


 想像通りの展開ならば、モルルは庇護欲を掻き立てる演技をして、獲物が引っ掛かるのを狙っていたのだろう。舌足らずな口調の幼児から、抱っこを要求されてしまえば、子供嫌いではない限り無視することは難しい。あとは夫の役割を持った人物が、声を掛ければ策略にはまったも同然だ。


 そのようなことを考えていた穣司は、ふっと笑みを溢した。

 どう弁解しようと、モルルの発言次第では、どちらの罪も成立するだろう。敵ながら天晴れである。付け入られる隙を与えてしまったことは、自身の警戒心が薄れていたことに他ならない。

 それ故に失望の念は込み上げなかった。心の片隅では、失敗談として良いネタになるとさえ思っていた。いつか笑い話にできる程度で、致命的なミスではない。


「モルルさんが成人しているとは思っていませんでしたが、人妻に手を出したという主張は覆せないんでしょうね。それに俺が人攫いをするつもりはなかった反論したとしても、きっと通じないでしょうし。それで……要求は何でしょうか。詫び料を寄越せとか、そういう類いですよね?」


 押し問答になっても時間の無駄。最終的には剣を携えた男が、抜刀する展開が目に見えて分かっていた。弁解の余地がないと悟った穣司は、相手の返答を予測しながら滔々と語る。

 返される言葉は「話が早いじゃないか」といった具合だろう。さぞかし出来の良い獲物に違いなく、褒められない行為をする者達から、褒められるような錯覚さえ起こりそうになる。


「……」


 その筈が誰も発言することはなかった。眉を顰める三人の男は、お互いの顔を見合わせて、考えこんでいるような素振りを見せていた。

 ひゅるりと流れる冷たい風の音が虚しく響く。

 何とも言い難い静寂が穣司達を包んでいた。


「……もしかして今までそんな目にあってきたの? その……なんかゴメンね。ジョージを夫婦喧嘩に巻き込んでしまったことは謝るし、もちろんお金も取ったりしないから」


 最初に沈黙を破ったのはモルルだった。申し訳なさそうに頭を下げ、そして穣司の腕から飛び降りる。


「え、いや、そういう目に合ったわけじゃないですけど」


「……強がらなくなっていいよ。その態度を見ていると、分かっちゃうもん。それにタルール族も知らなそうだしね。……だけど、私達の事情は後で説明するから、ちょっと待っててね。今からあの馬鹿亭主に文句言ってくるから」


 モルルは励げますように穣司の太腿をポンポンと叩く。その様子には穣司の言葉を聞き入れた様子はなかった。


「あの、ですからね」と穣司は続ける。しかしモルルの耳には届いておらず、足取り荒く大股で少年に向かっていき、理解できぬ言語で大声を張り上げた。おそらく彼女達の母国語だ。


 負けじと少年も反論するが、明らかに気圧されていた。それでもお互いに譲る気はないようで、舌戦の幕が上がっていた。議題は不明だが、勝負は長引きそうな雰囲気で、延長戦にもつれ込みそうな気配を見せている。


「……えっと、これは」


 困り果てた穣司は、助け船を求めるように、二人の男を見る。

 しかし彼等はゆっくりと横に首を振り、肺を空っぽにするような大きな溜め息を吐いていた。その後に、中学生くらいの容姿をした少年が躊躇うように言う。


「あのう、ジョージでしたっけ? 君はオリエン語を喋れますか? 僕はシュケル語を聞き取れるのですが、片言程度でしか話せないので」


 すんなりと言葉を理解できたのは、人魚の少女から覚えた言語だったからだ。リリアンヌ達が用いる言語でもあるが、オリエン語という名だとは知らず、穣司は一拍遅れて返事する。


「ええ、そうです。どうにか……喋れると思いますけど」


「ああ、良かった。意思疎通に問題はないようですね。僕の名前はアディル・マディルです。アディルって呼ばれることが多いですね。そして横の彼が――」


「サルバドール・オスバルドだ」


 笑みを浮かべるアディルとは相違して、白髪混じりの男は馴れ合うつもりはないと言わんばかりに鼻を鳴らす。地を這うような低い声に愛想はなく、敵愾心も失せてはいない。


「情報を整理したいのですが、協力してもらえますか? 何でこんな事になっているのか、僕達にも分からなくて……。いえね、モルル達の言葉は理解できるんですが、浮気がどうとかって話題で揉めているようで、僕としても困っているんです。どうしてこんなことになっているのやら……」


 頭を抱えながら尋ねるアディルの姿は、幼稚園に職業体験で来ている中学生のようだった。問題児に手を焼き、困り果てているような雰囲気を醸し出している。

 その間にもモルル達の舌戦は収まる様子はなかった。

 穣司が首肯するとアディルは安堵の吐息を漏らし「少し離れましょうか」と苦笑する。


「トリトス・オリトス――そこで口喧嘩をしている彼の名前なんですが、僕は彼に頼まれて森を巡回していたんです。少し前に不審者が現れたとの情報があったので、村の宝が盗まれるんじゃないかと村の人達が危惧してましてね。それに――」


 アディルは言葉の途中でサルバドール・オスバルドを一瞥する。だが、そっぽを向いたまま応答することはなかった。アディルは逡巡するような様子を見せ「まぁいいか」と漏らしながら、言葉を続ける。


「大陸中央から南西部の辺りでは、人攫いが横行しているんですが、サルバドールが属している組織は、不審者の一報が入ると調査に向かうんです。……別にこれくらいは構わないでしょう?」


 アディルはサルバドールを見上げながら問う。すると彼は溜め息を吐き「ああ、問題ない」と小さく呟いた。

 おそらくサルバドール・オスバルドという人物は、多くを語ることが許されない組織に属しているのだろう。秘密裏に犯罪者を追い詰める職業なら、問い尋ねるのは野暮だと穣司は聞き流す。

 そしてふと思い立つ。


「ああ、それで森を歩いていた俺が疑われていたんですね。村の宝を狙う窃盗犯、もしくは誘拐犯ってところですか。でも獣の鳴き声しか聞こえなかったし、どこで見られていたんでしょうね」


「それは……トリトスの仕業ですね。実は獣笛で猛獣の唸り声を真似をして、僕達に合図を送っていたんですよ。この地域の独自の伝統なので、ジョージは知らないでしょうけど、トリトスが腰にぶら下げている小さな箱が獣笛なんです」


 誘導されるようにトリトスの腰を見ると、猫科の生物を顔を象ったような、木彫りの小さな箱がぶら下っていた。


「へぇ、あれでを吹くと動物の唸り声みたいな音が鳴るんですね。面白いなあ。……それで俺を不審者と見做して合図を送っていたんですね」


「ええ、僕達が合流すると、白いローブを着た男が洞窟付近にいたと慌てていました。それにその……言いにくいのですが、猛獣の気配をさせているのに、笑顔を絶やさない頭がおかしい奴だともトリトスが言っていまして……」


「ああ、それで不審者から危険人物に等級が上がった、と」


「そういうことです。それにトマトを頭に乗せる変わった奴だとも言ってました」


「なるほど、そんな危険人物がモルルさんを抱き上げていたら、危機感を募らせても無理はないですね」


 アディルの言葉の中には、洞窟に宝物が眠っているかのように感じ取れたが、穣司は興味を示さなかった。彼等の行動理由が分かっただけでも満足で、動物の唸り声を笛で再現していたことには感心さえしていた。


(そっか、あの時に感じた気配は、そういうことだったのか。うん、確かに他人から見れば不審者を通り越して危ない人間かもしれない)


 相手の視点を想像する。

 森の奥で見つけた男は、頭の上に野菜を乗せてから食事を始めた。その後には猛獣の唸り声を聞く。しかし脅えることはなく、警戒する素振りさえ見せずに、ニヤリと笑みを浮かべる男だったら、恐ろしく感じても不思議はない。


 しかし――穣司にも引けない理由がある。

 たとえ猛獣が相手だとしても、可愛いと感じるのはおかしいことではない。元の世界でも、自身の安全が保証されている限りは、ライオンや羆を可愛いと感じていたのだ。あまり印象のよくないハイエナも、穣司からすると可愛い動物である。


「いやあ、誤解させたようで申し訳ないです。俺は無類の動物好きでしてね、聞き慣れない動物の鳴き声を聞くと、心が躍るんですよ。猫科っぽい動物の唸り声でしたし、雷豹(ケスマ)に似た動物がいるんだろうなって考えると、つい笑ってしまって」


「え……その口振りだと雷豹(ケスマ)を可愛いと思っているんですか?」


「お髭が可愛いですよね。喉を撫でるとゴロゴロと鳴らすんですよ。それに母雷豹(ケスマ)が子供達のお披露目に来てくれたり……いやぁ可愛かったなあ」


「そ、そうですか……なるほど……そういうことが」


 熱弁する穣司にアディルは神妙な面持ちになっていた。

 愛好家(マニア)特有の饒舌に語る姿に呆れたのだろう。アディルは俯いて、穣司から目を逸らしてる。


(あちゃー、ドン引きされてる。……ちょっと熱く語り過ぎたかな)


 やはり好きなことを熱く語るのは、同好の士が相手の場合に限るのだろう。穣司は苦笑いで誤魔化しながら、話の流れを本筋に戻す。


「……あはは。えー、話を戻しますけど、森を抜けた俺は川沿いで昼寝をしているモルルさんを見掛けましてね。その時は子供がこんな所で寝るのは心配だなって思っていたので、起きるまで見守っていたんです。そして起きたモルルさんに抱っこを要求されたので、それに応じたら皆さんに声を掛けられた……と、まあ、こんな感じですかね」


「その話が本当なら、全てはトリトスの誤解なんだろうがな。……念の為に聞いておくが、お前さんは何者だ?」


 意外なことに口を開いたのはサルバドールだった。値踏みするような鋭い眼差しは健在だ。


「俺はただの旅人ですよ。シュケルからは陸路で来ましたが、この地に着いたのは偶然です。なので何かを狙っているわけでもないです。強いて言うなら両替商に会いたいくらいですね」


 山脈に目を向けるサルバドール。アディルも同様に山脈を見つめていた。その先のシュケルに思いを馳せるように、遠い目をしている。


「そうか………山脈を越えたのか」


「ええ、まぁ……そうですけど」


 嘆息するように呟くサルバドールに、穣司は不安に苛まれる。まさか知らぬ間にとんでもないこと偉業を達成してしまったのか。そう考えると冷や汗が額を滴り落ちた。


「フッ、お前さんを取って食いはしないから、そう怯えるな。いやなに、この地に残っている逸話を思い出しただけだ。それにな、俺もアディルも、シュケルには恩を感じているんだ。だからって訳じゃないが、一先ずお前さんを信じるとしようじゃないか」


 サルバドールから剣呑とした雰囲気が霧散していた。不器用な笑みまで見せている。

 穣司には彼の心変わりに見当がつかなかったが、山脈越えは偉業ではなかったことだけは理解できる。


「信じてもらえたようで、なによりです。……俺も気になっていたことがあるんですが、モルル達って本当に成人なんですか? それにタルール族ってなんでしょうか?」


「本当に知らないんですね。じゃあ僕が簡単に説明しますよ」


 落ち着きのある声調で答えたのはアディルだった。得意気な表情を見せるでもなく、知識を与えようとする者の、堂々とした姿だ。



 ◆



 モルル達のように幼い姿のまま成長が止まるのがタルール族。外見に老化現象が現れず、他種族には大人と子供の区別が難しい。タルール族の10歳程度の男児と三十路の男を比較しても、違いが分からない種族だ。星の民とも呼ばれ、太陽と月を信仰しているのだという。主な仕事は農業と養蚕業で、この地から産出される生糸こそが、宝らしかった。


 アディルは中学生くらいの外見で成長が止まる種族で、人間種からはハーフリングと呼ばれている。

 クロース村で空き家を借りているが、正確にいえば村の住人ではない。村の仕事を手伝いながら、村民に勉強を教えている流れ者の教師である。年齢は28歳で、既婚者だ。

 サルバドールはハーフエルフと呼ばれているらしいが、アディルは職業について触れることもなく、説明は簡潔に済まされた。


「――以上がタルール族のことですね。ついでに僕のことも説明しちゃいましたが」


 耳が尖っているという共通点から、出世魚のように思っていた穣司は、その考えを改めた。三つの種族に共通点はあれど、無関係だ。

 ハーフエルフは名前からしてダークエルフと繋がりがありそうだが、アンジェリカ達が魔物扱いされていることを知った穣司は、おいそれと口にすることはない。ハーフエルフの耳がダークエルフより短いのも、おそらく触れない方がいいのだろう。身体的な特徴は、口にするものではないのだから。


「へぇ、そうだったんですか。もしかしたら俺が今まで出会ったことのある子供達の中にも、実はタルール族の成人が紛れていそうですね」


 フェアティアの安宿通りで、耳の尖った子供を見掛けたこともあった。その時はただの子供と思い、穣司は特に意識していなかったが、今にして思えばタルール族だったのだろう。しかし成人かどうかは不明だ。なにせ見た目は子供である。外見で判断するのが難しい。

 また一つ勉強になったと、穣司は満足気に頷いた。


「でもね、それを悪用したのがトリトスってワケ。あのねジョージ、ちょっと聞いてくれる?」


 いつの間にか舌戦が終わっていたのか、モルルは口を尖らせていた。トリトスは気まずそうに俯いている。


「俺で良ければ聞きますけど」


「もー、そんな丁寧な口調はやめてよ。とりあえず話ながら村に行こうよ、ね?」


 モルルに腕を引かれて、穣司は川沿いを歩き始める。

 その道中でモルルから聞いた話によると、クロース村では時折、男衆が仕事で街に出掛けることがあるらしく、その際に子供のふりをしたトリトスが、他種族の女性に甘えていたらしかった。


 はじめは女性の足下でわざと転び、下着を見上げる程度で満足していたそうだ。しかし慣れてくると、それだけでは物足りなくなる。次にトリトスが行動に移したのは泣き真似だった。

 タルール族を知らない無知な乙女の前で弱者を演じ、優しく慰められながら頭を撫でられることに、トリトスは快感を覚えるようになっていた。母性を掻き立てられた女性から抱き締められ、豊かな胸に顔を埋めることもある。さりげなく揉むこともあったそうだ。そうしてトリトスは回数を重ねる(ごと)に大胆な行動をするようになっていた。


 しかし、大胆になりすぎたからこそ、よく転ぶ子供として噂になる。同族の男達の耳にも入るのは当然で、タルール族が変態だと思われることを危惧した者が、密かに内偵調査を行った後に、モルルに伝えたのだという。


「――だからね、私も同じことをしてみたの。でもね、意趣返しってワケじゃないんだよ。妻が子供のふりをしたら、どれだけトリトスが情けないことをしているのか、気付くかなって思ったのよ。それなのにさ、あの馬鹿は私を浮気者だの言ってくるから、頭にきちゃって。しかもジョージを人攫いだって決めつけるしさ。じゃあアンタが甘えてきた女も人攫いなのかって言い返したワケ」


 ジョージは聞きに徹し、共感するように相槌を打つ。「うんうん」「それは怒るよね」という具合に話を聞いていると、モルルの怒りは収まってきたのか、勢いのあった口調が少しずつ和らいでいた。


「……僕はトリトスの擁護をしませんからね。これでも教育者でし、愛妻家でもあるので」


 白い目でトリトスを見るアディルの口調は冷淡だった。

 サルバドールは肩を震わせながら、笑いを堪えている。

 トリトスは居心地が悪そうに俯いたままだ。


「あのね、ジョージ……貴方が優しそうだったから、巻き込んで利用しちゃったけど、本当にごめんなさい」


 怒りの次に思い出したのは罪悪感なのだろう。モルルは目を伏せて謝罪する。


「モルルの方が大変そうだし、俺は気にしてないから、謝らなくてもいいよ。夫婦喧嘩に余所者が口出しするものではないからね。それよりもさ、もう村が近いよ」


 薄い石で積み重ねられた家屋の壁は、地層のようになっていた。屋根が低く、建物のサイズも小さいのは、タルール族に合う造りになっているのだろう。しかし来訪者向けなのか、いくつか背の高い家もある。宿があるという可能性も捨てきれない。


「ねえモルル。クロース村に宿ってある?」


「うーん、人が訪れるなんて滅多にないから、宿なんてないよ」


 穣司の問いに、モルルは申し訳なさそうに答える。

 もしもの時は、能力(ちから)を用いて、建物も簡単に創造できる。しかし流石に常識外れだろう。神のような存在だと知られて崇められるのは好ましくない。それに今の穣司は、ただの旅人として扱われているのだ。その関係を壊したくなかった。


「そっか。じゃあ仕方がないね。雨風さえ凌げれば何でもいいんだけど、どこかに適当な軒下ってないかな。ないなら野宿するけど、どこに許可を貰えばいい?」


「……そっか。やっぱりそういうことなんだ。でも大丈夫だよ」


 神妙な面持ちでモルルは小さく頷き、慈しむような笑みを浮かべた。


「住めそうな家に心当りがあるの。だからジョージはここで日向ぼっこしながら待っていてね。……ほら皆、何してるの? 行くよ」


 アディル達を引き連れて走り去っていくモルルに穣司は呆気に取られていた。何が大丈夫なのか分かったものではないが、きっと罪滅ぼしのつもりなのだろう。


「何もそこまでしなくてもいいのに。……でも追い掛けて行き違いになると(まず)いし、従っておくべきなのかな」


 その場に腰を下ろし、太陽の光を浴びる。

 モルルの心中には、おそらく嵐が吹き荒れているだろう。しかし自然はどこ吹く風で、暖かい日差しが降り注いでいた。

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