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悠遠の旅空に~半神のバックパッカー~  作者: ビール汁
フォルティス大陸東部――シュケル国
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64話 知らぬ神の名

「お父さん、みんなとお話がしたいです!」


 森での一件が過ぎても、コロはいつもと変わらない調子で、天真爛漫な笑みを見せていた。ゴブリン族の凄惨な姿を、直接目にしなかったのが幸いしたのか、その瞳が曇ることはなかった。相も変わらず、愛くるしい表情のままだ。


 記憶がなく、他人から姿の見えない小さな少女の、小さなおねだりである。そのように感じている穣司が、コロの願いを叶えてあげたいと考えてしまうのは当然のことだった。


「じゃあついでに休憩にしようか。楽しんでおいで」


 思わず頬が緩み、能力(ちから)を使いながら返事をする。

 嬉しそうにはしゃぐ小さな娘が、ふわふわと飛んでいく背中を見守り、傍らで大人しくしている牙猫を撫でる。


(誰かと仲良くなりたいって考えるのは、いい傾向なんだろうな。それにザフェル達なら、コロちゃんを悪いようにはしないだろうし)


 短い付き合いながらも、彼らを信頼していた。

 ザフェルは自身が危うい状態でも、遭難者を助けようとする好人物だ。船乗り達も良い人ばかりで、フェアティアの住人の印象も良い。コロのような存在を魔物だと断定して、迫害するようなことはないだろう。


 ゴブリン族やオーク族を目にしても、ザフェル達は侮蔑を露にすることがなかった。珍しそうに見るだけで、魔物として見ていない。楽器を抱えた半獣人の少女にいたっては、友人のような気軽さで話し掛けていた。

 その様子に安堵しながらも、マイロモクス達の記憶を読み取ってしまった穣司は、早くリックスブリックスを探さなければと焦りを覚えていた。そのためか、詳細を告げることを失念していた。それでもザフェルは「任せてくれ」と即答する。その表情は良い笑顔だった。

 元から信頼していていたが、その想いは加速度を増した。顔だけでなく、性格も良ければ、自分が敵うところはないと、穣司は白旗を上げたくなる。もちろん卑屈さではなく、晴れやか気分でだ。こういう男が民衆を惹き付け、歴史に名を残すのだろう、と。


(ゴブリンさんやオークさんとすっかり仲良しになっているし、ザフェルは人を惹き付けるナニかを持っているんだろうな。イケメンだし面倒見も良いし、俺に対してもいつもと同じ態度だ)


 穣司が能力(ちから)の一部を解放したことで、神のような存在だと推察されてもおかしくはなかった。太陽が増えたかのように空が明るくなれば、常識から逸脱しているどころの話ではない。その原因である煌めく光を辿っていけば、穣司に繋がるのは明白だった。聖霊教を信ずる者なら、大聖霊なる存在に関連があると思われても不思議ではなく、無関係の者でも神聖な光だと思われてしまうだろう。


 しかしザフェルは媚びることもなく、いつもと変わらなかった。相手が誰であれ、分け隔てなく接することのできる人物だと再確認できた。

 このような良い男は、そうそういるものではないだろう。それ故にコロが相手でも、危害を加えることはないと確信を持てる。


 その一方で、マイロモクス達から流れ込んできた記憶の人間達の姿は、おぞましいの一言では済まなかった。生殺与奪の権利を握っているという、絶対なる余裕が感じられ、ゴブリン族の慟哭すらも見せ物のように楽しみ、暴力に酔いしれていた。

 大した理由もなく、笑いながら迫害する冒険者三人組と、親睦を深めたいなど思える筈がない。コロには一生、関わりを持ってほしくないし、穣司にとっても視界に映したい存在ではなかった。


(なんでこの冒険者達は……いや、やめよう)


 深く考えようとして、起伏しかけた感情を抑え込む。

 胸の内で再燃しかけた苛立ちが消え、汚泥に片足を突っ込んだような不快感が薄れる。冒険者三人組を思い浮かべると、無味乾燥な数字の羅列を見ているような気分になり、興味も薄れていった。


(犯罪者からどう思われようが構わないけど、リックスブリックスさん達から崇められると申し訳ないな……。きっと俺を大聖霊と思い込んでいるだろうけど、そんな大層な存在じゃないんだよなぁ……)


 ゴブリン達からは、強い敬拝の念が感じ取れる。だが、それは借り物の能力(ちから)を使っただけのことで、崇められても居心地が悪いだけである。とはいえ、それを覚悟していた上での治療行為。代償として考えれば安いものだ。

 なにより聖霊教なる教えを守り、人助けに奔走するリックスブリックスを助けられたことに、後悔は欠片も感じていなかった。もっと違う形でゴブリン族と出会っていたのなら、しがない旅人として親交を深められたかも知れないと、穣司は考えてしまうこともある。ただ、それだけが口惜しかった。


(あー、これからどうしようかな。神の声……みたいな感じで、俺が白と言えば黒も白になりそうだから、気軽に話ができないな。……変に忖度されたらどうしよう。今までの俺の発言をリリアンヌに一語一句書き起こされて、言行録として残ったりしないかな。いや、流石にそんなことにはならないか……きっと……多分)


 穣司は昨夜から、積極的に会話に参加していない。

 神という超越した存在だと思われているなら、その言葉の重みは計り知れないだろう。迂闊なことを言えば、どのように解釈されるのか分かったものではない。礼を述べられても、当たり障りのない言葉で返すだけで、自然と口数は少なくなった。

 ゆえに容疑者の監視及び、ゴブリン達への配慮という名目で、集団から離れるのは当然の結果である。

 もちろんゴブリン達への配慮に嘘はない。凶悪な犯罪者が近くにいると考えれば、被害者は落ち着けるものではないだろう。


(はぁ、まさか犯罪者と一緒にいるのが、気楽と思える日がくるとはね。……人生とは分からないもんだ)


 今の状況において、唯一の気遣い不要の関係であり、気兼ねなく話し掛けられるのが冒険者達だ。ただし積極的に会話を弾まようと思えない相手でもあるのが難点だな、と穣司はぼんやりと考えを巡らせていると、カラカラと規則的に音を立てる車輪が止まる。


 前方を見ればザフェル達が停止して、それを察知したアセナも停まっている。

 コロが休憩を伝えたのだろう。無数の動物達も腰を下ろし、寛ぎはじめているのが遠目で分かった。


 穣司は何気なく背囊(ザック)から白いローブを取り出す。

 能力(ちから)と共に授かった代物である。身に纏っていれば一定の温度に保たれ、汚れることもない未知の素材だ。そのため空気を肌で感じたい時は脱いでいた衣服でもある。

 大きめのフードは深く被れば、目元を隠すことができ、他者から表情を窺われるのは難しくなるだろう。目は口ほどに物を言うのなら、ここで着ておくべきかと袖を通した。


「そ、その御召物は!」


 杖の男の声に振り向くと、驚愕の表情を浮かべていた。

 名はディラン。他の二人とは違い、唯一何らかの力を感じ取っている男だが、今の三人は武装も解除され、肌着のような格好で、手足を拘束されている。


「……この服がなにか?」


 さも当然のようにゴブリンやオークを虐げる人物に、穣司は快く返事する気になれず、自身でも驚くほどの冷たい声が漏れた。


「あ、貴方様の静寂を乱してしまい、も、申し訳ございません。その御召物が聖光教団の……聖皇様の着ている衣装と似ていましたので、思わず口にしてしまった次第でございます」


「あ、そうなんですか。それで?」


「わ、私めが属する聖光教団では光神様は女神であると幼き頃から教わっておりました。そして光神様が聖皇様に神託を下し、自身が纏う穢れなき純白のローブを授けたと信じられています。し、失礼ながら男性であらせられる貴方様が女神だとは思えず、つい無礼を働いてしまいました」


「へぇ、光神が女神で……聖皇に神託を……ね」


 彼等の信ずる教えを聞くには良い機会である。

 今の状況では扱いの難しい話題だが、この冒険者が相手なら気に留める必要もない。そのためか、問う声色は深海のように暗く冷淡なままだ。


(・・・)は男なので当然ながら女神ではありません。このローブを誰かに贈ったりもしてませんし、どこか類似している部分が多少あっただけでしょう」


「そ、そんな……。しかしあの金色の輝きは、光神メリュエール様の伝承に一致します。では貴方様は一体……もしや……」


「さあ? なんなんでしょうね。逆にお聞きしますが、メリュエールという神が、異教徒や異種族は殺してもよいと言ったんですか? そういう神託が下ったと?」


「はい……聖皇様がそのように……」


「――っ!」


 先程までの怒りとは別の、ドス黒い感情が喉にせり上がり、歯噛みして堪える。フードを深く被り、目元を隠した。


「ひ、ひぃ……! も、ももも申し訳ありませんっ! どうか! お鎮まりください!」


「ひゃ、ひゃめて……くらさい」


「ああ……ああああ……嫌だ……消え……たくない。み、見捨てないで……」


 呂律が回らず、意味不明な言葉を口走る冒険者達は、世界の終焉を目の当たりにするかのように震え上がり、平伏する。その大袈裟過ぎる姿に穣司は溜め息を吐いた。


(はぁ……なんだよもう。……というか消えたくないってなんだ。それに見捨てるってなんのこと?)


 理解不能な冒険者の醜態に眉を顰める。

 消えろとは念じていない。穣司はただ視界に映したくないだけだったが、それすらも授かった能力(ちから)の影響だろうか。

 しかしいくら犯罪者相手とはいえ、借り物の力で脅すのは本意ではなかった。だからといって訂正したいとも思えず、複雑な心持ちで本題に戻す。


「あー、ところで、ニナという存在は知っていますか」


「も、申し訳ございませんが、寡聞にして存じません」


 ディランが声を震わせたまま顔を上げる。


「そんなに怯えないでください。なんでしたら心が楽になるようにしましょうか?」


「そ、それは死をもって私めの魂が、赦されるということでしょうか。……もしも、もしもそうであるのならっ! 私めは進んで貴方様に罰せられましょうっ!」


 血走らせた目を大きく開き、狂喜に満ちた笑みを浮かべるディランは、頭を差し出した。


「……うわぁ。そういう意味の楽にさせるってことじゃなくて……いや、その件は一先ず置いといて……」


 言い様のない薄ら寒さを覚えた穣司は、咳払いをして気持ちを切り替え、一拍置いてから話題を戻す。


「ニナとはこの世界を創造した女神の名前なんですが、残念ながら貴方達の宗教には伝わってないんですね。ダークエルフ達の子には伝わっていましたし、ゴブリンさん達には別の意味に変わりながらも、伝わってたんですけどね。……その聖光教団の歴史ってどの程度のものですか。今まで光神メリュエールなんて神の名は聞いたことがなかったんですが、他にはどの地域で伝わっていますか」


「そ、そんなっ!」


 蒼白するディランは、落ち着きを失い、ガチガチと歯を鳴らす。その異常さに当惑した穣司は「どうしましたか」と冷たく尋ねた。


「……ああ、なんという……ことか。真の神であらせられる……貴方様が……光神をご存知ないということは……今までの信仰は……虚構であると……証明しているようなもの。闇人(ダークエルフ)やゴブリンこそが神の子であり……私達人間種は……ああ、なんて愚かな――」


 精神に相当な負荷があったのか、ディランは過呼吸を起こしながら、絞り出すように喋り、そして言葉の途中で気を失った。


(ええ……なにこれ。ちょっと質問しただけなのに。ああ……やっぱりこの状態だと気軽に質問もできないな。……というかもうちょっと慎重に聞くべきだったかな)


 やはり言葉選びは難しかった。

 単純に彼等の信ずる宗教の分布や、歴史を知っておかなければと考えていただけだが、その結果がこの有り様である。故意ではないといえ、ゴブリン達の記憶を読み取ってしまった後ろめたさから、言葉で聞き出そうとした目論見は失敗に終わった。

 聞きたい言葉が返ってくることはなく、妙な解釈をされただけである。ディランだけでなく他の二人までもが、魂が抜けたような虚ろな目をしていた。それでも治癒魔法をかけようと、穣司は思えなかった。


(聖霊教の始まりまでは遡れなかったけど、ゴブリンさん達の記憶から、大聖霊がどのような存在なのか、なんとなく理解できたんだけどなぁ。……困ったな、光神とかさっぱり分からない)


 ゴブリン達の記憶から読み取れたのは、大聖霊が実在しているか否かではなく、風習として伝えられているだけだった。

 穣司が授かった能力(ちから)は、この世界を創った女神の叔父にあたる人物から与えられたものだ。おそらく女神ニナも能力(ちから)を行使すれば、同じように煌々とした光を放つのだろう。

 しかし女神ニナは姿を消した。そしてさらに時が経つと解釈までもが変化した。

 女神ニナは天国に似た場所の名として伝えられ、煌めく光が大聖霊という名前に変わって、後の世に伝わったのだろう。


 リックスブリックス達の信じる教えには「それらしさ」があった。神の教えとして残るには十分過ぎる分かりやすさだ。見返りを求めず、窮地に陥った者に手を差し伸べ、他者の幸福を喜びとする清廉さは、教示として分かりやすい。


(異教徒殺しを良しとする考えは、罪の意識を無くさせる手段だろうし、聖霊教の方が女神ニナの教えに近いのかな。……片方の事情しか知らないのは良くないからディランから直接聞こうとしたけど……もういいか。結局のところ記憶を覗いた方がてっとり早いか)


 穣司は失神しているディランに手を(かざ)す。

 ゴブリン達とは状況も違い、これから行われるのは故意による記憶の抽出。他者の過去を盗み見る最低な行為だ。が、相手はリックスブリックス達を惨いやり方で虐げた者達だ。もはや僅かな躊躇もなかった。

 なにより異教徒や異種族を殺して良いとする宗教を詳しく知っておきたかった。知ってどうにかするわけではない。ただ、納得できない内容なら、近付きたくないだけだ。


 そうして記憶を覗こうと念じる――その時だった。


「旦那様ー!!」


 オークのザッグダレッグが叫びながら、巨体を揺らして走ってくる。

 初めて対峙した時は、憎しみを募らせた鬼気迫る表情だった。しかしそんな彼が子供のような屈託のない笑顔で「旦那様」と叫ぶのだから、記憶の抽出行為すら瞬時に忘れて、思わず吹き出した。


「え、旦那様っ?」


「へへへ、どうですか? 不快じゃないですかね?」


 目を細めて笑うザッグダレッグは愛嬌がある。

 プロレスラーのような体型の人物から、旦那様と呼ばれるそのギャップに笑いが込み上げる。これではまるで彼は召し使いで、自分は主人のようだ。

 思いがけない言葉だったが、おそらくザフェルから影響を受けたのだろう。もしくは場を和ませるちょっとした冗談だ。


 しかしそのお陰で道を踏み外さずに済んだといえる。

 相手が犯罪者だからといって、一度でも故意に他者の記憶を探れば、いつしかそれに慣れてしまい、些細なことでも記憶を盗み見るようになるだろう。そのまま突き進めば、少しずつ人間性を欠落していきそうでもあった。


(ちょっと冷静ではなかったかな。もう少しで大切な何かを失うところだった……かも知れない)


 それはヒトのやるべきことではない。本物の神が是とするならともかく、紛い物がやっていい行為ではないだろう。


「いや、不快ではないです。むしろ俺は感謝していますよ。ありがとうございます」


 穣司はこれ以上ない微笑みで返した。


「へっ? ……あ、いや、へへへ」


 一瞬だけザッグダレッグは時が止まったように停止した。しかし、すぐに照れくさそうな表情を浮かべて、赤らめた頬を掻きはじめる。「やっぱり旦那様なんですね」と小さく呟いていたが、何を意味しているのか穣司は分からず、とりあえずここに来た意味を尋ねる。


「えっと、何か問題でもありましたか? それに……ここに来ても大丈夫ですか?」


 言いながら穣司は冒険者達を一瞥する。


「……ああ、そいつらですかい? 何の装備もしてなけりゃ問題になりませんぜ。まぁ……なんといいますか、問題があるとすれば、コロちゃん様が可愛らしいことくらいですかね。ヘヘ、旦那様の娘さんのようですが、いつから傍にいたので?」


 ザッグダレッグは冒険者達を冷たく見やり、拳を強く握り締め、怒りを抑えながら、フンと鼻を鳴らす。

 しかし、すぐに愛嬌のある笑顔に戻り、やや強引に話を逸らした。やはり被害者にとって気持ち良い存在ではないのだろう。


「コロちゃん様? そんなことを言ったら『コロちゃん様じゃないです、コロちゃんです』って言われませんでした?」


「へへ、やはり旦那様は父親ですね。我が子を一番知っているのは親ですからな」


「えっと、まぁ……そういうことになりますかね」


 顎を撫でながら、うんうんと頷くザックダレッグに、穣司は言葉を詰まらせながら答えた。

 彼は妻と我が子を人間の冒険者に殺された男だ。

 復讐心に囚われ、それを果たした。しかし失った者は二度と戻ることはない。

 それについて穣司は、とやかく言うつもりはない。正当な権利ともいえるだろう。だが、それを感じさせない今のザッグダレッグの晴れやかな表情から、僅かに垣間見える陰りを感じると、居た堪れなかった。

 人間を嫌うのも無理はない。ましてや恩人であるゴブリン達への仕打ちを間近で見たのなら、この冒険者に対する怒りは消えるものではないだろう。親しき者を殺されるとは、そういうことなのだから。


 つい穣司はザッグダレッグの手を両手で包む。

 労いの言葉は不要だろう。慰めの言葉も野暮だ。

 それでも、せめてこれからは穏やかに生きられるようにと願うと、光がじんわりと漏れる。そしてゆっくりと手を離した。


「だ、旦那様?」


 突然手を握られて困惑したのだろう。野太い声が上擦っていた。

 感傷はここまでだ。そう……これはただの世間話。まだザックダレッグの、何気ない問いに答えていない。


「失礼しました。特に意味はないので気にしないでください。そうそう、コロちゃんは今回の旅で、最初から一緒にいましたよ」


「ほ、ほう……そうでしたか。いえね、ハリルが感動に打ち震えてましたぜ。私は選ばれたのか……とね」


「選ばれた……? あ、そういう意味か。コロちゃんから仲良くなりたいって思われたのが嬉しかったのかな」


 海運組合(ギルド)の長であり、紳士的で物腰も柔らかく、面倒見も良いが、森での一件では義憤に燃える一面も見せていた。

 ザフェルと同様に態度が変わっていない人物でもあるが、はじめから変わったところがあったため、変化に気付かなかったとも言える。

 彼もコロを任せられる人物といえるだろう。

 穣司とて、この世界にいつまでいるか分からないのだ。

 いくら懐かれて父と呼ばれようとも、別れの日はいつか訪れる。その日を境にコロが一人ぼっちにならないようにと考えていたが、この調子だと友達は多くなりそうだ。


「じゃあ俺は失礼しますぜ。旦那様と少しお話がしたかっただけなんで」


 ザッグダレッグはニッと笑い、穣司も微笑みを返した。

 想像していたよりは、親しみのある態度だった。変に畏まられるより、ずっと良い。

 そしてふと、あることを思い出す。


「あ……そうだ。ついでにハリルさんを呼んでもらっていいですか? いくつか聞きたいことがあるので」


 穣司が頼むと、ザッグダレッグは「分かりやしたっ!」と言って胸を叩き、意気揚々と去っていった。


 ハリルにはいくつか聞きたいことがあった。しかし誤解を招かぬように、尋ねなければならないだろう。遠回しではなく、手短な直球だ。

 犯罪者の迅速な移送は必要だろう。やはり被害者と近くにいるべきではない。ただの人間ではないと知られてしまっている今なら、空を飛べることを隠す必要もないのだ。しかし即座に首都メルケズに移送しても、どの機関に連れていけばいいのか不明である。

 それにリックスブリックス達の今後も気になるところだった。魔物扱いされている彼らが、もしもシュケル国民として迎えられるなら、外交問題も発生しかねない。魔物扱いされている種族の難民が押し寄せる恐れもあるし、その場合は治安の悪化も懸念される。

 もしもそうなるのなら、ひとつだけ良い場所がある。おそらくどこの国にも属していない島だ。シュケルで難しいなら、他にも場所はあるのだと告げておきたかった。そして他にも尋ねておきたいことはあった。


「そういえば銭湯も建てっぱなしだったんだよな……」

体調不良で安静にしていました。

皆様もお身体にお気を付けください。

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