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悠遠の旅空に~半神のバックパッカー~  作者: ビール汁
フォルティス大陸東部――シュケル国
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59話 現るは森の民か

 疾駆蜥蜴(ラプトル)のアセナが牽く客車は、泥濘(ぬかるみ)にはまるといった不運に見舞われることもなく、大地を軽快な疾走する。黒い大地を見渡せた丘を下りた頃には、日が暮れかけていた。

 程良い場所で野営をして、夜が明けると出発する。途中で何度か休憩を挟み、その度に穣司はアセナを労った。店主から用意されていた果物と、創り出した水を与え、疲労が癒えるようにと、念じながら揉み解す。

 風景は盆地へと姿を変え、緩やかに起伏する丘と、奇岩がせり立っている。背の低い木がまばらに生え、フェアティアと比べると空気が乾燥していたが、時折湿り気のある風が吹く事もある。


 遠望では盆地の切れ間の先に独立峰が(そび)え、山麓には深い森が広がっていた。組合(ギルド)から支給された地図に間違いがないのであれば、この森こそが目的地。さして苦労もない往路だが、穣司はツンとした鼻の痛みに、涙を堪えていた。


 これが辛い旅路だったのなら、感慨に浸る涙もあっただろう。だが、野生動物に癒されながらの悠々とした行程では、感極まるものはない。達成感など皆無である。

 ならば何故、穣司は涙腺に刺激を受けているのか。

 それはリリアンヌという少女の身の上話を聞いたからであった。


 ことの始まりはリリアンヌの態度の変わりように疑問を覚え、彼女が何を信仰し、どのような暮らしをしていたのか探りを入れた事だった。それを知れば何が彼女の琴線に触れたのか、答えが見つかるだろうと安易に考えていたのだ。

 しかし彼女が語った幼少期は、穣司は思わず抱き締めたくなる程に、憐憫の情を覚えていた。


 少女とゴブリンなる種族との出会い。

 献身的な看護にあたるだけでなく、命を賭して幼い子供を守ろうとしたリックスブリックスに、穣司は胸を打たれていた。そんな男が魔物扱いされているのかと憤りすら覚える。

 だが、それ以上に感銘を受けていた。見ず知らずの子供助ける為に、命を張れるだろか。子供を守るのは当たり前だと、銃を手にした兵士に立ち向かえるだろうか。そう考えるだけで、胸が熱くなり、瞳が潤む。


 リリアンヌの祖国では、支配者階級に不満を募らせた層からの反乱が起こり、やがて国全域に飛び火したとの事だった。たとえ良き領主であろうとも、群衆心理に理性を曇らせた兵士や民が、濁流のように流れ込み、暴力による変革を求めた。

 その結末、多くの血が流れた。既存の政治体制が変わり、身分制度も崩壊した。


 時を同じくして、モンフォール家が営んでいる孤児院では、新たに迎え入れた孤児から広まった疫病で、多くの領民が犠牲になり、不幸にも暴徒化した民に口実を与えてしまった。その責を問われて断罪されたのだと、とリリアンヌはアデマールなる老剣士から聞かされたらしかった。見えざる後押しでもあったかのような、鮮やかすぎる変革だ――とも。


 そうして家族を喪った寄る辺のない少女は、師匠の下で修行に励んだ。外界から隔たれたような秘境ともいえる渓谷で研鑽を積み、一人立ちが許されたのは八年後だった。奇しくもリリアンヌの祖国で成人とされる15歳になった頃でもある。


(ああ……なんて辛い生い立ちなんだろう)


 享受する筈だった平穏を、時代に奪われた幼い少女。

 一人立ちせざるを得なかった境遇を考えれば、穣司は居たたまれなかった。

 幼くして命と貞操を脅かされたのなら、その心的外傷は計り知れない。男性恐怖症になっていたとしてもおかしくはなく、猥談に眉間を寄せてしまうのも無理はなかった。誘惑のように聞こえた言葉に深い意味はなく、ただ師匠の口調を真似をしていただけなのだ。


 当初の感じた世話焼きの印象は、彼女の過去に起因しているだけだった。

 新米冒険者の生存率が上がるように、自らの手でシゴいてみせよう熱く語ったのは、自らの経験を生かしているだけに過ぎない。

 リックスブリックスがその身で示したように、リリアンヌは弱者を守る為に活動した。そして恩人が生きているのではないかと、一縷の望みを抱いて捜索に赴く事もあったそうだ。が、結果は芳しくないようだった。


「そっか……辛かったよね。それよりも立ち入ったことを聞いてごめんね」


『ごめんなさい!』


 穣司は頭を垂れる。コロもそれに倣った。


「そんなっ! 謝らないでください。それにゴブリンとの共生が夢など、言えるものではないですから……。だからこそ他ならぬジョージさんには打ち明けたかったのです」


 晴れやかに微笑む少女は大人びて見えた。

 儚くも美しい姿に、穣司は魅入られる。

 恋慕は微塵もない。リリアンヌが可憐な少女だからではなく、一人の夢追い人を応援したいという気持ちが湧き起こる。


 リリアンヌが胸に秘めるのはリックスブリックスへの恩返し。そしてゴブリンとの共生。

 しかしながら彼女が生きているうちに、その夢が叶うとは思えなかった。ただ人間同士ですら争いは起こるし、命も平等ではない。虐げられるのが当然のように扱われる者が、憂いなく暮らしていける地は、そう簡単にあるものではない。加えて姿形(すがたかたち)も違う種族が住まう世界なら尚更、難しいだろう。この世界には想像以上に種族間で隔たりがある。いや、この世界にも――と言い直すべきか。


 だからこそ助勢したいと穣司は感じてしまっていた。

 命を救われたのなら恩義を感じるのは当然のこと。たとえ相手が誰であってもである。


(リリアンヌは強い人なんだな。……子供の頃に酷い目に遭って、家族も亡くしたというのに。……うぅ、やるせない)


 穣司は目を瞑り、何処とも知れぬ宙に顔を向けて、呼吸を整える。

 そうしなければ悲哀が涙となって、外に零れ落ちてしまっていた。が、零れるのは涙だけでない。

 感情を強く揺れ動かされた分だけ、黄金の輝きが全身から溢れ出る。

 しかし憐憫の情に支配されている穣司は、それに気付けなかった。なにより涙を堪えるのに必死である。それ故に制御なき煌々とした光の粒が、湧水のように溢れ、周囲を包む。


 程なくして呼吸が落ち着いた穣司は瞼を開けた。

 光も同時に消えていたこともあり、穣司に映るものは先程と何も変わらない――筈もなく、リリアンヌは穏やかな笑みを浮かべていることに当惑する。美しい景色に見惚れて、うっとりとしたような面持ちだ。


「えっと……どうしたの?」


「私は運が良かったのだと思いまして。それに……私は大切なことを今まで忘れていました。ジョージさんと出会って、ようやく思い出せたのですから」


「大切なこと?」


 穣司は思わず首を傾げる。


「私が出立する時に師匠から、こう言われました『半端な情報とは無味無臭の猛毒である。知らぬ間に蝕まれる遅効性の毒に注意せよ』と。……心得ていたつもりなのですが、さほど興味のない情報は、知らぬ間に聞き入れてしまっていたようです」


「えっと……それはつまりダークエルフの話とか?」


「その通りです。リックのことがありましたから、誰が何を言おうとも、ゴブリンを心の底から信じていました。しかし他の存在は別だったようです。半端な情報は話半分程度にしか聞いていなかったつもりなのですが、時を経た頃にそれが事実だったかのように考えていました。だからこそダークエルフの悪い噂も、真偽を確かめることもせずに、誤認してしまったのでしょう。……それではゴブリンの流言を信じる者と同じです」


 悔恨の念に表情を曇らせるリリアンヌ。

 その面持ちに穣司は成る程な、と合点がいった。

 興味のある話題なら真偽を見極める。しかし興味のない事柄ならば、適当に聞き流し、知らぬ間にその流言に蝕まれる。加えて情報に溢れた世界ではないのなら、為政者が思想や世論、意識を誘導しやすいだろう。


「なるほど、俺との会話でアデマールさんの忠告を思い出した……というワケだね」


『そうだったんですねー!』


「師匠は種族の話題を好まなかったので、聞く機会もありませんでした。今にして思えば、自分の目で確かめろと言いたかったのかもしれません」


 神のような存在だと察せられて、態度が変わったのではなかったと二重の意味で穣司は安堵する。

 野生動物に与えた水の味で、何かを感じ取ったのなら、危険な想像が働いてしまう。彼女が家畜の水飲み場と称した風呂の水を飲んだとも考えられてしまうのだ。他人の癖にケチをつけるつもりはないが、そうじゃなくてよかったと、穣司はほっとしていた。決して風呂の水を飲んだわけではない。


(……神のような存在だと思われていたんじゃなくて良かった。きっと同志とでも思われたんだろうな。俺なんかに会えて運が良かったってのは、そういうことだろうし)


 魔物扱いされている種族と親交を結んでいる者同士だ。同じ(こころざし)を抱く者に巡り会えた喜びは、リリアンヌからすると涙を流すほどなのだろう。それほどまでに種類間の壁は分厚く、聳えるような高さがあるのだな、と穣司は思いを巡らせる。


(でもリリアンヌの話には気になるところもあるな。八元素が重なる時、全ては天に還るだろう……だったかな。いつもの輝く光の粒で、なにか誤解されてなければいいけど)


 聖霊教なる宗教の言い伝えなのだろうか。

 均一の八属性の力を重ねると発生する淡い光が、穣司が魔法を行使する際に現れる光と同種のものと仮定すると、その正体は混じり気のない純粋な魔力ということになる。だが、その光輝(こうき)が、神と結びつくものなのか穣司には分からなかった。大聖霊なる存在も初耳である。


(いまさら俺のことをどう思う? ……なんて聞ける筈もないしなぁ。これ以上は根掘り葉掘り聞けないし)


 それを口に出してしまえば、別の意味に捉えかねないし、この流れで口説いている思われてしまえば、空気を読めないにも程がある。


 結局のところ、リリアンヌが何を感じ取ったのか、依然として推測の域を出なかった。だが、これ以上に探りを入れるのは野暮だと穣司は感じていた。

 藪をつついて蛇は出なくても、辛い過去を持つ少女が飛び出すことはあるのだから。


(記憶のないコロちゃんにも辛い過去があるんだろうし、今回の話が引き金になって、思い出さなきゃいいけど)


 穣司は自らの膝の上で寛いでいる一人と一匹を見やり、指先でコロの頭を優しく撫でた。

 コロはきょとんと呆けた表情になりながらも、すぐに受け入れて、目を細めて気持ち良さそうにしてる。痛みを知らない無邪気な表情だった。幼きリリアンヌにも、こんな時代があったのだろうとかと考えながらも、アセナは目的地に向かって軽快に回っていた。




 ◆



 メデニシエズの森に近づいたのは、太陽も地平線との距離を縮めた頃だ。

 空はまだ明るく、森の調査には困らないが、油断していると陽が沈む頃合いでもある。自分一人だけならともかく、仲間がいる状況でわざわざ無理をする必要はないだろう、と穣司は休息を選択した。


「焦る必要もないし今日はここでゆっくりしようか」


 穣司はアセナから客車へと繋がっている輓具(ハーネス)を外しながら言った。

 途端にアセナが顔を擦りつけてくる。鼻息は荒く、散歩に出掛ける直前の犬みたいな落ち着きのなさだ。まだ歩き足りないとでも言いたげな瞳に、頬が緩む。


『アセナちゃんは、遊びたいんですね!』


「ジョージさんと戯れたいのかもしれませんね。私は野営の準備をしておきますので、散歩に出掛けてはどうでしょうか?」


「そうなのかな? ……とは言ってもなぁ。ゆっくり休んだ方がいいんじゃないかな。俺達をずっと運んでくれていたわけだし」


 それ以前に疾駆蜥蜴(ラプトル)がどうやって遊ぶのか穣司には分からない。犬のように綱を持って散歩する習慣でもあるのか、それとも背中に乗って走り回るべきなのか。

 どちらにせよ数日間の疲労が溜まっていることだろうし、ゆっくり休ませてあげたかった。


「無理は禁物だよ。ゆっくり休まないとね」


 苦笑いを浮かべながら、穣司はアセナを撫でる。

 するとアセナな悲しそうな目になり、見るからに気落ちした表情で、か細い嘶きを上げてシュンとした。

 頭を下げ、足で地面を弄る。

 穣司を上目遣いで見ては、すぐに目を逸らし、小石を蹴飛ばした後に、不貞腐れるように横たわった。不満げに鼻も鳴らしている。


「あらら……」


『アセナちゃん、ご機嫌ななめになりました』


 これまで従順に疾走していたアセナが、初めて見せる感情表現に穣司は困惑する。しかし愛らしさも込み上げた。

 賢くて、感情も豊か。それだけでなく、懐いてくれているのなら、つい甘やかしたくなる。

 自由に散歩した方がストレス発散にもなるのではないか。あの巨大な龍も一緒に空の散歩をしたのだから、アセナに何もしないわけにはいかないのではないか、と穣司は自ら問うて答えを出す。


「はは、分かったよアセナ。じゃあ散歩に行こうか」


 言ったと同時にアセナは飛び上がる。

 早く行こうと言わんばかりに、穣司の腰を頭で押しはじめる。


「おっとと。分かった、分かったって。あ、そうだ……どうせだから皆で行かない?」


 楽しい一時(ひととき)は共有したいと、穣司は二人と一匹に尋ねた。

 けれどアセナはその言葉を聞いた途端に渋面を作る。穴の開いた風船のように意欲が抜け落ちて、再び不貞寝した。身体を丸め、いじけるように小石を蹴飛ばしている。


「あっ……」


『また寝ちゃいました……』


「ふふ、どうやらジョージさんと二人きりで出掛けたかったようですね」


 微笑むリリアンヌに穣司は「そうなのかな?」と言葉を返した。その瞬間、アセナは強く鼻息を鳴らし、穣司をちらりと一瞥する。


(うぅ、二人きりがいいとか……動物好きの心をくすぐってくれるなぁ。アセナは人たらしだな、この可愛い奴め)


 だらしなく頬を緩める穣司はアセナを抱き起こし、そのまま抱き締める。耳元で「二人で行こうか」と囁き、頭を撫でた。

 ふと視線を感じてリリアンヌに視線を戻すと、感慨に耽るように目を細めている。それが何を意味をしているのか穣司には分からない。別段変わった言葉や行動ではない筈で、しかも相手は動物である。

 だが深く考える間をアセナは与えてくれない。後ろから穣司の股に頭を突っ込んで「乗って」と言いたげに腰を下ろされてしまえば従うしかないが、やはりというべきかコロと牙猫はついてくる素振りも見せなかった。


「……大丈夫かな。この辺りに危険はなさそうだし。でも――」


 女性陣を残して出掛けるのは、僅かに後ろ髪を引かれる思いがある。

 コロは他者から見えないので、何者かに襲われる心配はないし、生息している野生動物も人懐っこのばかりである。それでも不安になるのは、リリアンヌの過去を聞いたからだろう。

 そして今になって、このパーティの構成に気が付く。牙猫と疾駆蜥蜴(ラプトル)は雌で、コロとリリアンヌは女の子だ。


(そういえばこのパーティって俺以外は女の子しかいなかった! ……流石に悪漢は現れないとは思うけど、やっぱり不安だな)


 一度そう考えてしまえば、気になって仕方がなく、コロとリリアンヌを残して、出掛けるのは憚られる。だが、アセナの気持ちも汲んであげたくなっている。


「ちょっとだけ待ってね」と穣司は告げて、アセナから降りた。

 コロと牙猫を抱えて、リリアンヌに近づき、耳打ちをする。


「やっぱり皆を残して行くのは、少しだけ不安だからさ、こっそりと、ついてきてくれないかな。……面倒なこと言ってごめんね」


 そう告げると、リリアンヌは微笑んだまま無言で首肯した。抱き上げている牙猫とコロも同じように頷く。


「ではアセナ姫、ゆっくりと散歩しましょうか」


 アセナの下へ戻った穣司は、おどけるように言いながら手綱を掴む。

 騎乗しないことにアセナは少しだけ不満そう顔を見せるが、姫と言われて満更でもないのか悠然と歩き出す。

 荷を下ろした状態で自由に疾走させてあげたいが、それではリリアンヌ達が追いつかず、見失ってしまうだろう。それでは本末転倒である。交わした密約を守る為の妥協案が通って、穣司は安堵の吐息をもらした。


 夕暮れ前の散歩は心地良く、同じ速度で歩くアセナも穏やかな表情をしている。時折、穣司に顔を擦りつける姿は、甘えん坊の他に言葉が見つからない。


 後ろを振り返れば、それなりに離れた所をリリアンヌ達が歩いている。これなら安心だと、穣司も気兼ねなく手綱を握った。


 やがて森との境界に着く。

 鬱蒼とした原生林のようで、獣道しかなさそうな樹海は、旅人を歓迎しているようには見えない。まさに冒険者が足を踏み入れるべき未開の地のようで、心も躍る。

 だが、今日ではない。本格的な調査は明日で、空は茜色に染まる気配を醸し出している。


 一人なら夜の森で迷ったとしても、空を飛べばすぐにでも脱出できるし、猛獣に遭遇しても死ぬこともなければ、傷も負わない。だからこそ鼻歌気分で散策できるが、パーティだとそうはいかない。

 だが、誰かと旅を共にするのは、楽しくもあるのだから、一人の方が良いとも限らない。最少催行人数が集まらなければ、出発しないツアーだってあるし、山脈を越境する車をチャーターするのに、一人では費用が馬鹿にならないことだってあるのだ。


「さて、別のところに行こうか。ん? あれ、この葉っぱは――」


 茂みの中に見覚えのある植物が目に映る。

 数日前に初めて見たその葉は、青紫蘇(しそ)に似ている薬草だった。


「あ、これってレイシー草かアコナ草だ。確かレイシー草は回復薬の材料になるんだっけな。こんなにたくさん生えていたら儲けなるかも」


 境界付近の茂みには似たような植物が、びっしりと生えている。

 周囲に人工物はなく、おそらくは手つかずの森。どの程度の価値があるのか不明だが、貨幣を生む植物が採り放題に思えて、穣司はつい皮算用する。そして薬草に手を伸ばし――躊躇った。


「採って大丈夫かなこれ。誰かの土地だったら密漁になるだろうし。いや、待てよ……森の調査って依頼なわけだし、もしかしてこの森は自然保護区なんじゃ? だから誰も採集してないのかも。もしくは毒草ばかりとか」


 穣司は自らの推測がそれほど外れていないように思えた。冒険者とはいえ余所者に荒らさてしまえば、シュケル国民だって良い顔はしない筈だ。調査の建前で採集するにしても、最小限に留めなければ、やはり密漁としか思われないだろう。フェアティアでこの国の法を聞いておけば良かったと、僅かに後悔の念を覚えながら、引き返そうとした時――森の奥から唸り声を上げる人物が飛び出した。


「ガァァァァァァァァッ!」


 怒りを隠そうともしない雄叫びを上げるは、豚のような人間だった。いや、豚のような人間では語弊がある。豚の特徴をもつ獣人なのだろうが、肌の色は緑がかっている。

 腰に布を巻き付けているだけの簡素な格好は、昔ながらの暮らしを続けている先住民のよう。巨大な棍棒を手にして、侵入者を追い払おうとしている様子に、何が起こったのか察せさられる。


「あの……こんばんは。縄張りに無断で足を踏み入れたのなら謝ります。でも俺は密漁者ではないですよ、ほらこの通り」


 無断で薬草を採ったように見えたのかもしれない。

 穣司は手の平を見せて、何も採っていませんよと、弁明する。

 だが――言うが早いが豚の獣人は棍棒を振りかぶった。

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