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悠遠の旅空に~半神のバックパッカー~  作者: ビール汁
フォルティス大陸東部――シュケル国
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58話 それぞれの目的

「やっぱりこの人間達を連れていかない方がいいですニャ。どうせろくな事を考えてないニャ」


 男性冒険者二人を冷ややかに見つめる吟遊詩人(アーシュク)の少女に、ハリルは「もう降りてくれますか」と言いかけて口を噤む。大きく溜め息を吐き出し、便乗させるんじゃなかったと早くも後悔していた。


 切っ掛けはハリルの耳に届いた一報だ。

 メデニエシズの森に向かった男神に、冒険者の少女が便乗したとの事だった。

 依頼内容だけでなく、依頼主が誰なのか知っているハリルとしては快くない事態である。

 ウェンテが神獣の姿で、男神であるジョージと親子水入らずで小旅行に出掛ける予定だったのだ。

 もちろん森の調査という依頼に嘘はなく、見慣れない者が住み着いている噂も、ハリルは聞いていた。男神がその者をどのように裁定するのか、娘であるウェンテも知っておきたかったのだろう。

 結果がどうであれ、男神の瞳に何が映り、何を報告しようとも、報酬を用意している。物見遊山で旅をしてもらえれば問題はなかった。

 それが人間に扮する男神に尽くせる数少ない手段でもある。そのまま金品を奉納しても、決して受け取る事はないだろう。男神は持て囃される事を望まれないのだから。


 しかし無粋な邪魔者が水を差した。

 冒険者なる少女の便乗は、許し難い愚行である。従者として同行し、尽くしたい欲求を抑えていたハリルは、歯噛みするしかなく「私も行きたかったのに」と吼えそうになっていた。

 だが、後を追いかけて少女を街に連れ戻すという建前があれば、ごく自然に男神に近づける。ウェンテの不興も買わないだろう。そう考えれば、願ってもない機会でもあった。


 そうしてハリルは、男神が出立した翌日に、疾駆蜥蜴(ラプトル)乗り場に向かったのである。

 御者付き中型の客車を手配するのは、伝手があるハリルには容易だった。問題があるとすれば黒の大地。近づくのは普通の疾駆蜥蜴(ラプトル)では難しく、その先は徒歩で向かうしか手段はないが、行けなくはない。

 そう思っていた矢先に別の便乗者が加わった。


 ダニーとジェフと名乗った男性冒険者は、リリィという仲間が心配なり、連れ戻したいのだと言う。しかしどこの店からも疾駆蜥蜴(ラプトル)を借りられないと、困っている様子であった。

 目的が一致しているのなら断る理由もなく、リリィという少女を連れ戻す手段としても使えるなら――とハリル了承した。


 次の便乗者は半獣人の少女。

 顔馴染みでもある吟遊詩人のセネムは、メデニシエズの森に用事があるとの事だった。が、疾駆蜥蜴(ラプトル)のアセナを別の者に借りられたので、移動手段がなくなって途方に暮れていた。

 本来の借り主になる予定だったセネムを差し置いて、やや強引にアセナを借りたのが原因である。ハリルは責任を感じて、途中まで共に向かう事を提案した。そして客車にセネムが乗り込んだ途端、これみよがしに不機嫌さ露にして、客車内は不和が生まれていた。


「なんでそんなに俺らを毛嫌いするんだよ。目的地は同じなんだから仲良くしようぜ。どうせならセネムちゃんと肌を重ねるような親密な関係になりたい……なんて俺は思っているんだぜ」


「あん? なんだオマエ。蹴り落とすぞ」


 片眼を瞬きさせて軽口に叩くジェフに、セネムが眉間に皺を寄せた。媚びるような語尾は失念している。


「ちょっとジェフは黙ってて。セネムさん……僕達、人間種が嫌いですか?」


「ちっ……私は人間が嫌いなんじゃないニャ。冒険者が嫌いなだけニャ」


 セネムは撥弦楽器(サーズ)を抱えたまま、そっぽを向いた。


「おや、冒険者と何かあったのですかな?」


 間を取り持つようにハリルは尋ねる。


「うー、まぁそんな感じですニャ。それは私が大陸中部を放浪していた時の話だったニャ。人里離れた森の奥で作曲活動していたんだけど、その時は調子が良くて、それはもうノリにノッてたニャ。……だから近くで盗み聞きしている奴に気が付いたのは、弾き終わってから、しばらくしてからだったニャ」


 セネムは楽器を撫でながら、ふっと笑み浮かべて、語り始める。


「……そいつはゴブリンとか呼ばれている種族の子供だったニャ。私の音楽にうっとりとしていたから『コソコソせずに堂々と聞けニャ』って言ったら、その子供は逃げやがったニャ」


「なぁ、セネムちゃん、ゴブリンってあの魔物の?」


 ジェフは目を丸くした。


「ちっ……魔物かどうかはお前らが勝手に決めつけているだけニャ。それに私が喋っている時に口を挟むんじゃねーニャ。……ともかく、私は楽器を弾きながら、逃げる子供を追いかけたニャ『私の旋律から逃げるとは、どういう了見ニャー』って」


「それは……なかなか愉快な光景ですな」


 楽器を鳴らしながら追いかける吟遊詩人と、涙目で逃げ惑うゴブリンの光景が思い浮かんで、ハリルは失笑した。端から見れば滑稽だが、逃げる子供からすると恐怖だろう、と。


「そうしたら、その子供はスッ転びやがったニャ。膝を擦りむいて、涙を垂れ流しましたニャ。だから私は祝歌(しゅか)を奏でて傷を癒してやったんですニャ」


「ほう、祝歌(しゅか)ですか」


 吟遊詩人が魔力を込めて演奏すれば魔術に似た効果が得られる。勇ましい旋律なら、聞く者を奮い立たせ、癒されるような優しい演奏なら、自己治癒能力を最大限に引き出せる。


「んで、泣き止むまで弾いてやったら、その子供は目を輝かせて感動してたニャ。そんでもって『僕の仲間達にも聴かせてあげて』って言われて、子供の仲間がいる野営地に連れて行かれたんですニャ」


「ほう、セネムさんは彼等の言葉が分かるんですか?」


「子供の話した言葉は知らないですニャ。でも、きっとそう言ってたニャ。それに野営地に行ったら、少しだけ言葉の分かる首領っぽいゴブリンがいたニャ。腹を貫通したような古傷や、撃たれたような傷もあって、酷いもんだったニャ。仲間のゴブリン達も生傷ばかりだったから、私の祝歌で独奏会を開いてやったら、あいつらは咽び泣いて感動してたですニャ。それはもうメロメロで、私の音楽の虜になってたニャ」


「ふふ、そうですか」


 ハリルは事の真相に思いを巡らせて微笑ましくなった。

 人型の魔物だと見做され、迫害されている種族。おそらく半獣人のセネムからも、同様の扱いを受けると思ったのだろう。しかし虐げられる事はなく、逆に癒されてしまえば、万感の思いが込み上げても不思議はない。音楽の虜になったというよりも、虐げられない事に心を打たれたのだ、とハリルは推測した。

 シュケルにゴブリンは住んでおらず、魔物だという認識はない。獣人種は敵対行動を起こされなければ、相手が誰でもあろうと気にはしないのだ。自らの目で見たものを信じる習性だからこそ、他国で人型の魔物として扱われても、それに倣う事もない。


「そんな時ですニャ。……冒険者が現れたのは」


 セネムは苛立ちげに客車内の冒険者二人を冷たい視線を向けた。


「いやいや、そんな冷たい目で見ないでくれよ。ま、そういう表情も可愛いけどさ」


「それにその冒険者は僕達じゃないんですから」


 軽口を叩くジェフと困惑するダニーに、セネムは鼻を鳴らす。


「……確かにあいつらはお前達じゃないニャ。でも冒険者は胡散臭い奴らばかりニャ。魔物退治なんて生態系を壊してるのに過ぎないのニャ。動物を食いもしないで殺すとか考えられないニャ。なんでこんな組合(ギルド)がフェアティアにあるニャ」


 討伐した魔物は、耳などの体の一部を切り取って、組合(ギルド)に提出すれば、報酬が得られる仕組みになっている。だがシュケルでは、その習慣は受け入れ難いものでもあった。冒険者組合(ギルド)そのものを疑問視する声も多い。

 ならば何故、シュケル初の組合をフェアティアに設立したのか。それは他国からの要請があったからであり、冒険者組合(ギルド)が諜報機関を兼ねているのを感じ取ったからこそである。泳がせて逆に情報を得る為に承認したに他ならない。が、それを知ってるのはごく一部だけ。そもそも吟遊詩人も似たような性質を持っている。その話題に触れられたくないハリルは話を戻すべく、やや強い語調で窘めた。


「……セネムさん、それからどうなったのですか」


「う……分かったニャ。現れた6人くらいの冒険者の一人が『ゴブリンに捕らわれた少女がいるっ! こいつらを皆殺しにしろっ』って、突然剣を抜いたり魔術を放ったり、銃撃してきたんですニャ」


「そう……ですか。……目の前で小鬼(ゴブリン)が殺されるの見て、セネムさんは僕達冒険者が嫌いになったんですね」


 凄惨な光景を想像したのかダニーは目を伏せた。

 しかしセネムは、したり顔で胸を張る。


「いや、私が返り討ちにしてやったニャ」


「えっ!? 返り討ちにしちゃったんですか!」


「襲われてないって説明しても『君はもう大丈夫だから、安心していいんだ』って話にならなかったから、蹴り飛ばしてやったニャ。私の客に喧嘩売ったんだから当然の報いニャ」


「ははっ、嘘は良くないなセネムちゃん。いくらなんでも話を盛りすぎだろ」


「嘘なんて吐く必要ないニャ。……なんならお前も蹴りを食らってみる?」


 瞳孔を細長くしてドスを利かるセネムの声に、ジェフは引きつった笑で「遠慮しておくよ」と呟いた。


「ふむ……となると、メデニシエズの森に冒険者が同行すると困るのは、そのゴブリン達が関わっているからなんですね。見慣れない種族の住み着いたとの噂もありますから」


「……察しの通りですニャ。冒険者を返り討ちにした後に、私の音楽をもっと聴きたいならシュケルに来いって伝えたニャ。私達はきっとゴブリンをイジメないけど、人の多い町は不安だろうから、ひとまず人気(ひとけ)のないメデニシエズの森に行くように、地図を描いて渡してやったんですニャ。念の為に私の帽子を貸してやったから、獣人から間違って襲われる事もないニャ」


 魔物扱いのゴブリンが船に乗れるとは考えられず、来るとしたら陸路で山脈を越えてくるしかない。陸路でシュケルを訪れる者は殆んどいないのだ。人目を避けて移動できたとしても頷けるし、仮に遭遇してもシュケルの吟遊詩人の象徴である羽根付き帽子を持っているのなら、無下にするものはいない。


「……セネムさん、今の話が本当なら(まず)いかも」


 青ざめた表情でダニーが言う。


「何でニャ?」


「僕達の目的はリリィという仲間を連れ戻す為なんだけど、彼女はゴブリンと並々ならぬ因縁があるようなんだ。理由は絶対に教えてくれなかったんだけど、あるゴブリンを探しているみたいなんだ。もしかしたら仇敵なのかも」


「ふーん、なら大丈夫ニャ。私の知ってるゴブリンは、弱っちい奴だから、人から襲われる事はあっても、人を襲ったりしないニャ」


「……いや、リリィはともかく別の冒険者なら危ないかも知れないぞ。ほら、あいつらが言っていたらしいだろ。魔物を狩ってくるって……」


「うん、そうだね。だからこそリリィと鉢合わせしないか不安だ」


 ダニーとジェフが訳知り顔で頷き合う。


「事情を教えてくれますね?」


 ハリルは居住まいを正して言うと、二人は逡巡した後に、重々しく口を開いた。


「僕達は元々6人パーティーだったんです。僕とジェフとリリィ、他に3人いたんですが、仲違いをしてしまいまして……。特にリリィとは一触即発な雰囲気なんです。そしてその三人は、もしかしたらメデニシエズの森に行ったかもしれない。なんでも組合(ギルド)の職員が、その3人に魔物がいそうな場所を教えてたみたいで……」


「ああ、そうなんだよ。リリィは強いけど、3人を相手にするなら流石に(まず)いからな。だから俺達は追いかけようとしたんだ。それにリリィが便乗した得体の知れない新人冒険者も気になるしな」


「……うん。一瞬だけだったけれど新人の彼からは、計り知れない魔力の波動を感じた。敵対したら絶対に敵わない。まるで人ではないような……そんな次元だった。……だからこそリリィが心配なんです」


「それは……そうでしょうな。あ、いえ、彼は普通の人間ですよ。ごく普通の、ね」


 人ではなく神という高次元の存在に敵うはずがない。それを口に出しそうになったハリルは、(すんで)のところで言い直した。

 普通の人間のように扱われる事を、神は望んで降臨している。それ故にあの新人冒険者こそが、この世界の男神であると告げられない。それは意に背く不敬であるとハリルは考えていたが、同時にダニーなる冒険者の感知能力を称賛したくもなっていた。贈物(ギフト)を持っているハリルだからこそ、力を限り無く抑えている神の波動でも強く感じ取れるのだから。


「……新人冒険者とかリリィよく分からんニャ。どんな奴らニャ」


 いまいち状況を飲み込めていないのかセネムは首を傾げた。


「リリィは潔癖なところがある変わり者だけど悪い子ではないよ。それは僕が保証する」


「そうそう。男を誘惑しているような言動をする癖に、生娘みたいな反応をするから面白いんだ。それに弱き者を見捨てない。迷子の子供がいたら、一緒になって探すくらいの女だよ。それにリリィは積極的に魔物討伐をしないし、ゴブリンを探してるって話でも、耳を切り落としてる気配はなかったからな。不必要に殺したりはしないんだろう」


 ダニーとジェフの二人からは信頼が目に見えて感じられた。セネムも「なら、いいニャ」と渋々納得していた。


「新人冒険者のお方なら、おそらく大丈夫かと思われますが……もしもゴブリンと敵対するならば、それ相応の理由があるでしょう。それよりも仲違いした冒険者が気になりますな」


「そうですニャ。そいつらはどんな奴らニャ」


「言動に選民思想が見え隠れしていたし、ぶっちゃけると獣人種に嫌悪感があるようだった。……セネムちゃんみたいな可愛い子がいるのに、俺には考えられないね」


「純粋な人間種にはとても優しかったので、僕達も最初は彼等の気性を疑ってなかったんです。ですが共に過ごす時間が長くなるほど違和感を覚まして……」


「だよな。それに半獣人の子供を奴隷にして連れて帰りたいって、軽口を叩くもんだからリリィが本気で怒ったんだよ。『度し難い下衆だ』って。それで仲違いしたようなもんだ」


「いや、彼等の言動は軽口とは思えなかった。本気の目をしていたよジェフ。だからこそリリィも激怒していたし、あいつらも獣人種を庇うリリィを蔑んだ目で見ていたからね」


「………」


 セネムとハリルはあまりの愚劣さに言葉を失った。

 沈黙が下りる中、車輪のたてる音だけが、客車内に響く。


「……そいつらは阿呆なの? というかオルハンさんに聞かれたら、ぶっ飛ばされるかもよ……あ、ニャー」


 セネムの言葉は語尾を忘れる程に呆れていた。ハリルは絶句したまま、溜め息で同意しながらも、首を横に振る。――なんて愚かなんだ、と。


「……まぁ、そんな感じで、俺達はリリィに加勢する為に追いかけている。ゴブリンにはそんなに興味ないし、セネムちゃんの客だって言うなら手出しはしない。だから仲良くしようよ、ね?」


「まぁ……それなら同行しても問題ないニャ。というか、それなら急いだ方がいいニャ!」


「ふむ……」


 この話も船乗りの騒動と関連があるのだろうかとハリルは思案を巡らせる。

 沖で見つかった新型船は、酷く腐食していて航行不能。まるで強制的に寿命が尽きたような有様で危険は低いが、もしも健在だったのならフェアティアは新型兵器によって砲撃されていた恐れもあった。実際のところは事前に情報を得ていたウェンテが対策を練っていたから、砲撃される心配はいらなかったが、思いもよらぬ別の勢力が、新型船を破壊していた事に関してはハリルも困惑するばかりだ。

 ともあれ仮に新型船からの砲撃があれば、騒乱に乗じて3人の冒険者が、どのような行動を起こしたのかと想像するのは容易い。そしてゴブリンを抜きにしても、冒険者達が同士討ちするかのような歪な組み合わせでもある。失敗時の生け贄か、それとも――


「……冒険者組合(ギルド)も一枚岩ではないのでしょうな」


 ハリルは誰に言うわけでもなく呟いた。

 しかしその声は翼を羽ばたかせる複数の音に掻き消される。

 御者台で疾駆蜥蜴(ラプトル)を操る者は言葉を失い、身を乗り出して空を眺めるハリルは顔が綻んだ。呆然としているのは事情を知らない他の者だけである。


「おや、ザフェル君でしたか」


 ハリルが手を振ると、セネムもつられて手を振った。

 乙女らしさのある笑みを浮かべたが、思い出したかのように、不機嫌そうに口を尖らせた。その理由が微笑ましくてハリルは笑いを堪える。青春だなと懐かしさも込み上げた。


 やがて龍の群れは降下して、ザフェルは停止している疾駆蜥蜴(ラプトル)の近くに飛び降りた。身軽さの感じられる着地をすると、破顔させて走り寄る。


「よう、職長っ! それにセネムじゃねぇか。他の奴は……知らねぇ顔だけどよ、こんなところで何してんだ」


「ザフェル君こそ、こんな所で何をやっているんですか」


「ちっ……天然たらしが」


 セネムはぼそぼそと呟く。


「ん、どうしたよセネム。浮かない顔色してんな。何か悩みがあるなら聞くぜ」


 ザフェルは白い歯を見せながら、セネムを覗きこむように顔を近づけた。


「な、悩みなんかないから、ザフェル(にい)が何をしていたのか話すニャ。その……ハリルさんも聞きたがってるニャ」


 顔を赤らめて目を逸らすセネムに、ハリルは援護するように「聞かせてもらえますか」と告げた。


「それならいいけどよ……ま、それはそうと俺の話だな。例の話を終わらせた後は、あまりやる事がなくてよ。難しい話はオルハンや御偉いさんに任せているしな。だからよ、俺は街案内でもしようかと思って空の散歩をしてたんだ。そうしたら、とんでもねぇ光景を目にしたってワケだ」


「ふむ、交流を深めるのも大切ですからね。それで何がありましたか?」


「それがな……黒い大地が浄化されてたんだぜ。キラキラと輝きながら波紋のように緑の大地が広がってたからな。それにな、この近くにすげぇ建物が造られてたぜ。女神の泉だってよ」


「ま、まさか?」


 ハリルは生唾を咽喉の奥に流し込む。鼓動が早くなり、いてもたってもいられなくなった。


「その、まさかってやつだ。まさに神業ってやつだろうよ。流石は兄貴……いや旦那だぜ。あの大地が浄化される光景なんて、死ぬまで忘れられねぇよ」


「い、行きましょう、その女神の泉にっ! あの丘にっ! そしてメデニシエズの森にっ!」


 込み上げる高揚感に身を任せるハリル。

 しかし事情が分からない三人は、腑に落ちない表情のまま、ハリルを引き気味に眺めていた。


「ハリルさん、どうしたニャ。……ちょっと怖いニャ」


「いや、それよりも龍に抱えられるって……」


 ザフェルと合流したハリル達は、各々の思惑が錯綜するメデニシエズの森を目指した。

 そしてハリルは女神の泉を目にして、男神の真意を察した。

 これは洗礼の泉であり、忘れ去られた信仰を取り戻す為の神殿である、浄化された大地は女神の御業だと知らしめる象徴なのだと。

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