第50話の6『殻々』
あと一歩。俺がオーブの場所まで泳いで行って、ジ・ブーンの持つ青のオーブを奪取すれば戦いは終わり。そんな場面まできて、なんとジ・ブーンが引きこもってしまった……。
「どうしたものか。ヤチャ……は気絶してるし。あれを壊さないと……」
「ギザギザたちが、やってやるぜ!おまえら!かかれ!」
ギザギザ海賊団の皆さんがジ・ブーンの殻を殴ってくれるが、その殻を形作っている植物は複雑に張り巡らされていて、叩いてもむしってもきりがなく再生している。その上、あちこちに突き出ている枝が尖っていて無理に進もうとするのも危険である。更に、その根は城の柱や壁へ着々と広がりつつあって、このままいけば俺たちは城に閉じ込められる危険性もある。
あの殻を突破する方法がなければ、きっと俺たちの負けだ。ルルルや姫様の魔法は攻撃寄りではないし、ゼロさんは今の姿になって魔法は使えなくなっていたはずだ。何かないか。俺は無い知恵を振り絞って考えた。
「……」
ダメだ。何もない。ペンダントも光らない。思考が行き詰った……その時、誰かが俺の背中を叩いた。誰だろうと思い振り向くと、細い指が俺のほほをつっ突いた。
「よく妹を助けてくれたね。勇者君」
王子様は俺のほほから指を離すと、屈託ない様子で笑いながら、俺たちの前に泳ぎ出た。もちろん、王子様が城にいたことを知っているのは俺だけだったから、まだ知らなかった姫様は驚いた仕草をとりつつ目を丸くしている。
「お……お兄ちゃん!どうして、ここに!」
「マリナ。心配をかけた。ケガはないかい?」
「……お兄ちゃん。あれ、誰なのん?」
「王子様だよ。城に捕まってたんだ」
「ふ~ん」
そんなことをルルルに説明している内、ギザギザさんたちも王子様の存在に気づき、慌てて俺たちの方へと戻ってきた。
「おめえ!生きてんじゃねーか!まあ、ギザギザ知らなかったけど知ってたぜ!ギャババ!」
「ギザギザ。また僕を除け者にして、随分と無茶をしたようだね。まあ……話したいことは山ほどあるけれど、今はアレをなんとかしないとね」
王子様は突き破られた城の壁と、城の中に散乱している船の残骸を順番に見回した後、現時点で問題となっているジ・ブーンが入った殻を指差した。何か考えがあるのだろうか。助けを求めるようにして、すぐに俺も状況を説明する。
「はい。やつのミゾオチあたりにある青のオーブを俺が取れば、四天王としての力は失われるはずです。王子様、あれを壊せませんか?」
「……僕には、あれを壊して安全な通路を作ることはできない。でも、君が、あの中まで行く手伝いはできる」
「……?」
「君は妹を助けてくれた。友として、僕の宝物を貸し出すよ」
そういって、王子様は武器であるシェルピラーを長く伸ばした。ただ、俺がシェルピラーを貸してもらったとして、うまく使えるとは思えない。それを説明しようとすると、下着姿となった王子様は意外なものを俺に差し出した。
「僕の殻だ。さあ、使ってくれたまえ」
「……?」
「あとは僕に任せて。遠慮せずに、さあ」
あ……この感じ、アレされるのかな。そんな感じをおぼえつつも、俺は王子様の殻を借り、その中へと体を押し込んだ。とっても狭いが、なんとか頭まで全身がおさまった。王子様はシェルピラーをブンブンと振り回している。これは……いや、絶対にアレだ!
「あの……心の準備……」
「……勇者君、頼んだよ!行け!ピンシェルブレイカー!」
『スポゥーン!』という小気味の良い音がして、俺が入っている殻はピンボールさながら撃ち出されたのだ……。
「あああああああぁぁぁぁぁぁ!」
第50話の7へ続く






