第50話の2『激突』
今、俺は城の中にある水路を戻り、ジ・ブーンのいるダンスホールへ向かっている。一緒にいる面子はゼロさん、ヤチャ、ルルルで、仙人やルッカさんたちには別の場所へ向かってもらった。王子様から頂いた黄金の浮き輪をつけていて尚も、俺の速度がメンバー内で最も遅かった為、ルルルの魔法を使ってスピードアップを図っているが尚も遅い。遅過ぎてルルルが会話を始める始末である。
「お兄ちゃん。なんで、こんな場所にいたんよ……」
「クジラ丸さんの中にいる時に姫様を助けようとして、一緒に誘拐されたのだ。さっき、仙人の溜息がテレパシーで小さく聞こえたから城を抜け出してきた。むしろ、なんで皆、ここに来たんだ?」
「気持ち悪い腕輪が、クジラの中から急に魔の気配が消えたとかいうから、強い気配がある方へと進んできたんよ」
「へえ。やるじゃん」
『ビビビ……もっと褒めろよ。褒めるなよ。褒めるなよ。もっともっと』
気持ち悪い腕輪というのはキメラのツーさんのことで、それは今もルルルの腕に装備されていて、なんや真意の解らないセリフを発している。ただ、ツーさんが魔力を感知して追跡してくれたり、仙人がテレパシーを発してくれたり、みんな色々とやってくれていたんだなというのを実感した。
「勇者。つまり、ここに姫もいるのか?」
「……そうなんですよ。ゼロさん」
そうだった。ゼロさん達は俺が知っている諸々のことは知らないんだった。とはいえ、騒動をかぎつけた化け物たちが徐々に集まってくると見られ、あまり悠長にお話をしている時間はない。ひとまず、ジ・ブーンが城の中央にある大きな部屋にいる事、姫様がジ・ブーンに囚われている事、それぞれの役割について、これくらいは話すことができた。
「あ、ヤチャ。そこを右だ」
「まっすぐ行くぞオオオォォォぉー!」
俺がナビをする必要もなく、ヤチャは壁という壁を粉々にして直進している。そのおかげもあって必要以上に戦闘する手間もなく、迅速にダンスホールへと戻ることができた。ダンスホールへ入るや否や、俺はジ・ブーンを指さして叫ぶ。
「あれ!あれが、ジ・ブーン!」
「わあ、大きい!」
わざと俺は大きな声を出すも、水の中にいるからか声は響かない。敵の本当の姿を見てもゼロさんとヤチャにリアクションはなかったが、ルルルだけは見たままのコメントを一言くれた。
「勇者か……こっち、くるなっ!うあああぁぁぁぁ!」
ジ・ブーンの上半身は水から出ているため、今回は大きな振動と共に声が届いた。王子様が倒した化け物も本体へと戻っているらしく、足は2本ともジ・ブーンの本体へついている。立ち上がったジ・ブーンの大きさは山のごとしで、そいつがローキックを繰り出してきたのだから俺たちも必死だ!
「うおおおおぉぉぉぉ!しねえええぇぇぇ!」
物騒な掛け声と、ズズゴゴッという重い音をたてて、ジ・ブーンの右足が斜め前から振ってかかる。ヤチャがジ・ブーンのキックをガッシリと受け止めてくれて、そこへゼロさんが殴り込む……というよりは、突き刺すように右フックを振り、ジ・ブーンの足首へ手刀を打ち込んだ。波や水流が極めて激しい中、俺は流されないようルルルの魔法で守ってもらっている。
「うぬぬ……」
うめき声をあげ、ジ・ブーンが足を引いた。そこへ、あちらこちらから化け物たちが集合してくる。それらを取り込むと、更にジ・ブーンの体は大きくなり、青色のオーラを放ちつつ筋肉はビルドアップを始めた。
「……勇者。ヤチャ。精霊様。任せた」
「頼みます。ゼロさん」
ここでゼロさんは俺たちのグループから離脱。ここからの戦闘は全面的にヤチャに頼むしかない。そんな状況の中、ジ・ブーンの失われていた片手が本体へと加わり、その部分を中心に敵の体は青白く輝き始めた。予感だが、かなりマズイ気がする……。
「なにかくるぞ!ヤチャ!気をつけろ!」
「問題ない……ふはは」
ジ・ブーンの大きく振りかぶった片腕は体の後ろ側まで引かれ、巨体に似合わない目にも止まらぬ速さで、その必殺パンチは放たれた!
「勇者に……ジャマ、させない。受けろ!割山拳!」
第50話の3へ続く






