第50話の1『合流』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公なのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。四天王ジ・ブーンの元へと誘拐されるも、運よく海の王国の王子様と出会う。王子様に城の外の水流を止めに行ってもらったから、あとは俺が頑張るだけなのだが……。
ジ・ブーンは城の大半を占める広大なダンスホールにいて、ダンスホールには扉のない出入口が大きく開いている。俺は周りに敵がいないかを確かめた後、隠し通路を出てダンスホールの出入り口へと移動した。
ここで、あることを確認するのが俺の最初の仕事なのだが、どうやってジ・ブーンに俺の存在を認識させるが問題である。あまり近づくと逃げ切れない可能性がある為、このあたりから音を鳴らすのが得策かもしれない。
試しにペンダントで壁を叩いてみたが、水の中では音が大きく響かない。とすると……そうだ。能力を発動させて、ペンダントを輝かせてみるのはどうだろうか。マップ探知では目を閉じていないといけないから危ないし、他に……自由に発動できる能力は、これ一つしかない。
「う~ん……」
姫様といえば現在進行形でジ・ブーンの手に握られている上、下半身が魚の形をしているのだ。まず、チラリする可能性はない。でも、可能性は0ではないのではないだろうか。そう自分に言い聞かせ、失礼ながら姫様の下着がチラリするよう念じた。雑念を捨て、迷いをはらい、姫様のチラリを願う。
「……」
いや、考えれば考えるほど、姫様がパンチラする要素など一つもない。待てよ……下がチラしなくとも、上半身は人間体だ。上がチラすることだって、なくはなくなくないかもしれない。などと気持ちの悪いことを考えていると、ペンダントの内より光が覗いた。
「よしっ!きたっ!」
正直、この場所からは姫様の姿など一ミリも見えないけど、ペンダントの輝きを引き出すことに成功した!ごぼごぼと水をかく音が聞こえ、ジ・ブーンの方から3体の敵がやってきた。思った通り、ジ・ブーン本体は追ってこない!これだけ解れば、あとは逃げるが勝ちだ!あらかじめ決めておいた退避ルートへと振り返り、俺は全速力でダンスホールを後にした。
追ってきているのは耳のような化け物が2体と、鼻のような化け物である。耳は平泳ぎみたいに水をかいて進んでおり、あまりスピードは速くない。だが、鼻の化け物はドリルのように回転しながら水を突き進んでいて、そっちは曲がり角のたびに壁へと激突しつつも爆速である。
隠し通路へ逃げ込めれば安全ではあるものの、敵に見られている状態で隠し通路へ入るのはマズイ。その上、城の外側へ向かうにつれて隠し通路への入り口は少なくなっている構造であり、ここは頭を使って逃げ延びねばならない。
ギュルルルルという水を裂くような音が聞こえ、それが徐々に近づく。追いつかれる!急遽、俺はルートを変更し、別の道へと逃げ込んだ。俺が曲がった角の壁を鼻の化け物が激突の勢いでえぐっている。予定外に別ルートへ入ってしまった為、そこから更にマップを探知してみる。すると、この先に城の中をグルッと一周できる長い道があるのを知った。
城の外へ向かうならば本来は右折だが、このままでは追いつかれるのは目に見えている。ならば一旦、左だ!左に進み、少し行ったところの上側で待機。鼻の化け物は曲がり角で激突しつつ立ち止まり、俺の姿を見つけると再び突っ込んできた!ここだっ!俺は一気に下降しながら、猛接近する鼻の化け物を擦れ擦れで回避した。
鼻の化け物は一直線の通路を止まれずに猪突猛進していき、しばらくは方向転換ができないと思われる。そちらを見ていた前方不注意により、今度は耳の化け物が俺を捕まえようとしている事に気づくのが遅れた。
「うああああぁぁぁぁ!」
もう、行くしかない!俺は速度を更にあげ、両側から包囲するように迫る2体の耳の間を縫って突っ込む。思わず叫び声を上げると、相手はビビッと一瞬だけ動きを止めた為、かろうじて俺は耳の化け物をやり過ごした。
ここまでくれば、城の外へはあと少しだ!いくつかある脱出口の一つには見張りがいた為にスルーし、そこから最も近い出入り口を探して城から抜け出した。
「みんな!どこだ!」
城の外に渦巻いていた水流は消えている。俺の計測では100秒も経っていないのだが、王子様は約束を速やかに果たしてくれた。あとは仲間たちを見つけて合流するだけだ。しかし、そこにはヒザのような形をした化け物がいて、それは俺を見つけると一直線に攻撃を仕掛けてきた。まずい!
「……ッ!?」
巨大なヒザ蹴りを喰らう一歩手前、砲丸らしきものやら光線やらが飛び込み、その化け物はバウンという効果音と共に撃ち落されていった。そして、城を回り込むようにして現れた、クジラ丸さんやギザギザさんの海賊船を発見した。もちろん、クジラ丸さんの外にはヤチャもいる。
「勇者!ここにいたのかー!探したぞボクー!」
「クジラ丸さん!」
「テルヤアアァァ!会いたかったぞおおおぉぉぉ!」
「ヤチャ……それは死ぬ……」
クジラ丸さんの呼びかけに答えつつも、外を泳いでいたヤチャに抱きしめられ圧迫死寸前であった。なんとか肩をタップしてヤチャから解放されると、すぐに俺は作戦をみんなに伝えた。
「俺の話を聞いて下さい!今から、ジ・ブーンを倒しに行きます!」
第50話の2へ続く






