第49話の1『観察』
《 前回までのおはなし 》
俺の名前は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公なのだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。行方不明になっていた王子様を発見し、その勢いで敵の本陣へと攻め込んでいるのだが、このままジ・ブーンと戦いになったら少しマズイな……。
「よし!このまま妹を救い出す!行くぞ!」
そうだった。王子様は敵が魔王四天王だってことを知らない。ましてや、四天王が勇者にしか倒せないことなど知る由もないだろう。ここは一旦、作戦会議だ!
「ご相談がありまして、ちょっと付き合っていただいてもよろしいでしょうか!」
「それは、今じゃないとダメかな?」
「……きっと、今しないと大変なことになるかと」
「解った!こっちだ!」
王子様と俺は一つ上の階へ移動すると、金魚の壁画を蹴り開けて再び隠し通路へと非難した。廊下の方では大きな物音がする。おそらく、騒ぎを知って化け物たちが駆けつけてきたのだろうと考える。俺たちは隠し通路を移動しつつも、持ち得る情報の共有をはかった。
「移動しながらですまない。相談というのはなんだろうか」
「俺の予想では、上の広い部屋にいるのは魔王四天王の一人ジ・ブーンです。そいつは、勇者じゃないと倒せないらしいんです」
「勇者は今、どこにいるのかな」
「あ……勇者は俺です」
(はぁ……)
「本当のことなので、そこは申し訳ありませんが……」
「僕は何も言っていないけど……今、何か聞こえた気がするな」
俺たちの会話に交じって何か溜息みたいなものが聞こえたが、そこは王子様の機嫌を損ねたわけではないらしい。泳ぐスピードをゆるめ、二人で周りを見回してみる。やはり敵の姿も気配もない。
「……勇者にしか倒せずとも、勇者は今、ここにいる。何も問題はないのではないだろうか」
「それはそうなんですか……現状、敵のポテンシャルが解らないので、隠し通路の中から様子を見る事はできないでしょうか?」
「それは賢明な判断だね。案内しよう」
ひとまず、敵の本体への突撃は避けられた。そのまま俺たちは細い通路をぐるっと遠回りするように進み、壁に小さなクボミがある場所へと行き着く。
「ここからダンスホールの中を覗き見れるはずだ。壁画の魚の目の部分に覗き穴がカムフラージュされているんだ」
「なるほど。では、失礼して……」
城の大半を占める大きな部屋、それはダンスホールの用途として使われているらしい。壁の仕掛けをスライドさせると、そこには玄関ドアの覗き穴より少し大きいくらいの窓がついていた。のぞきこんでみる……が、灰色のゴツゴツしたものしか見えない。王子様も隣で別の窓から視線を通しているのだけど、やっぱり俺と同じものしか見えないようだ。
「……この部屋に、こんなオブジェはなかったはずだが……いや、これは」
目を凝らして見つめる内、そのゴツゴツしたものは姿勢を組み替えるようにして動いた。これはオブジェじゃないぞ!広大な部屋を大きく占めているもの、全てジ・ブーンの巨大な体だ!デカいなんてもんじゃない……もはや、全体像が把握できない。
「……今、キミに問いたい」
「なんですか?」
「あれは……僕と君、2人で力を合わせればいけるか?」
「力をあわせれば強くなるかといえば、ちょっと自信がないですね……」
第49話の2へ続く






