第9話『再会(こんな姿になっちまって…)』
《 前回までのおはなし 》
俺は時命照也。恋愛アドベンチャーゲームの主人公となるはずだったんだが、気づけばバトル漫画風の世界に飛ばされていた。そして、修行仲間だったらしいヤチャ、それとヒロインらしき謎の人物に同行いただき、パワーアップの塔という場所に向かい、くしくも塔を爆破した。
「……ヤ……ヤチャー!!!」
先んじて塔をよじのぼっていったヤチャの手前、しらずしらずとはいえ俺はなんてことを。いくら彼が頭カッチカチとはいえ、天空からダイブしたらただじゃすまないだろう。そして、根本を失った塔は必然的に、もちろん倒れてしまうのだ。
「わ……こっち来た!うわあああぁ!」
ヤチャの心配をしている場合ではない!細長い塔が俺の方へと倒れてきている!突然の爆発オチにに戸惑っていると、いつもの選択肢が現れる要領で世界が時間を止めた!メッセージウィンドウが目の前に表示される。
『塔が倒れてきた』
「……?」
『よけろ!』
「言われなくても避けるわ!」
「おのれ、見つけたぞ勇者!さあ!」
メッセージウィンドウが消えて世界が動き出すのと同時、俺は自分よりも体の大きなヒロインを引っ張って、塔がない方向へと駆け出した。俺の後方10メートルの辺りに塔が倒れ込む。
地面を揺るがすような轟音を耳にしつつも、俺は足を止めずに逃走を続けた。怒号のような地響きに交じって何か声が聞こえた気がするけど、そんなことは知った事ではない。土ほこりで途絶えた視界が開けてくると、俺は塔があった場所を先に見て、続けて過去に塔だったものを見つめる。
ついつい逃げる動作にまぎれて、マントの人の手をとってしまい、それに気づいて俺は急いで手を離した。ちょっと乱暴だったかな。
「……手、ごめん。大丈夫?ケガは?」
「……あ……ああ。問題ない。それより」
「……ん?」
「私のせいで、塔が……」
「いやいや……俺が頼んだことだし。ヤチャは、こんなことで死ぬようなタマじゃない」
「だといいが……」
気休めとはいえ、安いセリフを使ってしまった。かくいう俺もヤチャが生きててくれないと不甲斐ない。俺のためにも彼女のためにも、ヤチャのためにも、すぐさま捜索を開始した。
爆発を起こした核である塔の一階部分には大きな穴が開いており、地下に爆発性物質が保管されていたものとみられる。穴の中は真っ暗だが深くはなく、のぞいてみてもヤチャの姿は発見できなかった。まだ落ちてきている最中なのかと半信半疑で空を仰ぐが、まあ……どこにも見当たらないし、いざ落ちてきてもらっても受け止めたら俺が死ぬ。
ここにいないとすると……塔に乗ったまま、または登っている状態のまま倒れていったのかな。倒れた塔は形を変えずに地面へ倒れている。太さは大したことないが、かなり頑丈だ。なにで出来ている塔なのか。
「……ここにはヤチャ、いないみたいだ。この倒れた塔を辿って行ってみようか」
「……そうしよう」
そういうと、俺たちは横たわっている塔に沿って歩き出した。灯篭への点火をけしかけた俺が悪いのは間違いないのだが、実行させられたマントの人が凄くションボリしている。なにか元気づけなくては。
「ほら。こんなことになるなんて、誰も予想できなかったし」
「……それはそうだが」
「灯篭に火をつけたら、なぜか1本の塔の末端が壊れて倒れた。これが本当の、本末転塔。なんちゃって」
「……一理あるな」
自分でも少し無理があったとは反省していて、そういう意味では笑ってくれない方が気持ち楽ではある。早くヤチャを見つけよう。そうしないと、俺が空回りを続けてしまう……。
寝転んだ塔の高さは俺の背丈より少し低い位かつ、なぜか地面から少し浮いているため、かろうじて上と下から向こう側が覗き見れる。さすがに押しても転がる様子はない。これに叩き潰されたら、魔王ですら一巻の終わりかもしれない。
《 二時間後 》
歩き続ける事、およそ足が疲れ始める距離。未だにヤチャの姿はないが、塔に押しつぶされた無残な街や村がないのは、それはそれで幸いである。それにしても、この長さを登って行ったヤチャ、恐るべし。
「いやはや、歩いても歩いても頂上が見えてくる気配すらないね……」
「……ッ!」
「ん?」
何かを察知した様子で、マントの人が武器へと手をかけた。
「強大な力を感じる……敵かもしれない」
「ああ、そのようだな」
一般人には感じない強大な力が近づいている、その事実を俺は察した。本当に全く何も感じないが、とりあえずマントの人を手招きしつつ、塔の横に身を隠して待機。どうやら、倒れている塔の逆側に強大な力を持つ何かがいるらしく、マントの人が塔の向こう側をうかがっている。
「ふふふふふふ……」
悪役チックな笑い声が聞こえ、俺も敵の姿を探そうと声の方へ目を向ける。すると、目測で身長2.5メートルはありそうな筋肉ムキムキ男の背中が発見された。
その姿といえば、長い金色の髪が天へと向けて逆立っていて、逆三角形のボディビル体格を隠しているのは破れた腰元の布だけ。その上、こちらへ振り返った男の顔といえば、額に欠陥が浮き出るほどの険しい面持ちかつ白目だった為、俺の中で『奴は敵』、という認識が定まった。
「勇者。逃げるか」
「おう……」
さすがにマントの人も勝ち目がないと判断したらしい。言わずもがな、俺も敵対したくはない。小声で賛同の声を発すると、俺たちは屈み腰で森の方へと駆け出した。その瞬間、シュピュインという風を切るような音。立て続けて、俺は誰かに頭をわしづかみにされた!
「ああああああああ!」
余りの痛さに叫んでみるも、その声は何者かの手のひらに阻まれる。俺の頭を握りしめている指の隙間から、さっきの筋肉男の顔が見えた。シュピュインという変な音はワープの音だったのか!いつの間にか、筋肉ムキムキ男は俺たちの前に……。
「その手を離せ……くっ」
マントの人が俺を助けようとしてくれているのはありがたいが、とにかく今は頭が割れそうで喜ぶに喜べない!精一杯、両手で敵の指を外そうとするも、鉄の金具を取り付けられたように固い!このままじゃ死ぬ!頼む!選択肢でもなんでもいいから発動してくれ!
「うあああああああああ!いててててて!」
「お……い、テル……ヤ」
「うああああああああ!」
「ボク……だ。テル……ヤ」
「あああああああ……ええ?」
絶望の限りだった俺の頭の中へ、どうも聞き覚えのあるイントネーションが入ってきた。マジか……。
「……解った解った!逃げないから放せ!死ぬ!」
「ふふふふ……」
グーをパーににされると、やや持ち上げられていた俺は背中を下地面へとぶつけた。頭が変形していないかペタペタと触って確認したのち、別の確認を目の前の巨体へと投げた。
「……えっと……もしかして、ヤチャ」
「そう……だ」
「塔を登っている内、いったい何があったというんだ……」
「ボク……いや、今の……俺様は、化け物だぁ」
「……えええ」
あらぬ姿へ化してはいるものの、ヤチャが生きているという事実が判明した。それを知ってマントの人は安堵……いや、この変貌ぶりに再び心配を抱えている様子だ、
「……」
「……」
「……ふふふふふ」
ヤバい。想像を凌駕するヤチャの変貌ぶりに負けて、完全に思考が停止していた。こういう時、主人公が何か言い出さんと。でも、塔は倒れちゃったし、ヤチャは生きてたし……まあ。いいや。このまま前進あるのみだ。
「このまま歩いて、塔の先っぽでも見に行きます?」
「いく……ぞ!ふふふはは」
マントの人も頷いてくれたため、ヤチャらしき人を加えた3人で、再び塔に沿って歩き出す。隙を見て殺されるのではないかと案じ、なんとなくヤチャの後ろを歩いてしまう心境。塔を登っている途中で何があったのか質問したかったが、先程の会話から見てもヤチャ自身、なにが起こったのかを理解していないと見えるから、あえて聞かない。
「なんか塔が太くなってきたな。上に行くにつれて大きくなってるのか」
「ここまでは登った……ふふふふふ」
ここまでは登ったのか……そりゃあ、ヤチャの筋肉もパンパンになるわ。塔は上へ行くに従い大きくなっていき、その先は大きな球のように膨らんでいた。まだまだ塔は奥へと続いているようだが、俺は心も体も疲れていたから、この球をゴール地点にしたかった。
「球の中央に扉っぽいのがあるけど、高くて届かん……」
「任せろ……ふぉっ!」
球には入り口のようなものがあるのだが、塔自体が横になってしまったから、今は俺の頭上2メートルくらいのところに位置している。ヤチャが扉まで運んでくれる……のかと期待したのだが、壁へと手を突っ込んで、ほじくり返して入り口を生成していた。筋肉って凄い。
「……あの、誰かいますかー?」
「コチュジャン!コチュジャン!(こっちじゃ!こっちじゃ!)」
コチュジャンコチュジャンってなんや……と聞き間違えてしまうくらいの活舌で、おじさんの叫び声が響いた。球の中は無機質かつ真っ白な不思議空間で、呼び声の主と見られる仙人が床か壁か解らんところに倒れているのを俺たちは見つけた。
「どうしたんですか!お怪我は!?」
多分、塔が倒れたから腰を抜かしたのだろうとは思うけれども、そ知らぬ顔で俺は仙人らしき人物を助け起こす。
「ホーガファオレバーモジャン!(塔が倒れたのじゃ)」
「……それは呪文か何かですか?」
「サイモ、チュウカ、ワンダーランド!」
どうやら、抜けているのは腰ではなく、入れ歯らしい。ここまでくると、言いたい事が全く分からない。仕方ない。探してあげよう……。
「……ヤチャー。そっち、あったぁー?」
「ふふふふふ……ない」
「あのー、そっちはあったぁー?」
「見当たらない」
俺、ヤチャ、マントの人の3人で一時間ほど捜索してみたけど、部屋が白すぎて遠近感が解らない上、無駄に眩しくて足元が見えないせいで難航。仙人は入れ歯を紛失したせいで、完全に意気消沈している。参ったな……入れ歯が見つからなくて冒険終了は避けたいものだが。
「……ホービャ!ホッホハッホハ!」
なにやら楽し気な言葉を急に発し、仙人は魔法陣みたいなものを杖で描き始めた。コチラを向いて描いてはいない為、何かをけしかけられる心配はないはず。
「……フォン!」
「おお……なんだ?」
輪っかを何重にも重ねたような魔法陣が輝き、青白い光の玉が集合する。うっかり光に負けて目を閉じてしまい、それをこじ開けてみると、魔法陣の中に人影が見えた。誰だろう。そう考えている内、妙に甲高くて幼い声が聞こえてきた。
「……おじい!日曜日には呼び出さないでと言ったはずなのよ!」
「シューマイ!シューマイ!」
「あなたは……もしや、お孫さん?」
「いや、風の精霊なのよ。おまえがたは?」
そういった彼女の姿はパジャマのような装いで、外見年齢は6歳か7歳くらいかしら。とにかく、助けが来た事に違いはない。俺はざっくばらんに状況説明する。
「俺たちは旅の者です。こちら、歯がなくて話せないようで。あなたに通訳をお願いしたいのですが」
「また入れ歯が飛んで行ったのよ。今度は山の向こうまで飛ばしたのじゃが」
それは見つからない訳だ。きっと入れ歯は塔を抜け出して、世界へと羽ばたいていったのだ。もし冒険の途中で発見したら返却しよう。
「ソットンガーファンクル!」
「ふむふむ」
「この老人は、なんといっているんですか?」
「わからぬのよ」
「えええ……じゃあ、なんで呼ばれたんですか」
今の状況を説明しよう。俺が塔を倒してしまったせいで、謎の老人が謎の空間で入れ歯らしきものをなくしていたのだ。その助け舟として、意味もなく精霊が召喚された。
「……あの、精霊様。一ついいですか?」
「なんよ?」
「……俺、ここで修行するはずだったんですが、灯篭に火をつけたら爆発してしまって」
「……もしや、お前が勇者か!」
「そうなんよですが」
「……そうか!では、このルールルルルールールーが導いてしんぜるんよ!」
「……んん?」
「わたちの名じゃ!気さくにルールルルルーと呼んでいいんよ!」
急に歌い出したかと思ったら、この子の名前か。ルールルルルーでも俄然、長い。その子は色々と俺たちを置き去りにしたまま部屋の中を走っていき、手さぐりで外へのトビラを押し開けた。
「こっちくるんよ~!」
呼ばれるがまま、少女のあとに続いて外へ。塔についている球の上へと出る形で扉をくぐると、その子は周りをぐるりと眺め回した後、森の木々を超えた先へと指を向けた。
「勇者!あれが魔王四天王の一人・ワルダーの城なんよ!まずは、あれをおとしてみせるのじゃ!」
「んんん?」
塔に球が付いている現在地、そこから更に伸びている塔の先端へと目をこらす。すると、見るに禍々しい黒色の城があった。それに塔の先端が重なっている。というか、これ……。
「城に塔が突き刺さってる……」
「もう崩壊させておるとは……さすが勇者。仕事が早いんよ……」
第十話へ続く