第48話の2『秘宝』
「王子!逃げましょう!」
「心配ない!僕に任せてくれ!」
王子様は俺と手の化け物の間に飛び入ると、貝殻の中に右手を入れて構えの姿勢をとった。そうだ。王子様は武術の心得があるのだ。このピンチを打開してくれるかもわからない!
「……」
お互いの出方をうかがうかたちで、王子様は化け物と静かに見合っている。俺も思わずゴクリと唾をのむ。海の中なので、唾もしょっぱい。
「……王家に伝わる秘宝を見よ。これが伝説の武具、シェルピラー……おや?」
貝殻から出した手には何も握られておらず、王子様は自分の手をぐーぱーぐーぱーさせている。その後、王子は俺の方にガッツポーズを見せた。
「戦略的撤退だ!」
「そうしましょう!」
王子様は何か大切なものを紛失していたらしく、我々は撤退を余儀なくされた。置いていかれてなるものかと俺は王子様の高貴な殻に飛びつくが、その途端に王子はタイヤさながらグルグルと回転し始めた。幸い、床を転がるわけではなかったから俺は轢かれずに済み、王子は俺を巻き込んだまま水中移動を開始した。
王子様の回転の勢いといえば凄まじく、途中で俺は振り落とされそうになったのだが、王子様が俺の手を掴んでくれた為に置いてけぼりは避けられた。しかし、回転させられている俺は今にも体の中身が飛び出しそうな酔いと戦っていて、もはや敵が追ってきているのかすら気にならない。
「ああああああぁぁぁぁ!」
「もう少しの辛抱だ!突入!」
ガバンッという石の板が動くような音が聞こえ、同時に背中に何かを打ち付けられたような痛みが走った。その数秒後には王子様も回転を止めてくれた。
「……いっ!」
「静かに!やつが通り過ぎるのを待つんだ」
王子様に口を押えられ、なんとか悲鳴だけは抑えた。目まいと背中の痛みがおさまってきて、やっと俺は自分のいる場所がハッキリと見えた。
「……この場所ならば見つかる心配はないだろう」
「ここは、どこなんですか?」
「王城には王家の者のみが知る隠し通路が随所に張り巡らされている。入り口は壁に金魚の絵が描かれている場所さ。みんなには内緒だよ」
「なんだか背中が痛いんですが……」
「回転の都合だ。すまない」
恐らく、俺が壁側に当たるタイミングで隠し扉を押し開けたのだろう。そのかいもあって敵の這いまわる音は遠のいていった。そういや……マップを確認した際、城の壁の中に細い模様のようなものがあったが、あれは隠し通路だったのだと今になって気づいた。
「すまないが……君に聞きたい。僕は今、何をするべきだろうか」
「……え?」
現状ある情報を俺が整理していると、王子様は偉ぶる様子もなく、初対面の俺に指示をあおいだ。それが彼の性格なのだといえばそれまでだが、この信頼感の正体を聞いておかなければ、俺も王子様に頼み事をしにくい……。
「……失礼ながら、一つ聞かせてください。王子様にとって、俺は得体のしれない人間だと思うのですが……どうして俺を信用してくれるんですか?」
「……君は、水中で活動ができる。つまり、妹の魔法の加護がある。妹の信頼した相手を、僕が信じるのは当たり前さ」
「……ああ」
言われてみれば……俺を覆っていた泡は消えていて、体が水に触れてはいるが呼吸もできるし活動もできる。まったく記憶にはないが、口の化け物に飲み込まれた時に魔法をかけてくれたのかもしれない。
「……解りました。実はですね。その妹さんが、城の中央にある、とても大きな部屋に囚われているようなんです。きっと、敵のボスも控えていると思います」
「なんだって!?早速、助けに行こう……といきたいところだが、素手では分が悪い。途中、秘宝管理室に立ち寄ろう」
「そこに何があるんですか?」
「伝説の武具・シェルピラーの……予備、があるのさ!」
予備のある伝説の武具とは……これいかに。
第48話の3に続く






